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天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
114/118

108話 「ユーランシー天上決戦⑨」

6年くらい前だろうか。

僕は木々に囲まれた場所で、故郷を失い、身寄りのない子供達 およそ14人の世話をしていた。

その中には16になる妹もおりその時、僕はまだ18であり世間から見て子供なため、皆の兄貴的な存在だった。

両親は気がついたら居なくなっていた。

父親が他の女と遊び呆けて家に帰ってこなくなり、母はそんな僕と妹のプリミアを捨てて姿を消した。

その時から大人には極力頼らないようにしていた。

小さな村ほどの大きさしかない土地で、気候にあった食物を育てたり、自分たちで工夫して遊べる場所を作ったりしていた。

決して裕福でも生活に余裕があったわけでもなかったが、苦しいなんて1回も思わなかった。


「お兄ちゃん!もう!お洋服また脱ぎっぱにしてる!

まだ小さい子達が真似したらどうするの!」


「ごめんってプリミア。あ、そろそろ時間だ。

今日は近くの国に行ってくるからみんなを頼んだよ」


「うん!気をつけてね!」


毎日が充実していた。明るく優しい妹、辛い生い立ちながらも今を必死に共に生きてくれる子供達に囲まれながら仕事に行く毎日。

休みなんてほぼ無かったが疲れはみんなの顔を見たら吹き飛んでいた。

僕たちの家はカヌスというあまり良い評判を聞かない国の近くにあり、僕はそこで雑務の便利屋的な事をして日金を稼いでいた。

あの子達に少しでも満腹感を与えたくて自分の分の食事は木の実1つと川の水のみ。

浮いたお金でパンやフルーツ、多めに稼げた日には肉を1切れ買って行ってあげた。



「クッソ!汚らしい身なりしてろくに仕事も出来ねぇのか!クソガキ!」


荷物を運ぶだけの仕事の時、少し距離が空いてしまっただけで頬をぶたれて腹を蹴られた。

そんなことなんてザラにあって慣れっこだった。

全てはあの子たちのためと考えたら耐えられる。


それに、僕は手を汚すことなんて1度もなかったのだ。

妹やあの子たちには綺麗なお金で買った食べ物を食べてもらいたかった。

あの子達には真っ当に育ってもらうために僕は理想のお兄ちゃんとして振舞っていた。

何度か、盗みを働こうと考えてしまったがプリミアの悲しむ顔を想像したらそんなことなんて出来るわけなかった。


ある日、少し帰りが遅くなってしまった日があった。

みんなは既に寝てしまっているだろうかと思い、家に着くと、まだ火が消されていなかった。

それなのにみんなの姿が見えず、消し忘れたのかなと思いながら火を消そうとしたら後ろから


「せーのっ」


と聞こえてくる。

振り返ると同時に


「おめでとー!!」


と子供達、全員が僕に飛びかかってハグをしてくる。

小さい子達と言えど全員に抱きつかれたらバランスを崩してしまう。

受け止め切れずに尻もちを着いてしまう。

何が起こったのか分からずに呆然としているとプリミアが前に出て話し始める。


「お兄ちゃん!今日お誕生日でしょ?だからね!私たちから誕生日プレゼントがあるの!」


「え?誕生日?」


「あ!やっぱり忘れてる〜」


「俺が言った通りー!」


「兄ちゃは絶対忘れてると思ったぜー!」


そんな掛け合いをまだ状況が呑み込めていない俺は見ている。


「カヌスの文化でね、生まれた日にプレゼントを送り合う文化があるんだって。

だからね!私たちで秘密でお金を貯めてお兄ちゃんにプレゼントを買ったの!」


「買ったって…いつの間にカヌスに…?」


「うっ…それは…ごめんなさい。でも、お兄ちゃんにどうしてもプレゼントあげたくて」


申し訳なさそうに謝るプリミアの頭を優しく撫でる。


「怒ってなんか無いから安心してくれ。少し驚いただけだから」


「ほんと?良かった!あ、これがプレゼント!」


プリミアが綺麗な包装された箱を渡してくれる。

早く開けて〜! だったり 遅い〜 と野次を飛ばされながらも丁寧に開けていくと綺麗な青みがかった宝石が着いたネックレスが入っていた。


「ネックレス…綺麗…」


「お兄ちゃんの髪と目って青じゃん?だから良いかなって…あれ?お兄ちゃん?どうしたの?嫌だった?」


僕はそのネックレスを握りながら涙をこらえる。

そして子供たちを抱きしめる。


「ありがとう…ありがとう…こんなに嬉しい気持ちになったのは初めてだ。

一生大切にするっ」


「も、もーお兄ちゃん!恥ずかしいよ!

それと、いつもありがとう!お兄ちゃん!」


僕はこの子達を一生守っていくと心に決心した


次の日だった。

いつもみたいに仕事から帰り、子供達にご飯を配って美味しそうに食べているところを見ていたら、急に爆発が起こった。

急な大きな音にみんなは驚いてパニックになってしまい、僕はそんな皆を落ち着かせながら家の中へと誘導した。


「僕が様子を見てくるから、みんなは家の中から出たらダメだよ」


「お兄ちゃん、私も行く」


「ダメだ!危険すぎる。何があるか分からないだろ」


「だからだよ!お兄ちゃんだけだと危険だもん!」


「…分かった。いいか?プリミアと僕で見てくるからみんなは静かに家の中で待っててくれよ」


皆は口を押えながら頷く。

僕とプリミアは家から出て、爆発した方を見るとみんなが一生懸命作っていた遊び道具をしまってある手作りの小屋が跡形も無く無くなっていた。

爆発の影響で火がついており、僕とプリミアはこれ以上火が広がらないように消そうとする。


(どうして急に!なんで!爆発するようなものはここには保管していなかったはずなのに!)


と、次の瞬間だった。

家が大爆発を起こした。

木製で出来た家は小屋同様跡形もなくなり、焦げた木だったりが飛んでくる。

それと同時に僕の足元に何が真っ黒いものも飛んできた。

それを見下ろしながら見て言葉を失うと同時に吐き気が襲ってくる。


「嘘だ…、そんなの嘘だ…!うそだぁぁぁぁああ!!」


子供の1人が上半身だけ丸焦げになって飛んできたのだ。

あの爆発、恐らく家にいた子達は全員即死だっただろう。

どうして…なんで…その時は立ち尽くしながらそればかりを考えていた。

しかし、急に手を引っ張られてハッとした。


「お兄ちゃん!早く逃げないと!!」


爆発した方を見るとカヌスの騎士団の格好をした者達がぞろぞろと歩いてくるのが見える。

僕は咄嗟にプリミアを連れてその場から全速力で逃げ始める。



気がついたら夜が明けていた。

大木に寄りかかってプリミアを抱きながら眠っていた。

昨日の逃げてからの記憶が曖昧だ。

どれくらい走ったのだろうか、足がすごく痛い…。

まだ眠っているプリミアをソッと退かして辺りを見渡した瞬間、昨日の光景を全て思い出す。

僕は地面に這いつくばり、その場で吐いてしまう。

何も食べておらず胃液しか出てこない。


「はぁ、はぁ、はぁ、どうして…なんで…」


一日にして僕が守ってきたものがほぼ無くなった。


「守れなかった…なんで!どうしてだよ!!なんで僕たちだけこんな苦しい思いをしないといけないんだ!!

神様はどうして平等じゃないんだよ!!!」


僕は天にそう叫ぶ。

すると暖かい何かに包み込まれる感覚があった。


「お兄ちゃん…落ち着いて…辛いよね…苦しいよね。

でも、そんなに自暴自棄にならないで…。お願い…」


プリミアは膝を着き泣き叫ぶ僕の頭を優しく包み込み、涙を流しながらそう言う。

プリミアだって辛いはずなのに、それなのに僕だけの責任だと思わせないためにそう言ってくれた。

情けない兄だ…。子供たちも守れず、現実を受け入れることも出来ず、妹に助けて貰ってばかりのこんな兄…。


「ごめん…ごめん…」


その瞬間、俺は決心した。

プリミアを必ず守ると。

あの子達のためにも、俺たちが必死に生きなければならないと。

そんな決心なんて無駄でしか無かった。

まやかしでしか無かった。


大木の周辺でしばらく身を隠しながら過ごしていた時に、木の実を集め終わってプリミアの元に帰るが姿がなかった。

何故か、嫌な予感が走り、俺は色んなところを探した。

でも、どこもいなかった。

そして、俺は汚れたローブのフードを深く被りカヌス内も探した。

必死に探し続けた。

大人なんかに聞くことなく。

そして、見つけた。

カヌスの壁沿いにある小さな薄汚れた空き家の中で、

プリミアは服を着ずに全身痣だらけのまま死んでいた。

妹は…プリミアは…俺が留守にしている間にカヌスの騎士団員数名に見つかり連れ去られ、人気のない空き家で抵抗虚しく犯されて最終的に首を切られて死んだのだ。

それも、犯したあとすぐに殺すのではなく、全身の至る所を殴るなり蹴るなりして痛めつけて殺したのだ。

俺は、プリミアの死体を抱えながら泣き叫んだ。

どうして…俺だけこんな目に遭うんだ。

プリミアは何もしていないじゃないか。

ただ、平穏に暮らしたいだけなのにどうしてこんな目に合うのだろうか。


その時だった。

目の前が急に真っ暗になったと思ったら白い空間にいた。

そして目の前には黒い人の形をした者。

その人は俺に話しかけてきた。

殺せ、大勢を… と。

そして、手を差し伸べてきた。

全てがどうでも良くなった俺はその手を取る。

気が付いたらカヌスの中央城にいた。

全身に流れる何か凄まじい力。

これがなんなのかは分からないしどうでも良かった。

今はとにかく、この国を滅ぼすことのみを考えていた。

そして、門番である兵士2人を市民が歩いている目の前で頭を潰して殺害。

中央城へと入っていく。

今まで喧嘩なんてロクにしたことがなかったし、したくもなかった。

だが、そんな自制心なんて既になかった俺は次々と騎士団や貴族共を殺していった。

その時は気にならなかったが相手が攻撃を仕掛けてくる時に無数の選択肢が頭で勝手に処理され、その中の一つを選択することが出来た。

そして、その選択した通りに物事が進む。

それを利用して一撃も喰らう事無く、次々とカヌスの住民を殺していった。

そして、目の前には大きな扉。

それを開くとカヌスの王を囲むように大勢の騎士団が並んでいた。

なにかの集まりだったのだろう。

扉の方を見るなり剣を構える。

それもそうだろう。

血だらけの男が1人で入ってきのだから、


しかし、1人の騎士団員が前に出てきて笑いながら言う。


「お前…もしかしてあの女の子の兄か?

ハハッ、妹犯されて怒りでここまで来ちゃったってか!

あのガキも最後の方は少し緩くなっちまって全然気持ちよくなかったけどさ、まぁ顔だけは良かったから許してやるよ!」


あぁ、そうか…大人はどこまで行っても汚くて…ゴミしかいないんだ。

次の瞬間にはこの部屋の王含む人間全員を皆殺しにしていた。

中央城を出ると同時に中央城で手に入れた剣で城を破壊する。

その後、怒りが収まることなどなく子供を除く、約190万人のカヌス国民を皆殺しにした。

これは後にわかった事だが大陸内で今世紀最大の事件として広まっていたらしい。

犯人が分からないことから呪われた国としてこの大陸内では存在しなかった国という風に扱われて、今では口にすることは許され無いほどだ。


カヌス内は火がそこら中に広がっており、親が死んだ子供たちが至る所で泣き叫んでいる。

子供は自分の手では殺せない。

尊く美しい存在。

だが、この国の子供は違う。

俺の大切な者を奪った国の子供が大人になった時の想像なんてしたくなかった。

だから、そんな残酷な人生を歩む前にそのままカヌスに放置した。

カヌスの周りには木々が沢山生えており自然豊かだが、カヌスの城壁内になった途端自然など一切なく壊れた建物の残骸や焼けた土のみが広大な土地に広がっていた。

所々に丸焦げになった死体もある

俺はその光景を見ても全く怒りは収まらなかった。

むしろ、人間に対する憎しみが増えるのみ。

俺が見るも無惨な姿になったカヌス内で膝をついて涙を流す。

服は返り血で真っ赤に染っており、髪の毛にも付着していた。


「プリミア…会いたいよ。」


「何してるの、あなた」


背後から声がして、すぐに振り向き数歩下がる。

全く気づかなかった。

この力を手に入れてから五感がとてつもないほど研ぎ澄まされたのを感じたのにそれでも気づかなかった。

伸ばした黒髪、毛先は赤く、瞳も黒と赤が混ざっている。

白いワンピースを着た幼い少女。

歳は10行くか行かないかくらい。

だが妙な雰囲気があり、この世の全てを理解し、見透かしているような目。

残酷で冷たい目、何にも関心を示さなそうなほど表情の変化が無い。


「聞こえてなかった?何してるの、あなた」


不思議な感じがする。

見た目は幼い少女なのに声はちゃんとした成人女性の声。

少女な見た目なのだが身長は150はあるとは思う。

めちゃくちゃ童顔だから幼く見えるのだろうな。


「なんだ、お前」


「質問を質問で返すんだね。もう1回聞く、何してるの、あなた」


「答える義務は…」


答えないと言おうとした瞬間、右腕と右足が吹き飛ばされた…いや、その部分の空間が丸々無くなっている…?

痛みは無い…


「答える答えないとかどうでも良い。

今、あなたの中にあるその能力に私は興味が出てきた。」


目の前の少女が右手の親指と中指を擦り合わせて パチン と音を鳴らすと俺の体が元通りに治る


「答えないと次は激痛と共に下半身を無くすよ」


言っていることは恐ろしいが穏やかな喋り方のせいで緊張感があまり無かった。

少女は ハッとした表情をいきなりする。

驚きながら


「事象の意思…」


目の前の少女はそうつぶやく。

俺は全く意味がわからなかった。


「お前は…何者だ」


目の前にいる少女とは超えることの出来ない圧倒的な壁を感じ、それのせいで冷静になる。

冷静になったことで自分はとてつもない疲労で立っているのもやっとなことに気がつき、その場で耐えられずに膝から崩れ落ちてしまう。


もう立つ事すら出来ない俺の目の前に立ち、先程の問いに答えてくれる。


「天帝慈刑人 空虚の意思者のセルシャ。

あなたの野望はなに」


いきなり質問を変え、意味不明なことを聞いてくる。

野望?そんなもの、今の俺にあると思うのか?

こんなにも人を殺して、大切な者も無くなった俺に叶えたいことなんて…


「大人の人間を根絶やしにしたい。

今の子供が大人に育つ前に…今の大人を見習わないように…。」


自然と口が動いていた。

考えてもなければ黙りこくるつもりだったのに何故か口が動いてしまった。


「…あなたはこれからその野望を叶えるために必要な行動を取ればいい。

環境は整えてあげる。

天帝慈刑人 事象の意思者 ランスロット・アンバー」


俺はそれから大勢の人を間接的にスクリムシリを使って殺した。

スクリムシリには眷属があり、事象の意思者の眷属として多くのスクリムシリを天恵によって生成した。

人間の中で6段階でスクリムシリは強さ分けをされているらしい。

その中でも 破 の強さに相当するスクリムシリを作り出すには時間も天恵も使った。

自身の能力を理解する努力をすると同時に毎日、より強いスクリムシリを作り出すことに没頭した。

俺は強くならなければいけない。

弱いと何も守れない…誰も救えない…。

ここまで必死に強くなってきた。



それなのに…目の前には 始まりの意思の 『先駆の意思』がいる。

圧倒的な存在感。

俺の6年を否定されたような気持ちになる。

不快感とともに憧れもある。


「アンバー。あなたを殺す」


プリミアのように美人だ。

ルシニエ・ヨーセル…メルバル総戦の時に君が僕の作った 人型のスクリムシリ に殺されていればここで戦わずに済んだのに。



「ルシニエ・ヨーセル…君と仲良くなれて良かったよ。

それじゃあ、始めようか」


自分の野望のために悪者を全うしよう。

事象の意思者として。

読んで頂きありがとうございます!

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