30 commute 2-2
船旅の夜。護衛の船の私達は、牽引されながら眠りに着く。
ふと目が覚めて船室を見回すと、レイチェルとシスナがいない。
寝心地が悪いからリラックスしたくて私もデッキに出ると、2人が話していた。
レイチェルは普段と様子が違う。空を見て、ぼんやりと目が黄色く光っている。
(シトリン…珍しいね。アイツが出て来るなんて。)
自分の中にいる過去のリラが話しかけてきた。
「アイツがレイチェルの中にいる大ボスだったってヤツ?」
小声で問いかける。
(うん。アタシも少し、アイツの挙動には違和感があるから聴いて欲しいことがある。)
「わーった。やっほー、何話してんの?」
アタシは2人に話しかける。
「リラ、起こしちゃった?」
シスナは普段通りだ。彼女もシトリンのことが少し気になっていたのだろう。
「気にすんね。勝手に起きただけ。アンタがシトリン、だっけ?」
「うん。なぁに?」
レイチェルとは声色が高くて、仕草が全然違う。両手を前に揃え、愛嬌のある笑顔で返してくる。
「アンタが出る時、レイチェルは意識がないらしいね。なんで?」
過去のリラが聴いて欲しいといっていた質問だ。私も気になっていた。シスナとアタシと、明らかに挙動が違う。
彼女はバツが悪そうに苦笑いする。
「……えっとねぇ。私のバカが伝染っちゃうから?」
「…どゆ意味?器が違うからじゃなくて?」
アタシもシスナも、時代が違うが体は遠い血縁にある、ある意味では生まれ変わりに近い存在だ。
だが、レイチェルは違う。シトリンは血縁が途絶えていて、元のレイチェルの体はラケルの生まれ変わり。
相性が合っていない体に無理矢理人格をねじ込んだ副作用だとかとばかり思っていた。
「この時代の人たちって専門知識が凄くて。テュリンさんって私よりずっと頭いいんだもん。料理も上手だし。」
「レイチェルの方は話したがってるんじゃない?」
彼女は少し物惜し気な顔をする。
「まぁね。でもホント、私さ、フェクト達と量子こんぴゅーたーに居た頃から、言ってること全部ちんぷんかんぷんで。仕事の力に全然なれなくてさ。仕事で置いていかれて隅っこいると自信なくすでしょ?」
「そらまぁ…」「お気の毒に。」
「私、現場の方が性に合ってるから!これからもよろしくね!」
満面の笑顔で握手を求められた。天真爛漫で少し子供っぽくて無邪気なヤツだ。
リラもアタシも物事を深く考えんのは面倒で、気が合うところがある。
「ま、中のリラから聴いてるけど、改めてよろし……。」
手を握って背筋が凍って分かった。何故、アタシの中のリラとシスナがコイツに対して本能的に戦慄していたのかが、ハッキリわかった。
「く……。」
コイツとは、ひとつだけ大きく乖離している点がある。
「?」
アタシも確かに倫理観は薄い方だ。海賊の娘だし、今も悪人をぶん殴って悦に浸っているダブスタの自覚がある。
別にそれでいいと思ってる。人生の生業にしてる仕事の過程をどう楽しもうが、アタシの勝手だから。
コイツは純粋に戦うことを楽しんでいる。戦闘が終わった後の解放感や達成感のアドレナリンじゃない。
殺し合いの最中にある、刹那的な快楽を本能的に求めている。相手が自分の家族やさっきまで仲間だったヤツであろうと関係ない。
理由さえあれば息をする様に殺し合うことが出来る。戦い学ぶことが、至上の楽しみだからだ。
シトリンが強いのはアタシも薄々分かっている。アゾフカを5対1で、格闘で全滅させる怪物ぶり。
尋常じゃない反応速度や、魔法の精度は死線をいくつも潜り抜けて来た過去のリラさえ戦慄したものだ。
先のロメニアでの貨客船では、彼女は銃口を向けられても全く動じなかった。
トリガーに据える人差し指に銃弾を撃ち込んだり、回転しながら敵とすれ違ったと思ったらウナジの頚椎の関節に綺麗に銃剣で斬り込みを入れて即死させていたり。
自ら手を下す一瞬だけ出てきては引っ込む様にしている。
虫を握りつぶして、甲殻がミシりと音を立てて潰れる感触とか、ああいうのを楽しんでいるのがコイツだ。
「でも宇宙かぁ。」
シトリンは興味深そうに空を眺めている。
思えば、大ダンジョンの跡地でも空を眺めていた。
「楽しみだね!」
「そうね。」「お、おう…」
アタシは嗚咽して、歯切れの悪い返事しか返せなかった。




