040 産卵 改稿前
彼女は醜い容姿であると囁かれた。
一面、それは真実であった。
しかし別の見方からすると、それはまた違っている。
ヒソヒソ声が彼女を悲しませた…
彼女のフォルムはトゲトゲしかった。
魚類の、鋭いヒレを全身に這わせた様である。
全体として青緑…ところどころは淡い色彩に微妙なグラデーションが美しかった。
黒くつぶらな瞳は表面に突き出しており、それは異質さを象徴していた。
周りはみなひとえに白色の金属生命で、彼女以外は有機物からなる肉体を有しては居なかった。
彼らは惑星を支配していた。
何故かしら彼女だけが同じ世界に共生している。
しかし、彼ら陸の共同体からははぐれざるをえない。
彼女は海に依存していたから。
そして、海は蒸発していた。
彼女以外、絶滅してしまった。
彼女はいま、彼らの有する施設の海に暮らしていた。
睡眠時間さえ海にいたのであれば、あとは陸にいることができる。
よって彼ら陸の生命体と行動をともにせねばならない。
それはこころが必要とはしない、しかし海に依存している以上その強制は逃れることはできなかった。
一節によれば海を滅ぼしたのは彼らであるということだ。
しかし、現実の生活に居る以上、その噂に怒り、反抗的な態度を続けることはできない。
それより、彼女のこころを苦しませたのは、皆からすると異質である自分自体であったし、そこから生まれた差別的感情の渦こそが苦しみであった。
白色金属機械生命文明。
ウィンマルドー国は反映を極めた。
硬質な都市に、その周囲を覆う白色の美しい砂漠……
その砂漠は、ウィンマルドー生命にとっての海である。
つまりが、彼ら機械生命の肉体たる部品や骨組みをことごとく賄った。
有り余る生命の温床……
そして、彼女をもうひとつ悩ませるものがあった。
彼らウィンマルドー生命は、機械生命でありながら、雌雄をもつ。
かつて彼女の祖先や同朋が繁栄していた海の惑星であった頃、彼女の一族には雌雄があって、卵によって繁殖していたらしい。
しかし、彼女に、その概念はない。
否、詳しく言うならば、その概念が、精神の深いところで非常に複雑に混濁していた。
彼女、プリシンバは、一族の絶滅の寸前産まれ、当時は雄として育てられた。
しかし、そこへ違和感を抱き続けた彼女は、生育していくうちにみるみるメスの体として発達した。
彼女を這う青緑のトゲトゲこそ、何よりの証明であった。
彼女は穏やかになった。
これはこうなる運命だった、そう感じていた。
しかし、ある時だった。
彼女の内側に谺する情動……
彼女は再び、自分の内側へ不安を抱くようになった。
この肉体は、本当に合っているのか?
これは、虚妄であり、ただの鎧ではないか?
偽物の皮膚であり、ふいに剥がれ落ちてしまうのでは?
そして内面に谺する…
オスとしての、なだらかなフォルム……
それは、彼らウィンマルドー生命の、なだらかなフォルムに見慣れてしまった証拠であって、そこから生まれたイメージ
に過ぎないのかもしれなかったし、彼らから日々受けていた差別的ないちいちへの、拒絶反応の集積の結果であったのかもしれなかった。
彼女は、外側へ広がった世界へも、内側に谺する世界にも、両面的に閉ざされてしまったのだ。
ある日。
彼女は腹痛を起こす。
これまで感じたことのない程の強烈な痛み…
そして!
彼女は彼女の寝床である施設内の海の浜辺に…彼女の陰部より夥しい数の球体を吐き出していた……
「??」
産卵…
メス化した現実なのか?
しかし…
彼女は精液を受けてはいない……
それは、オス化とメス化の中道にあって、そこに生まれた奇跡なのか?
彼女は排泄をおえ、その処理に悩んでいた。
これはいけない行為ではなかったか。
これは潰して隠蔽すべきモノでゃないのか……
このままではいけない、繁殖してしまてはマズイ……
そう考えていた矢先だった。
ドンドンドン!
誰かが訪ねている!
基本的にここへ来客するモノはいなかった。
何故?
「お邪魔するよ…」
「!」
それは博士だった。
ギトー博士。
この施設や海を開発し、彼女の生体を管理している管理人であった。
「ほう…やはり」
匂いだった!
それは甘やかで嫌な感じではない。
隠蔽しようとしても匂いは隠せない、それほどに強烈なにおいだったから。
「プリシンバ、アナタは産卵の兆候があったよ。」
「……」
「私はね、密かにキミの、産卵を期待して研究し続けていたんだよ。そう、キミはオス化を進めている…それで、その中道にある今、ついに産卵した」
「!」
プリンシバは内面が轟き始めている大きな渦を直覚していた。




