表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
115/119

109話 「ユーランシー天上決戦⑩」

先駆の意思

・攻撃の全てが致命傷になる。

例えかすり傷でも、その部位から体全身に亀裂が伸びていき、裂けるように破裂する。

一度に消費する天恵の量が多く、天恵の技術量がいくら高くても消費する量を少ししか減らすことが出来ない。


意志『超越』

攻撃:常に相手のワンテンポ先の動きをする。

これに相手との実力差は一切関係ないが、『攻撃』に

使用する天恵が多ければ多いほどより先の動きをすることが出来る。

『攻撃』に太刀打ちできる手段は 相性の良い意思 のみ


防御:天恵を含んだ攻撃を無効化し、その天恵を

『防御』で消費した天恵の1.75倍で自身に還元される。

ただし、身体強化による攻撃、 信愛 や 支操 などの

対象に直接干渉する類の天恵の攻撃はより多くの天恵を消費しなければ無効化できない。

その際の還元率は消費した天恵の1倍を下回る事がある。




(ふぅ…集中しろ。)


僕は今、この人生の中で一番集中しているかもしれない。

いや、間違いなくしている。

目の前には先駆の意思者…能力なんて知らない。

セルシャに聞いても分からなかった程にその希少性は高い。

ヨーセルが持っているあの剣…あれは神器だ。

僕は今のところ神器を天恵の技術のみで作り出せる存在を見た事がない。

あのセルシャですらしてるのを見た事がない。

そもそも神器は物に意思が宿った時にその武器を指す言葉だ。

人間の手で作られて良い物では無い。

剣身の中心には白い淡く光る何かがあり、剣の刃をより一層質の高いものに見せている。


(そもそもセルシャは素手で戦うから神器を作れるかどうかすらも僕は知らないけどね。)


初めてセルシャに会った時のあの圧倒的な存在を前にした時と同じような感覚が今、また感じている。

いや、それ以上だ。

僕じゃない、事象の意思が先駆の意思という存在を恐れているんだ。

セルシャを前にした時ですら一切として怯えていなかった事象の意思が怯えている。

それだけでセルシャ以上に警戒するべき相手という事を物語っている。


(来るっ!)


ヨーセルが一歩を踏み出したと同時に僕の右肩からギリ肺に当たらないくらいまでを切り裂かれる。

血が吹き出すと同時にその傷から亀裂が全身に伸びていく。

ただでさえ痛いのにその亀裂は激痛と共に伸びて最終的に裂けるように破裂する。


「っ、、!」


直ぐに治癒を始める。


(全く反応できなかった…目の前にいるのに…視覚的には捉えていてしかも油断なんてしていなかったのにっ。

それに…意思もなんの反応もしなかった。

今までアビスやスタシアのような圧倒的な存在ならばまだ結果の善し悪しは置いといて選択肢だけは選べたのに…

初めてだ…意思が反応すらしなかったのは。)


ランスロットは直ぐに元の傷を治癒し、亀裂が入った所も治癒を始める。

攻撃される前に集中していたことが功を奏し、治癒の速度が普段よりも格段に上がっている。


「意志『万視』!!」


(くそっ、基本意志の常時発動で戦闘しないといけない。

天恵が尽きる前にこの化け物を殺さないといけない。

出来るのか?)


ランスロットは意志によって数秒先の未来を見る。


(まじかよ…死んでるじゃん。)


即座に意思を使い選択肢を生み出す。

だがその選択肢も二択のみだった。

上半身と下半身を切り裂かれるか、腹部に破恵を喰らうか。


(ヨーセル相手に上半身と下半身を切り裂かれている暇なんて無い。

ならばっ、)


ランスロットは後者を選択する。

するとヨーセルの剣に対してランスロットは剣で迎え撃つが剣同士がぶつかり合った瞬間、ランスロットの剣は粉々に砕ける。

ヨーセルは構え直すことなく剣からそのまま手を離して腹部に両手のひらを押し付ける。


「破恵」


冷静にそう言い放つヨーセル。

だがその威力は今までのどの破恵よりも強力であった。

ランスロットの腹部に大きく風穴を開け、威力が分散されることなく、数キロは離れているユーランシーの南地を囲う城壁の三割を破壊し、そのままユーランシー外の地面を抉り自然を破壊する。


倒れそうになるランスロットの頬をヨーセルは思いっきり殴り飛ばし、破恵で何もかもが吹き飛ばされたユーランシー内の荒地を平行移動しながら吹き飛ぶ。

そして威力が弱まり地面に打ち付けられながら転がる。

殴られた頬から亀裂が伸びて脳にまで届き破裂する。


「ゲホッ…ゲホッ…、、」


腹部の治癒はあと少しで終わり、殴られた箇所と亀裂で伸びた傷も治癒を始めるランスロット。


その脳内では何も考える暇なんてなかった。


(…無理だ。勝てるわけない。

なんなんだ、あいつは。

こんなのどうやって勝てばいいんだよ。

これが意思を宿ったばかりでまだ使えこなせていない者のあるべき姿なのか?

冗談きついよ…)


地面にうつ伏せに倒れながらも治癒を終わらせ、顔を上げるとヨーセルが歩いてきていた。

意思を宿ってからの6年どころか存在自体を正面から否定された気分になっているランスロットに対してヨーセルはただ冷たい顔で感情もなくランスロットを見ている。


「もう一度だけ質問させて。

あなたはどうして天帝なんかになったの?」


ヨーセルは片膝を地面に着け、立ち上がろうとする

ランスロットにそんな言葉を投げかけた。


「…それを君に話して何になるんだ?

ヨーセル…君がそれを知ったところで僕が天帝になった原因を解決できるのか?」


「聞かないと分からない」


「…ハハッ、確かにね。

なら、死んだ妹と僕の大切な家族を返してくれ。」


ランスロットは嫌味っぽく言い放つ。


「僕の妹は…騎士団に殺されたんだ!

国をっ!人をっ!平和をっ!守る騎士団に殺されたんだぞっ!

ふざけるなよっ、、なんでっ、なんでなんだよ…

僕はただ平和に過ごしたかっただけなのに…

いくら貧しくても…いくら苦労しても…それが苦痛なんて一度も思ったことなんてなかった。

それなのにどうしてあの子が死なないといけなかったんだ?

教えてくれ…ヨーセル」


「…ごめん、アンバー。私はそれに対する答えをもちあわせていない。

けど、あなたはまだ人の心を捨てきれていないはず。

天帝の連中と絡む中で自分も人の心を捨てて人を恨んでると錯覚しただけじゃないの?

縛毒や悪我みたいな本当に捨ててる存在と絡むのが本当は辛かったんじゃないの?

あなたは誰かに自分の気持ちを…その辛さを理解して欲しかっただけなんでしょ?」


「知ったような…口をしないでくれよ。

辛さを…僕の気持ちを…大切な人があんな悲惨に殺された時の気持ちを…簡単に共感して理解されてたまるかっ!!

人は直ぐに共感だか励ましだかで外面だけの薄っぺらい言葉に頼ろうとする。

ならば天帝の連中みたいな一切他者に興味のない自分の野望だけを目的としている奴らの方がよっぽど楽だったよ…。

だけど…それだけど…ヨーセル。

君との会話は楽しかったよ。それは本当さ。

君の笑った顔や仕草が妹そっくりだ。

君のように美人で芯のある困った人を見逃さない、

素敵な子だったよ。」


「アンバー、、もう一度やり直そうよ…。

まだいくらでもやりようはあるよ。

やった罪は消えない…けどきっと救われる時が来るはずだから!

私も手伝うからもう一度やり直そう?」


「無理だよ。僕は数え切れないほど人を殺した。

それに対して罪悪感なんて無いし、まだまだ人間を殺す。

ヨーセル…僕は君のことがどうやら好きになっていたみたいだよ。

せめて君のことは僕の手で殺したい。

今の君ではセルシャに勝てない。

だからここで君のことを殺す。」


「…そっか。」


「サイナス『皇冥の終』…ヨーセル、終わりにしよう」


ランスロットのサイナスに対してヨーセルは剣を生成し、棒立ちで迎え撃とうとする。

その顔は少しの悲しさを帯びていた。


「意志『超越・攻撃』」


(ここで意志を使ってくるのか…相変わらず能力なんて分からない。

けど僕のサイナスならば死ぬことは無いっ!

ここで殺し切る!)


ランスロットは全く間合いでは無い位置で天恵を剣に収束させて思いっきり振り始める…

と同時に『皇冥の終』の事象の書き換え 一回目 を使用する。

ランスロットが剣を振ると同時にヨーセルが元から目の前にいたという風に事象を書き換えた。

ヨーセルがランスロットの前に移動した時には既に剣がヨーセルの首元に当たる寸前だった。

が、剣は空を切った。

その威力は砂埃を舞い上がらせるほどだったがヨーセルには当たらなかった。


「本当に…どうなってるんだよ…、、」


次の瞬間に、ランスロットの脇腹が深く切り裂かれ、両腕は切り落ちる。

それに加えて亀裂が広がり破裂することによってほぼ瀕死になる。


その場で膝を着く。

ランスロットは強制的にサイナスを解除せざる得ない攻撃を受けており、攻撃が当たらなかったという書き換えができなかった。


(それより…どうして、、)


「なんで?」


「何が、」


「なんで殺さなかったんだ?君なら首を切り落とすことも出来たはずだ。

なんでしなかった?」


「まだ…諦めてないから。

私はどうしてもあなたが悪い人だとは思えない。

殺さないといけない存在なのは分かっているし沢山人を殺したのは許されることじゃない。

だけどあなたは復讐のためだけに生きている。

そんなのは間違っていると思う。」


「理由に…なってないな。

僕が危険とわかっているなら尚更殺さないといけないじゃないか。」


「今、あなたがその答えを続ける限り、私はずっと説得する。」


「しつこい女性だな。

でもなんでだろうな…嫌いになれないよ。

惚れた弱みってやつか」


「アンバー…もうこんなことやめてさ、、普通の人になろうよ。

復讐とか憎しみとか忘れて…

惚れた女のお願いだよ?」


「…惚れた女だからこそ、願いばかりを聞き入れてはいけない。

それは依存だからね。

それに復讐と憎しみで生きていくのを僕は間違いだとは思わない。

もう話は終わりだ。

ヨーセル。

次で最後にしよう。」


ランスロットの目は覚悟を決めた目だった。

それはヨーセルも同じだった。

ヨーセルは本気でランスロットが改心を望むのであれば自分に出来ることはするつもりだった。

初めて心の底から笑い合える存在に出会い、その存在を手離したくないという理由が大きかったからだ。

けどランスロットはそれを望まなかった。

ならば何をするべきか。

それはちゃんと自分の手で殺すこと。


「サイナス『皇冥の終』」


ランスロットはもう一度サイナスを発動する。

ヨーセルはランスロットの目を見たあと、少し悲しそうな顔をした後に、人を殺す目へと切り替わる。

剣の取っ手を片手で持ち縦にする。

目を瞑り、剣身の上の方、中心部を手のひらで押し付ける。

そして目を開き言う。


「サイナス『万感の(ともしび)』」


勝負は一瞬。

互いにぶつかり合った瞬間、ヨーセルの剣がランスロットの心臓を貫いていた。

そして亀裂が全身に伸びていき、ランスロットの頬まで伸びていく。

だが今回は破裂はせずに亀裂だけで止まる。


ヨーセルは剣を思いっきり引っこ抜き、ランスロットはその場に仰向けで倒れる。


(天恵が漏れていく…あぁ、やっとか。やっと。)


「どうして…?どうして事象の書き換えをしなかったの?

あなたならまだ助かったでしょ。」


「僕は…心のどこかで望んでいたのかもしれない。

死にたいって。早く楽になりたいって。

死んだらまたプリミアに会えるんじゃないかって。

けどさ…こんなにっ、、こんなに人を殺した僕が…あの優しい子と同じ場所に…行ける訳が無いんじゃないかって、、」


涙を流し、苦しそうに話すアンバーに対してヨーセルはアンバーの顔の近くでしゃがむ。

そして頬に手を添える。


「行ってらっしゃい…アンバー」


驚いた顔をしながらも、ヨーセルに向けて笑みを作る。


「惚れたのが…君でよかったよ。ヨーセル」


すると突然、ヨーセルの顔がプリミアに変わる。

辺りは真っ暗であり、自身とプリミアがいる空間だけ白く淡く光っている。


「お兄ちゃん…」


「プ、プリミア…?」


「そう…だよ、、」


「そうか…死んだんだよな。

ごめんな…こんなお兄ちゃんで…お前だけは絶対に守るって決めてたのに…守れなくて。

それで自暴自棄になって人を沢山殺した。

みんなの前では大人であり続けたのに、いつまでも子供みたいに冷静になれずにその後も悪いことを沢山してきた。

こんなダメな兄でごめん。

俺はもう行くよ…最後に顔が見れてよかった」


ランスロットは立ち上がり、暗闇の中へと歩き出そうとする。


「待ってっ!お兄ちゃん…」


ランスロットの手を掴んで止めるプリミア。


「私、お兄ちゃんがダメだなんて思ったこと一回もない

パパもママも私達を捨てて、いなくなっちゃって…

それでもお兄ちゃんはずっとずっと私たちに明るい姿を見せ続けてくれて…

凄く安心したんだよ…

確かに人を沢山殺しちゃったのはいけない事…

罰を受ける義務がある、」


「だから俺はこの暗闇に向かうんだ。

プリミアはこの明るいところにいるんだ。

きっと、然るべき場所に行ける。」


「だから!違う違う違う!バカ!アホ!マヌケ!

そうじゃないでしょ!

私とあなたは兄妹なの!!

同じ血を通わせているの!!

だから一人で責任を取ろうとなんてしないでよ!

私が…一緒に罰を受けるから…私が…一緒にいるから。」


プリミアはランスロットの前に回り込み抱きしめる。

するとランスロットの目から自然と涙が流れ出てくる。


「あ、あぁ、どうしてっ、どうしてっ…

ああああぁあぁぁぁあ!!ごめんっごめんっ!

約束したのにっ、心に決めていたのにっ。

何一つ約束もっ!皆も!守ることが出来なかったっ、

なんでっ、どうしてっ、なんでこんなに苦しまないといけないんだって…ずっと、ずっと辛かった」


「そうだよね…辛かったよね。

ごめんね…一人で抱え込ませちゃって。

お兄ちゃん、ありがとう。これからは私がずっと一緒だから。

罰…を、、受け…るからっ、」


プリミアも涙を流し言葉を詰まらせながら言う。


「うあぁぁぁぁぁぁああっ!!」


ランスロットは子供のようにプリミアの腕の中で泣き叫ぶ。

真っ暗な空間の中で二人の兄妹という消えることの無い小さく大きな光が存在し続ける。


「おかえり、お兄ちゃん」





ヨーセルの手がランスロットの目から離れる。

涙を流し、どこか晴れたような表情をしながら息を引き取った。


(天帝にも理由がある…人にはみんな事情があるんだ。

それが仮に良い事悪いことであってもそれが自身の生きる望みなら誰にも止められないんだ。

けど…スクリムシリは違う。

あれだけはちがう。許してはいけない存在だ。)


ランスロットの横で膝をつきながらそんなことを考えていると後ろから気配がして振り返るとディシがこちらに向かってきていた。


「ヨーセルッ!だ、大丈夫か?」


「ディシさん、、大丈夫です。ディシさんは?」


「俺も問題はない。事象は…そうか。殺ったのか。」


「…はい。」


「浮かない顔をしてどうした?」


「…天帝でも…沢山人を殺してきた人でも…その人にはそれなりの理由があったんだと知りました。

人は感情で動く生き物です。

時に冷静を失い、時に狂気的に暴れる。

それを救い出すのはとても難しいこと。

一概に天帝が全て悪いとは言えないと実感していました。」


「…そう、なのかもな。

俺たちみたいな人を守る立場でも必ずしも善人ばかりとは限らない。

だが、できる限り善人が増える事が今の課題だろうな。」


「…はい」


ディシはヨーセルに手を差し伸べ、その手を取りヨーセルは立ち上がる。

そして荒れ果てて無惨な姿になったユーランシーを見渡す。

読んで頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ