104話 「ユーランシー天上決戦⑤」
「はぁ、、、、はぁ、、…くそっ、」
上半身と下半身が泣き分かれになりかけた。
破恵をゼロ距離で放たれたのは今までに初めての経験だ。
焦るべき状況なのに変に冷静だ。
現に、恐らくゼレヌスは死んだ。
ここからでも見える…頭の無いゼレヌスの上半身だけの死体。
(どうすれば、、勝てんだよ。
ディシの気配もその側近の気配も消えた。
勝てる可能性なんてゼロに近い。)
アレルは騎士団に入って二回目の諦めるという思考に陥っていた。
だが一度目のその思考の時、ナルバンという恩師が救ってくれた。
その時から諦めるという言葉はアレルの中から消されたはずだった。
しかし目の前には自分の今までを真正面から否定するかのような理不尽な強さを有している化け物。
同じ人間とは思えないほどにその研ぎ澄まされた力はどこから来るのか知りたいくらいだった。
「勝たないと…立ち上がらければ…ミリィノ、、」
ミリィノが心配…メアリー女王はレイが…
ディシが死んだのは悲しい…?打開策を…空虚の存在は…?
戦闘中に時々頭に浮かぶ女性は誰…
「っ!!…くそっ、飛びかけてた。
早く…あいつを殺さなければ、、」
アレルは治癒を終わらせ、すぐに剣を生成する。
そして崩れた家の残骸から立ち上がり、建物が吹き飛ばされたことによって広々となった空間に立つ。
(こんなに飛ばされたのか)
飛んできた方を見ると事象の意思者がこちらを向きながら立っているのが見える。
(この光景…マリオロを思い出す。ユーランシーでこんな風景を見るとは思わなかった。)
「元気そうだね」
「お蔭さまでな」
ランスロットとの距離はいつの間にか話せるくらいの距離に縮まっている。
「どうだい?勝てる見込みは?」
「どうだろうな、だがお前を死ぬほど殺したいとは思っているさ」
「へぇ、良いじゃん。
人間は憎しみや怒り、殺意を他者に向ける時に実力と本性を発揮する。
どうやら君の本性は冷たい人間のようだね」
「お前に言われたら末期だな。
否定はしないでおいてやる」
「それはどうも。」
二人の間に沈黙が走る。
そしてそれを破ったのはアレルだった。
剣を地面に突き刺す。
「サイナス『権情の記』」
ランスロットは予想していたかのように大した反応もせずにアレルとの精神世界に入っていく。
そしてアレルは短剣を生成し、ランスロットに攻撃を仕掛ける。
「アドバイスしてやるよ。
もっと焦った方が良いぞ」
「いやぁ、その必要は無いさ。
この燃えるように熱い地面も…僕にとっては今更すぎる痛みだからね。」
「そうかよ!!」
次に針羅の雨によって空から細い針が無数に避けることが不可能な程に降ってくる。
「悪くないね…けどまだまだだよ。」
ランスロットは意思によって針の被害を手や足に刺さる程度の被害へと抑えた。
「闇の世界」
「視界が…なるほどね」
すぐに状況を飲み込み、適応したランスロットは聴覚を研ぎ澄ませて音がする方に連撃をする。
何かを殴る感情はある。
(だが、おそらく向こうの拳や腕の防御だろうな。
向こうもこの暗闇は喰らっていると読んで、天恵の流れと息遣い、地面に擦れる音を感じて咄嗟に攻撃と防御を繰り返している…か。
やるじゃないか)
視界が開けるとやはり互いに無傷だった。
だが、アレルの狙いはここからだった。
ランスロットは突然体から天恵が大きく失うことに気がついた。
(天恵の没収?徴収か…?まぁどちらにせよ、この男を殺したら天恵は戻ってくるだろう。)
「残念だったな…俺は端からお前を殺せるなんて思ってない。
だが、相打ちならどうだ?」
ランスロットはすぐに意志を発動させて攻撃を仕掛ける。
だが、守りの体制に入るアレル。
(最後は互いの 死 ってことか。
それに抗う術はこの精神空間を保てなくなるほどのダメージのみかな。
でも、残念だなぁ、、僕と相性最悪だよ。)
ランスロットは意志を解除する。
そして両腕を左右に大きく広げて、笑顔を地面に向けながら言い放つ。
「サイナス『皇冥の終』」
ランスロットのサイナスが発動されたと同時にアレルのサイナスは完全に強制解除される。
「!?!?」
「残念だったね」
ニヤリと笑うランスロットに対してアレルは何が起こったのか分からない顔をする。
(何が起こった!?サイナスが強制解除された?
いや、サイナス自体に干渉された感覚はなかった。
なら何が?あいつのサイナスの効果?
いや考えるのは後だ、相打ちという選択肢が消えた今は殺すことだけを考えろっ!
あいつのサイナスも解除されている、
畳み掛けるっ!)
アレルは両手に短剣を持ち、低い態勢になりながらランスロットに攻撃を仕掛ける。
「サイナス使った後だろう?
無理するなよ」
「お前もお互い様だっ!」
ランスロットも直剣を生成し、互いの武器を交じ合わせる。
武器同士がぶつかる度に互いの攻撃の速度はどんどんと上がっていき、それは既に当事者同士ですらその攻撃に感覚だけで着いて行ってるほどだ。
(!!予想以上だ…ここまで戦闘の中でここまで強くなることがあるのか。)
激しい剣のぶつかり合いの中でアレルは初めての感覚が芽生える。
楽しい
それがアレルの中身を満たし始めていた。
アレルとってスクリムシリや天帝との戦いは苦痛であり、
何のためかも覚えていない復讐でしか無かった。
だが、今手も足も出ないほどの敵を目の前にして全力でやり合えている。
それが楽しくてしょうがないと認めるしか無かった。
「意志『制罰』ッ!!」
アレルが意志を使うのを見て、咄嗟にランスロットも意志を使い数秒先を見る。
(おいおい。こいつまじかよ…狂いすぎだろ、、)
アレルが縛ったこと…それは存在そのもの。
普通ならば制限時間は0.00000001秒にも満たないほどに鬼畜な縛り。
だが…
(まさかっ、、意思を覚醒させてる!?!?)
次の瞬間、ランスロットの腹部に風穴が開き、左足と右腕が吹き飛ぶ。
「くっ、、でも、これで殺しきれなかったら意味は無いよっ!」
アレルの心臓部に向けて剣を生成する。
アレルは反応はできていた。
だが、既にランスロットへ向けて振りつける剣を止めることなんて出来ない状態だった。
だが、アレルに生成された剣が触れる寸前でもう片方のランスロットの腕が何かに消し飛ばされる。
「はっ!?」
(天恵の攻撃!?、どこから、、後ろから?
っ!!!あいつっ!!生きてやがったのか!)
ランスロットの後方には膝をつき息を切らしながら手のひらを向けるゼレヌスがいた。
ゼレヌスは聖者のトップに立つ者。
天恵の技術が守恵者内でも劣らないほどに優れている。
そして天恵での構築を極めた結果、自身の体を一度だけ短時間、天恵で生成した肉体へと置き換えることで死を免れたのだ。
そう、ランスロットに頭を破壊される寸前にスクリムシリと同じ芸当をしてのけた。
「感謝します…ゼレヌスさん」
アレルがランスロットの心臓部に剣を突き刺し、捻り切る。
ランスロットは血を吐き出す。
「さぁ、やり直しだ」
「…は?」
アレルとゼレヌスは目の前の光景に目を疑った。
確かにランスロットの心臓を刺して捻りきったはずだったが今の自分は何も持たずにただランスロットと対面していた。
ランスロットの後方には変わらずゼレヌスがいる。
「君は僕がサイナスを解除したと勘違いしていたみたいだから言うけど…僕のサイナスは僕が指定した時に発動される。
常時型ではないんだよ。
残念だったね。」
事象の意思 サイナス『皇冥の終』
・発動中、三回だけ事象の書き換えが可能。
記憶、存在、概念…それに準ずるものの書き換えは不可能だがそれ以外は可能。
三回の事象の書き換えの後に強制解除される。
発動時の天恵の消費はそこまで多くないが、
発動中の維持のための天恵消費が多く、高い技術が無ければ死に至る可能性もある。
「正直流石に焦ったよ。
心臓貫かれるもんだから普通に死んだと思ったもん。
でもね、心臓を破壊されても天恵の貯蓄庫が破壊されただけで、漏れ出す天恵自体を操作するのは難しくない。
スタシア・マーレンがそうだったようにね」
ランスロットは口角を上げながら言う。
「なんだっけ、アンジ・ディシィ?に思いを伝えるために必死に溢れ出す天恵を操作して抑えて…
思い伝えられて、はい死亡。
滑稽すぎて笑っちゃったよ。
その時にアンジ・ディシィも殺せば良かったけどさすがにあの時はもう力が、、」
「黙れよ…もう…喋んな。
ゴミが…お前をもう人間だとは思わない。
同じ種族だとも思わない。
苦しめながら殺してやるから覚悟しろよ。ゴミ野郎」
「威勢だけはいいね。
でももう、飽きたよ。君らと遊ぶのも。」
アレルが両手のひらを前に向ける。
それとほぼ同時にゼレヌスとアレルがその手のひらの目の前へと一瞬で移動する。
「あと一回…サイナスの効果は残ってるんだよ。
破恵」
至近距離の破恵にゼレヌスとアレルは今までにないほどの身体強化をする。
が、ゼレヌスは跡形もなく消し飛び、アレルも下半身と右半身が消し飛ぶ。
そして後方の建物に激突する。
「心臓壊せなかったか…まぁ、もう瀕死だしトドメ刺しちゃ…おう、あれ?
もう死んでる…か?
あぁ、天恵が、足りなくて治癒できないのか。」
アレルはランスロットが近づくまでに本能的に治癒していたが上半身は終えていたが、下半身は両膝までの治癒で止まっていた。
そしてもう息もしていなかった。
「ふぅ…」
(意思を覚醒させたのか…この戦闘の中で。
意思との会話をせずに覚醒させる一時的なものか?
いや、そんなレベルのものでは無かった。
存在を縛るなんてことは意思本来の力ができる芸当だ。
だとしたら…)
「さてと、…来たのか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「サイナス」
「!!」
「『残逝の牢』」
ミリィノとヨーセルとギャラリスの三人は突然、何も無い空間へと飛ばされる。
その空間は真っ黒であり、立っているかどうかすら分からないレベルの暗さ。
だが、それぞれが互いの位置を明確に認識することが出来た。
「ふふっ、、ふふふ、ふははははは!!
あなたたちほんっとに最高よ!!
ありがとう、ヨーセル、ミリィノ。
また一皮むけた気がするわ!」
すると何も無い空間から一変して明確に床と分かるものが出現し、その床からでかい四角柱の柱が無数に伸び始める。
そして、床は緑色の粘ついた液体へと変色する。
縛毒の意思 サイナス 『残逝の牢』
・自身と対象を自身が作り出した精神空間へと隔離する。
そこでは全員が実体を持ち、現実の体にも精神空間で受けた攻撃は反映される。
(サイナス解除後も変わらず反映される)
その空間内では使用者が望む構造物をなんでも作り出すことが出来る。
そしてそのいずれもの構造物に 意志 で自身に纏う毒が付与される。
傷口に入れば時間経過で死に至る。
(私のサイナスは殺傷能力が毒以外ではほぼ無い。
足場の液体も実力が高い人ほどほとんど邪魔にならないほどに微弱…。
そして理不尽なものなど何も無い実力のぶつかり合いへとなる。
このサイナスのうちに殺せるかどうかなんて分からない。
けど私のサイナスはコスパが最高!
この段階でどちらかを戦闘不能にしてからもう一人をもう一度サイナスで閉じ込め、殺すっ!)
「あははっ!」
ギャラリスは地面から伸びた柱を素早く飛び移りながら二人の周りを移動する。
ヨーセルの後ろに回ると同時にギャラリスは身体強化でヨーセルか反応しきれないほどの速度で剣を振りつける。
だがミリィノが咄嗟に間に入り、ヨーセルを守ると同時に反撃をする。
(速い!先程よりもさらに早くなっている。
ミリィノ…認めるわ、あなたは速い!でも、私の方がもっと速いわよ!!)
ギャラリスは短剣を目で追うのが困難というレベルでは言い表せないほどの速度で振り、それにミリィノは完璧には反応しきることが出来ず、剣が腕や脇腹や足にかすり傷を与える。
「くっ、」
ミリィノはギャラリスの短剣を剣で押さえつける。
そして後ろからヨーセルが現れ、ギャラリスの右太ももを切り落とす。
「やるじゃない!ヨーセルッ!!」
押さえつけられていた短剣を素力のみで押し返してミリィノを蹴飛ばし、蹴飛ばしたミリィノの背後に鋭く太い棘を一本出現させる。
ミリィノの腹部はそれに貫かれる、
「ミリィノさんっ、」
「よそ見をするな!ヨーセル!お前と私の殺し合いだよ!」
「ギャラリスッ!!」
ヨーセルの剣は攻撃を重ねる毎に鋭く重くなる。
ギャラリスは感動をしていた。
ここまでの成長をできる者が今まで私の前に現れたことがあっただろうか。
(故に残念よ…ここで死んでしまうのが)
「っ!?」
ヨーセルの両足を鋭い棘が突き刺し固定する。
「しまっ、」
「さよなら、ヨーセル」
ヨーセルの腹部にギャラリスは大剣を生成して突き刺しながら、捻り切る、
「もう心臓も脳も潰す必要なんてないわ。
毒を大量に流し込んだもの。
心臓も脳も直に腐って死ぬわ。」
ギャラリスはサイナスを解除して、ヨーセルを突き刺す大剣を横に振り、近くの建物にヨーセルを投げ飛ばす。
壁に打ち付けられてヨーセルは寄りかかりながら地面に座り、頭を前に倒して動かなくなる。
「よ…ヨーセルさんっ!」
サイナスが解除され、ミリィノを突き刺していた棘は消え、腹部に風穴が空いているミリィノ。
傷口から身体中へと神経が腐ったかのように皮膚に浮き彫りになる。
「あなたもよ、ミリィノ。
あなたももうじき死ぬ。
ヨーセル程の才能は無いとはいえ、努力のみでその力を手に入れてあなたは賞賛に値するわ。
お疲れ様」
「黙れっ…私はっ!私達は負けないっ!!」
ミリィノは剣を支えにしながら立ち上がる。
(集中しろっ、カウセル・ミリィノ!
ここで終わるな!他の人が助けに来るまで耐えろっ!
治癒なんてしないで目の前のこの女を殺すことに全神経を注げ!)
「サイナ…」
ミリィノがサイナスを発動しようとした瞬間、ミリィノは真っ白の何も無い果てしなく続く空間に立っていた。
そして目の前には黒い人の形をした何か。
「こんばんは、カウセル・ミリィノ」
読んで頂きありがとうございます!




