22 work 3-5
戻ってみれば、レイチェルが無事なことは一目でわかった。
鬱蒼とした浅い洞窟から差し込む日差しを見上げ、空襲してきたFECTドローンを見送る様に佇んでいる。
私とリラは思わず恐怖し、銃を構えてしまった。
陽だまりを見上げる彼女の横姿。
土埃に見える日差しと影が、シスターのヴェールとワンピースに見えた。
右手に持つライフルはグリップを握っておらず、左手のアゾフカの剣の様な腕の手首を握っている。
槍と剣を彷彿とさせる影の錯覚。
日差しの中でもハッキリと見える目元の黄色い光。
「シトリン…!」
あれはレイチェルではない。間違いなく彼女の中にいるシトリンの姿だ。
アゾフカ5体も倒され方がおかしい。銃弾のヒビなどなく、首や肩が砂粒になって引き千切られる様にして倒れている。
囲まれた状態で5体を格闘で数瞬の内に返り討ちにしている。マトモな戦い方で出来るものじゃない。
「げほっげほっ!ぺっぺっ!へーっくち!」
土埃を払って出てきたミランダが顔を振り払う。
「あ、隊長!よかった!無事だったんだ!」
ミランダの声が私達の間の緊張を振り払った。
「シディア、何があった?」
彼女の傍で、メリッサのドローンは砲台と車輪が潰れている。銃も吹き飛んでレイチェルの足元にあった。
「2人が行った後、コッチも敵が出てきちゃって。シトリンが頑張ってくれてどうにかこうにかって感じ。」
「…そう。」
レイチェルの様子がおかしいが、今回が初めてというわけでもない。
魔法を使う時は決まってこんな調子で目が据わっていた。私達と同じく、乗り移られたのだろう。
私達に目もくれず、ずっと空を見つめて呆けている。
《アゲート。シトリンの…これはどういうことなんです?》
モモの通信機越しにメリッサが話しかけてきた。
「どうもこうもないわ。二重人格のもう一方がそうさせた。私と同じ。」
《でも、アレが人間に出来る挙動なんですか?》
「さてね。私が知ってるのは、アイツに宿ってる中身がとんでもない化け物ってことぐらいよ。」
そして彼女が見ていた日差しとは逆の方向。空襲があっただろう場所を見る。
「なんだコイツは…」
水晶でできた多連装ロケットシステムの砲塔の残骸だ。正規戦車と同じぐらい大きい。
水晶やらクリスタルファイバーで作られてる辺り、ドラゴンと構造は似ているが、過去のシスナの記憶にはない。
《わかりません。壁から突然アゾフカと一緒に現れたので。グレネードで応戦しましたが、巨大すぎて手も足も出ませんでした。》
「シトリンは?」
《投射されるロケットを避けてました。天井が崩れた瞬間、FECTドローンが空襲してきて、コレです。》
「ロケットを避けたぁ?この至近距離で?」
リラは肩を竦めて聞くが、見たメリッサの方が動揺してしまっている。
《間違いありません。途中で残像とか出して…もう何が何やら…》
ガチャンと音を立てて、彼女はアゾフカを手放した。
「あ……」
「シトリン?いや、レイチェル?」
「あ、うん。私は大丈夫。」
「…そう。データの方は?」
「無事みたい。」
いつの間にか、彼女は自分のペンダントをしっかり身に着けていた。
オレンジ色だった水晶は、黄色く変色している。
ラップトップを回収して画面を開く。
ミッションコンプリート RTB
それだけが書かれていた。
私達は騒ぎを嗅ぎつけられる前に脱出することにした。
しかし、違和感が残る。
FECTドローンは譲渡した後、私達とは完全に無関係になっているはずだ。手持ちのデバイスに操作するアプリの類は入っていない。
稼働していたとしても飛行経路はもっと北側。敵国のドローンを追いかけて来たならわかるが、そんな様子もない。
明らかに私達の下に立ち寄った形で狙って空襲して帰っていった。
そもそも、訓練用のアプリのインストールも大した作業ではない。ペンダントに何か仕込まれていたんだろう。
過去のシスナ達が、何か間違いなく関与している。
あとでマザーに問い質さないとならなくなった。




