拓哉の夏休み
拓哉が帰省した翌日。
昼間は寝たりイヌ娘をしてダラダラと過ごした。
そういえば佐藤からバイトのお願いがあったが、帰省中だからと即断った。
どんな内容だったんだろうか。
それはさておき、夕方からは中学校のプチ同窓会に参加していた。
(昼間は寝たりイヌ娘をしてダラダラと過ごした。)
----
「へぇー、拓哉君今は大阪なんだー。凄いねー。」
久しぶりに話した女子が大げさに驚いてみせている。
正確には拓哉の住居は尼崎市。
そして勤め先も尼崎市。
つまり『兵庫県』だ。
だが、尼崎を地元の人に説明してもあまり伝わらない。
ついでに自分を少し良く見せたいというのもある。
よって大阪に住んでると偽っていた。
「仕事は―?年収はー?」
違う女子が次々と拓哉に質問する。
拓哉の地元では・・・いや、たいていの田舎街と言うものは都会と比べて進学率が低い。
併せて地元から全く出ない人間も少なくない。
というか多い。
必然的に拓哉の様に大学を出て都会に暮らしている人間は多少珍しい存在になる。
それ故に興味本位で話を聞きに来る人間がちらほら現れた。
(ネットでよく言われてるやつだ!)
とか思った拓哉だったが、ネットで言われているほど悪い意味は無い。
実際のところ接点の少ない拓哉に対しては『そのくらいしか話題が無い』だけだったりする。
だが拓哉ほどのネット中毒で筋金入りのDTだったら多少勘違いしてもしかたないというものだ。
「仕事は『エンジニア』・・・まぁ設備とかの設計をやってるよ。年収はまぁ今の平均よりちょっと上くらいかな?」
だが男とは悲しいもので、女子に色々と質問攻めをされると良い気になって答えてしまうものである。
しかもちょっとだけ脚色して。
「拓哉君彼女はいるのー?」
また違う女子が拓哉に質問する。
(きた!)
ここまでの流れからこの質問まで辿り着くだろうと拓哉は予想していた。
普通に誰でも推測できるだろうが、拓哉としては自分の考え通りに進むことに優越感を覚えていた。
そして予想していた以上、当然受け答えも考えてある。
「『今は』いないね。」
心の中でドヤ顔をした。
拓哉的にはこれでこの女子たちにも良い印象 ( ? ) を与えつつ、嘘もついていない。
完璧な回答のつもりだった。
いつぞやだったか、光にも同様に答えていた。
実際には『今は』ではなく、『今まで』いないのだが、小さなプライドなんだろう。
まぁ本人が満足した答えを言ったつもりなので、そこは触れないでおくべきだ。
――
同窓会という名のただの飲み会は特に目立ったトラブルもなく時間が経過していた。
序盤の女子からの質問攻めも終わり、拓哉は仲の良い男友達に囲まれて近況の話をしていた。
「うちの子が――――」
「この間うちの嫁が――――」
「今度彼女と――」
聞こえてくるのはそういった話ばかりだった。
前述した通り、拓哉の田舎では進学率も低いし、地元に残る人間も多い。
必然的に結婚も早い場合が多く、拓哉くらいの年齢になればこの手の話題になってしまうのもしょうがない。
そんな中、拓哉は話を聞きながら考え込んでいた。
(おかしい・・・!あれ以降なんもないぞ?連絡先とか聞かれるもんじゃないのか?)
先ほどの質問攻め以降女子たちは特に話しかけてこない。
拓哉の思い描いていたプランと違った。
予定では年収やら彼女の有無を聞かれまくった後、女子たちに連絡先の交換を迫られるはずだった。
そしてそれを華麗にお断りし、光への思いが強固なものだという誰にしているのかわからないアピールで自己満足するはずだった。
だがこれは何だ?
(思ってたんと違う!)
----
何はともあれ宴も酣。
拓哉の思惑とは違ったものの会自体は順調に終焉を迎えた。
同窓会としては思ってた通りの盛り上がりを見せた。
一人心の中では不服そうな拓哉だったが、そもそも拓哉がこの会に参加していること自体が成長の証とも言える。
少なくともほんの少し前、光と出会う前の拓哉だったらきっと断っていたことだろう。
何も役に立っていないと思っている拓哉だが、少しずつだが成長はしていた。
二次会はカラオケとなった様だが、酒が飲めずカラオケでも歌わない拓哉は一次会でそそくさと帰宅していった。
どうせ何人かは明後日にも顔を合わせるのだし。
こうして拓哉のいつも通り予定通りにならない夏休みの初日は終わった。
--
翌日、夏休み二日目は親戚一同の集まりがあった。
一応参加はするものの、拓哉はだんまりを決め込んでいる。
下手に喋ればすぐに「結婚はまだか?」だの「彼女はいるのか?」だのを質問される。
ただただ時間が流れるのを待つだけだ。
酒が飲めない拓哉としてはこの会は苦痛でしかなかった。
親戚の子供などの相手をしつつ、何とかやり過ごして乗り切った。
--
夏休み三日目。
時刻は既に夜の十一時。
昼間から高校時代の仲間内で集まっている。
(一部の友人は中学も共通。)
「ロン。タンピン赤で5800(ゴッパ)。」
「うわっ。またタクかよ。絶好調じゃん。」
「今日はついてるみたいだわ。」
「つっても相変わらず手堅い打ち方だよなー。圧勝してるんだからもっと遊べよー。」
本日は徹夜で麻雀をしていた。
昼間に集合してそのままぶっ続けで打っている。
現在のところ、拓哉の圧勝だ。
拓哉は麻雀が強かった。
年季の差もあるんだろうが、大学時代では唯一唯志に勝てたものだった。
※唯志は大学から麻雀を覚えた。拓哉は中学時代から嗜んでいる。
この帰省中恒例、気の置けない仲での麻雀大会は拓哉にとっても楽しみの一つであった。
勝つこともあれば、負けることもある。
ただ昔からの友達と、昔と同じように遊べる。
それが楽しかった。
「朝まではまだまだあるからね。まだまだ絞らせてもらうよ。」
「俺もそろそろ本気出すか・・・。」
「お前の本気って役満狙いだろ?怖くねー。」
他愛も無い会話だが、とても居心地が良かった。
そんな時、一人が言い出した。
「この会もさー、今回が最後かもしれないなー。」
「え?」
拓哉は驚きの余り動揺して、牌を倒してしまった。
「なに、切るのそれでいいの?」
「あ、ごめん。・・・最後ってどういうこと?」
「んー、いやーみんなそれぞれ生活がなー。」
拓哉は初耳だった。
「こいつは再来月結婚だし、こいつのところも出産予定日が年末だっけ?」
「そう言うお前は一歳児がいるしなー。」
「ぶっちゃけ独り身で気楽なのはタクだけだぜー?」
知ってはいたものの、あまり考えていなかった。
この集まりも永久に続くものだと思っていた。
いや、いつか終わりは来るんだろうと思ってはいたものの、それはきっとずっと先なんだと思っていた。
拓哉にとっては青天の霹靂であった。




