028 航海と変更 改稿前
尾を引き伸びていく観念の稜線……
暗闇を染め上げる渋き混濁の線。
これが私のすべてであるから、私はいついかなる時もこれをひたすら伸ばしてゆく……
「ヘルパー…」
「……」
「おい聞いてんのか、ヘルパー!」
「!」
ああ、お前らか。俺にとっての真実は、お前らにとってのゴミクズ、いや、それにも値せんだろうが。
俺は宇宙の現実の、住人として端くれとして、どうにか存在していくために、こうして、お前らの役に立つ何とやらをやっているのだ。
すべては、あの、「線」のため。
「線」を伸ばすため……
「今日はな、じっくりとお楽しみに来たんだぜ、よろしくな」
「ええ、承知しました」
俺はソイツの靴をしっかりと締め上げる、これが何よりの重点であることを、意外と知らない奴がいる。
これは、これからソイツに履かせるパワードブーツの基礎、ここを大雑把にやっちゃあ、ソイツも俺も、へとへとに困難してしまうからな。
海……
航海を生命たちは希求していた。
俺はソイツらの水先案内人である、ヘルパーと呼ばれる職務を担う。
「さあ、しっかりと装備できましたよ。あなたはある意味ラッキ-です、私は優れた案内人です、航海にとって、ヘルパーの善し悪しこそが全てといって過言ではないのです、すなわち、私は数少ない優れたヘルパーのうちのひとりなのですから」
「はっはっ、やけに自信たっぷりじゃねえか!しかし、オレッチだってな、航海のプロよ!むしろテメエが感謝することになると思うぜ」
「……」
嫌な予感だぜ、こういう自信家こそ気をつけろ、だ。
何度となく自信過剰な厄介な客たちに、生命の危険を味わわされたかしれないんだ。嫌な予感が的中しなければ良いが。
「さあ、きょうはな、実を言うと、急遽行き先の変更を要請したところよ…」
「?聞いていませんが」
「??いいや…言ってあるぜ、なんなら理事局に確認してみな…ひとつ返事でOKよ!」
「ふう~。それで、変更後の行き先とは?」
「おうよ、ジャメントよ…」
「何?」
「いやあ、一度は憧れますわなあ…さすがのオレッチもジャメントには緊張を強いられる」
「馬鹿な!ありえない。一度確認させていただきます」
「あ~、そうしてくれ…」
何だってんだ!よりよって。間違いに決まってる。
Wiiiiii
「はい、こちら航海サービス理事局管理室」
長々と…
「ヘルパーのボルボル・ブレンドです」
「はい、どうしました?」
「今日の私の客、ティモットさんに付いているのですが…」
「ええ」
「当日の今日、急遽行き先を変更したいと言われまして」
「…お待ちください……はい、そうです、変更の要請は受理されています」
「なんですって?行き先はわかっているのですか?ジャメントですよ!」
「…ええ、それで間違いありません」
「おいおい、冗談はよしてくれ、急遽行ける場所ではないだろう?それに私は何も聞かされていない…」
「それは…チーフの判断です…」
「!」
クソッ、あんな奴、早くやめさせちまったほうがいいんだ。よりにもよってこんなこと、ありえない!
「ちょっと待ってください、それはチーフの判断に問題があるのでは?」
「いえ、チーフはこう判断したようです、もちろん急遽の場合基本的に変更可能な行き先は限られています。しかし、今回のお客様であるティモット様は、百を越す公開履歴をお持ちです…」
「……」
「それにあなたのヘルプ歴を足した結果、たとえジャメントであったとしても航海に問題ない範囲であると判断されたのだと存じます」
「…いや、歴の深い私だからこそそれはいけないことだと判断できます」
「いいえ、それ以上反論なさるのであれば業務の放棄とみなされてしまいますよ。あなたなら大丈夫であるとの判断を、曲げるべきではないかと…」
「それはただの保身からの判断じゃないかよ!」
くそっ!!くそっくそっ!!
「いえ、あなたとティモット様であれば大丈夫でしょう、多少の危険は伴いますが、それも跳ねのけてしまうキャリアをお二人はお持ちであるはずです」
「くっ…もういい、わかったよ、もう仕方がない…」
「ええ、ご無事を願い申し上げます」
ふ~~~……
「ヘルパー!よろしくな!」
あ~、なんて困難だ。
しかしもうこうなったら、ソイツと手を合わせてやるっきゃない…
「ええ、覚悟を決めました、こちらこそよろしく、ティモットさん」
「そうこなくっちゃな!結果としてむしろあんたで良かったのかもわかんねえぜ!とにかく感謝だ」
「それでは早速、船に乗り込みましょう……」
あ~あ…ジャメント……
強大な魔の巣窟……
こんなの初めてだぜ、なにひとつ、魔境の攻略への武器を用意させなかったんだから。
ああ…ソイツのパワードブーツの威力だのみになるぜ…
あとはちっぽけな銃と弾丸僅かに6個、それだけだ。
ちきしょう、こうなりゃなるようになれ、だぜ。
「いざ、出発」
「ういいいいいいいいい、やっほ~~~い」
尾を引き伸びていく観念の稜線……
暗闇を染め上げる渋き混濁の線。
これが私のすべてであるから、私はいついかなる時もこれをひたすら伸ばしてゆく……
海を眺めて、ボルボル・ブレンドはしばしの間仕事から離れ、己の精神世界へと闖入していくのであった。




