7話 魔学院生活②
「俺はレイグ・アークライト。魔学院の三年だ」
背後に立つ青年はレイグと名乗った。妙な威圧感がある。
「またあなた?」
セリスとレイグは、どうやら面識があるようだ。
「なんだ、その言い方は」
レイグは肩をすくめている。
「ただ興味があっただけだ」
そう言って、視線を戻した。
「二年生の編入生だろ?」
誰が二年生だって?今日入学したのだから一年生だろう。
「とぼけたって無駄だ、ソーリ・カミヤ。お前が飛び級で二年生に編入したことは聞いた」
「それに――」
どこか不敵な笑みを浮かべ、続けた。
「属性適正検査で、魔水晶を割ったんだろ?」
おいおい、そんなことも広まってんのかよ。しかも、知らぬ間に飛び級してるし。最初から目立っていて俺は大丈夫なのか?
「あれは事故というか……」
「そんな嘘、通用するかよ。魔水晶はとにかく固い。俺が本気で切りかかったって割れないだろうな」
もう言い逃れはできなさそうだ。とても嫌な予感がする。
「わかりました。俺が割ったとして、何がしたいんですか?」
「簡単だ。少し試させろ」
「はい?」
普通に嫌なんだが。この人もかなり強そうだし。
「中央広場で俺と戦え」
断ることもできなさそうだ。
「ちょっと待って」
セリスが呆れたように言う。
「ソーリはまだ入学したばかりだし、魔法の使い方だってわかってないの。戦うなんて、そんな無茶させられない」
「別に今すぐ剣を振るうわけじゃない。一週間後だ。その時に俺と戦ってもらう」
無茶だ。俺はまだ、魔法の魔の字すらわからないんだぞ?
「もちろん、逃げることは許さない。なに、安心しろ。戦ったとて殺しはしない」
こいつ俺のことどこまで痛めつけるつもりなんだ。
レイグはそれだけ言い残し、去って行った。
「ソーリ、災難続きだね」
セリスは苦笑しながら言った。
「最悪だよほんと」
入学初日で魔水晶は割るし、二年生に飛び級してるし、挙句の果てに三年生の強そうな奴と戦う羽目に。
普通こんなことあるか?
先が思いやられ、大きなため息をついた。
「でもね、安心して。レイグは悪い人じゃないよ」
「すごい自己中な感じだったけど」
「それはプライドが高いから」
セリスは多分、噓は言っていない。しかし、プライドが高いのと、俺と戦うのはどう繋がるのだろう?
「でも実力は正しく評価して、認める。だからソーリのことを、自分の目で確かめたかったんじゃない?」
戦って、実力を認められなかったらどうなるのか、聞きたかったが今はやめておこう。さらに疲れる気がする。
「それに、レイグのプライドが高いのには理由があってね」
少しだけ声を落とす。そこには、先ほどとは違う真剣さがあった。
「魔学院内でレイグに勝てる人は、ほとんどいないの」
「え?」
つまり学院内最強の学生ってことだよな。
「雷魔法の適性が高くて、剣の腕も確か。それに他の属性魔法も実戦に利用できるくらいにはレベルが高い」
それ、俺に勝ち目無くね?
「だからね」
セリスは苦笑する。
「逃げたほうが良いかも」
「逃げれるの?」
「無理かな」
どの道詰んでるじゃん。
「終わった……」
「諦めるにはまだ早いよ」
セリスの声色は明るくなっていた。
「戦うまで一週間あるじゃん! その間、授業をしっかり受けて、私と特訓したら勝てるかもよ?」
その言葉に少し救われた。
何弱気になってるんだ俺。まだ時間はある。その間に強くなれば良いんだ。希望が見えてきた。
「俺はレイグ先輩に勝てるのかな?」
「ソーリ次第だね!」
目標はかなりの実力者である、レイグを倒すこと。
約束までの一週間で、魔学院での授業と、セリスとの特訓を並行して行うことになった。
魔学院の授業は、元いた世界の大学のように、自分で出たい授業に出席するそうだ。
一週間で、実戦に使える魔法を習得するのは、かなり難易度が高いだろう。
まだ自分の意志で魔法を使うこともできないのだから。しかし、やるしかない。
セリスと話し合い、計画を立てた。
授業は、魔力操作学、属性魔法学、強化魔法学、対魔物戦闘学、の4つを受ける。
第一優先で戦闘向きの魔法を覚たい。そのための、属性魔法と強化魔法の授業。
そして、対魔物戦闘学とは、その名の通り魔物と戦うことを想定し、適した魔法やトラップの扱い方を学ぶ授業のこと。
じゃあなんで対魔物戦闘学を受けるのか?理由は簡単。
「レイグは強いから、魔物だと思って戦おう」
そう、セリスに言われたから。
魔物レベルの猛者と戦うのは気が引けた。しかし、レイグと戦うことを知ったレオルド教官が、マンツーマンで指導をしてくださることになり、逃げられなくなった。
「まずは魔力操作について」
レオルド教官はそう言って、俺の正面に立った。
「属性適性検査の際、セリスから教わったな?」
「はい、一応」
「一応、か」
やはり、レオルド教官からは、威圧感を感じる。
「セリスは感覚派だ」
「感覚派?」
「魔力を扱うのが自然すぎて、説明が出来ん」
……思い当たる節がある。
『ぎゅって力を入れるんじゃなくて、ふわーって外に出すの』
確かそんなことを言っていた。
「魔力操作は3つの段階に分かれる」
指を一本立てて続けた。
「1つ目。認識」
認識とはふわふわしたものを体内に感じることだろうか?
「人は常に魔気を取り込んでいる」
「それは無意識に、ですか?」
「ああ、呼吸をし、酸素を取り込むのと同様にだ」
まさか、魔気がそんなにも簡単に取り込めるものだとは。
「目を閉じて、呼吸を整えろ」
言われるままに目を閉じる。
「吸うときに魔力を取り込み、吐くときに身体の中を巡らせるイメージを持て」
……なんとなく、胸の奥が温かい気がする。それに頭も。
「なにか感じただろう。それが魔力だ」
レオルドの二本目の指が立つ。
「2つ目。循環」
「循環?」
「魔力は溜めるだけでは意味がない」
俺は適性検査で、魔力を循環出来ていなかったから、反応しなかったのか?
「腕、脚、背中。身体の隅々まで、血液のように巡らせろ」
ゆっくり魔力を動かす。
意識してみると、案外簡単で、感覚がはっきりしてきた。
「良し」
三本目の指を立てた。
「そして3つ目。放出」
「それが魔法ですか?」
「違う。魔法はその先だ」
レオルドは俺の手を掴んだ。
「循環させた魔力を、指先に集中し、外へ押し出せ」
魔力の流れを、一方通行に、外へ押し出す。
「確かに魔力の放出は出来ている」
「今の流れでもう一度試す」
そう言って懐から魔水晶を取り出した。
「魔水晶に魔力を流せば良いんですか?」
「そうだ。今教えたことを忘れずにやってみろ」
魔力を循環させて、指先に集中、一気に放出。
教わった通りできた。
しかし、
――バキッ
魔水晶は一瞬光ったと思えば、粉々になってしまった。
「……」
「すみません!」
なんでまた魔水晶が割れんだよ!
「気にするな」
そう言うと、レオルドは腕を組んだ。
「だが覚えておけ」
「今お前がやったのが、魔法の”土台”だ」
「土台ってどういうことですか?」
「魔法とは魔力を扱う技術だ」
魔水晶に視線を落としている。
「魔力を単純に放出することは出来ている。セリスと同じほど、スムーズにな」
「セリスと同じ……」
それは大分すごいことなのではないだろうか?
「その魔力に意味を持たせ、形にする。それが魔法になる」
なるほど。つまり、かなり上手く魔力操作ができているんだな。
それにしては、レオルドは険しい顔をしているように見える。
「だが、お前はまだ魔法を使うな」
「え?」
「魔力量が異常に多い可能性がある」
俺は魔力量についてイマイチわかっていない。だから、多いと言われてもピンと来ない。
「今のソーリが制御せず魔法を使えば、死人が出るかもしれない」
一気に血の気が引いた。
俺が人を殺す?
身体が震える。嫌な汗も滲んできた。
「安心しろ。私が扱い方を教える」
「魔力が多いというのは、それだけで武器になる」
武器になると言われても、すぐには納得出来なかった。
人を殺すかもしれない力が、武器だなんて。
こんな力、俺に扱えるのか……?
「難しく考えるな。私がいる」
レオルドは短く告げた。
「今日はここまで。明日から実践形式で訓練を行う」
こうして、学院生活1日目は幕を閉じた。




