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無論、一つ同じ屋根の下何も起こらないはずもなく、と思う人がいるのは理解できる。安心してほしい。
貞操もナニもまだ奪われ散っていない。
しかし、それを信じてくれない人物が、すぐそこに一人いた。
「どういうことですか聖夜さん! こんな見ず知らずの男と、行きずりの関係なんて許せないのですけれど!」
あれから数日後、実は襲われ怪我したことをそこはかとなく白雪に伝えた十分後、あっという間に彼は家へと見舞いに来ていた。
そこで、銀次と鉢合わせをしたのだ。
「なんやこのお嬢ちゃんえらい剣幕で怒ってはるけど、言ってることよう分からへんな」
「白雪ちゃん落ち着いて。ほら、電話で伝えたと思うけど、この人が僕を助けてくれた銀次さんで」
「知ってます聞きました! でも何日も泊っているなんて聞いていません! なんてうらやま……許せない!」
「姫よ。こいつをぶっ飛ばすのだな」
白雪がアームスロング閣下を召喚し構えたところで、必死に説得を試み、なんとかその場は落ち着かすことができた。
「それで、どうして相談してくれなかったのですか」
ぷんぷん怒った白雪をとりあえず家に迎い入れ、僕は正座をしながら息子に力を入れる。
「く、詳しくはエクスカリバーさんからどうぞ」
触らぬ神に祟りなし。僕は説明責任をすべて息子に投げ出した。
早速召喚された怪訝な顔のエクスカリバーさんに食って掛かる白雪を横目に、僕は銀次へ白雪についての説明をする。
「へーそんな身近に聖武器の所有者がいるとは、これはもう運命やな。それにこんな可愛いのに男とはもったいないなぁ」
「僕も運命だと思った。かわいいのも同意」
「運命……か、かわいい!?」
白雪がなぜか急にしおらしくなったので、僕はここぞとばかり話を本題へと移した。
「それで、聖武器の所有者たちについての話なのだけれど」
「あぁ、その話な。たしか聖夜が言うには、この前襲ってきた伊藤翼の他に黒ずくめの日本刀使いがいるんやろ」
「運命……」
「うん。それに一年前からこの町で起きている息子狩り、その犯人もおそらく聖武器の所有者だと思う」
「かわいい……」
壊れたレコードと化した白雪を置いて、そそくさ話を進めていく。
「ほなこの街には君らの他に三人も聖武器の所有者がいてるんか」
銀次が舌を巻いた。僕らを含めると計六人、案外近くにいるものだなと驚きを隠せないのは僕も同じだった。
「銀次が把握している所有者はいないの?」
「結構おったけどもうおらへんわ」
「もういないって」
「全員やられてしもた。おうたやろ。伊藤翼にや」
曰く伊藤翼は元々関西におり、激しい抗争の上勝ち残った猛者らしい。更なる獲物を求めて関東まできたのだとか。
「やられたんは全部で三人。あのおっさんは少なくとも自分の含め四枚以上プレートをもっとるはずや」
これですでに相当数のプレートについて所在が分かった。こうも聖武器の所有者が僕の知る範囲に集っていることから、戦いの局面はもう後半なのかもしれない。
「そういえば伊藤翼の聖武器、ビッグマグナムの攻撃なのだけど、あれは一体どういうことなの。銀次は詳しく知っているようだけれど」
先の戦いを思い浮かべた。物陰に潜んだ僕を的確に襲った銃弾。思い出すだけで息子が奥に引っ込んでいくのが分かった。
「あれは、伊藤翼の能力や」
「能力?」
「せや。あいつの弾は、一度狙った場所へ必ず届くんや。遮蔽物に隠れても、どんな撃ち方をしても、弾の方が勝手に道を見つけよる。わいはあの能力を『魔弾』と呼んどる」
銃弾のコントロール、それこそがあの理不尽な攻撃の正体だったのだ。
「そんなの勝ち目がないじゃないか」
「いや、非常に強力な能力やけど弱点はあるで」
悲しみを込めてエクスカリバーさんを撫で回す僕に、銀次は笑顔で答えた。
「あいつが一日に撃てるのは六発のみ。それ以降は打ち止めなんや」
「やっぱり六発なんだね。それだけ凌げば勝機があると」
たかが六発、されど六発。一人では到底勝ち目がない予感がした。
「せや。六発防げばこっちのもんや。ただ、わい一人では勝てへん」
銀次も同じ結論に達していたようで、弱々しく言った。
「あいつに勝つには、数が要る。弾数を減らさなあかんからな。最低でも、あと二人は欲しい」
「つまり、僕と白雪ちゃんに仲間になってほしいってこと?」
「話が早くて助かるわ。あんな危険なやつ野放しには出来ん。どうか、力を貸してほしい」
銀次がまっすぐに頭を下げた。軽薄な雰囲気は鳴りを潜め、真剣なのだと嫌でも伝わる。
「僕も、もう襲われたくないし、一人より二人、二人より三人なら心強いよ。僕で良ければ力を貸すよ」
断る理由はない。借りもある。僕は銀次と視線を合わせ深く頷いた。
「私は聖夜さんに着いていきます。正直銀次さんはどうでもいいですが、聖夜さんを傷つけた伊藤なにがしには、責任を取ってもらいます」
そこにいつの間にか正気に戻っていた白雪が、元気よく僕と銀次の間に割り込んだ。
「僕や白雪ちゃんが加わったら、頭数は三だね。三人で囲んでぼこぼこにしよう!」
「なかなか頼もしいやん。多勢に無勢と躊躇がない発想、お主もなかなか悪よのう」
「いやいや、お代官様ほどでは」
二人袖振り合う距離で、不気味に笑みを浮かべあった。




