105話 「ユーランシー天上決戦⑥」
「こんばんは、カウセル・ミリィノ」
「だ、だれ?」
「誰と言われたら難しいわねぇ…、
私はあなたよ。ずっと運命を共にしてきたあなた」
「ど、どういうこと?あなたなんか知りません、、
ずっとってどういう、」
「半分冗談よ!ごめんね」
からかうように可笑しく笑う目の前の人の形をした何か。
だが、足元から黒い影が取れていく。
私と同じ髪色をした女性が現れる。
「私は剣韻の意思。」
(剣韻…)
「ふふっ、驚いた?女性だと思った?
残念!これは仮の姿なのよ、私は意思。
実体を持たないし性別なんてない。
あなたと同じ女性として現れたの、そっちの方が話しやすいでしょ?」
「は、話すって何を?」
「全部よ。あなたが知りたいこと全部。」
「知りたいこと?」
「私は貴女に宿った理由知ってる?」
ミリィノはすぐに首を横に振る。
「あなた剣は好きよね?」
「好き…です」
「だからよ。騎士団も天帝もスクリムシリもあなたを除いた守恵者も全員、剣を手段としか思っていない。
敵を殺すための手段。
それは別に良いの…そう考えるのが普通だしそういう風にある存在だとわたしはおもっているから。
けど…あなたは違った。
あなたは私を愛してくれた。ずっとずっと私を求めて私に触れている時間が幸せだと思っていてくれた。
すごく嬉しくて、幸せで、私からもあなたを求めるようになっていた。」
「なら…どうして…どうしてもっと私に話しかけてくれなかったのっ!!
どうして…もっと早くあなたがこうして話しかけてくれていたら…余計な犠牲者は出さずに済んだかもなのに。」
「貴女にはまだ足りないものがある。
いや、足りすぎているものがある」
「足りすぎているもの?」
「責任と仲間よ。」
「っ!!足りすぎていて何が悪いの!
それが私の強さなの!それを足りすぎているとか言わないでよ!
皆は…私を必要としてくれてる…だから、私もそれに応えたい」
「違う」
「違くない!私はみんなのためにここまで頑張って」
「違う。」
「だから違くないって!」
剣韻はミリィノの頬にそっと触れる。
「違うわ…あなたは私のことが大好きなの。
私がいるから戦うの。
私を常に…ずっと求めているから戦うの、
そうでしょう?だって私はあなたと人生をずっと共にしてきたんだもの。
だから、私だけを考えて私だけを必要として。
お願い…ミリィノ。私だけを…見て」
ミリィノは気がつくと元の場所に戻っていた。
目の前にはギャラリスが立っており、ヨーセルは壁によりかかり動かない。
(あぁあ!もう!なんなんだ!
意思のくせに生意気言いやがって!
そうだよっ!そうだったんだって気づいたよ!
認めるよ…)
「私は…剣が好き。」
ミリィノは剣身を指でそっと撫でる。
(まだ立つの!?なんてやつっ、でもいいわ!
最後まで付き合うわよ!)
「サイナス『閃天の雫』」
「サイナス『残逝の牢』」
互いのサイナス…。
二者間以上のサイナスが同時に発動された時、
両者のサイナスの効果が混ざり合った地形へと変化する。
[閃天の雫 の平衡感覚を失う、身体強化以外の天恵使用が不可になる、どちらかが死ぬまで解けることがない]
と
[残逝の牢 の自身が望む構造物の構築、構築された物に毒を付与される]
が混ざった状態となる。
そして サイナス が発動された後からのダメージ蓄積が少ない方のサイナス効果の割合が高くなる。
「カウセル・ミリィノ!終わらせましょう!!」
「かかってこい」
ギャラリスが動き出そうとすると体がフラフラとし始める。
(なるほど…これが剣韻のサイナス。
平衡感覚が保てない。
それに…身体強化以外での天恵の使用が出来ない。)
ギャラリスがふらついた瞬間を狙い、攻撃を仕掛ける。
ギャラリスの脇腹を浅くだが切り裂く。
(速い!、、意志 を使った時より数段階以上の速さ。
この速さは…私よりっ、)
ミリィノはさらに攻撃の速度を上げていく。
ギャラリスは平衡感覚を無くされたことによって体のふらつきが止まらずにできる限り軽症で抑えてはいるがそれも時間の問題だった。
(この空間での身体強化以外の天恵使用は出来ない。
つまり、体の治癒もできないってこと…
結構な理不尽…
でも、それはこの女も同義なこと!)
どんどん追撃をしてくるミリィノの足元からギャラリスは四角柱の柱を伸ばし、ミリィノの腹部にめり込ませる。
「くっ、、」
体勢を崩したミリィノに短剣を振りつけ、ミリィノの右人差し指と中指を切り落とした。
「まだまだまだ!」
ギャラリスはミリィノの背後に回りこみ、右肩にかかと落としをする。
ミリィノの右肩は外れ、ぶらぶらとする。
(この女のサイナスは自身がある程度の実力を持っていることが前提。
ここまで削られた今、勝てる見込みなんてほぼ無いっ!)
ランスロットから提供されていた剣韻の意思のサイナスは平衡感覚を失う、身体強化以外の天恵使用が不可になる、どちらかが死ぬまで解けることがない
の3つ。
だが、ミリィノは 意思の覚醒 をしている。
「意志『同調』」
「はっ!?」
ミリィノはギャラリスの右腕と脇腹を切り裂いた後、
直ぐに後ろから腹部を貫く。
「解恵」
ミリィノは意思を覚醒させたことによって自身のみ、
身体強化以外での天恵の使用が可能になっていた。
ギャラリスを突き刺す剣に天恵を溜め込み、解恵を放つ。
ギャラリスの腹部はミリィノの剣と共に爆発し、血が飛び散る。
(サイナスが解除されないってことは…まだ…生きてるっ、)
身体強化によってギャラリスはダメージを最小限に抑えていた。
だがギャラリスは白目を向いており、完全に気絶していた。
ミリィノは首を切り落とそうと剣を振る。
その瞬間血を吐き出し、手足が痺れて動かなくなる。
膝を着き、剣を支えにするが思考が上手く出来ずに倒れそうになる。
剣を持つ手が、剣を離すことなく地面へと落ちる。
そして重力に従うように正座の形になり頭がガクッと前に倒れる。
そしてサイナスが解除される。
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(ここは…?)
ディシは何も無い白い空間で目を覚ます。
他の意思者が覚醒する時とはまた違った空間。
上には清々しいほどの青空と所々に真っ白な雲。
下には靴底くらいまでの高さの水がある。
(死んだ…のか。
そっか…こんな俺でも…何も守りきれなかった俺でも天国って行けるもんなんだな。)
「ディシくん」
ディシが可笑しく笑っていると後ろから聞き覚えがあり、もう一度聞きたかった声が聞こえてくる。
俺は勢いよく後ろを向くと白のワンピースを着る綺麗な白髪を靡かせるスタシアがニコッと笑いながら立っていた。
「す、スタシア?スタシア…なのか?」
「それ以外の何に見えるのさ!
可笑しなこと言うんだね!ディシくんは、」
「ああぁぁぁあ!!スタシアッ!スタシアッ!」
ディシはスタシアに走っていき抱きしめる。
「おっと、っと…も〜ディシくんったら、甘えん坊さんかな?
そんなディシくんも大好きだよ」
「ごめんっごめんっ、、俺…スタシアを助けてあげられなかったっ、
守れなかった。
絶対に…スタシアだけは絶対に守りきるって決めてたのにっ、俺はっ役たたずだっ、!」
ディシはスタシアの前で泣き叫びながら謝る。
そんなディシをスタシアはギュッと抱きしめる。
「そんなこと…言わないで。
ディシくんはずっと私を守ってくれた。
私をずっと見ててくれた…ずっと私が生きていられる存在だった。
また会えて良かったよ!」
「俺もだよ…本当に、、」
「ディシくん!あっちが目的地だから歩きながら久々にゆっくり話そ!」
「ああ!」
二人は歩き始める。
地面の水をぴちゃぴちゃ音を立てながら。
「そうだよな…俺ってもう死んだんだよな…。
なんか不思議な感覚だよ」
「…。ね!分かる!そうだよね!
私も最初ここ来た時何が何だか分からなくてさ!
でもまぁ一人で行くのも不安だからディシくんとか来るの待とうかなってさ!」
「ハハッ、、相変わらずだな。
その目的地って天国の入口とかか?」
「分からないや。なんだか怖いよね。
もしかしたら地獄かもしれないよ!」
「それはそれで面白そうだけどな。
スタシアと行けるなら別に構わないよ」
「も〜すぐそうやって思わせぶりなこと言うんだから〜!」
「ごめんごめん!」
頬を膨らませながら怒るスタシアとそれを見て笑いながら謝るディシ。
ここまでゆっくり話せたのは久々でありディシには幸福感で満たされていた。
「天国でも地獄でもどっちでもいいけど、向こうには酒はあるかなぁ。
酒沢山飲んでお前に勝てるくらい強くなりたいよ」
「えー!無理だと思うよ?私はお酒強強だからね!」
「ズルしてて何言ってるんだよ。まぁ、強いのは事実だけども」
「逆にディシくんとアレルさんは弱すぎるんだよ!」
「普通だろ…俺たちは結構」
「そんなこと言ったら多分ヨーセルが一番お酒強いよ。
ミリィノちゃんでも一杯飲んだら少し気持ち悪くなるお酒を騙して一杯飲ましても 美味し〜 くらいの反応だったからね!」
「頼むからヨーセルにそんなことするなよ…
あの子はまだまともなんだからそっち側に染めないでくれよ」
「なっ!まるで私とミリィノちゃんがまともじゃないみたいじゃん!」
「少なくとも守恵者のやつは全員まともじゃねーよ」
「もー!!」
頬を膨らませるスタシアの頬をディシは指で潰す。
「…着いたよ。」
スタシアは悲しい声で足を止めながら言う。
「ここか」
目の前には扉があり、スタシアはそれを押して開く。
「ねぇ、ディシくん?
行く前にさもう一度伝えたい。」
「どうした?」
「私ね…ディシくんのことが好き!
大好き!結婚したいくらい好き!…この気持ちに応えて欲しい…
どう、かな?」
ディシはスタシアの真剣な目を見て言葉を詰まらせる。
(もう…良いよな。楽になっても。
スタシアといても辛くなんかないし話も楽しい。
可愛いし、いい匂いだし。
抱きしめた時、もう離したくないくらいに心地いいし。
応えても良いよな。)
俺は口を開いて 俺も好きだよ と言おうとした瞬間、
ある女性の顔が脳裏を横切った。
(ヨーセル…
あぁ、そうか、そうだよな…
せめて今度はしっかりと答えないとな。)
「ごめん、スタシア。俺はスタシアの気持ちには応えられない。
好きな…人がいるんだ。」
俺がそう言い放つとスタシアは悲しい顔をした後に、
無理やり笑顔を作る。
その目からは涙が溢れ出てきていた。
「それが聞けてよかった!
本当のことを言うね!ここは死後の世界なんかじゃないの。
ここは私の心の中。
ディシくんには一度だけチャンスがあるの。
ここから私と一緒に死後の世界に行くか…
またユーランシーへと戻るか。」
「ど、どういうことだよ…俺は死んだんだろ?」
「うん、死んでる。心臓を破壊された。」
「じゃあもうユーランシーに戻ることなんて」
「ディシくん…やり残したことがあるんでしょ?
まだ天帝は誰一人も死んでない。
私の分も…果たしてきてよ。」
「だ、だから、どういうっ、スタシアは来ないのか?
お前が来るなら俺だって行くさ!俺はスタシアと同じところに行きたいんだよ!」
「も〜…ディシくんは酷いなぁ…振った女に対してその言葉は良くないよ〜。
ごめんね…私はディシくんに着いては行けない。
着いて行きたいけどダメなの…。
ごめんね。」
「な、何言ってるんだよ…せっかくまた会えたのに…
せっかくまた一緒に…」
「最後にさ、、約束して欲しいの。
必ず…終わらせて。」
スタシアはディシを扉の奥へと押す。
その先は奈落のように下に落ちていく。
ディシはスタシアの名前を叫びながら手を伸ばすが離れていくだけ。
ディシを見送るスタシアの目にはが流れており、
口角が一瞬だけ辛そうに下がる。
「サイナス『愛者の絆』」
その言葉が薄らと聞こえ、気がつくとディシは地面に座り、壁によりかかった状態で目を覚ましていた。
体は完全に治っており、天恵も完全に回復…いや、それ以上に上限なんて無いかのように溢れ出てきていた。
「スタシアッ…どうしてっ、どうしてっ、」
ディシはその場で地面を殴りながら静かに涙を流す。
『必ず…終わらせて』
スタシアのその言葉が頭の中でまた流れる。
ディシは立ち上がり、ユーランシー全体の気配を探索する。
ホールディングスの近くには縛毒の薄い反応。
そこにハインケルが向かっている。
南地には恐らく事象の天帝とゼレヌス、アレルの気配がする。
「スタシア…見ててくれ。」
ディシは短剣を生成し、ホールディングスの方へと走り出す。
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ヨーセルは微かにまだ呼吸をしていた。
治癒も少しづつだがしている。
だが毒が邪魔で上手くできない。
薄目を開けて顔を上げると誰かが手をさし伸ばしていた。
上がるはずのない手がその者へと勝手に動いて、その者の手を取る。
読んで頂きありがとうございます!




