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「……行くで」
銀次が言った。
「行くって、どこに」
「現場や。こういうんは、早いうちに見といた方がええ」
「でも、僕らが行ってどうにかなるの」
「大丈夫や。わいには、ちょっとしたコネがある」
銀次はそう言ってスマートフォンを取り出した。いつもの調子とは違い、やけに丁寧な言葉で何やら話している。
電話を切った銀次は、軽く肩をすくめた。
「中には入れへん。せやけど、規制線の外から見るくらいなら何とかなるで」
「凄いコネだ」
「わいをただの居候やと思うたらあかんで」
向かった現場は、テレビに映っていた商店街の裏路地だった。
黄色い規制線の向こうで、警察官たちが慌ただしく動いている。昼間なら雑踏で満ちているはずの場所が、そこだけ冷えていた。
規制線の外からでも、異様な跡は見えた。
アスファルトには黒い焦げが走り、壁には鋭い爪で抉ったような傷が残っている。獣の爪にも似ていたが、それにしては硬すぎるものまで裂かれていた。
「ガイシャは?」
銀次がそこにいた警察官に聞いた。
「命に別状はない。近くの病院へ搬送された。ただ、その……下半身をやられている」
警察官は言いづらそうに目を逸らした。
僕は無意識に股間を押さえた。息子がキュンキュンした。
銀次が聞き出した被害者の搬送先は、僕が入院していた病院だった。話を聞くため、早速三人で向かった。
被害者の病室には、銀次の交渉で短い時間だけ入れてもらえることとなった。
個室のベッドに横たわっていたのは、僕とそう年の変わらない青年だった。顔色は悪く、目だけがやけに冴えている。痛みよりも恐怖が、まだ体、主に下半身に残っている顔だった。
「突然ごめんね。でも、どうしても話を聞きたくて。多分僕たちも、君と同じで」
僕は下半身に軽く力を入れて、エクスカリバーさんを呼び出した。
青年の目が見開かれる。明らかに見えている反応だった。
ならば予想通り、彼もまた聖武器持ちなのだろう。いや、持っていたが正しいかもしれない。
「襲ってきた相手のこと、覚えている?」
「……くたびれたサラリーマンみたいな男でした」
青年は天井を見たまま答えた。
「スーツはよれよれで、目の下に隈があって。でも、手に大きな杖を持っていました。木の杖みたいなもので、先に牙みたいな飾りがついていて……そこから光が出ました」
「杖……」
「気づいたときには、もう目の前にいて。俺が聖武器を持っているって、最初から分かっていたみたいで」
白雪が息を呑んだ。
「相手は聖武器を持っているか、見分けることができるんですね」
「そうみたいやな。ただ、見た目からして伊藤翼とは別口やな」
銀次は舌打ちしたあと、病室の扉へ目をやった。
「ちょっと看護師に搬送時の状況を聞いてくるわ」
「そんなことまで聞けるの?」
「詳しいことは無理や。せやけど、救急隊が何を言うてたか、搬送時に妙なことがなかったかくらいなら、世間話で拾えるかもしれへん」
それだけ言って、銀次は病室を出ていった。
僕は青年へ向き直った。布団の下にあったはずの彼の息子はもう、存在しない。
「俺、明日、幼馴染に告白するつもりだったんです」
青年がぽつりと言った。
「ただ、好きだって言いたかっただけなんです。それなのに、こんなことになって」
その言葉に、僕はひどく動揺した。
他人事とは思えなかった。
僕もまだ、白雪に何も言えていない。
「戻すよ」
気づけば、僕はそう言っていた。
「聖武器で起きたことを、願いで全部元に戻す。君の息子のことも、他の被害者の息子のことも。だから少しだけ待っていてほしい」
青年はしばらく僕を見つめ、かすかに笑った。
「……ありがとうございます」
白雪は何も言わず、青年に深く頭を下げた。
病院を出るころには、夜の闇が濃くなっていた。
戻ってきた銀次は、何かを深く考えているようで口数が少なかった。
「何か分かった?」
「今はまだ確証がないわ。そのうちな」
そう言って笑ったが、目だけは鋭かった。
「とりあえず、今日は戻って作戦を練ろうか」
「なんや、聖夜も捕まえる気満々やな」
「銀次も、なんだろうね」
正義感の強い銀次のことだ。僕と同じような考えなのだと、確証があった。
「私も、ご一緒します」
白雪はいつもより強い声色で言った。てっきり、心配性の白雪には反対されるかと思っていたが、彼も思うところはあるのかもしれない。




