花火は打ち上がる前から花火です
光と莉緒が屋台巡りで去って行ったので、必然的に唯志と二人きりになった拓哉だった。
「ん?お前も飲むか?」
唯志はそう言ってビールを差し出したが、当然拓哉の答えは「NO」だった。
「つか、お前も一緒に行けばよかったのに。見張りは俺だけで十分だぞ。」
と、唯志が言ってきた。
拓哉としても当然ついていきたかったのだが、あっという間の出来事に声を出す間すらなかっただけだ。
・・・気まずい。
拓哉と唯志の付き合いは割と長いが、二人きりと言うシチュエーションは学生の頃もあまりなかった。
「吉田よー。」
唯志はもう二本目のビールを飲みながら拓哉に話しかけた。
「なに?」
「帰省の話、ちゃんと考えたか?」
「う・・・」
先週唯志に言われ、慌てて新幹線のチケットは取ったものの、実は未だに光に話していなかった。
拓哉としても色々と思うところがあり、もじもじしているようだ。
「早めに話しとけよ。どうせ帰るんだろ、地元。」
「そうなんだけど・・・。」
「何か困る事でもあるのか?」
「うーん・・・。まぁ色々と一人じゃ心配かなってのはあるけど・・・」
「ふーん。」
唯志は興味無さそうにビールを呷っていた。
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一方の女性陣。
「うわー、何あれ!?」
「あー、金魚すくいね。未来には無かった?」
「わかんない!あったのかもしれないけど、見たことない!」
「夏のお祭りって言ったら、やっぱりこれよ!やっていく?」
「やりたい!」
「よし、莉緒ちゃんと勝負すっか!あ、でも掬えても持って帰れないね。」
「あ、確かに・・・。」
「まぁキャッチアンドリリースでやるだけやってこうか。」
莉緒は三匹ほど掬い上げ、光は案の定一匹も掬えなかった。
「金魚すくいって難しいんだねー。」
「ポイがねー。絶妙に破けやすいから。」
そうは言いつつも二人とも笑顔でたこ焼きを買っているところだった。
「いろんなお店があるねー。」
「ね。楽しいでしょ?」
「うん、なんか賑やかで楽しい!」
「ま、あんまり待たせたら悪いし、そろそろ唯志のところに戻ろうか。」
光と莉緒はたこ焼きと焼きそばを手土産に引き上げることにした。
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花火が始まるまでの間、四人は飲み食いしながら談笑していた。
(と言うかこの量の酒や飲み物持ってきたのか!?)と拓哉は唖然としていた。
周りはだんだん薄暗くなってきており、打ち上げが始まるのもそう遠くない時間だろう。
そんな頃合いだった。
「あのー、お手洗い行きたいんですが・・・。」
光が言い出した。
ここに来てからもう一時間以上も経っているし、飲み食いもしている。
当然と言えば当然だ。
「今のうちに行った方が良いな。打ち上げまでまだ少しあるし、まだトイレも混んでないだろ。」
「そだねー。ひかりんトイレの場所わかる?」
「なんかあっちの方にあったっけ?」
そう言って光が指さした方に確かにトイレはあった。
めっちゃ遠いし、人混みで全く見えないけど。
「うん、そっち。ついて行こうか?」
唯志がそう声をかけたが、「一人で行けるよー」と言って光はトイレへと向かった。
光がいなくなり、三人になった。
「で、タク君。ひかりんとはどうなの?」
「え、どうって・・・。どうもないけど・・・。」
莉緒の質問に、拓哉はしどろもどろで答えた。
「どうもないって・・・。やれやれ。」
莉緒は少し呆れ顔だった。
「つかお前、そろそろどうするのか決めたのか?」
「どうするのかって、さっきの帰省の話?」
「ちがうわ!ひかりんが未来に帰る方だよ!」
「あー、うん。どうしようかな。」
「まだそれも悩んでるのかよ・・・。優柔不断は嫌われるぞ。」
「って言っても、本人帰りたいんだし・・・。」
「前も言ったけど、俺はお前の意思を聞いてるんだけどな。」
唯志はいまいちはっきりしない拓哉にしびれを切らしたのか、この話題を切り上げて新しいビールを呷り始めた。
「そう言えば、ひかりん遅くない?」
周りはすっかり暗くなっていて、遠くが見づらくなっていた。
「確かに。もう二十分くらい経つな。まだそんなにトイレ混んでないよな?」
「多分。もう打ち上げ始まっちゃうよ?」
「光ちゃん、迷ったのかな?」
三人はなかなか帰ってこない光が心配になってきていた。
「しゃーない。俺見てくるわ。お前らここで待ってろ。」
「りょー。ってそれじゃ私タク君と二人になるじゃん!」
「何かまずいか?」
「だってタク君あまりしゃべってくれないから~。」
(俺だって気まずいんですけど!!?)
言われたい放題の拓哉だが、決して口には出さなかった。
「すまんけど我慢してくれ。俺が行くのが一番早いだろ。」
「あいー。」
そう言うと唯志は素早くトイレのある方向に向かっていった。
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「迷った。」
光は困っていた。
トイレが思っていたより長蛇の列だったので時間を喰った。
まぁそれは良かったんだが、周りが人、人、人。
人混みで少し先ですら見えない。
その上もう暗くなっていた。
頑張って歩き回って元の場所を探してみたものの、まず真っ直ぐ歩くことすらままならない。
「このままじゃ打ち上げ始まっちゃうよ・・・。」
そう言ってる間も花火の見物客の大群が光に向かって押し寄せてきていた。
元の場所に帰るにはこの大群を押しのけて逆走しなければならない。
未来人の光はそもそもこんな人混みに慣れておらず、なかなか前に進めずにいた。
「ううー、やっぱりついて来てもらえば良かったー。」
光は少し涙目だった。
スマホで連絡を取ろうとするが、全く電波が無い。
人が多すぎて回線がパンク状態なんだろう。
そうこうしている間も大量の人が光を押し戻そうと迫ってくる。
光は人の群れに飲み込まれて、思わず逆方向に流され始めてしまった。
「やばっ」
打ち上げ時間に近いからか。
先ほどよりもさらに人が増えている。
まずい--光がそう思った時だった。
手を掴まれた。
「え」
そして掴まれた手を強引に引っ張られた。
「うわっ」
光は何が起きたかわからず、パニックだった。
「やっと見つけた。」
引き寄せられた先には唯志がいた。
「あ、唯志君。・・・探しに来てくれたの?」
「帰ってくるの遅かったから。戻ろうか。」
「あ」
そう言って唯志は光の手を引いて、人の群れから連れ出した。
「もう少し我慢して。今はぐれたらまたどっか行っちゃうぞ。」
唯志にそう言われて、光は唯志の手を強く握り返した。
ふと、唯志が立ち止まった。
「あ、ごめんなさい。手、握っちゃって。」
「ん?いや、そうじゃない。ほら。」
唯志はそう言って空いてる手の方で斜め上を指さした。
「え?」
光がその方向を見上げた時。
ドンッ
大きな、夜空を彩る大輪の花の輝きが光の目に飛び込んできた。
そして光は、唯志の手をギュッと握りしめていた。




