気づき
「すごい。綺麗・・・。」
光は小さくつぶやいた。
初めて近くで見た花火は、言葉では表せない程の感動を光に与えた。
思わず見惚れて、ほんの数秒が何分にも感じた。
「始まっちゃったな。」
唯志の言葉で光はハッと我に返った。
気が付けば唯志の手を握りしめていたことに気づき、慌ててその手を離した。
「ご、ごめん唯志君!ついつい見惚れちゃって。」
「良いって良いって。凄いだろ?」
「・・・うん。見れて良かった。」
光は素直にそう思っていた。
「でも、ほんとにごめんね。『みんなで』見に来たのに・・・。」
「まだ始まったとこだし、良いって。それに・・・。」
「それに?」
光は唯志の続く言葉を促した。
「あー、ひかりんと二人で花火見れるのなんて最初で最後かもしれないからな。」
唯志は少し照れながら言っていた。
唯志の言葉の真意はわからない。
深い意味なんてないのかもしれない。
単純に二人で花火を見に来ることはもうないかもしれないってだけかもしれない。
でも多分、光が未来に帰ることを言っているんだろうと光はなんとなく悟っていた。
その時、光は『気づいてしまった』。
前から漠然と未来には戻れないかもしれないと思ってはいたが、『帰れなくても良いかもしれない』と思ってしまっていることに。
そしてもう一つ。
その根本たる原因に。
光が避けていた『気づきたくなかった』ことをはっきりと意識してしまったことに。
「まだ始まったばかりだし、本番はこれからだぞ?急いで戻ろうか。」
唯志はそう言って元の場所に帰ろうと歩き始めた。
先ほどまで混雑していた人混みも、花火が始まったからか緩やかになっていて少しは歩きやすくなっていた。
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「遅いよ!唯志もひかりんもー。」
花火が始まってものの三分程度だが、莉緒が憤慨して文句を言ってきた。
「悪い悪い。」
そう言って唯志はそそくさとシートに座った。
「ごめんね、莉緒ちゃん。人混みが凄くて迷っちゃった。」
光は申し訳なさそうに謝った。
「全くー。ほら、花火凄いよ。ひかりんも座りなよー。」
四人はしばらくの間花火を見ていた。
光はその迫力に感嘆の声を漏らしていたが、他の三人や周囲の客も同様だった。
「綺麗だなー。」
唯志は感情がこもってないような声で漏らしていたが、本心からの言葉だろう。
「うん、凄いね・・・。見に来て良かった・・・。」
光はボソッと小さな声で言った。
拓哉も同じ思いだった。
今まで馬鹿にしていた自分が馬鹿だったと思い知らされていた。
本当に見に来てよかった。
そう思ってふと隣にいる光の表情を見ると、目を輝かせて花火を見ていた。
だが、どこか儚げで寂しい表情をしている様にも見えた。
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最後の打ち上げが終わった。
途中も凄かったが、最後の特大の一輪はとても見ごたえのあるものだった。
一時間もあったはずの打ち上げ時間は、あっという間に終わっていた。
「あーあ、お終いかー。今年も凄かったねー。」
「・・・うん、凄かった。花火ってこんなに綺麗なんだね。」
光は今も感動の余韻に浸っている。
拓哉も口には出さないが、心は興奮のあまり落ち着かなかった。
恐らく二度と花火が嫌いなどと思うことは無いんだろう。
それほど今日の体験は拓哉にとって充実したものだった。
「あ、みんな帰り始めたね。俺らも帰る?」
拓哉が周りを見てそう言った。
普段なら流されるままに行動する拓哉だが、花火を見た興奮からかつい口から言葉が出てしまった。
「あ、ほんとだ。名残惜しいけど帰らなきゃかな。」
光も拓哉に言われ、そう言いだした。
「いや、もう少しゆっくりして行こう。屋台とか見てきても良いよ。」
と、唯志が言う。
「え、でもみんな帰り始めてるよ?」
と拓哉は唯志に聞き返した。
「だからだよ。今行っても道は混んでるし、電車も乗れないぞ。」
(た、確かに・・・)
この辺は経験の差だろう。
周りを見て焦っている拓哉と違い、唯志はのんびりとしたものだった。
「打ち上げは終わっちゃったけど、帰るまでが花火大会だぞ。」
唯志はそう続けて、相も変わらずビールを飲んでいた。
「そうそう。帰ったら終わっちゃうしね。」
莉緒も同じ考えの様で、シートの上でのんびりとしていた。
拓哉も無言でシートに腰を下ろした。
普段ならこういう騒がしい場所からはすぐにでも退却したい拓哉だが、今はなんだかまだ帰りたくない気分だった。
これも花火大会の魔力なんだろうか。
光と莉緒は撮った写真を見せあったりして楽しそうにしていた。
拓哉はと言うと、帰って行く人波や、散っていく見物客たちを見て何かノスタルジックな気分になっていた。
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だいぶ人も捌けてきた。
帰るとしたらそろそろ頃合いだろうか。
拓哉は慣れていないので勝手がいまいちわからなかった。
「吉田さ。帰る前にひかりんに話しとけよ。」
「え、あ・・・そうだね。」
「?」
光は何の話か分からずきょとんとしていた。
「こいつ、盆休み期間は実家に帰るんだよ。ただそれだけのことを話せずにもじもじしてっから。」
「ちょ」
拓哉は唯志に全部話されて焦っていた。
「ぷぷ、タク君らしいね。」
莉緒は何故か爆笑していた。
「えーっと、タク君実家に帰るんだ?あー、そっか。私ひとり部屋に残すのはちょっと不安もあるよね。」
光は苦笑いしている。
「いやいや、そう言うことじゃないよ!色々あったから光ちゃん一人にするのが心配なだけで・・・。」
拓哉は取り繕って言い訳したが、半分はその通りだっただけに上手い言い訳も出来ずにいた。
「心配してくれてるの?ありがとう。でもそう言う理由だったら大丈夫だよ。」
「でもほら・・・そこそこの期間家を空けるし、食事とかが・・・。」
「あ、確かにそれは死活問題かも。」
確かにと、光は難しい顔をして悩んでいる。
「なんだー、そんなことならひかりん唯志の部屋おいでよ。」
「ぶっ」
簡単に言い放つ莉緒に、唯志は思わずビールを咽ていた。
「なんでそうなる?と言うか俺の部屋だぞ。」
「良いじゃん、どうせ私もいるんだし。休み期間は三人で遊んですごそうよ。」
「えっと・・・」
光はオロオロとしていた。
「俺の部屋で三人じゃ狭いだろ。」
「大丈夫だって。ひかりんと私でベッド使うから!」
唯志と莉緒が何かぎゃーぎゃーと言い争っている。
光はどうしたものかとハラハラしながら様子を伺っている。
最終的には光の意見も組み込み、光は拓哉の部屋と唯志の部屋を半々くらいですごすことに決まった。




