026 ビーフジャーキー 改稿前
弛んだ二つの首の皮は…すでに干からびて…ビーフジャーキーみたいになっている…
ビーフジャーキーと、柔らかい皮膚との境目はどうなっているんだろう…
自分の首に回り込むことなんてできるわけないから、男は隣の男の首元を見てみた…
隣の男はそれを察したのだというのか?
男が覗くそのあたりを、すかさず捻った首の角度でつくられた、死角で見えなくした。
そんな事してなんになるというのだろう……
男は、隣の男と並べられ、首のあたりから、巨大な魚を釣るときに使うような、釣り糸みたいなもので、地面から2メートル50センチのあたりに吊るされていた。
その並んだ姿は、とても滑稽だった。
仕方なく男は、一旦視線を正面へと向き直す。
所詮生命体の考えることなんて大差ない。
隣の男は、男が正面を向いた瞬間に、男の首元を確認した。
そして、にっと笑った。
なんという厚かましい男だろうか。
まあいい、俺ももうすぐやつが油断した隙を縫ってきっと見返してやるぜ。
風景は荒涼としている。
ここは荒野か?
見たこともない場所。
隣にいる男も実を言うと今朝までただの赤の他人だった。
急な仕事を請け負った。
これが災難の始まりというやつだ。
それでも、男はこうする以外、生きて行く術がなかったのだと言わざるを得ない。
例え、こうして無様に吊るされていたからって……
そもそもどことも知らない辺境の惑星の、ありふれた荒野の風景。
ああ、運命のイタズラは時に苛烈だ。
こんなしょうもない仕事で…しかも、絶対に失敗しない簡単な仕事、という触れ込みで始まったこの一連の悲劇。
何がいけなかったのかと、何度シュミレーションしてみたとしても、やはりそれは関係ないこと、それがいちばんではないか。
さて…そろそろ…
ちらと隣の男の首を眺めてみたが!
信じられないことに、男の場所からだけは絶対に絶妙に見えないようにしていた。
けっ。
…ちくしょう、そうされてしまうとわけわからんがいよいよ見たくなってしまう。
!
なんだ、何がしたい?
いいや、そもそも何なんだ、第一、見せてくれたっていいじゃないか。俺にも!
それが助け合いってもんだろうが。!!
ちきしょう、もうすぐこの野郎と、俺との運命がくだっちまうよ。
処刑人の野郎め、胡散臭いったらないぜ、ったく馬鹿らしいぜ。
この野郎と、俺と、どちらかひとりを処刑して、どちらかひとりを解放する、だなんて、信じられる筈あるか!!
どうせ、ひとりを処刑したあと、すぐに残ったほうを消しちまうに決まってるよ。
ああ…そうなってきたら…非常にヤバい!
不思議とこうも長いこと吊るされてばかりいたら、自分の命に対しては、もう執着がなくなっちまった。
そりゃあ、最初は悔やんださ。
何度も何度も、自分の哀れな運命に対して、怒りや悲しみの渦に飲まれちまったのは事実だったよ。
でももはや、俺とこの野郎は、助からねえ、それはもう確実なんだ。
ああ、録な人生じゃなかったぜ!
しかし、こうなりゃ最後の望みくらい……
男は吹っ切れていた、しかし、自分の命を諦めてまで、たったひとつの願いにだけは執着していた……
即ち、自分と、隣の男との、首の一ヶ所に伸びている、ビーフジャーキーと、皮膚の境界線が、一体どうなり広がっているのか。
その、つまらない疑問の答えを知っておくことが、男の、たったひとつの、置き土産となるのだから。
!
処刑人が帰ってきた!
「決定した。処刑するほうは…お前のほうだ」
!!
ビーフジャーキーと、皮膚との境界線のあたりを、無惨にも迷いのないたった一閃で、鋭いナタのようなものが切り裂いた!
ドサッ!
地面を激しく鈍い音で叩いたのは、置き土産を果たすことができなかった、男のほうだった。
「ご苦労だった」
隣の男は、釣り針から解放された。
「これでひとり、犯罪者を片付ける手間が省けた。褒めてつかわそう、ウンドゥ・モルダー」
「……」
ウンドゥ・モルダーは何も喋らない。
「ところで…これがお前の報酬だ」
!
処刑人の鋭いナタのようなものが振りかぶろうとした瞬間、ウンドゥ・モルダーの、右腕の内蔵銃が、処刑人の頭蓋骨を、粉砕していた!
荒野を…ウンドゥ・モルダーの、逞しい両脚が蹴り、ウンドゥ・モルダーは、遠くまで駆け抜けて消えてしまった…




