表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

19

「……行くで」


 銀次が言った。


「行くって、どこに」


「現場や。こういうんは、早いうちに見といた方がええ」


「でも、僕らが行ってどうにかなるの」


「大丈夫や。わいには、ちょっとしたコネがある」


 銀次はそう言ってスマートフォンを取り出した。いつもの調子とは違い、やけに丁寧な言葉で何やら話している。


 電話を切った銀次は、軽く肩をすくめた。


「中には入れへん。せやけど、規制線の外から見るくらいなら何とかなるで」


「凄いコネだ」


「わいをただの居候やと思うたらあかんで」


 向かった現場は、テレビに映っていた商店街の裏路地だった。


 黄色い規制線の向こうで、警察官たちが慌ただしく動いている。昼間なら雑踏で満ちているはずの場所が、そこだけ冷えていた。


 規制線の外からでも、異様な跡は見えた。


 アスファルトには黒い焦げが走り、壁には鋭い爪で抉ったような傷が残っている。獣の爪にも似ていたが、それにしては硬すぎるものまで裂かれていた。


「ガイシャは?」


 銀次がそこにいた警察官に聞いた。


「命に別状はない。近くの病院へ搬送された。ただ、その……下半身をやられている」


 警察官は言いづらそうに目を逸らした。


 僕は無意識に股間を押さえた。息子がキュンキュンした。


 銀次が聞き出した被害者の搬送先は、僕が入院していた病院だった。話を聞くため、早速三人で向かった。


 被害者の病室には、銀次の交渉で短い時間だけ入れてもらえることとなった。


 個室のベッドに横たわっていたのは、僕とそう年の変わらない青年だった。顔色は悪く、目だけがやけに冴えている。痛みよりも恐怖が、まだ体、主に下半身に残っている顔だった。


「突然ごめんね。でも、どうしても話を聞きたくて。多分僕たちも、君と同じで」


 僕は下半身に軽く力を入れて、エクスカリバーさんを呼び出した。


 青年の目が見開かれる。明らかに見えている反応だった。

 

 ならば予想通り、彼もまた聖武器持ちなのだろう。いや、持っていたが正しいかもしれない。


「襲ってきた相手のこと、覚えている?」


「……くたびれたサラリーマンみたいな男でした」


 青年は天井を見たまま答えた。


「スーツはよれよれで、目の下に隈があって。でも、手に大きな杖を持っていました。木の杖みたいなもので、先に牙みたいな飾りがついていて……そこから光が出ました」


「杖……」


「気づいたときには、もう目の前にいて。俺が聖武器を持っているって、最初から分かっていたみたいで」


 白雪が息を呑んだ。


「相手は聖武器を持っているか、見分けることができるんですね」


「そうみたいやな。ただ、見た目からして伊藤翼とは別口やな」


 銀次は舌打ちしたあと、病室の扉へ目をやった。

 

「ちょっと看護師に搬送時の状況を聞いてくるわ」


「そんなことまで聞けるの?」


「詳しいことは無理や。せやけど、救急隊が何を言うてたか、搬送時に妙なことがなかったかくらいなら、世間話で拾えるかもしれへん」


 それだけ言って、銀次は病室を出ていった。


 僕は青年へ向き直った。布団の下にあったはずの彼の息子はもう、存在しない。


「俺、明日、幼馴染に告白するつもりだったんです」


 青年がぽつりと言った。


「ただ、好きだって言いたかっただけなんです。それなのに、こんなことになって」


 その言葉に、僕はひどく動揺した。


 他人事とは思えなかった。

 僕もまだ、白雪に何も言えていない。


「戻すよ」


 気づけば、僕はそう言っていた。


「聖武器で起きたことを、願いで全部元に戻す。君の息子のことも、他の被害者の息子のことも。だから少しだけ待っていてほしい」


 青年はしばらく僕を見つめ、かすかに笑った。


「……ありがとうございます」


 白雪は何も言わず、青年に深く頭を下げた。


 病院を出るころには、夜の闇が濃くなっていた。


 戻ってきた銀次は、何かを深く考えているようで口数が少なかった。


「何か分かった?」


「今はまだ確証がないわ。そのうちな」


 そう言って笑ったが、目だけは鋭かった。


「とりあえず、今日は戻って作戦を練ろうか」


「なんや、聖夜も捕まえる気満々やな」


「銀次も、なんだろうね」


 正義感の強い銀次のことだ。僕と同じような考えなのだと、確証があった。


「私も、ご一緒します」


 白雪はいつもより強い声色で言った。てっきり、心配性の白雪には反対されるかと思っていたが、彼も思うところはあるのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ