11話 創理 vs レイグ
決戦当日。窓から差し込む朝日で目が覚めた。
今日、俺はレイグ・アークライトと戦う。
学院トップの実力者を相手にして、どこまでやれるか分からない。
……正直、不安が無いと言えば噓になる。しかし、一週間の特訓成果を発揮できる実践の場だ。
楽しみなのも事実である。
体を起こし、軽く伸びをする。頭の中のモヤモヤはもう残っていない。
顔を洗い服を着替える。最後にアルセナ魔学院のローブを羽織った。
身支度を整えて、俺は寮を後にした。
中央広場に近づくにつれて、人のざわめきが大きくなる。どうやら、レイグと異例の編入生が戦うということで、多くの生徒が集まっているらしい。
現実を目の当たりにして、緊張してきた。
「ソーリ」
背後から声をかけられた。
「セリスか」
「おはよ。本番だね。緊張してる?」
「まーね。でも楽しみだよ」
そう、この状況だが、とても楽しみだ。今日までの一週間、本気で努力したのだから。
セリスと共に生徒たちを搔き分け、中央広場に向かった。
人だかりの隙間からようやく中心部が見えた時、そこにはすでに一人の男が立っていた。
レイグ・アークライト。
俺を待つように、静かにその場に佇んでいる。
一歩、また一歩。
そして、レイグの前で足を止める。
生徒たちからは、『弱そう』だの『場違い』だの、好き勝手に言われているようだ。
聞こえてますよ。
そりゃあ無名の一男子生徒が、学院トップの有名人と戦うために、この場に出てきたら驚きもするだろう。これと言って高価なものを身に着けているわけでもないからな。まさに天才と凡夫。
しかし、毛頭負けるつもりはない。
俺がレイグを見据えていると、レイグもまたこちらを見ていた。
その鋭い視線は、真っ直ぐ俺を射抜いている。
「……来たか」
「ええ、約束ですから」
レイグにも独特の威圧感がある。それと同時に、自信と余裕が滲み出ていた。
「逃げずに来ただけでも大したものだ」
周囲からはクスクス笑い声が聞こえる。
まあ今は周りなんてどうでもいいんだけど。
「時間だ」
低く響く声とともに、人だかりが割れて道ができる。
現れたのはレオルドだった。
「この試合は、私が審判を務めよう。
ルールを説明する。よく聞いてくこと。
其の一。武器の持ち込みは可。
其の二。魔法の使用に制限は無い。
其の三。どちらか一方が戦闘不能、または降参した時点で決着とする。」
其の四。場合によっては、試合を止める。
以上だ」
周囲の空気は打って変わって、静まり返っている。
先ほどまでのざわめきが噓のように消え、張り詰めた緊張だけが残る。
「両者、位置につけ」
その言葉に従い、ゆっくりと後ろへ下がり距離を取る。
レイグも同様、距離を取った。
互いの間に、静かな空間が生まれる。
レオルドが片手を上げた。
「――始め!」
その言葉と同時に、互いの身体に魔力が巡った。
レイグが腰から抜いた、細身の刃――レイピア。
その刃に青白い雷が走っている。
あれがセリスの言っていた、雷を纏うということだろう。
そんなことを考えていると、レイグの姿は消えていた。いや、正確には早すぎて目で追えなかった。
――速い。
反射的に横へ跳ぶ。
直後、俺が立っていた場所に雷撃が落ちた。
激しい轟音とともに、地面が抉れている。
俺を殺さないと言っていたのに、あんなのをまともに喰らったら死んでしまうだろう。相手も本気ということだ。
「へえ……避けるんだな」
だが、レイグの攻撃は止まらない。
二撃目、三撃目。
何とか避けることはできたが、少しでもずれれば負ける。
やっと成果を発揮できる。
相手は格上だというのに、心が躍る。
まずは薄い土の壁をせり上げる。
もちろん、この程度では攻撃を防ぐことはできず、あっさりと破られてしまった。
計画通り。これはトラップなのだ。敢えて壁を破らせることで、注意力を欠く。そこで次の魔法だ。
壁を抜けた瞬間に、穴を修復しその場に捕らえる。間髪入れずに攻撃を仕掛ける。これが作戦。
しかし、この作戦は失敗に終わった。
土の壁で一瞬拘束はできた。だが、上空から雷が降ってきたかと思うと、壁は崩れ逃げられていた。
「……チッ」
「器用なものだ」
バカにしてんのか?その器用な技を簡単に抜け出したくせに。
その後も攻防は続いた。
高速のレイピアによる攻撃を防ぎながら、こちらも攻撃を仕掛ける。
だが、流石は学院トップの実力者。雷蜘蛛を倒したコンボですら、いとも容易く無効化された。
土の壁は破られ、風の刃は斬られる。
完全に自分の実力不足なのだが、なんだかイライラしてきた。
胸の奥がじんわりと熱を帯びているのを感じる。
――まだだ。
まだ終わっていない。
気付くと、今までにないほど膨大な魔力が溢れ出していた。
制御しているつもりなのに、抑えが効かない。
空気が震えている。
「凄まじい魔力だな! ソーリ・カミヤ!」
レイグが興奮気味に声を荒げている。
今もなお、魔力の暴発は収まらない。
魔力が渦を巻いていた。
それに張り合うように、レイグのレイピアに纏う雷が、一段と強く弾ける。
雷光と魔力の奔流がぶつかり合い、広場の空気が大きく揺らぐ。
「お、おい……まずくないか?」
「結界があるんだ……大丈夫、だよな?」
観客たちから不安そうな声が次々とこぼれる。
だが、知ったことか!今この魔力を使い、魔法を放てばレイグ先輩にも攻撃は通用するかもしれない。
逆に躊躇してしまえば、確実に俺の負け。
今まで頑張ってきたんだ。それを他人に邪魔されてたまるか。
「――はぁぁぁっ!」
魔力を抑えるのなんてやめた。ありったけをぶつける。
確実に倒せるイメージを魔力に与える。
「いいぞ……!」
レイグが笑う。
雷を纏ったレイピアが一直線に突き出された。
互いの一世一代の技が衝突する。
激しい衝撃波と轟音に、観客からは悲鳴が上がっている。
その時だった、
パキッ――
「おい……結界が!」
「ヒビ入ってる!」
ざわめきが一気に広がる。周囲はパニックになっていた。
だが、俺もレイグ先輩も止まらない。
結界の亀裂は大きく広がっている。
「そこまでだ」
両者の間にはレオルドが割って入った。
振り下ろされたその手と同時に、二人の魔力が霧散する。
「これ以上は危険だ。
試合はここまで。引き分けとする」
広場は静まり返った。
しかし、次の瞬間、大きな歓声と驚きの声が聞こえてきた。
「なんだあの編入生!」
「あのレイグと引き分け?!」
俺は息を整えながら、レイグ先輩を見る。
すると――彼はニヤッと笑っていた。
「ははっ! なんだよそれ!」
楽しそうに声を上げながら、こちらに向かってくる。
「最高だ! 今日からお前は、俺の友達だ!」
「……はい?」
いったい何を言っているんだ。
「俺とまともにやり合える学院生なんて、そうそういねぇんだよ。
レオルド教官の推薦だとしても、所詮中級の中位程度だと思ってたんだが、お前は確実に上級以上だな!」
「俺が上級?」
「自覚なしかよ!」
それってとんでもないことなんじゃないか?レイグ先輩と同等の強さってことだよな。
その事実を、頭の中で何度も反芻する。だが、どうしても理解が追い付かない。
「俺がレイグ先輩と同じぐらい強いってことですか?」
「そういうことだな。てか、先輩とかいらねぇーよ。今日から友達だからな。
それに――」
楽しそうに続けるレイグの言葉に俺は驚愕した。
「ソーリは学院内で3番目ぐらい強いんじゃね?」
は??
危うくひっくり返るかと思ったわ!俺が3番だなんて。
「……噓だよね?」
「噓じゃない。俺の決めた学院生強さランキングでは、お前が3番で、俺が2番。1番強いのは――まあ、セリスだろうな」
セリスが1番強い……。
俺は生まれて初めて、腰を抜かした。




