11
「昨日話せへんかった大事な話があるから、お嬢を呼んでくれへんか」
銀次が起床後、そう言い出したのがことの発端だった。
時は夕方、町のどこからともなく懐かしい夕飯の香りが立ち込めるころ、僕たち三人は昨日の再現とばかりに我が部屋へと集まった。
「大事な話があるというから飛んできましたけれど、一体どうしたのですか」
白雪が到着早々、心配そうに言った。
「召集したのは他でもない」
こたつに肩までどっぷりと入っている銀次が、神妙な声色で答える。
「わいらの名称、それを決めたいんや!」
曰く、僕らのことを『聖武器の所有者』と、わざわざ呼ぶのは長くて面倒だそうだ。
「……帰っていいですか」
そのように供述した白雪だったが、言葉とは裏腹にこたつにどっぷり入り込んだ。外は冷えるようで、白雪の足とともに冷気を感じる。
無論、言うまでもないが僕も肩までどっぷりであった。何を隠そう起床してから今の今まで、ここから動くことすらしてはいない。
「名称ってもう合ったりするのかな」
ぽつりとつぶやき、思考にふける。しかし思い当る節はなかった。ともあれエクスカリバーさんに聞いていない手前、無いとは否定できない。
「聞いたことないけど、あるかもしれへんな。お嬢の聖武器はでかすぎて邪魔やから呼ばんでええ。聖夜、ちょっと呼んで聞いてくれや」
白雪がこたつの中で銀次の足を蹴った。それを見なかったことにして、僕は息子に力を込めた。
慣れたもので、エクスカリバーさんはすぐこたつの上に現れる。銀次も召喚したようで、如意棒くんも隣に一緒であった。
「話は聞いていた。君たちの名称ならすでにあるぞ!」
「アルアル!」
早速召喚された聖武器たちがキャッキャとはしゃぐ。それにしてもこの二人は、とても仲がよさそうだ。
「聞きたいか!」
「キキタイ!」
如意棒くんの影響だろうか。いつもより知能指数が下がったエクスカリバーさんが、威張るように胸を張った。
「では教えてやろう! 聖武器を使って戦う闘士、君たちのことを我々はこう呼んでいる!」
「ヨンデイル!」
銀次と白雪の目がキラキラと輝いていた。やはり男の子はこう言った話題が好きなのであろう。かく言う僕も楽しみではあった。ぜひともかっこいい名称を期待したい。
「聖闘士! 我が主は、言ってしまえばセイントセイヤだ!」
「セイセヤー!」
しかしおっと、これはいけない。
「はんたーい! 反対! 名称の変更を要求します!」
こんなこともあろうかと、以前から作成していた反対運動用プラカードを掲げ、声を大にして主張した。
「なんでや。わいはええと思うけどなぁ。この世に邪悪がはびこるとき、必ずや現れるといわれる希望の闘士みたいでかっこええやん」
「それがだめなの!」
銀次がぎりぎりのコーナーを責めた。それをお天道様が許しても僕は決して許さない。あと集英社も、きっと許してくれはしない。
「小宇宙を感じそうなネーミングで私も気に入りましたが……」
「白雪ちゃん! それ以上いっちゃだめ! だめなものはだめ!」
追い上げてきたのは白雪だった。まさかのダークホースである。
「我が主は我がままであるな。少し落ち着きなさい」
なんだか僕が悪いような雰囲気を皆からひしりと感じた。悪いのは僕か皆か、それとも世界か。
その後ひと悶着があってやっと、エクスカリバーさんがしぶしぶ折れてくれた。
「しかたがないので、聖武器を使って戦う闘士のことを、こう呼ぶことに改める」
銀次と白雪の目はすでに輝きを失っている。今は子供のわがままを仕方なしに聞いてやった時の、大人の形相そのものであった。
「聖騎士。今日から我が主はパラディンセイヤだ」
「パラセヤー!」
まあ、それならセーフだろうか。尚クレーム等は受付中ですので、ご遠慮なくお申し付けください。




