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「陰茎折症だね。すぐに手術するからそのつもりでね」


 目が覚めた僕の目の前に立っていた、白衣のおじさまがそう宣告した。


 そもそもここはどこだろうと、辺りを見回してみる。白い壁に白い天井、そして仄かに香る消毒臭。

 どうやら現在、僕は病院にいるようだった。


 簡易なベッドから身を起こし、なぜここにと首を傾げた。すると、救急車で搬送されたからだと、隣に付き添っている白雪が教えてくれた。


「陰茎折症ってなんですか」


 白衣のおじさま、もといお医者様に向かって問いかける。


「勃起時、陰茎に過度な力が加わったことによって、陰茎内の組織が断裂して起こる外傷のことだよ」


 つまり僕の息子は、ずったずたのめっちゃくちゃになっているということだった。


 最後に見たエクスカリバーさんの姿を思い浮かべる。粉々に砕け散った姿、あれこそが現在の息子の姿なのであろう。


「うぅー……ごめんなさい……。責任は取りますから……」


 白雪が泣きながら、なにやら重たいことを言っているのを横目に、僕はそそくさと手術室へ運ばれていった。


 次に目を覚ましたとき、僕はしっかりとしたベッドの上にいた。


 白い天井。白い壁。窓際のカーテンが淡く揺れていて、どこからか規則正しい電子音が聞こえる。


「気分はどうかな」


 お医者様が、僕の顔を覗き込んでいた。


「息子は無事ですか……」


「手術は成功だよ。ただし、しばらくは絶対安静。無理な刺激、強い興奮、激しい運動は厳禁だ」


 無理な刺激。強い興奮。まあなんとかなるだろう。


 ふと、病室の隅に立つ白雪へ視線を移した。涙で目を赤くした白雪は、僕と目が合うなり、ぎゅっと両手を握りしめた。


「聖夜さん……本当に、ごめんなさい……」


 その声が、強い刺激だった。深呼吸を百回したあと、お医者様に答えた。


「先生、無理です」


「何がかな」


「強い興奮を避けるのは、絶対に無理です」


お医者様は心拍数を示す機械を見た。そして、冷静に頷いた。


「鎮静剤を少し入れよう」


 死ぬほど痛い目に遭った直後だというのに、我ながら救いようがなかった。


 結局、しばらく入院することになった。


 手術そのものは成功。息子の形も機能も、お医者様いわく経過良好とのことだった。ただし、僕にとって最大の問題は、そこではなかった。


 白雪が毎日のように見舞いに来ては、僕を甘やかすのである。


 初日、白雪が売店で買ってきてくれた桃ゼリーをあーんしてくれたとき、僕の股間から血が止まらなくなった。

 お医者様は頭を抱えた。あーんは禁止になった。


 二日目、白雪が元気になりますようにと手を握ってくれた。元気になる場所を間違えた。

 お医者様は頭を抱えた。接触は禁止になった。


 三日目、白雪が見舞いの花を持ってきた。花よりも舞い散る雪の光かな、などと脳内で感想を詠んだ瞬間、包帯が紅に染まった。

 お医者様は頭を抱えた。白雪は出禁になった。


 四日目以降は銀次のスマートフォン経由で白雪が見舞ってくれた。画面越しでなら、なんとか刺激を抑えることができ、お医者様と息子がたいそう喜んでいた。


 七日目、僕はようやく退院を許された。本来よりも退院するまでに時間を要した原因は言わずもがなだった。


 お医者様からは何度も釘を刺された。しばらく無理をしないこと。異変があればすぐ受診すること。安静を守ること。そして、強い興奮は避けること。


 僕は笑って聞き流した。


「お大事にしてくださいね」


「無理しちゃだめですよ」


「また何かあったらすぐ来てください」


 退院の手続きを終え、僕は看護師さんたちに囲まれて病院の玄関まで送られた。


 天国のような光景だった。


 白衣に優しい声に清潔な香り。看護師フェチでもある僕にとっても、息子にとっても耐え難い光景だった。


 安静と言う言葉はもう忘れた。


 僕は半ば諦め、息子が歓喜に打ち震え、明日に向かって起立することを容認した。


 だが、何も起きなかった。


 胸は変わらず高鳴っていた。退院するのが惜しいとすら感じていた。


 それでも息子は、静まり返っていた。


 僕はタクシーに乗り込んだ。窓の外で病院が遠ざかっていく。息子がお世話になり、手術は成功した。痛みはだいぶ引いている。姿形も、元に戻っていた。


 だが、不安は胸の奥に残ったままだった。

 自宅前に着くまで、それが消えることはなかった。

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