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「それ銃刀法違反だと思うのですが!」
自分のことを棚に上げ、黒ずくめの男が法律に違反していることを、目ざとく指摘する。が、あっけなく無視をされ、彼は有無を言わさず日本刀を振りかぶり、僕を切りつけようとした。
紙一重のところで躱すことができたのは、小学生のころ卓球部だったからに違いなかった。僕の反射神経と倫理観は、初等教育で磨かれたのである。
しかし、何度も避けきれるほど相手の剣筋は甘くなかった。
「我が主よ、相手も聖武器である! 我を使え!」
何度目かに訪れた避けきれない切っ先に対し、エクスカリバーさんが叫ぶ。その声に従い持っていた剣を、相手の刀に力一杯ぶつけた。
衝撃的な音に鼓膜が、強力な感触に腕が痺れる。
相手は反撃に驚いた様子で、先ほどと打って変わって距離を開き、僕を観察し始めた。
警戒し距離を取った行動に勝機を見た僕は、今度はこちらから仕掛けようと思いに至る。攻撃は最大の防御と、古来より言われているぐらいだ。攻めに回るのは名案に思えた。
「エクスカリバーさん、今度はこちらから仕掛けよう」
剣を構え、士気を高める。だがしかし。
「あ、ごめん我が主、限界のようだ。我、もうすぐ消えるってよ」
込めていた力が急速に萎え、手に持っていた剣が突如として消えた。
僕が唖然としたのは勿論のこと、待ち構えた黒ずくめの男も唖然としていた。
気まずい沈黙が流れる。それに耐えかね破ったのは、相対する男だった。
「……お前、全然情報と違うな。聖武器の維持や出し入れすらコントロールできないとは、素人だろ」
「ちちちちがいますー。素人童貞じゃないですー。僕はヤリチンですー!」
思いのほか若い男の声に対して、虚勢を張る二十一歳童貞の僕。
「何を言っているかわからないし、別にどうでもいい。お前に恨みはないが、こちらも後戻りはできないんだ。観念しろよ」
戯言をほざく僕を男は一瞥してのち、先ほどとは違う速さで攻撃に転じた。
瞬間、まるで最初からそこにいなかったように男の姿は突如として消えた。ただ息子に迫る殺気のみを肌、正確には股間で感じる。目で追えていた先までの攻撃は、様子見だったのだと嫌でも気づかされた。
どこから切っ先が向かってくるのかわからない。万事休す。僕は息子とお別れすることを覚悟する。
「右によけて!」
目をつぶり、辞世の句を詠みかけたそのとき、背後から聞きなれた声がした。その声に従って思わず体を右に放り投げる。
そして起き上りながらも声がした方向を見ると、車輪がついた大きな大砲を構えた天使白雪が、険しい表情をしていた。
直後、白雪が構えた大砲が火を噴いた。
火と同時に放たれた砲弾は、日本刀を持っていた男に直撃。窓ガラスどころか店の壁ごと、どこか遠くへ吹っ飛んでいった。
「店のことは、あとで私がなんとかします。今は逃げましょう」
非現実的な光景を前に固まる僕の左手を、天使白雪が掴んで引っ張っていく。
初めて触れた彼女の手は、シルクよりも心地のよい手触りをしており、きめ細かい肌で僕の心を刺激した。
案の定その瞬間、あまりの刺激に耐えきれず心臓は張り裂けたし、言うまでもないだろうが、海綿体も勿論張り裂けた。
そしてそのとき手を繋いでいない右手に、エクスカリバーさんが舞い戻ったことに気が付いた。
「我が主よ、無事であったか」
「白雪ちゃんが助けてくれなかったら、もっていかれていたよ」
思い出し恐怖により前かがみになりながら、エクスカリバーさんにあらましを伝える。
「なるほど。貴様に礼を言わねばならぬようだな、感謝する」
「どういたしまして、かわいい聖武器さん」
相も変わらない天使白雪の笑顔に、心臓と息子の鼓動が早まると共に、エクスカリバーさんが煌めき始める。
そこで、ある仮説が脳裏に浮かんだ。
天使白雪と触れ合った瞬間、エクスカリバーさんが戻ってきた。彼女の笑顔を見れば、光り輝く。つまり。
「もしかして、エクスカリバーさんを出す条件って、トキメキを強めることだったりするの?」
「惜しいな。トキメキに限らぬ。昂りだ」
「昂り?」
「心であれ、体であれ、主の内に満ちたものが限界を超えたとき、我ら聖武器は形を成す」
「もしかして……」
「エレクション。それが我を呼び出す条件である」
なんだ、なんだやっぱり性武器じゃないか!
ロマンチックのロの字もない召喚方法を聞いて、声を大にしそう言いたかったが、白雪の手前力強く言葉を飲み込んだ。
だがそれよりも、そんなことより、何か妙な違和感が頭の中に埋没していた。例えるならば、いつもは右側に仕舞っている息子が、今は左側にあるような、そんな違和感であった。
「それで、我が主よ」
「ん?」
僕がもんもんと頭を悩ましていると、エクスカリバーさんが言いづらそうに、静かに口を開いた。
「我が主ももう気が付いていると思うが先ほど言いかけたもう一人の、聖武器の所有者、それが」
刹那違和感の正体に気づいた僕は、僕と手を繋ぎながら走る白雪に視線を移した。
斜め前を走る彼女の整った横顔は、まさに天使、いや女神そのものといっても過言ではない。
ビューティフォーアンドソーキュート、いつもの僕ならそう呟き、見惚れることだろう。
しかし、僕は気づいてしまったのだ。聖武器が見え話せている人物が、僕以外にもう一人、ここにいるという真実に。
それが、それこそが。
「彼、冬野白雪だ」
慈悲は無い。世界はとても残酷であった。




