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第一章 白夜の街 1

「・・・・・・死ぬ」


 真夏日の午後。

 扇風機の風では物足りなさすぎる。

 今の世の中40℃にも届こうかという夏の昼間に扇風機一つで過ごしている人がいったいどれだけいるだろうか。



「あー、くそっ!暑すぎだろ・・・」


 地球温暖化というけれども、それにしても暑すぎる。

 せめてもの冷を取ろうとフローリングの床に転がってノースリーブのシャツと短パンという格好の身体をベタリと張り付けながら、岐城要(きじょうかなめ)はブツブツと愚痴り続けていた。

 シャツの背中は汗で張り付き、短パンもその中のパンツもびっしょり濡れている。

 絞ると汗が滴り落ちるだろう。


「くっそ、まだかよ」


 本来なら部屋が暑いならエアコンをかければいいし、でなければさっさと外に出てエアコンの効いた店にでも入って時間を潰せばいい。

 日が完全に落ちればこの暑さも少しはマシになるのだから。

 だが頼みのエアコンは昨日の夕方に突然壊れ、業者は明日になるという。

 なら外に出ればいいのだが、いかんせんそうもいかない事情があった。


『食料送っておいたから。生もの入ってるから、早めにちゃんと受け取って冷蔵庫に入れるんだよ。前みたいに腐らせないでよ』


 電話ごしに聞いた姉の声が思い出される。

 あれは4日、いや5日前だったか。

 昨日も一昨日もその前も、受けとるチャンスはあった。

 実際2回ほどインターホンの履歴には郵送業者らしき人物の姿が映っていたのだし。

 だが、要はその時バイトの最中で、家には居たけれど気付かずスルーしてしまった。

 バイトといってもどこかに出かける必要もなければ、何時から何時までと時間が決まっているわけでもない。

 一応3日以上ログインしない場合は連絡をしなければならないが、基本好きな時間に好きなだけインすれば問題ない。

 時給換算でもなく効率的に動けば週に4、5回、一日一時間でもかまわないのだから、言い訳にはならないのだが。

 結局要がついついもうちょい、と流されただけのこと。

 さっさと時間指定の連絡をしてその時間だけログアウトしておけばよかったのだ。

 それを少しだけ、二時間程入ってその後電話なりネットなりで連絡しようと思ったまま夜になっていたというのを3日ほど続けてしまっただけのこと。

 さすがにこれ以上はヤバかろうと翌日の12〜14時で連絡したのが昨日の夕食後。

 なにやら音を立てた後エアコンが止まって動かなくなったのがその約2時間後のことだった。


「あっつ・・・・・・」


 何度目かのやっぱり出かけてしまおうか?という思考が脳裏をよぎって思い直す。

 すでに中身は傷んできているだろうからもう一日放置しても結果はそれほど変わらないかも知れないが、今日受け取っておけば無事な物もあるかも知れない。

 もったいない精神もあるし、なによりまた全部ダメにして姉にバレるのが怖い。

 黙っていればわからない。

 なんてのはあの姉には当てはまらないのだ。

 前の時は生活費を一月まるまる自腹を切らされた。

 2度目となるといったいどうなることやら。


「あー、くそー・・・」


 寝そべったまま視線を上げて壁の時計を見ると時刻は1時30分。

 最悪あと30分。


「姉貴視るかなー」


 前科があるから、そろそろ受け取っているか確認してくるかも知れない。


 この世には異能と呼ばれる超能力を持った人間が数多くいる。

 要も、姉である甘利(あまり)もそう。

 甘利姉の持つ異能はいわゆるサイコメトリの一種。

 ただしその場にあるものに触れて過去を視るのではなく、自身が過去に触れたものの未来を視ることができる。

 例えば要に送ってきた荷物がいつどのように届けられているかとか。

 視れる期限は意識的にものに触れていれば10日前後。

 ただ触れただけのものなら3日ほど。


 今の世の中異能は数あれど時間に関係する異能は稀だ。

 三年前交通事故で両親と亡くしてから、甘利姉は名古屋の研究所にその異能を買われ研究員として働いて要を養ってくれている。

 要もバイトをして学費の一部とこづかいくらいは自分で稼いでいるが、家賃だのの生活費は全て仕送りしてもらっている。

 要としても感謝しているし、頭が上がらないのが現実で。


「はあ、早く持ってこいっての」


 気だるく腕を伸ばして床に置いたペットボトルにわずかに残っていたミネラルウォーターを飲み干した。









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