12 work 2-3
2日間、盗聴して張り込んだところ、分ったことがある。
ソーラーパネル設置のペーパーカンパニーの事務所が黒なのは間違いないが、建設に協力した下請け会社が存在した。
住所を追ってみると、金属買い取り業者のジャンクヤードだ。
派遣社員として事務所側が雇い、ジャンクヤード側の重機の備品を使って建設に向かい、終ったら解散する。
だから、オフィス1室だけでも彼らは建築業の様な仕事をしていられる。
別の業種を経営しながら、労働者派遣事業として登録するのは、どの会社でも要件を満たしていれば申請が通れば可能だ。
とは言え、それをやるのは基本的に同業での間でやること。専門性のある社員を相互で貸し借りする、そう言った使い方の制度だ。
建築と廃材買い取り業者。素人目に見れば外面は似ていても、専門性がまるでない異業種の派遣だ。胡散臭いことこの上ない。
それも郊外の車通りの多い道路沿いに堂々と営業している。中で働いている連中は若い男が多いが、どれも建築業としてはパッとしない顔だ。
外で働いている人間にしては色白なヤツもいる。最近入っただろう人間だ。
「ほれ見ろ、芋蔓式に胡散臭いのがワンサカ出て来たわ。」
ジャンクヤードを観察して、シスナは舌打ちする。ヒノシタ国の人間じゃない連中も多そうだ。
「シスナはどう見る?」
リラが双眼鏡を受け取ってジャンクヤードを見る。
「怪しいのはジャンクヤードの経営者ね。"兵隊"は半グレとか就職難にあぶれた吹き溜まりの寄せ集め。中には自分達が半グレの活動してるとも知らないヤツもいるはず。」
シスナは電話を出してマザーに連絡する。
「偵察した資料を送ったわ。連中、やっぱり黒よ。全員"神隠し"でいいってんなら簡単だけど、行動を起こせば必ず波風が立つわ。どうする?」
"神隠し"
私達のやり方で、一人残らず暗殺して死体を持ち帰り隠蔽するやり方だ。
だが、事業所ひとつが一晩でもぬけの殻になるのは大事件だ。必ず行方不明者を探す者が出て来る。
相手も同じ様に、監視カメラで死体を運べそうな大きい車を探すなりするだろう。
従業員には、偽の求人で就職した無関係の人間もいるだろうし、賢明なやり方ではない。マザーも分かっているはずだ。
《変更はないわ。拉致して吐かせる。対象が増えただけのこと。》
思ったよりダメっぽい。全然わかってなさそう。
この人がパワープレイヤーだったの忘れてた。
「マザー、私達はここまでに高速道路で片道で3時間かかった。深夜なら高速道路も空いてるだろうけど、それまでに目覚めない様にするのは難しいと思う。勝手に意見するけど、現実的じゃない。」
私は身を乗り出して、後ろからシスナの持つ電話に話しかける。
悪人相手に悪事を働くのは別に構わないが、女手だけで男3人をバンに入れるのさえ重労働だ。
加えて目標は確実な生け捕り。やりようはあるが目標のいる場所は2つ。手間取る可能性が高い。
そして、私達の拠点は県を2つほど跨いだ場所だ。
覚醒しない様にするには、睡眠薬の投薬も必須になるだろう。バンに運んだあとで良いとはいえ、拠点に戻って尋問して情報を吐かせるというのも何日かかるか。
上司が数日の間不在になる。無関係の従業員にも僅かばかりだが影響がある仕事になる。それだけでリスクは跳ね上がる。
仕事内容に更新点があった以上、やり方を考えなおさなければならないはずだ。
シスナは後ろ手に私の頭を撫でた後、ポンと叩いて座らせる。
「リラと私も同意見よ。誘拐だけじゃ見込みが甘いわ。マザーなら、どうとでも皆殺しに出来るんでしょうけど。」
《仕方ないわね。パネルの撤去費用も払わせたいし少し工夫しましょう。量子コンピューターも持て余してることだし、新技術も試したいわ。》
「新技術ね……」
クレアの量子コンピューターのオーバーテクノロジーを使うのだろう。
《レイチェルはアゾフカを操作できるようになった?》
「はい。走るぐらいは。」
《じゃあ、空っぽのペンダントを4つ送るから、アゾフカに持たせて頂戴。必ず"アゾフカで頭を掴んだ状態で電流を流して"対象を失神させて。対象が眠っている状態でもいいわ。》
「失神させるだけ?」
《そうよ。それで空のペンダントに失神させた対象の意識の複製を作って情報を引き出すわ。本人はその場で居眠りするだけよ。一瞬で終わるし、仕事にも影響はでないわ。》
「ダンジョンの外で、そんな魔法みたいな真似が出来りゃいいけどね。」
《対象はソーラーパネルのペーパーカンパニー3人と、ジャンクヤードの経営者1人よ。よろしくね。今からそっちに向かうわ。》
電話が切れると、半日後にマザーが自分の車で私達の滞在先にやってきた。
「レイチェル、ちょっとアゾフカを動かしてみて。」
私は言われるがままにやってみると、彼女は嬉しそうに手を合わせる。
「ん~、凄いわ。戻ったら、もっと練習しなさいね。戦闘にまで応用できれば、かなりの戦力になるはずだもの。」
「はい。」
「じゃあ私、ちょっと観光してから帰るわね~。お土産に有名な肉まん一杯買ってきてあげるから。それじゃ。」
ペンダントを渡して、彼女はさっさと出て行ってしまった。マザーは意外とフットワークが軽い。
「やれやれ……。今晩はジャンクヤードの男からやるわよ。」
夕方の7時。軽くおにぎりを食べたシスナは、覆面を手にする。
「肉まんは楽しみにしておくとするわ。行動開始。」
「「了解。」」
私達は車に乗って、夕暮れのジャンクヤードへ向かう。
仕事終わりに彼らが帰り出すタイミングを見計らい、意識データを簒奪する。




