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「落ち着きましたか、聖夜さん」
「うん。心配かけたね」
現在、僕たちはカフェから遠く離れた公園のベンチに腰かけていた。
数時間前の僕が知れば、喜びのあまり吐血する二人きりのシュチュエーションであるが、今は心と息子がさめざめと泣いていた。
冬野白雪、彼女は男だったのだ。
天使の羽根など生えてはいない。彼女に生えているのは、まごうことなき男の勲章なのだ。
「それにしても、聖夜さんまで聖武器に選ばれていたのですね。驚きました」
「……僕も驚いたよ。白雪ちゃんのこと、女性だと思っていたし、聖武器も持っているしでそれはもう」
「確かに一度に二度びっくりさせてしまいましたね。ごめんなさい」
少し微笑んだ後すぐに、神妙な面立ちで白雪は頭を下げた。
「いやいや、謝らなくていいよ。なんかこちらこそごめんね」
お互い頭を下げあって、ふと同時に顔を上げた。それがなんだか可笑しくて、二人していつものように笑い合えた。
「それで、僕は今朝聖武器とやらを出せるようになったのだけれど、白雪ちゃんはいつから?」
近くに自販機があったので温かい缶コーヒーを購入し、白雪に手渡しする。白雪はお礼を言ったあと、それを手で包み込みながら、記憶を辿るように目を泳がせた。
「たしか、私は一年ぐらい前からです。そうそう、紹介がまだでしたね」
白雪は思い出したように言ったあと、聖武器を召喚した。
「これが私の聖武器、アームストロング閣下です」
僕の目の前に突如としてそびえ立ったそれは、カフェでも見た白雪の聖武器。とても大きな、威圧的な黒色の大砲だった。
「吾輩が姫の聖武器、アームストロングである。小僧よ、気楽に閣下と呼ぶがよい」
横幅はゆうに三メートルはあるだろうか。あまりにも立派すぎて、思わず固唾を飲んでしまう。
僕が言葉を失い呆けていると、アームストロング閣下は大きな声で高らかに笑った。
「はっはっは。それでそうか、この小僧が例の小僧か。思ったよりハンサムではないか」
「あー! それ以上言ったら怒るからね!」
「はっはっは。姫に怒られるのは嫌であるが、黙るのもまた嫌であるな」
大きな声で笑う大砲に対して、白雪は頬を膨らませ抗議する。それを歯牙にもかけていない様子の閣下は、僕に向き直りゆっくりと口を開いた。
「しかし、小僧も聖武器に選ばれたとは何たる因果か。それで小僧はどの聖武器に選ばれたのだ」
僕も聖武器を取り出すため、下半身に力を入れる。
果たして本当にこんな方法で召喚できるのか危惧するが、すぐにエクスカリバーさんは目の前の空中に、優雅に浮かんで現れた。
「その無駄に大きい図体。アームストロングか」
「久しいなエクスカリバー。貴様は相変わらず小さきことよのう」
「大きさだけが全てではない。むしろ小ぶりのほうが、好きだというものもいる」
どうやら二人は知らない仲ではないようだった。思いのほか親しげに語らいでいる。
「エクスカリバーさんと閣下は知り合いなの?」
「知らぬも何も旧知の仲である。前回の聖戦では共に戦っていたしな」
僕の疑問にエクスカリバーさんが答えた。さらに詳しい話もしてくれた。
どうやら聖武器を巡る戦い、聖戦は何度も行われているらしく、前回は五十年前、今回で三回目らしい。
「それで小僧はどんな願いを叶えるために戦うのか」
「残念ながら、叶えたい願いは特になくて」
閣下が興味津々に問いかけたが、僕の答えを聞いて不満顔になった。顔というよりは砲身だが。
「そちらは何を願うつもりだ」
「私にも願いはないですよ。一緒ですね」
エクスカリバーさんの問いに白雪は、天使のような微笑を僕に向けて答えた。
その顔がいつもと違うように見えたのは、白雪が男だと知ってしまったからだろうか。
そんな一抹の不安を払うように、聖武器について色々と質問をしているうちに、僕は小さなくしゃみを一つした。
「もう日も暮れてしまいましたね。風邪を引く前に帰りましょうか」
いつの間にか夜の帳が下りて静かな風が吹き、寒空が揺れていた。
白雪と別れ際、何かあったときのためにと連絡先を交換した。些細なことでも、すぐに連絡してくださいと念を押すその姿は、可憐さと男の頼もしさを、矛盾なく同居させていた。
改めて白雪は、漢白雪でもあるのだと思わざるを得ない。
ならば真実を知っても尚消えないこの胸のトキメキの正体は、一体何なのだろうか。
帰り道に夜空を見上げて思いを馳せるが、結局答えは出なかった。




