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12話 即席パーティ

 「セリスってそんなに強いの?」

 「俺は勝てたことないからな」


 あ……。

 ようやく点と点が繋がった。

 初めて学院に来た時の周囲の視線や態度。あれはアルヴェリア家の事情によるものではない。学院トップの有名人と、無名の転入生という変わった組み合わせに驚いていたのだろう。


 「よし! ソーリ祝杯と行こう」

 レイグは、そう言って肩を組み歩き出した。

 しかし、


 「待て。レイグ、ソーリ、お前らは私と来い。」

 「はい……」

 「わかりました……」


 レオルド教官に呼ばれ、レイグと共に中央広場を去ることとなった。





 連れてこられたのは教官室。そこには、俺とレイグとレオルド教官、そしてセリスの4人。

 俺とレイグは席に着き、向かい合う形で、レオルド教官とセリスが立っている。


 きっと怒られるんだろうな……。


 「お前たち、やりすぎだ」


 やっぱりそうだよな。激しい戦いを繰り広げ、互いにヒートアップした結果、結界を破壊しかけてしまったのだから。

 この後もレオルドによる、ありがたいお言葉が続くと思っていたのだが、


 「これが学院全体を代表しての言葉。

  しかし、私個人としては素晴らしかったと思っている」


 とても意外な言葉だった。


 「私が張った結界にヒビを入れたのだ。それだけ本気だったということだろう?

  それにあの瞬間、少しでも魔力を抑えたとしたら――。

  抑えた方を敗者にすると、私は決めていた」

 「なんでですかー?」


 レイグが気軽にそんなことを聞いた。

 この空気感でよくもまあ、そんな吞気に質問できたものだ。ある意味感心してしまう。


 「逆に問うが、お前たちはヒビが入っていることに気付いていたはずだ。しかし、魔力を抑えようとしなかった。それは何故だ?」


 理由は明確だ。絶対に負けたくなかったから。


 「絶対に負けたくなかったからです! もし本当に危なくなったら、レオルド教官が止めてくれると信じてたから……」

 「俺は久々に楽しい戦いが出来てたし、ソーリと同じでいざとなればレオルド教官が止めに入ってくれると思ってましたから」

 「そうか。……期待通りだな」


 周囲の反応から良い試合であったことは察した。

 しかし期待通りとは何のことだろうか?


 「二人とも良い判断だ。状況を理解し、時には誰かを頼ることも重要だからな。

  このことを踏まえたうえで、先ほどの質問に答えよう。戦いにおいて手を抜くことは許されないからだ。

  これは、相手が人間だろうが魔物だろうが関係無い。階級(ランク)に差があれど、油断すれば負けることだってある。そのことをお前たちにも知ってほしかった。」


 以前聞いた『魔物は等しく危険』という、セリスの言葉はレオルド教官の教えでもあるのかもしれない。

 

 「改めて、二人とも良い戦いだった。

  別件で少し話がある。ソーリとセリスはここに残れ」

 「え! 俺だけ出てけってことですか?」


 レイグはとても不満そうな顔をしている。

 初めて会ったときは、キリッとしているように感じた。しかし、案外子供っぽいのかもしれない。


 「レイグ。お前はレポートを提出したのか? 期限は今日までだが」

 「やっべ……」


 顔がみるみるうちに青ざめたかと思うと、とっとと部屋を出て行ってしまった。

 忙しいやつ。


 「落ち着いて話ができるな」


 レイグ(邪魔者)がいなくなると、レオルド教官は俺とセリスに話し始めた。


 「ソーリ、セリスから話は聞いた。異世界から来たそうだな。

  そして、フィリアの森では鋼蟻(アント)の群れに襲われた、と」

 「はい……。この世界で異世界人は普通にいるんですか?」

 「ゼロではない。だが私は異世界人に会ったことがない。それだけ珍しいんだ。」

 「そう……なんですね」


 異世界人が珍しいということは、帰る方法を探すのが難しいことを暗に示している気がする。

 現在の第一目標は元の世界に帰ることだ。まだ帰れないと決まったわけではない。ここでくよくよしている場合では無いのだ。


 「そこでだ。ソーリは帰るヒントを探す必要がある。ヒントを見つけ出すにはどうするべきだと思う?」

 「詳しい人に聞くとか、異世界人がいたところを調べるとかですかね」

 「ああ。そのためには様々な所へ足を運ぶ必要がある。

  しかし、この世界について右も左もわからないお前が、一人で旅をするのは無謀だ」


 そんなことはわかっていたつもりだった。

 それなのに、いざ他人に口にされると、深い闇の中にいるような絶望感に襲われる。


 視野の端に映るセリスが、待っていましたと言わんばかりにドヤ顔をしていた。


 「だから私が手伝うよ!」

 「いいの……?」

 「もちろん。それに私、こう見えても学院最強なんだから安心していいのよ?」


 いたずらっぽく笑う、彼女の顔に心の闇が照らされていく。

 セリスのおかげで、胸の奥の重さが少しだけ軽くなった――

 その時だった。


 バンッ!!


 教官室の扉が勢い良く開いた。


 「話は聞かせてもらった!」


 そこに立っていたのは――レイグだった。


 「俺もソーリを手伝おう。なぜなら、俺達は友達だからな!」

 「ありがとう……! レイグ」


 ファーストコンタクトは最悪だったレイグだが、今となっては俺を認め、心強い友達になってくれていた。

 俺は恵まれているな……。


 「盗み聞きとは感心しないが、まあいいだろう。

  セリス、レイグ。お前たちはソーリを手伝ってやれ。その間の学院の単位は私が調整しておく」

 「うん、任せて!」

 「了解です!」

 「よし。それでは、明日から本格的に準備を始める。今日は各々休息を取り、明日に備えろ」





 俺は2人に感謝を伝え、自室に戻ろうとしたとき、レオルド教官に止められた。


 「これをお前に渡しておこう」


 そう言って渡されたのは、ボロボロになった一冊の本だった。


 「これは……?」

 「学院に眠っていたものだ。私たちには読むことが出来なかった」


 渡された本をよく見ると、そこに書かれているのは日本語ではないか。

 『探究魔典』

 確かに漢字で書いてある。だとすると、著者は同郷の人物。

 つまり――異世界人。


 「ありがとうございます。俺には探究魔典(これ)が読めます」

 「そうか。それはソーリが持っているといい。

  呼び止めて悪かったな。お前もしっかり休むように」

 「はい。ありがとうございました」


 レオルド教官に一礼すると、一冊の本を胸に抱えて自室へと早足で帰った。

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