11 work 2-2
仕事場に辿り着いた私達は、対象を確認する。
下調べした通り、シルバーの商用バン。ナンバープレートは違うが写真とは完全に一致する。
プレートのロックをよく見ると、塗装が剥げていて隙間がある。ハンマーかなんかで無理矢理付け直した痕跡だ。
私は双眼鏡を持って、個人事務所の様なオフィスを覗く。
「とりあえず3人見える。1人は色黒で黒髪、海賊みたいな黒ひげ。もう2人はヒノシタ人。1人は痩せてるノッポ、1人はデブの男。」
シスナに手渡すと、彼女は聞こえるほど大きく舌打ちした。
「最悪、車の中で同じ匂いを嗅ぎたくないわ。」
「あーホントそれ。特にデブの方、ありゃ3日は風呂入ってないわ。」
リラとシスナは相変わらず悪態をついている。
「今回、銃は最小限しか持ってきてないわ。加えて民間区域だし、ヘタに撃てば騒ぎになる。脅しなんかも出来ないから、無力化して運ぶのが安牌ね。」
持っている銃は.22LRの小口径の消音機つきのピストルのみだ。
だが、使うことはないだろう。
脅すにしても、殺傷能力を見せる必要がある。足を撃ち抜いたりして悲鳴を上げるなどの騒がれるリスクなどは冒せない。
私達は争いの場では交渉しない。まず無力化して誘拐して、それから拷問する。それが教会の刃のやり方だ。
「ベルトかなんかで締め落とす?」
「そうね、それもあり。スタンガンで落ちなかったにしても、感電すれば動きは止められる。そしたら締め落として。」
「わかった。」
「問題は、デブをどうやって素早く運ぶかよ。全員入れるまでに3分以内で終わらせたい。数人がかりでも60秒はかけたくないわ。」
メリッサがバンの後部座席でバチンとプラスチックケースの留め具を外した。
「そういうと思ってね、マザーからアゾフカを1体借りて来たよ。」
普段は戦車型のドローンが入っている箱には、五体をバラバラにされたアゾフカの1体が入っていた。丸い関節は組み立てる前のアクションフィギュアの様だ。
「魔物を使うって?貸しを作る気?」
「要らないって判断した上で失敗したなら、シスナの責任になるよ。この仕事、発案者も責任者もマザーでしょ。マザーの指示に従った上で失敗したなら、私達の責任にはならない。違う?」
メリッサの言い分も最もだ。責任者として助力を惜しまないマザーも、その辺はよく判っているらしい。
しかし、一番年下なのに社会人らしいルールは身に付いているのが驚きだ。
犯罪は失敗出来ない仕事である以上、あるものは最大限活用すべき。それはシスナもよく理解していることだ。
「やれやれ……で、どうやって使うの?見た感じ、自律人形じゃなさそうだけど。」
「レイチェルなら使えるって。」
視線が一挙に私に集まる。
「えぇ?私ぃ?そういう大切なこと、普通は事前に本人に言うべきじゃない?」
「それはそう。」
「ごめんて。出立ギリギリで私が楽したいってゴネたの。ペンダントをアゾフカにつけて念じれば動くってさ。人を運ぶぐらいなら練習すればすぐ出来るって言ってたよ。」
私はペンダントを持って、呆れながら上半身だけ組み立てられたアゾフカの首元に沿える。
「えー?そんな"魔法"じゃあるまいし……」
そんなことをボヤいた時、私の脳裏にノイズが走る。
"魔法"
魔法なら知っている。
砂嵐を纏って、私は大きく跳躍出来る。
そうだ、土魔法。
土魔法を使って、私は砂を象って自分の分身を作って戦ってきた。
アゾフカとは何度となく戦った覚えがある。実力を過信した、何人もの未熟な冒険者を返り討ちにした、私達の主戦力。
強固で素早く、それでいて強力な魔法を操り、集団戦にまで長けている。
私でさえ、一瞬の油断もならない手強い魔物……それを私は何十と葬って来た……。
惹き込まれる様に、私はアゾフカにペンダントを乗せると、ビクっと上半身が動作した。
「動いた……!」「マジか……。」
黄色く光るアゾフカのコア。そして私の体と同調して動く。
「ただ、コイツの水晶の体は少しでも光に当たると反射して目立つわね。服着せてカムフラージュしないと。」
シスナは車のエンジンを付けて、近くのショッピングモールを検索する。
「じゃ、まずは買い物ね。今晩は折を見て、指向性マイクや盗聴器を着けて3日ほど張り込むわよ。他にコンタクトする人間がいないかも探るわ。宿を探して、レイチェルはその間練習する。いい?」
「了解。」
「リラ、スマホで近場の民宿探しておいて。じゃ、飯と服、買いに行くわよ」
「あいよ。」
全員了承して、私達は民宿に滞在することになった。




