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天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
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90話 「支操の剣」

城壁国家であるユーランシーとは違いカルメラは城壁に囲まれることなく、ザブレーサと同じで水に囲まれている。

だが、ザブレーサのように巨大な湖に浮かんでいるという形ではなく、カルメラの周りを大きく川が流れているという形だ。

元々カルメラがあった地には様々な村や文明が栄えており、その理由が大きな川が流れていたからだった。

だが、その村や文明が共存をしていくようになり次第にその規模が増していき、現在のカルメラという国が誕生した。

その時、領地を作る際にその大きな川が邪魔になったためいっその事、川の中心部に国の中心部分を作ろうという事になった。

そして国がどんどん大きくなるにつれて川は分かたれていき、最終的に今のようなカルメラの周りを流れる川の形になったのだ。

そのため、カルメラに入るためには川を超えるための橋を渡らなければいけないのだ。


「到着いたしました。

私の馬車はここまでの案内となります。

このままカルメラ内もご案内したいのですがこの後、私は別の仕事があるため失礼させていただきます」


馬車を操縦してくれた男はそう言いながら荷台のドアを開ける。


「とても助かりました!

ありがとうございます!またどこかでお会いしましょ!」


なんて陽気に返しながら馬車を降りるスタシアを見た操縦者は少し笑みを零しながらも一礼をしてから馬車に乗り、スタシアの前から去っていく。


(さてと…)


カルメラの中心部の方を見ながら次の動きを考える。

現在スタシアがいる場所はカルメラの東側の正規門。

人の出入りが活発なのを見ると、正規門は結構重要な役割なのだろう。


(カルメラに近づいてからずっとこのバカでかい気配が気になってしょうがない。

しかも2つ…。

1つは支操の剣だろう。中心部の方から気配が感じるけど正確な位置が分からない。

中心部にあるかもしれないし西側の街にあるかもしれない。

もう1つは…分からない、、感じたことがない気配だ。

とりあえず気配のする方に行ってみようかな)


スタシアが歩き出した瞬間、筋肉質な男とぶつかる。

男は舌打ちをしながらスタシアを見下しながらガンを飛ばしてくる。


「痛ってぇなぁ、ガキがよぉ。

ここはお前みたいなお子ちゃまが一人で歩いていい場所じゃ無いんだよぉ!

あーてか、痛ってぇ…お詫びとして金よこせ、金!」


「…」


「おいおい!ビビって声も出せねぇのか?

張り合いねぇなぁ!

お、でもよく見りゃなかな…」


スタシアは鋭い目つきで男の目を見つめ返す。

ほんの一瞬…向けられた本人ですら気づかないほどの速さで殺意を向けた。

当然、男は気づいていない…だが汗が止まらずガクガクと震え始める。

そして最終的にスタシアの前で尻もちを着き、腰を抜かしながらも走って逃げ出していく。


「…はぁ。意気地ないな。」


そう呟きながら歩みを始める。



恐らく支操の剣のものであろう気配を辿って数十分が経った。

今、スタシアの目の前には大勢の人集りができていた。

その人集りは何かを囲むようにして大きな円形上に集まっている。

持ち前の小さな体を駆使しながら混み合う人の隙間を通り抜けて行くと直ぐにこの人集りの理由が理解出来た。

中心には地面に刺さった1本の直剣とその剣を抜こうとするガタイの良い男がいた。

それなりに筋肉量があるっぽい男がその剣の持ち手をガッシリと掴んで引き抜こうとするが一向に抜ける気配がない。


スタシアは改めて実感していた。

あの剣が支操の意思を宿った剣であり、この世に希少に存在している神器と呼ばれる武器だということを。

ナルバン団長の情火の剣は鞘に入った状態でしか見た事がなく、それ加えてあの鞘には剣の圧倒的な力と存在感を抑えるためのナルバン団長本人の天恵が組み込まれている。

そのため、剣身を実際に露呈した状態の意思を宿った剣を見るのは初めてだった。


(凄い…どうしてこの人達はこんな平気でいられるんだ…。

天恵というものがなくてもこの剣の力を感じてもおかしくない…それほどのものなのに、、)


意思は本来 人 に宿るもの。

そして意思の力はその宿り主によって抑えられるために、私達意思者は普通の人として過ごすことが出来る。


だが、当然剣には意思を抑えるだけの思考力や天恵が無い。

つまり意思が宿った剣が放つ存在感…それこそが意思自体が持つ存在感であるということ。


(いくら剣に宿ってるとはいえ、ここまでなんて、、

恐らく存在感やパッション的な強さならばディシくんの倍はある。

ナルバン団長はこんなものを扱ってたんだ、、)


「お!どうした嬢ちゃん!

そんなにじっと見つめて…あの剣がそんなに気になるのか?」


スタシアが剣に見入っていると一人の男が話しかけてくる。


「うん…凄い剣だなと思っちゃって。

あれって何してるの?」


「ちょっとしたイベントさ。

あの剣は元々あんな場所になかったんだよ。

ある日突然、全員の意識外から元からそこにあったかのように現れたんだ。

当然、国はあの剣を撤去しようとしたけど全く抜けないし、動かない。

だから、今この国はイベントと称してあの剣を抜ける者を探しているってことさ。

まぁ、イベントと言ってもあの剣を抜けたところでなにかご褒美がある訳では無いんだけどな」


「あれは誰でも挑戦できるの?」


「ああ!もちろんできるさ。

だが、まぁ…嬢ちゃんには無理じゃねぇかなぁ。

この国1番の力自慢達が挑んでことごとく失敗してるんだ。

女性には無理だろうよ」


(絶対言われると思った…

まぁ、今すぐにギャフンと言わせたいところだけど生憎、私には別にやることがあるからひとまず今日はいいかな。)


そんなことを考えながらスタシアは人混みを抜けてアーケア王が殺害された城へと向かう。

ある程度の詳細は馬車の操縦者がペラペラと話してくれた。


(ユーランシーは人足りないし、あの人も勧誘しようと思ったけど…

口が軽いならパスかなぁ)


支操の剣がある場所から南に向かって十数分。

水色の屋根の城の前に着く。

城の門は完全に閉まっており、騎士団兵が10人は立っている。


(まぁ、そうだよね。王が死んでるんだもんね。)


正直、メアリー女王からの刺客と言っても良かった。

だけどそれを証明できるものなんて何も無いし、証明できたとこで なんのために? となる可能性の方が高い。

潜入しようにも昼間っから堂々と潜入できるほどカルメラの騎士団も甘くないだろう。


(はぁ…夜まで待っ)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(ったけど…うーん、流石に交代制だよねぇ。)


夜になってからもう一度城へと様子を見に行くが門の前にいる騎士団兵の数は変わっておらず人も変わっていた。

本格的にどうしようかなと悩む。


今考えているのは2つ。

1つは、どうせ王のいないカルメラだから多少の問題を起こしたところで少し日が経てば忘れ去られるだろう。

だから護衛の騎士団兵やらを少しの間眠らせて強引に現場を見に行く。


もう1つは、メアリー女王の刺客作戦。


個人的には1つ目の方が楽ではあるが今後のカルメラとユーランシーの関係性的にも身元も顔も覚えられる訳にはいかない。


「どーしようかなぁ。」


(なんか考えるのめんどくさいな…。

前から試してみたかったしやってみるのありだよね。

少し疲れるけど…)


スタシアは目をつぶり、両手を空中ですくい上げるように上に出したまま静止する。

そして、極限で集中する。

視覚的情報、聴覚的情報、触角的情報、嗅覚的情報、

味覚的情報。

全ての情報を自身の集中力のみで遮断する。


そしてゆっくりと目を開くと同時にスタシアは宙を右人差し指でちょんっと 触れる 。


(ふぅ、疲れた。

範囲決めたから尚更疲れた…)


数十秒してから城の門の方を見ると騎士団兵たちが全員倒れていた。


(成功かな…)


スタシアの宿る意思 信愛の意思 は

万物の状態を変える(思考や事象は不可)

つまり、理論上であれば空気の物質的本質すらも変えることが出来る。


スタシアが先ほどしたものは空気の中にある人間にとっては不可欠である酸素を少しの量だけほんの数秒間、二酸化炭素へと変えるものだった。

それも範囲は城の敷地内のみに絞る。


まさに神業であった。

こんなことをしようものであれば同じ信愛の意思者であっても大量に天恵を消費することによって気付かぬうちに死ぬ可能性の方が9割を占めるだろう。

仮に天恵の消費を抑える技術があったとしても空気中の物質を変化させる前と一寸の狂いもなく治す必要があり、それが出来ずに周辺にいる全ての者に多大な被害が出かねない。


「うぅっ、、頭痛い、、…少し無茶しすぎちゃった。

こんなに集中したのは3年ぶりくらいだなぁ、」


スタシアは城の門の前で倒れた騎士団兵達の横を通り抜けて門をゆっくりと開ける。


(護衛はおそらく代わる代わるで行うもので、その交代時間の周期は1時間くらい。

区切りよく交代しているのであればあと10分位で別の騎士団兵たちが城へと来ちゃうかな。

その前にパパっと現場見て宿へ戻っちゃおっと。)


そして堂々と正面から城の中へと入っていく。

城の中は全くと言っていいほど明かりがなく、天恵で明かりをつけなければ唯一の光源は窓に差し込む月明かりのみだった。

時々、廊下に騎士団兵が倒れているがやはりこう見ると警備は厳重だ。


「アーケア王が殺された部屋…どこの部屋までかはさすがに聞いてないし分からないな。

時間もあまりないし、早く探さないと」


そして、少し足を速めながらスタシアは上の階へと登っていく。

4階へと到達した段階で倒れている騎士団兵の量が増えた。

その騎士団兵たちを踏まないように避けながら4階の廊下を進んでいくと一つの部屋の前にで足を止める。


「ここか…」


目の前の部屋は他の部屋とはドアの造りから違っていた。

両開きのドアの左側だけを押して開き、部屋の中を天恵で作りだした明かりで照らす。


(随分…荒れてる、、壁や床に剣での切り跡…

それにこれは…溶けた跡?

剣で切った場所が溶けるなんて…本当に目に見えないくらいの速度で切って摩擦で燃えて…くらいしか思いつかないや。

でも、それならばもっと火が拡大していてもおかしくはない。

けど最大でも切った場所から数十cmのくらいしか火は広がっていない。

天恵を使わない状態での天恵感知は何も反応しない。)


スクリムシリや大した実力では無い者が天恵を使った際には必ずその者の生きた証(天恵)が残るものだ。

そしてそれを感知するのに天恵は使用せずとも容易にできる。


(天恵で体を構築しているスクリムシリ 破 以上でも必ず天恵を使用すればその場に感知できるくらいの天恵が残るはずだ。

けどそうではないと考えると犯人として考えられるのは人間の天帝か…または全く関係ない部外者。)


スタシアは天恵感知に自身の天恵を流し込んでさらに精度を高めていく。


「!!…天恵の痕跡が、、ある、、?」


(どういうこと?やはり人間の天帝が?

いや、だとしたらアーケア王がここまで戦えるのはなぜ?

普通、天帝ならば顔を見られることを避けて遊びで戦いを長引かせることなく直ぐに殺すはず、、

天帝じゃないのか?

だとしたら誰?)


「焼き跡…剣…天恵…」


スタシアはその場で頭をフルで回転させて考える。

ここまで頭を使うつもりは無く、現場を見て心当たりがあれば良いな位だった。

だが天恵が残っており、それに加えて天帝がやった可能性が低いと考えると…間違いなくユーランシー外の者で天恵が使える者がいるということ。


(そんなの一人しか……っ!!)


「マレランッ、、どうして気づかなかったっ!」


ナルバン団長の情火の剣の能力には溶かす作用があると聞いたことがある。

ナルバン団長と戦うことなんて今後ないし人伝で知った情報だからそこまで記憶に残しておくことの程でもないと思っていた。

でも…


「ナルバン団長はオロビアヌスに行った…

そしてオロビアヌスで命を落として 情火の剣 はユーランシーでは消失したという事になった。

けど、それは過去の例に基づいた未確定な結果に過ぎない…

もし、情火の剣がナルバン団長が亡くなった後にまたすぐに相応しい人を見つけた場合…その存在は…

っ!!急いで戻って伝えないとっ、、」


スタシアは直ぐに部屋を出て、城を抜け出して行く。

そんな状況でも頭の中では先程のことをずっと考える。


(仮にマレランだとしてディシくんが気づくはずでは?

もしかして、ディシくんの天恵のみを自身の体内から取り除いた?

いや、そんなことはありえない…

そんなことが出来たら私の天恵技術なんてゆうに超えてる…)


「おやおや…焦っていますね。

どうしたのですか?…そんなにお焦りになって」


城の門を抜けて走り続ける私の前に突然男が現れた。


(っっっ!!!?!??)


間違いなかった。

この国に来てからずっとん感じていたでかい気配。

1つは支操の剣…もう1つは今目の前にいるこの痩せた男。


「天帝…」


「お初にお目にかかりますよ…

天帝慈刑人 悪我の意思 ハインケル・ソッズと申します」

読んで頂きありがとうございます!

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