20 work 3-3
マザーの元に帰る道中、もう一つの仕事へ向かう。
来た道を引き返す様にして、私達はダンジョンの跡地へ向かった。
高速道路から外れて山間の登山道に入り、険しい丘陵地帯の森を往く。
「その前に2人とも。装備新しくしたからコレ。」
レイチェルに言われて、私は新しい装備に着手した。
まずやったのはヘルメットの改良。特殊部隊でも野球帽はよく使われるが、やはり転倒で頭骨の保護は必要だ。
ベルクロで頭の形にフィットして張り付けるタイプのアップリケ装甲を付けさせる。
外殻は2mm厚のチタンで、その下にケブラーと高分子ポリエチレン
額から前頭部、側頭部までを覆い、後頭部の上の方はチタンはない。
古臭い防具で例えるなら、大型の鉢金の様なもの。
ほぼ真上から撃たれなければ、装甲のない場所へは撃たれない。
対弾性能は威力がなくなった弾なら防げるかもしれない、という程度だが。
重さは1キロ未満に抑えてある。
「いいね、これ!」
「うん、凄く軽いし、取り外してる間は一般人っぽい。流石シスナ。そっちの仕事の方も考えたんだ?」
「え?あぁうん。まぁね。」
正直、犯罪側の仕事の方について考えていた装備ではないが、機能を省きに省いた分、携帯性も向上しているのは確かだ。
リラとレイチェルには凄く好評だ。ゴーグルもシューティンググラスの市販品に変わり、多少は使い捨てやすくもなった。
装備を着こんで、私達は登山道に着いた。
藪の多い森林の丘陵地帯を抜ける。人が歩いて出来ただけの登山道。最近は観光客も全くいないのか、雑草も飛び出ていて歩きにくい。
「私もうヘロヘロ~!」
ミランダが音を上げて水を飲もうとするが、水筒はもう空だ。
もう7月になる。緯度の高い地域とはいえ、やはり夏場は30度を超えて当たり前。
ブユや蚊も居るから長袖で進まなきゃならない。
とはいえ、風は涼しいからまだ何とかなる。高湿度に高温で、何着ても暑いヒノシタの地獄の様な真夏に比べれば、まだ遥かにマシではある。
「レイチェル、アンタのくれてやんな。」
「え~?仕方ないな~。」
軍隊上がりだけあって、レイチェルも険しい行軍には慣れているのだろう。出来る新人ってのは良いものだ。
「ミランダも次からは、そっちの軽装のがいいわね。」
「シスナ以外使う人いなくならない?」
「……もうそれでいいわ。私は防具が無いと不安なの。」
「その装備でよく走り回れるよね。凄い体力。」
ヘルメットの下は私も汗だくだし暑い。
だが、全員の命を抱えている以上、甘えたことなど言っても居られない。
被弾した時に少しでも戦える確率が高くなければ意味がない。
《見えてきた。入り口です。》
木にとまったクアッドコプターから、メリッサの声がする。名物の水晶窟が見えてきた。
看板には、勝手に水晶を持って行くな、窃盗などと書かれている。
平日な上に今は戦地だ。安全地帯よりのちょっとした観光名所でも、今は私達以外には誰も居ない。
立ち入り禁止の看板を乗り越えて、スマートフォンの写真を確認しながらマザーが指定した場所へ向かう。
岩が折り重なった、日差しがちょっと弱くなる穴倉に入って最深部へ。細かく砕けた黄色い水晶が懐中電灯でキラキラと光る。
「レイチェル、何か感じる?」
ミランダが話しかけるが、彼女は何ともない顔でかぶりを振るう。
「いや?別に何も?」
「そっか。」
最深部へ到達してみれば、カムフラージュされたビニールシートの裏はつい最近掘り起こされた様な痕跡。
岩をひっくり返して、裏側へ更に入った。
「これみたいね。」
確かにあった、量子コンピューターの残骸。Made in Japanの文字は間違いなく私達の知るものと同じだ。
ただ、他よりも大きい上にアゾフカと同じ水晶に覆われている。うっすら黄色いが、日に焼けたのか色あせている。
更に掘り返してみればケーブルの類は全て千切れている。焼けて溶けた様な千切れ方だ。
「さて、こっからどうしたもんか。」
ラップトップを開いて、ペンダントリーダーを繋いでみる。二重人格共が何か知ってるだろう。
メモ帳が勝手に開き、文字がタイピングされる。
『左のケーブルを辿れ。』
言われた通りに私は歩みを進め、ちょっとした箱を見つけた。
「あった。凄いねコイツ。結晶の中に閉じ込められてるんじゃなくて、メッキされてるみたいにコーティングされてら。」
量子コンピューターたちは、自らを水晶の中に閉じ込めて劣化を防いでいる。それが1500万年も生き延びれた理由だ。
「これほど無事な形でストレージが残ってるとはね。」
大ダンジョンと呼ばれただけはある。規模が大きかったということは、それだけ良質な状態で保たれていたからだろう。
「ん~どこにアクセスしたものか…」
リラが懐中電灯を照らして筐体をくまなく調べた。
背面の狭い隙間に顔を突っ込む。
「おいおいおい…マジかよUSBポートあんだけど。」
驚いたことに、現在の形をまるで同じものだ。
どうすればこんな偶然が起きるか、そんなことを考えても仕方ない。
掌で筐体をバシバシと叩くと、薄い結晶の膜が剥がれて落ちた。これで被覆が剥げたから接続できるはず。
リラがUSBケーブルを挿そうとした時、ポロロンポロロンと、ラップトップから操作のエラー音が連打されている。何か知らせている様で、開いてみる。
『レイチェルのペンダントリーダーを使え。』
私達は一抹の不安を抱えながらも、指示に従うことにした。
何が起こるかもわからないし、古いコンピューターだ。迂闊なことをして壊れられても困る。
「電源の供給は要らないんか?」
「さてね。先人達の言う通りにやってみるしかない。」
指示通り、レイチェルのペンダントをリーダーに嵌めて、そしてUSBケーブルを繋いでみる。
しばらくすると、ペンダントは黄色く光り出して電源が稼働した。
ズンと響く振動と、パラパラと周囲の岩が砕ける音。地鳴りがする。
私達は一斉に銃を持った。
背後の様子を確認しようと私は振り返る。全員が私に続こうとした。
「シトリン、シディア!2人は待機!ペンダントの傍にいろ!作業が終わるまで端末を守れ!」
コードネームで呼んだ意味を理解して、レイチェルは私を見て足を止めた。
「ッ…わかった!」
ガンガンと遠くから音がする。聞き覚えのある音だ。
「アメス、ジャスパー、私と来い!タンジェ、2人を守れ!」
メリッサの無人戦車が一番の高火力だ。地形も脆い以上、乱発して生き埋めになるのも避けたい。固定砲台として待ち伏せる形で残す方がいい。
《了解。サーマルで周囲警戒する。敵の目星は?》
「恐らくアゾフカ。それよりも、今ダンジョン機能はダウンしてる!ここで死んだら再召喚は無しだ!気ぃ引き締めてかかれ!」
「楽しくなってきたじゃん!」
「行くぞ!迎撃する!」
残りカスとて、相手は500年前の大ダンジョン。
油断は一切出来ない相手だ。




