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天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
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88話 「良いのではないですか?」

会議室内の雰囲気は最悪だった。

そもそも俺とミリィノしか居ない訳だが俺たちの間に会話は無く、この国の命運を他国の王に託しているという状況なのだから当然だ。

俺は 民のために だったり ユーランシーのために といった意識の高い、ミリィノやディシのような考えを持ち合わせている訳では無い。

だが、それでもメアリー女王の役には立ちたい。

それは守恵者である限り、絶対にそういった考えになる。

なのにメアリー女王が精神的なダメージを負っている時に慰めの言葉すらかけてあげられなかった。

ましてやメアリー女王を立ち直らせるのを他国の王に任せてしまう始末だ。

無力感と情けなさで守恵者としての威厳もない。


「アレル…私って本当に必要なんですかね」


「どうしたんだ、突然」


「ディシさんはずっとずっとこの国に仕えてきて消えることの無い信頼と期待が置かれていて…

スタシアちゃんは色々な人の心を救うような明るく強い性格で、、

アレルは強く責任感のある頼りがいのある人。

それなのに私は何も無い…私が居なくても他の三人だけでも天帝とやり合える。

…足でまといなのが、、辛い…」


「ミリィノ…お前は好きな食べ物はなんだ?」


「ど、どうして?」


「いいから答えろ」


「…ワッフルです」


「俺がワッフルを 美味しくない 食感が気持ち悪い 見た目も悪い そんな言葉を吐いたらどう思う?」


「嫌だ…許せない」


「そうだろう?お前がしていることは同じだ。

スタシアやディシはもちろんのこと俺もだがお前という一人の人間を心から信頼していて好いている。

それなのにそんなお前を必要のない存在だと貶すのは絶対に許せない事だ。

それがお前自身であってもな。

今はヨーセルがいるがその前は女性はスタシアとお前の2人だけだった。

そしてスタシアというまだ俺たちからしたらガキのような存在を同性という立場から支えてあげてきたのは誰だ?

ディシに色々な任務が重なり身体的にも精神的にも疲労が溜まった時に、自分の任務でも疲れているのにディシの任務を引き受けたのはお前だろ?

俺が他者と関わるのが得意ではないというのを理解してよく飲みに誘ってくれるのは誰だ?」


「それは…」


「全部ミリィノ…お前だ。

誰もお前のことを必要のない存在などと思っていない。

それに…俺では天帝には勝てない。

俺は三人と違って何かを極めた訳では無い。

悔しいが天帝に一番対抗できないのは俺だ。」


「そ、そんなことは!!」


「あるんだよ。俺は手合わせが嫌いだろう?

一度もお前達と手合わせをしたことがない。

ミリィノ…俺に勝てと言われたら否定なんてしないだろ?」


「…」


「でもな、俺はそんなことをグチグチ引きずるつもりは無い。

俺は俺の役割を理解して動いている。

お前も自分が必要ないとかどうとか考えるよりも自分の役目を考えろ。

そしたらきっと自分の求めている自分になれる。」


やはり俺は人を慰めるのに向いていないな。

言葉が下手で最終的に少し言い方がきつくなってしまう。

理解しているが治せないのも不器用であるからと言い訳してしまう。


(本当に…自分が嫌になる)


「ふふっ…アレル、、本当に不器用ですね…。

ありがとうございます。少し元気が出ました。

また慰めてくださいね!」


「なんでわざわざ俺なんだよ…もっと適任な奴らがいるだろ」


「私は不器用なアレルに慰めて欲しいんだよ?」


「はぁ…気が向いたらな」


するとドアが開く。

俺たちの視線はドアの方へと向く。

そこにいる人物に俺とミリィノは少し笑みがこぼれる。

ミリィノはその人物を見ながら、笑みを浮かべていたのがだんだんと表情が変わり、感情を抑えるように口角が少しずつ下がり始める。

目には涙を浮かべながらもそれを拭うようなことはしない。

そして椅子から立ち上がりその人物に抱きつく。


「メアリー女王ッ!!良かったっ…本当に…良かったです、、!」


メアリー女王は少し驚きながらもミリィノを抱きしめ返しながら笑みを浮かべながら謝罪と感謝を口にする。


「ご心配とご迷惑をおかけしてすみません。

それと…信じて待ってて頂きありがとうございます。

もう…大丈夫です」


メアリー女王の後ろにはアダル王とディシがその様子を眺めながら同様に笑みをこぼしていた。


そしてそれぞれが席に着き、メアリー女王が言葉を続ける。


「皆さん…改めてご迷惑をおかけして申し訳ありません。

もう、負けません…私はこの国の王として…皆さんの命を預かる身として私の責任を全うします。」


この言葉に誰も反応を示すことは無い。

だが、それは決して悪い意味での反応なんかではない。


(本当に…強くなられて、、良かった。)


前とはまた別の顔つきになっていた。

恐らく覚悟や目的、信念は以前とは何も変わらないだろう。

だが何が違うのか…それは明確には分からない。

けどどこか吹っ切れたような晴れたような表情になったように感じる。


「今からの話し合いはスクリムシリに勝ちに行くためのものです。

私の考え、想定、予測を全て話します。

必ず信じて欲しいとは言いません……

いえ…そうではありませんね。

皆さん、今から話すことを…私の言う内容を信じて私に命を預けてくれませんか?

確証なんてありません…でも確信しています。」


少し無言になる。

このような言葉がメアリー女王から出るとは思ってもいなかったからだろう。

みんなは驚いた表情をしているようにも見えた。

最初に言葉を発したのはミリィノだった。


「信じます。

確証も確信もいりません。

私は貴女様の御言葉だから信用します。

この命を存分にお使いください」


「俺もです。

ここまで仕えてきました。

それなのにいきなりここで 信用しません は通じませんからね」


ディシもミリィノも迷いなんてなかった。

もちろん俺もだ。


「俺は言葉なんていりませんね。

逆にメアリー女王…俺たちを信用してください。

必ずこの悪夢を終わらせてみせます」


「もちろんです。

皆さん、ありがとうございます。

それではお話しましょう、」


メアリー女王が話始めようとした瞬間、ミリィノが手を上げる


「あの…ここまで来て聞くのはあれなのですが。

今から話す内容をアダル王がお聞きしてもよろしいのでしょうか?」


「そこも皆さんに信用して欲しい点です。

ユーランシーが他国に守秘していたものをアダル王にはお話しても良いと私は考えました。

これは独断であり皆さんの許可はとっていません。

守恵者の皆さんにはお話するつもりでしたがそれ以外の方にはお伝えするつもりはありませんでした」


「つまり…民の方々には内緒でユーランシーの歴史を正面から否定するということですか?」


少しトゲのある言い方をするミリィノ。

だが、俺とディシはその言い方に口出しはしなかった。

ミリィノのその発言と同様の疑問があったからだ。


「はい。そうです」


一切誤魔化すこともせずにメアリー女王はそう言い切った。

ユーランシーの歴史を考えればこれは前代未聞の事だった。

女王であろうと守恵者であろうと他国に天恵の事をばらすのは重い刑を施される可能性もある。

民たちにバレてしまえばメアリー女王当然、守恵者ですらその地位を危うくするレベルの話だった。


「別に良いのではないですか?」


「「え?」」


俺とミリィノは同じ反応をする。

ディシがまるでスタシアのしょうもない話に相槌を打つように軽く同意をする。


「俺は天恵が他国にバレようがバレまいが今ほどの最悪な状況は起こらないと思っています。

メアリー女王がアダル王に…他国の者に天恵を教えるメリットがあると感じたのであればその選択が最善であるということ。

俺はメアリー女王の選択を無条件で信じてます。

だから、良いのではないですか?」


「ディシさん…」


「そうだな…ディシの言う通りだな。

今更俺たちが止めたところでメアリー女王はアダル王に天恵のことを教えることを同意してもらうまで説得するおつもりなのでしょう?」


「はい」


「俺もディシ同様、貴女様を信じます」


「私だけですか…。どうなっても知りませんからね?」


「そこは私におまかせください。」


メアリー女王はまるでイタズラをする子供のようにイタズラな笑顔を浮かべながら言い放つ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

目を覚ますと見なれた景色。

…では無かった。

いや、見慣れてはいるが眠る前の景色と違っていた。

自分の住処で一カ月ぶりの睡眠を取っていたはずなのに目を覚ましてみればセルシャの 空虚の意思 で作り出した円卓が置いてある空間にいた。

円卓を囲む椅子の一つに座っており、机に突っ伏している形で寝ていたっぽい。


「あら、起きたのね。

こんなに熟睡しているなんて一カ月ぶりじゃないかしら?」


ギャラリスがそんなことを言い放ちながら僕の顔を覗いてくる。

その目には具合が悪くなるほどの好意が感じられた。


(…なんで僕が一カ月寝てないって知ってるんだよ)


顔を上げて周りを見るとセルシャも席に座っておりなにやら集中している。

恐らくだがまだ席に着いていないハインケルを 空虚 の力で強制連行しようとしているのだろう。

実際僕も寝ている時にここまで飛ばされて、今に至るという事だ。

少しだけこの空間移動の仕組みを聞いたことがあるが、セルシャ自身が解析を終えている天恵のみを空間移動の対象にすることが可能らしく僕ら天帝は当然のことのようにセルシャに天恵を与えたりしている。

その天恵を何に使っているかは正直どうでもいいし、興味もないがセルシャもその天恵の見返りとして空虚の空間移動の能力を僕らに使わせてくれるという契約になっている。

発動をするのはセルシャだが合図さえすれば二秒も経たずに目的の地へと着いている。

さすがに遠すぎる距離はセルシャも不可能らしい。


「いた」


セルシャはそう呟きながら指を擦りながら パチン と音を出す。

すると二つの空席が一つだけ埋まる。


「あら、意外とすぐに見つかったわね。

カルメラは広いのによく見つけたものね。

ハインケルのことだから天恵を抑えていたでしょうに」


「いや…連絡もよこさずに急に連れてこないでくださいよ、

普通にびっくりしましたよ。

色々と調査しているところだったのに」


「別に今に始まったことじゃないじゃない」


僕はあくびをしながらそんな二人の会話を聞いているとセルシャが口を開く。


「ハインケル、指示していたことの調査は済んでるか?」


「いやだから、それを調査している時に急に飛ばされたんですよ。

まぁ、ほぼもう終わっていますがね」


「教えろ」


「はいはい…。

カルメラの王であるオーレリア・アーケアが突然何者かによって殺された件。

普段ならば人間ひとりが死のうと無視することなのですが今回はどうやらセルシャが引っかかるようで私が調査していました。」


ハインケルがそんなことをズラズラと話し始める。

僕は退屈だなぁと思いつつ軽く伸びをすると視界にセルシャとハインケルの側近が目に入った。


(珍しい…呼ばれてるんだな)


「ランスロット…しっかり聞いておいてくださいよ。」


「いや、聞く必要ないでしょ?

どうせ恨み買った民に暗殺されたとかでしょ」


「いえ違います。

現場には微弱ですが天恵が残っていました。」


その言葉にセルシャ含む全員が反応を示す。

普通、人が死ぬ時はスクリムシリか僕ら天帝が殺した時、または暗殺や恨みを買ったことによる反乱などだ。

たが、今回僕らはこのアーケア王の暗殺に関しては全くの無関係であり誰かしらの暗殺だと思っていた。

しかし現場に天恵が残っていたということは間違いなくユーランシーが絡んでいる。

のだが…


「皆さんの疑問の通り、ユーランシーの刺客がカルメラに来た反応はありません。

現場を見た時に壁やら床に剣での切り痕とその切り痕に溶けた跡のようなものがありました。

そして私はこの力に心当たりがありますね…」


「…」


セルシャは静かに何かを考えている様子だった。

この件にユーランシーは間違いなく絡んでいないだろう。

だが、ユーランシーからしたらアーケア王殺害は僕ら天帝の仕業だと思うかもしれない。

別にそう思われようとどうでもいいんだけどね。


「心当たりがあるなら教えなさいよ。」


「良いのですか?セルシャ」


「構わない。

どうせ私達には危害のない事だ。

当然、ユーランシーにもな。」


「そうですね。

その心当たりというのが…」


ハインケルの言葉にまたも驚いてしまう。


(へぇ…そんなこともあるんだな。)


「それで、セルシャは何を考えていたんだい?」


「目的だ。アーケア王を殺すことにそいつになんのメリットがあるか…それが謎だ」


「確かにな。」


「今回はこの報告をしたいだけでしたからね。

もう解散で良いでしょう?

そろそろユーランシーからの刺客が来そうですし」


「そうだね、僕とギャラリスはそれに向けてハインケルと合流する準備でもしようか」


「はいはい。」


僕とハインケルとギャラリスは立ち上がり、それぞれの後方にあるドアに向かって歩いていく。

セルシャはまだなにか考えながら席に着く。

そんなセルシャに側近の男は小さい飲み物の入ったカップを置く。

読んで頂きありがとうございます!

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