106話 「ユーランシー天上決戦⑦」
「…っ!!」
ヨーセルは勢いよく目が覚めて体を起こすと、そこは見慣れない景色のベッドの上だった。
そのベッドは王族の立場の者が寝れるようなそれほどまでに高級なベッド。
(どこ、、ここ。)
自分の手を見ると、細く肌白く綺麗な肌。
(私の腕って…こんなに細かったっけ…)
すると扉が勢いよく開き、知らない男性や女性がぞろぞろと息を切らしながら入ってくる。
その者たちは地面に膝をつけて神に感謝するかのように涙を流しながら天に感謝を述べている。
私は驚きながらも意思とは別の行動をとる。
ベッドの縁に座り、その人達に話しかける。
だが、自分では何を言っているのか全く分からない。
すると突然場面が変わり、綺麗な舞踏会の会場へとなる。
私は綺麗で豪華な服を着ており、周りの上品な人達もしまった格好をしている。
どうやら私の誕生日なのだろう。
ここまで来れば何となく察した。
これは誰かの記憶なのだと。
そしてここはホールディングスであり、今と少し作りが違うため相当前の記憶だと。
(これほど盛大に祝われるって…一体誰…?)
するとまた場面が変わる。
服は変わっておらず、だが、目の前には私の手を引きながら走る男性がいた。
そして私達が着いた場所は木々に囲まれた場所でそこには月明かりがちょうど綺麗に光差す空間があり、そこに二人座り上を見上げる。
私とその男性の手が重なり、指を絡める。
男性は笑顔で私に話しかけて、口を隠す動作から私もきっと笑っているのだろう。
そして見つめ合い、顔を近づけるところで場面が変わる。
民達と挨拶をしながら街を回っている。
色々なものをくれたり挨拶をしてくれたりとどうやら相当な人気を持つ者らしい。
すると前から汗を流し、息を切らす一人の農民の姿をした男性が走ってきた。
何かを私に伝えて、それに対して私は男性が走ってきた方向に走り出す。
そして案内された場所に来て言葉を失う。
子供も大人も、女性も男性も、家畜も…何もかもが無惨に殺されておりまるで地獄のような惨状だった。
私はそこで過呼吸を起こして地面に倒れる。
そして場面が変わった。
私は剣を持っており、一人でユーランシーの領地外へと行こうとしていた。
だが足を止めて後ろを振り返ると多くの民が同様に武器を持って立っていた。
恐らくそれに驚いたのだろう。
私は手で目を拭う。
そして何やら声を出し、剣を掲げる。
それにつられるように民たちも武器を上に掲げて叫ぶ。
そしてまた場面が変わった。
目の前には長身の男。
まるで生気のない目…感情も何も無いと言わざる得ないほどに表情の変化が無い。
その男の後ろには沢山のスクリムシリ…それも全部が
破 の強さを持っていると確信させるほどの圧。
そして次の場面。
民たちは皆殺し、私も重傷を負っておりもう動けないのに対して相手の戦力は少しも削れていない。
長身の男が私に向けて剣を振り下ろすと同時に、私と長身の男との間に誰かが割り込んでくる。
そしてその人は深く体を切られて私に抱えられる。
その人は一緒に月を見た男性だった。
私の顔からポツポツと男性に水が落ちる。
必死に叫んでいるんだとわかる。
男性は何かを私に言ったあと、息絶える。
私は男性を床に寝かせ、静かに立ち上がる。
そして場面が変わる頃…スクリムシリ 破 と長身の男は既に死んでおり、私自身も血だらけになりながら息を切らし、その場に倒れる。
そこで記憶は消える。
また真っ暗な空間へとなる…と思ったら私は意識を失う前の体勢で目が覚める。
そして顔を上げると私の手をそっと握る毛先の白いメアリー女王に似た美しい女性が少し体を屈めて立っていた。
「おはようございます。ルシニエ・ヨーセルさん。
初めましてですね」
「あなたは…?」
「そうでしたね。私はアシュリエル・ミレー。
アシュリエル・メアリーの先祖に当たる者です」
(メアリー女王の?)
ヨーセルは驚いていた。
メアリー女王と違ってミレー女王は無愛想で一切表情の変化は無かった。
「立てますか?」
私は急いで立ち上がる。
そして改めてミレー女王を見てその存在に驚いてしまう。
強さが全く感じない。
何も分からない。
視覚的に認識しているはずなのにそこにいないと思わせるほどに強さが読めない存在。
「私の記憶を少し見たのですね。
…酷いですよね。こんな人生をあゆむなんて私は思ってもいなかったです。」
「何があったんですか…?」
「私は…目的を失ったんです。
民を大勢殺され、婚約者も殺され、そして最終的には感情も殺された。
ただスクリムシリを殺す為だけに存在している兵器として。
あなたが生きる時代まで私の生き様は残され続け、英雄だなんて言われています。
けど、私は英雄なんかじゃない。
何も守れなかった…。」
ミレー女王が足でトントンと床を叩くと一瞬で場面が変わる。
私とミレー女王は体が少し透けている。
どうやら私達はミレー女王の記憶を共に見ているようだ。
医務室のような場所で眠るミレー女王。
「…あの戦いで私は何もかもを無くしました。
それなのに私の命は捨てることが出来ずに残ってしまった。
これのせいで…」
ミレー女王は自分の心臓部の服をギュッと掴む。
そしてまた場面が変わった。
ミレー女王は大勢の武装した集団の前に立ち、何かを話していた。
「ここからでしたね…騎士団ができたのは。
本当は私は一人で戦うつもりでした。
けど、民達はそんな私を許してくれなかった。
私と違って強大な力を手にした訳でもないのに立ち向かおうとした。
当時は実感がなかったですがその気持ちだけできっと嬉しかったんだと思います。」
また場面が変わる。
目の前には4人の男女、その後ろには11人の人型スクリムシリ 破 。
「今で言うこの4人は天帝という存在でその後ろの11人は側近と呼ばれるくらいの存在。
対して私は一人で立ち向かっていました。
危機的状況以外のなんでもないのに私は恐れも何も無かった。
ただ目の前に敵がいる…それだけだった。」
「天帝…」
「事象、災理、蝕仏、旋絆…
この4つの意思を宿した天帝。」
4人の天帝が動き出し、11人の人型もそれに合わせて動き出す。
それに対して記憶の中のミレー女王は剣を生成したと同時に剣を消す。
そして全員の動きが止まる。
すると11体の人型の首、全てが切り落とされる。
災理の天帝の首も切り落とされ、残りの天帝は上半身と下半身が切断される。
だが、今と比べても恐ろしいと思うほどに三人の天帝は治癒を始め5秒くらいで完全に終え、三人が同時に
サイナスを発動させる。
だが事象以外の二人の天帝に対して距離をガン詰めし、
蝕仏の天帝の心臓を捻り切り、剣を持たない片手で旋絆の頭を殴り潰す。
そして事象の天帝に対して直ぐに攻撃動作へと移す。
事象の意思のサイナスである事象の書き換えをミレー女王は正面から無意味と感じさせるかのように 意志 を使用して破壊する。
気がつけば天帝4人、人型スクリムシ 破 11体が死んでいた。
ミレー女王は一度も攻撃を喰らうこともなく、息も切らさずにただただ立ち尽くしている。
「…この時は私はまだ未熟でしたね。
意志 を使わなければ事象の意思を宿る天帝を殺すことが出来ませんでした。」
(何を…言っているんだ?これで未熟?)
ヨーセルはいよいよ目の前の女性が同じ人間かが分からなくなってきた。
「どうして…そこまでの力を?」
あえて聞かないようにしていたことを聞かずにはいられなかった。
「…私はあなたをずっと見ていた。
2000年間、あなたが産まれるのをずっと待っていたの…。
そしてあなたが産まれた時に希望が出来た。
ずっと…探していたし…待っていた。
けど一度…でもあなたは、また産まれてきてくれた」
ミレー女王はそこで初めて涙を流す。
何が何だか分からない私は少し慌てながらもミレー女王の顔を覗き込む。
それに気がついたミレー女王は表情をできるだけ戻しながら言葉を続ける。
「私は始まりの意思『先駆の意思』を唯一宿った存在です。
そしてこの意思を次に託す人を決める権利は私にあります。」
先駆の意思…天命の意思の一つであり全ての意思の始祖と言われている。
「どうして…私なんですか…?」
「そうよね…そこから説明しないとですよね。
…意思は人間が作り出した…人間がコミュケーションを取る為のものだと思っている人がほとんどです。
私もそうでした。
けど、違った。
意思 は 天使 なのです。」
「…てんし?」
「はい。天使は神の『言葉を届ける使者』なのです。
意思は人間よりも先に神によって作られた天使なのです。」
ミレー女王がもう一度足をトントンと地面を鳴らすと
場面が変わる。
教会のような場所に民達が多く集まって祈りをしている。
「私は一度不治の病にかかりました。
もう死ぬ寸前というところでしだ。
けど民たちが毎日毎日欠かさずに教会で祈りをしてくれてた…そんな時にその女性は現れたのです。
いえ、女性かどうかは分からない。
けどそのような姿をしていた。」
ミレー女王がそう言うと同時に民達の前に光が差し込み、綺麗な白髪を靡かせる美しい女性が現れた。
「…この人が意思の集合体…言うならば『意思の意思』
この人はこの世に存在する全ての意思を集結させた存在であり、私に『先駆の意思』と天恵を与えた存在です。」
白髪の女性は光をもう一度光らせるともうその姿は消えていた。
そして場面が変わり、先程私がミレー女王の視点で見た状況と同じものが流れる。
「この先はヨーセルさんももう見ましたよね。」
そしてまた先程の場所に戻ってくる。
「…その『意思の意思』は何が目的だったんですか?
こいつが…天恵を世に放った。
そんなことしなければお父さんも、お母さんも…村のみんなも、スタシアも死ぬことなんて無かった!
何が目的だったんですかっ!!」
「…分からないの。
私にも目的なんて…。
私も一生をかけて目的を突き止めようとした。
けどいくら『先駆の意思』を宿ったからと言っても寿命には逆らえなかった。
だからあなたにそれを託したい」
「え?」
「意思の目的も天恵の存在もスクリムシリの理由も。
あなたに私の意思を継いで欲しい。」
「そ、そんなの私より適任な人なんて沢山居ます。
あなたの子孫であるメアリー女王だって私より頭も良いし冷静でいられる。
どうして…」
「私と…髪色が一緒だったから」
「…は?」
「この世界には色々な髪色の人がいる。
それの全てには意味があるの。
どの意思に 適正 できているかどうかを表している。
この世界で最も稀な髪色が私やあなたのように生まれつき毛先だけ白い存在。
その次に生まれつきの純白である髪と毛先だけ赤い色。
それが目印であるということ。
あなただって体験したことがあるでしょう?
毛先だけ白いのが嫌でそこを切り落としたらまた毛先だけ白く変わったという経験。
その髪色に抗うことは出来ない。」
「その色になんの意味が…」
「純白は 優しさの塊
毛先が白で他は黒…あなたや私のような髪色は 微かな優しさと微かな正義。
毛先が赤で他が黒は…微かな悪意と微かな正義
純赤は 悪意の塊」
「悪意の…塊?」
「純赤は宿る意思が無いです。
天命の意思の中でも先駆か空虚が宿った後に、
宿り主の心に悪意だけで埋まった際にその色になります。」
「信愛や事象はならないのですか?」
「信愛はそもそも宿る条件に心の優しい者とありますので悪意に満ちた瞬間から信愛は消えます。
そして事象は同じく天命の意思と言われていますが
先駆、空虚、信愛と比べたらその能力は劣ります。
悪意に染まったところでこの三つの意思には勝てないのです。」
「…そう、なんですか。
私が先駆の意思を宿る素質があるのですか?」
「ずっと見てきて私とあなたは似ていると直感しました。
所々性格が悪くて、けど人が大好きで…
何よりも…生きるということに対して強い芯のある執念がある。
ヨーセルさん…『先駆の意思』を引き継いでくれませんか?
あなたが『先駆の意思』を宿ったらどのようになるかは分からない…
誰にも託したことがないから。
私みたいに感情が出せなくなるかもしれない…
それよりもっと酷いことになるかもしれない。
でも…お願いします…この悪夢を…この惨状を…
この大陸の人たちを…救ってあげて欲しいっ、、」
ミレー女王は目の前で地面に膝を着き、泣きながら私に言う。
正直怖い…感情なんて失いたくないしそれ以上のことがあるなら依然嫌に決まってる。
先駆の意思 なんて宿りたくなんてない。
けど、私の大切な者達を奪っていったスクリムシリも天帝も殺したいくらいに憎んでるし、こうなった原因と目的も知りたい。
そのためには 先駆の意思 が必要不可欠なのは間違いない。
なら…私がこの悪夢を終わらせなければいけない。
「ミレー女王…正直そんな役割嫌です。
痛いのだって嫌だし、感情を無くすかもしれないなんてもってのほかです。」
「そう…ですよね、、」
「けど私は知りたい!なぜ両親が死ななければいけなかったのか。
なぜ大切なものをことごとく奪われなければいけなかったのか。
その真実を知ったあとでもしのその答えに納得できなかったら私は『先駆の意思』を使って何もかもを壊します。
それでも良いですか?」
「…ふふっ、」
ミレー女王は初めて私に対して笑顔を見せた。
真剣なことを言ったのにどうしてそこで笑うんだ。
「笑わないでくださいよ…私は本気ですよ」
「ええ、分かってます。
そんなことを言うヨーセルさんが本当に私にそっくりだなって。
ええ、構いません。
納得ができなかった時は世界をぶっ壊しちゃってください!」
笑顔でそう言うミレー女王に私も少し笑みを零す。
そしてミレー女王は私にキスをする。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「なんなんですか…この有様は」
ハインケルはホールディングスの近くに着き、その状況に呆れる。
ギャラリスは意識を失っており、剣韻はピクリとも動かない。
「どうやらあの壁に寄りかかっているお嬢さんはまだ生きているみたいですね。
ひとまずギャラリス起こしますか。」
ハインケルはギャラリスに手のひらを向けるとギャラリスの天恵が回復していく。
それと同時にパッと目を覚ます。
「ミリィノッ!…ハインケル?なんであんたが?」
「呆れました…剣韻ならもう死んでますよ。」
ミリィノを指差しながら言う。
「そう…ヨーセルは?」
「あそこのお嬢さんですか?
まだ息はありますがもう時期死にますね。
トドメ刺して来てあげましょうか?」
「いいわよ、私がやる。」
そして二人がヨーセルの方に顔を向けると、
ヨーセルは立ち上がっていた。
「立った!?」
「いや…それよりも、、先程まであった外傷と毒が完全に消えていますよ、、」
「やっぱりヨーセル!あなたは最高よ!」
「ミレー女王…行ってきます」
そう呟くと同時に剣を生成する。
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