18 work 3-1 ロメニアのゲームチェンジャー
私達は無事にロルサーグへ入国し、陸路からルメリアの南部に入った。
首都ドゥカレスト。
首都側はまだ安全だ。普段の日常の様に働いている人が大勢いる。
だが、ビルの一室にミサイルが落ちた痕が嫌でも目に入る。ビニールシートをかぶせて修繕中の建物がありながら、対向車線にはスーツを着た車の運転手。
戦時下と知っていながらも、日々の暮らしの為には日銭を稼がなければならない。
「『隕石が降ってくれば仕事が休めるのに』なんて、子育てと仕事が辛かった時は考えていました。でも今は、ミサイルが飛んでこないことを祈って働いています。いつ飛んでくるかも分からない。」
スーパーマーケットで働く中年女性に取材した時の言葉だ。
偽装の為に撮影した取材のビデオを編集する度、自分達の心にイヤに響く言葉だった。
マザー・リーシャと落ち合う場所にやってくる。
郊外の工業団地。一般企業を装っているが、中は対抗するための無人機の製造ラインだった。
いつ狙われてもおかしくない場所に、私達は通される。
「現着。全員無事に着いたわ。尾行も取り合えずなさそう。」
「よく来てくれたわね。」
私達は工場の責任者と握手を交わした。
どうやら、リーシャが設計者でありパトロンであるらしい。設計したのは恐らく、教会の量子コンピューターだろう。
「それで、仕事は?」
「アナタ達には、運送ついでに新型の無人機の納入と初期設定よ。マニュアルやシミュレーターのセットアップをお願いしたいの。」
目的地は北の山を越えた街、ドゥラショブ県。
そこから更に北へ、もう1峰を超えると最前線だ。
山の上から無人機を飛ばし、防空や監視を担っている。ドゥラショブは最前線からは後方でもあるが、重要な都市だ。
ミサイルがひっきりなしに飛んでは迎撃を繰り返しているエリアの最南端が、私達の行く場所だ。
「新型ね…経験とか無いし、開発に携わってすらいないんだけど。大丈夫なの?」
「大丈夫よ。シスナなら出来る。」
マザーはペンダントをチラつかせる。私はため息をついて了承した。
今までは地力で何とかこなしてきたが、リーシャは超技術ありきで仕事をする様になってきている。
私個人としては乗り気ではないが、活用しなければ段取りが増えて面倒だろう。
ここは素直に了承すべきと判断して、私は頷いた。
「道中の対処やトラブルには、即応して構わないわ。シスナに一任する。これ、預けておくわ。」
ハンドバッグほどのケースを渡され、中身を確認する。ペンダントと同じクリスタルが付いた、USBメモリだ。指令でも入っているのだろう。
そしてもう一つは、ペンダントを嵌め込む形をしたソケットが付いたUSBケーブルが人数分。恐らくはカードリーダーの様な何かの装置だ。
「了解。」
「じゃあ、お願いね。」
……
私達は作業着に着替えて配送用のトラックに乗り込む。
レイチェル達は後ろで別の商用バンに乗り込んでいる。
全員小銃で武装して、万が一に備えている。
リラが運転を担当し、私は隣の助手席でラップトップを開きUSBの中身を見た。
あるのは無人機用のシミュレーターのアプリケーションのインストーラーとマニュアル、そしてマザーからの指示書。
仕事内容は口頭で伝わったのと同じだが、文書には重要なコトが書かれている。
ここが、かつてリーシャ達が挑んだ大ダンジョン、もとい大聖堂のあった場所の街だったことは知っていた。
道中に、大聖堂の跡地がある。私達にそこに行って、量子コンピューターの残骸にアクセスしてこいという命令だ。
500年前に完全に破損しているから、もう魔物の類は出なくなって長い。
過去にマザーが何度も来訪して、場所も特定してアクセスも出来る様になっている。観光地の通路脇にあるぐらいには近いところだ。
重要なデータをサルベージするため、最低限の修繕をする必要がある。今までは技術力不足で修繕する手法がなく手詰まりだったらしい。
ヒノシタで生きている量子コンピューターをかき集め、時代も進んでようやく電子機器と相互アクセスが出来るようになった今になって出来る作業だ。
そして、最後には完全に破壊して、誰の目にも留まらず、魔物も発生しない様に隠滅する。
500年越しに出来る作業で心してかかれとのこと。
「やれやれ…1500万年前のオーバーテクノロジーなんて私達に修繕出来んのかしらね?」
私はペンダントリーダーの様な何かを手に持って訝しむ。
ロクなことにならなさそうだが、使ってみる他ないだろう。
「さてね。でも、面白そうじゃん?」
リラは大型トラックを運転しながら笑顔を見せた。
「楽しそうで羨ましいわ…。アンタの中のリラは何て言ってんの?」
「人格データの類はないらしいよ。持って帰れれば、壮大な話が待ってるとかなんとか。」
「レイチェルといい、何が目的やら。」
私はペンダントを嵌め込むリーダーの様なものを使ってみる。ラップトップと繋げると、USB接続が認識された。
勝手に遠隔操作され、無人機のシミュレーション用のアプリケーションやらなにやらがコピーされてペンダント内に入っていく。
「…データ人間ってのも便利なもんだわ。」
恐らく無人機を操作するのは、データの中のシスナ達だろう。
電波妨害などで機能不全に陥る遠隔操作系のドローンに比べて、自律型は単純な命令しか聴けない弱点がある。
彼女らの手にかかれば、自律型でも中身に人が要るのと全く同じ様な挙動が出来るだろう。
(…戦闘ドローンにコピーされた自分のコピー人格はどう思うんだろう?)
死ぬまで戦わされ、最後は自壊か自爆を選ばされる。
直前の記憶が残っていれば、ドローンにいきなり体を挿げ替えられた様な感覚に陥るだろう。
私なら嫌だ。ヤケクソで味方陣営に報復で自爆しに行ってやるだろうし、それが判ってないとも思えない。
他に何か手があるはず。もうひとりのシスナに会うのは不本意だが、直接聴くのが手っ取り早いだろう。
ある意味、アゾフカの量産と似た様なものだ。
オーバーテクノロジーを持って戦場に介入するなど、後で問題にならなければいいけど。
「あの魔女、早速悪用しやがってからに…」
あぁやれやれ、溜息が止まらない。




