13
それはいつものように惰眠をむさぼっていた時のことであった。
僕と銀次は二人して、こたつに根を張り過ごしていると、玄関が勢いよく開かれ、冷えた空気が部屋へと侵入した。
「いつまで寝ているのですか! もうお昼過ぎですよ!」
扉をあけ放ったのは白雪のようで、どかどか部屋へと上がり込む。
「なんやお嬢、どないしたんや」
「どうしたもこうしたもないでしょ!」
僕と銀次は首を傾げた。思い当る節がなかった。
「もー! 聖夜さんはすでに戦いに巻き込まれているのですよ! 自衛のためにも聖武器を用いた戦い方を教えましょうって昨日言ったじゃないですか!」
「あー言ってたような気もするなぁ」
「気もなくも確実に言いました!」
そういえば昨夜、戦闘経験の浅い僕を鍛えなくてはならないと、白雪が力説していた記憶が片隅にあった。
「せやけどこたつが離してくれへんくて……」
そうなのである。僕と銀次の足は現在こたつという魔物にとらわれてしまっていたのだ。
知らない人のためにも説明しよう。冬にかけて、部屋に現れるといわれているこたつという魔物。きゃつらは一度捕らえた人間を決して離すことはしない。
「こたつのせいにしないでください! えい!」
無情にもこたつの息吹は断たれた。
白雪が容赦なくこたつのコンセントを引き抜いたのだ。哀れこたつ、さらばこたつ。
だが、こたつに魅入られた銀次は一筋縄ではいかない。
すぐにコンセントを奪い返し、あっという間に挿し直した。こたつが息を吹き返す。
「お嬢、まだまだやね」
「いいでしょう! 受けて立ちましょう!」
抜いては挿して、挿しては抜き返す、両者一歩も譲らない戦いの火蓋が、今切って落とされた。
繰り返される白熱した争い、実力は拮抗しているように見えていたが、徐々に白雪の動きが鈍くなる。戦況は、こたつで体が温まっている銀次が優勢なのだろう。
「お嬢、どないしたんや。そんな動きでわいに勝てるとおもっとんのか。それともどないや、負けを認める言うなら、傘下という名のこたつの中に入れてやってもええけどなぁ!」
「……わかりました。そっちがその気なら、こっちだって考えがあります」
挑発する銀次に業を煮やした白雪が、玄関へばたばたと向かっていった。諦めたのかと思ったのも束の間、ブレイカーが落ちる音が部屋に響いた。
「お嬢の奴、なんて残酷なことを考えるんや!」
そう、白雪は容赦なく主電源ごと切ったのだ。こたつもろとも、あらゆる電化製品の息吹を断ったのである。
当然のことながら足元から急速にぬくもりは消え失せ、世界は常闇と冷気に包まれた。僕と銀次は阿鼻叫喚し、まさに混乱の渦中にいた。
そんなとき、ふと何やら怪しい音が闇の中から聞こえてきた。
耳を澄ますと、それが白雪の声だと気が付いた。
「さあ、こたつから出るのです……そして私についてくるのです……さすれば救われるのですよ……」
半狂乱に陥った僕は、何度も繰り返されたその言葉に意識を奪われ、虚ろな目をしてこたつから抜け出した。
「あかん! 聖夜、正気を取り戻すんや!」
体温と視覚を奪われた僕に、正常な判断などもうできない。僕は声に誘われるがまま、玄関へと向かっていった。
「銀次さんもいい加減出てきてください!」
「鬼や! まさに巨根の、鬼の所業や!」
銀次はぼこぼこにされた後、強引に引きずられながら外へと連行されていった。
三人並んで外に出ると、眩しい太陽がりんりんと照っていた。
外は、思いのほか寒くはなかった。




