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17 commute 夜空

私達は飛行機に乗り、ロメニアの隣の国から陸路で国境へ入ることになった。


飛行機でハンガリア。旧ロルサーグ王国へ向かい、それから車で越境する。


業務内容は平和維持活動のボランティア。取材や炊き出しは名目だ。

入国審査で私達が迂闊なことを喋らない様に、詳しい事は現地入りしてから話す事になっている。


道中ではシスナは神妙な面持ちであった。

それもそうだろう、恐らくシスナはロメニアの出身だ。私達の装備も戦場にいた人間だからこそ作られたモノ。

ミランダはガチガチに緊張している。リラは楽しみな顔をしていた。


モモとメリッサはリモートワーク。衛星経由で無人機を動かしてくれることになっている。


私も内心は緊張していた。

夜空を飛ぶ飛行機の中、私は窓の外を見るシスナを見ると、彼女と目が合う……。


……


窓の外、夜も更けた上空を飛ぶ民間機は、宵闇で灰色になった旅客機の羽を地平線に満天の星空を描いている。


赤と緑の星雲が舞う星空。明りの少ない田舎へ行けば、温帯な地域でも毎晩の様に見れるオーロラ。



改めて見ると、やはり綺麗だ。



私達の居る太陽系は数万年前に局所泡を抜け、星間物質の密度の高いところにいるという。


宇宙の極限環境に晒され続けても尚、安定していられる石英や炭素の塵やヘリウムやキセノンだとかのガスが宇宙空間の太陽の放射線の太陽風にぶつかり明るい空を見せている。

集まる前の星の材料。重力で集まった粒たちが、やがて岩石の惑星になるとか。

毎年の様に、米粒ほどの隕石が原因で飛行機のエンジンがトラブルを起こしている。



石英。水晶。SiO2、シリコン。

私達の部隊の記章にもなっている、ルチレートクリスタルも水晶のひとつ。


ダイヤモンドの様に宇宙空間の強烈な電磁波や放射線に晒されても安定している鉱物で、中でも地球で最も手に入りやすい物質のひとつ。


ダンジョンの防衛機構であるアゾフカ達が、水晶の体で出来ているのは、そのためだ。


彼らは電脳化した人間を宇宙空間で活動させる為の、人間の器の試作機。

純水晶の融点は1800度近く。宇宙空間の寒暖差にも耐えられる水晶を体表にし、透けた体に太陽電池を仕込んで宇宙空間で恒久的に暮らす為のもの。


だが、地球外に出るということは秒速約7.9kmの移動エネルギーの中に居続けるというもの。砂粒ほどのデブリの砂嵐に晒されると、石英は衝撃に弱くすぐ砕けてしまう。


だから彼らは失敗作だった。図面上のデータだけが、クラウドを介して世界中の量子コンピューター内に共有された。

それでも、人の体よりは長くは保つと。地上に残された大勢の人間は、氷河の滅亡を前に、その体を利用した。

量子コンピューターの管理者の体として用いていたが、太陽を長く覆う雲には、やがて太陽電池も滅びゆく運命。


ベータボルタ電池を用いて長く長く活動してダンジョンを管理していた者もいたそうだが、それでも地球環境の激変には数百年が限界だったらしい。


万を超える長い年月を経て、人類が絶滅した後。新しい生命が生まれていく。

そして数万年の偶然を積み重ね、量子コンピューターの管理者権限を偶然にも乗っ取った野生動物が各所で現れだした。


彼らもまた、その地に没し、そして制御を失った量子コンピューターに意識を取り込まれ、欠落したデータが混ざり合って魔物が生まれるようになる。



それがいつしかダンジョンと呼ばれるようになった。



元のデータに人間があれば、いつかは人に近いものが産まれるだろう。それが生存競争に勝てば、再び旧人類と全く同じ直立二足歩行の類人猿が生まれ出る。


不朽の存在になりえなかったが、彼らの技術は確かに幾星霜の時を超えて人類の未来を紡いだとも取れる。


再び元の姿で地球の覇者になれるように……。




…私達が今までに回収した、量子コンピューターから得た情報を紡ぎ合わせた、ダンジョンの真相だ。




……


私は視線を感じて横を見る。

レイチェルと目が合った。彼女の表情は、平常を保つ様に押し固められたもの。聴きたいことが口に出しにくいのだろう。

「レイチェル。」

「何?」

「今回のコト、先に謝っておく。無事に帰れたらなんか奢るわ。10万円ぐらいのプレゼント。」

「どういうこと?」

「私に関係することだからよ。」


私は確信していた。この仕事は、私にまつわることだ。


飛行機の椅子をリクライニングさせて、私は眠りに付く。



今の私の生まれ故郷のロメニア北部。

北に位置する大国、ツァーリ連邦の内政干渉と武力侵攻によって国境線が変わりつつある。


このご時世、国際的に正規の戦争など認められてはいない。しかし、国連も周辺国も口で非難するばかりで、まるで助けようとはしてくれない。

ここ数年前の最近になって本格的に宣戦布告をしたが、問題自体は私が生まれるより前の25年以上前から続いている。


10年前、私がまだ学生だった時代に街が侵略された。

ツァーリ連邦の少女兵として訓練を受けていた私は、自由陣営の捕虜となった後、ヒノシタ国に後送されマザー・リーシャに引き取られた。


言葉が通じるマザーは親身になって寄り添ってくれた。私と一緒に、いつか家族を迎えに行こうと。ずっと励ましてくれた。

だが、ある時、私は親族全員が戦場で亡くなったことを知ってしまった。ヒノシタに来る以前から、既にもう望みは絶たれていた。

リーシャは知っていて、嘘をついていた。それが優しさだったのは今なら理解出来ている。


けれど、事実を伏せられていた私は裏切られたと感じ、自棄になり、教会で致死量の睡眠薬を飲んで自殺した。



それが"今の"シスナになるきっかけだった。



夢の中。モノクロになった教会のベンチに私は寝転がっていた。



起き上がると、私と全く同じ姿のシスナが前の席にいた。

ベンチ越しに頬杖をついて、私の方を見て溜息をつく。

(まさか、本気で正規戦争のど真ん中に突入するとはねぇ。)

彼女も緊張している。恐怖を押し殺した苦笑いで私を見た。

「何の用?寝覚めが悪いから、夢に出て来るなっていつも言ってるはず。」

私は彼女に突き放す様に言うが、向こうはお構いなしに話を進めた。

(話せるのもこれが最後かもって思うとね。私達のいた時代の戦争なんかより、現代戦は遥かに過酷な環境だもの。)

「私が死ぬとでも?」

(自分が一番分かってるでしょ?運が悪ければアッサリ死ぬ。ダンジョンよりも遥かに危険じゃない。)


彼女は、500年前にマザーと一緒に居た冒険者。元教会の刃の暗殺者のシスナ、その人だ。

私が教会の中で自殺した時、私は例の量子コンピューターに意識を拾われた。


そしてこの女と出会った。


同じ名前は偶然じゃない。私と彼女は非常に遠いが血縁関係にある。顔も髪色も、体格も何もかもがよく似ている。まるで作られたかのように。

適合する体として、私の体を依り代にして憑依する形で私と共に蘇りを果たしている。


今の私は、言ってしまえば二重人格だ。


後輩のリラも同じだ。彼女はもうひとりのリラとは馬が合って仲良くしているらしい。頻繁に魔法を使うのもそのせいだろう。

レイチェルの様子を見る限り、今のところ宿っている別人格はハッキリ出ていない様だが、それも時間の問題だろう。

私達と少し違うようだが、魔法を使う時は決まって目の色が変わり、表情が据わっている。


だが、この女は何故私達に宿り、マザーと組んでいるのか全く教えてくれない。だから嫌いだ。


「アンタと仲良くお話なんかしたくないわ。マザーと一緒に何を企んでるやら、胡散臭いのよ。」

(それについては、本当に悪いんだけどまだ話せない。ただ、新入りのレイチェルのこと。)

「アイツがナニ?」

(大事にしなよ。いいヤツだからさ。)

彼女は微笑んだ。

「…言われなくても。」

(そう。何かあったら、私を呼んで。助けになってあげる。)

「アンタの力に頼る気はない。魔法なんて不安定で貧弱なモノ、アテにならないわ。」


命を拾ってくれた恩はある程度感じているが、油断すれば肉体を奪われそうだ。

マザーたちが何を企んでいるか分からない以上、安易に心は許せない。


(ま、それならそれでいいわ。アンタは私よりもラケルさんに似てる。優秀だし、放ってても心配なさそう。)

「おだてたって体はくれてやれないわ。」

(別に欲しくないって。そう、ツンケンしなくてもね。そう遠くない将来、レイチェルに宿った人格が目覚める頃には、目的も話せる様になるから。)

「私がそんな簡単に信用して協力するとでも?」

(するわ、必ず。お前は優しいもの。)

自信ありげに答える姿には悪態で返したいが、今は頭の片隅にでも入れておこう。


目が覚める頃には、日差しが登っていて飛行機が着陸間近だった。


エコノミークラスの飛行機では、やはり寝ると酷く体がコってしまう。

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