103話 「ユーランシー天上決戦④」
「ゲフっ……お゛ぇ゛、、」
「やはり、あの男や信愛と比べると劣りますね。
まぁ、こんなもんですよね。
ランスロットの方に一人増えているみたいですけど…
その方はどうやら結構強いみたいですね」
ハインケルはアンレグの首を絞めながら上に持ち上げ、もう片方の手で腹部を貫いていた。
アンレグは首を絞められる苦しみと腹部を貫かれたことによる痛みで意識が飛びかけていた。
「それに…結命の意思者…アンジ・ディシィといいましたか?
信愛の意思者を除いた守恵者三人の中で最も腕の立つ存在だという風に聞いていたのに…
ただのクソザコじゃないですか。」
ディシは片腕がもげており、片目も潰されて自身の屋敷の壁を支えにしながら何とか立とうとしていた。
「ほら、アンジ・ディシィ…頑張ってくださいよ。
このお嬢さんが死んでしまいますよ」
「はぁ…はぁ…アンレ、、グ…」
「ディシ…さま、、にげ…てっ!」
ディシ自身、ここまでハインケルに圧倒されるなどとは思ってもいなかった。
アンレグは側近の中でも体術に関しては最も優秀な部類であり、そんなアンレグと自身が共に立ち向かっても全く歯が立たない。
だが、それは間違いであった。
ディシの実力はスタシアを抜いた守恵者の中でも確実にトップであり、ユーランシー内でもアビス、スタシアに次いで三番目の実力差であった。
そして普段のディシならばアンレグがおらずともハインケルと互角以上の戦闘が出来る。
そう…「普段」のディシならば。
ディシは今、ハインケルとの戦いを長年の責任と肉体に刷り込まれた敵を皆殺しにするという本能のみで戦いをしていた。
スタシアを失ったディシは戦闘に対する強い恐怖と拒絶が頭の片隅にあった。
つまり、思考と体が一致しておらずいつもの三割の実力も出せていなかったのだ。
そして今現在それを克服する手段は…無い。
「はぁ…無駄な友情ごっこを見せられる私の身になってくださいよ。
もうこのお嬢さんは殺します。
あなたもすぐに殺すので目に焼き付けておいてください」
「意志…『共鳴』」
ディシがそう小さく言うと、ハインケルの首元にどんどんと手形のようなアザが出来始め、それと同時に腹部に突然風穴が開く。
「!!」
ハインケルはすぐにアンレグを離し、距離をとる。
(なんだ?これは…何が起きたんだ?
首を絞められる感覚と腹部の突然の激痛。
あのお嬢さんに対して私が与えていた痛みと同じものを私に返ってきた?
どういうことだ?
あのお嬢さんは意思者でも何でもない。
ならばアンジ・ディシィが何かをしたのか?)
ハインケルは突然のことに状況が読み込めずに頬に汗を一滴だけ這わせる。
「…ふぅ、、アンレグ。すまない、大丈夫か?」
「ディシ様…すみません、、治癒が少々時間かかりそうです。」
(前までのアンレグなら腹部を貫通された時点で治癒が間に合わずに死んでいた。
そうか…お前も強くなっているんだな。)
ディシは半強制的に思考を戦闘のものへと変える。
結命の意思の意志『共鳴』は対象者に攻と守を割り振り、攻の人物が守に対して与えた攻撃を攻へと返還される。
普通…『共鳴』は攻と守で一人ずつのみしか対象者を選ぶことしか出来ない。
だが、ディシの天恵技術ならばそれ以上の人数でも可能だった。
守は変わらず1人なのに対し、攻が三人…。
だが『共鳴』には対象者の基準で致命傷以上になりうる攻撃は肩代わりさせることが不可である。
「あなたの結命の意思…その力は我々が前々から監視をしても理解することが出来ないほどに複雑で対応が難しい。
なるほど…故にユーランシーの中でも脅威になりうる存在と呼ばれるのは納得ですね。
ですが…まだ未熟だ」
ハインケルは自身の治癒を終わらせる前に鎌を生成し、ディシに振りつける。
短剣を生成し、重ね合わしてハインケルの鎌を止める。
(くそっ、、!重い…重さだけならミリィノの一撃以上。
技術面では俺が上のはずなのになぜここまで?)
(もしかしてこの男…自身が戦闘に対して恐怖心を抱いていることを気づいていないんですかね。
そうならば…この戦いは私の勝ちですね。)
ハインケルは力を強め、鎌を短剣で受け止めるディシをそのまま後方の屋敷に吹き飛ばす。
そして砂埃が上がる中にすぐに突っ込んでいき、追撃を与えに行く。
ハインケルが砂埃の中で走っていると目の前に刃が現れる。
咄嗟に姿勢を低くして避けた後に、短剣が現れた方を攻撃する。
しかしディシもその攻撃に反応し切り、互いの武器が高い音を出す。
「あなたには!この国も!大事な人も!自身の目的も!尊厳も!力も!何もかも!守ることなんて出来ないんですよ!」
ハインケルは嘲笑うかのように声を荒らげながら攻撃の速度をどんどんあげていく。
ディシもその速さについていけているが、やはり本調子ではないということをハインケルに見破られていた。
激しい攻防の中でハインケルは鎌を手から離し、その行動に一瞬、ディシの思考が止まる。
(…は?なん…鎌、?離した?)
理解するのに時間のかかるディシに対して拳に天恵を溜め込みながら纏い、ディシの頬を殴り飛ばす。
殴られた衝撃で屋敷を破壊しながら他の建物へとさらに突っ込んでいく。
ディシの頬は穴が開き…いや、頬に歯がくい込んでいるという状態だった。
「もう一度言いますよ。
あなたには何も守れない。何も成し遂げられない。
希望なんてない」
「黙れっ!お前にっ!ディシ様の何が分かるっ!」
アンレグがハインケルの後ろから叫びそう言い放つ。
「あら、生きてたんですね」
「お前みたいな人の心を捨てた化け物に…ディシ様をどうこう言う資格なんてない!
困ってる人を見捨てない、自分の犠牲を厭わない、
そんなことが当たり前に出来る人が何も成し遂げられない?
ふざけんな!
これまでディシ様は色々な人を救ってきた。
それが巡り巡ってさらに多くの人を助ける結果にも繋がった!
ディシ様の周りには人が沢山いる!
お前のような孤独な存在とは違うっ!
ディシ様を侮辱するのは私が許さないっ!」
ハインケルは即座に鎌を生成して警戒態勢を取る。
アンレグのその集中力の高さ、天恵の循環率の高さ。
それは全て自身に脅威的なダメージを与えるに相応しい逸材。
(殺意…?だが、普通の殺意と違った体を刺される鋭さでは無い。
巨大な両手で握りつぶされるような感覚の殺意。
なるほど…尊敬から絞り出される殺意ということですか。)
「面白い」
アンレグは巨大な槌を生成する。
普通なら…ましてや女性ならなおさら片手で持てない程の大きさの槌。
それを右手に持ち、ながらハインケルへと向けて振り下ろす。
「重くて隙だらけ…自身の武器の相性すら分からないなんて全く…バカで…っ!?」
完全に避けられる速度の攻撃…だが、油断せずに反撃を試みたハインケルの右手肩から先が消し飛んでいた。
ハインケルの右腕を押し潰した槌は地面に着くと地割れを起こしながら生成された時よりもより重く感じさせる。
(油断したつもりは無い…どういうことだ?
重さを自由に変えられる?
いや…それだとしても私が一切目で追えないなんてことはありえない。
一瞬…槌が見えなくなった。
本能的に咄嗟に心臓を守ったことで注視する暇はなかったが間違いなく…)
地面に叩きつけられた槌が、突然消える。
無くなった槌をまるで持っているかのようにアンレグはハインケルの下半身へと横から振る。
「そういう事ですか。
だから反応が遅れてしまった。」
アンレグは武器に対しての天恵操作干渉がずば抜けて上手く、本来生成された剣は壊されるのを避けるために固く天恵を変える。
そしてその武器をもう一度変形させるのは高難易度なことだった。
だが、アンレグにとってはいとも簡単なこと。
槌を振る際に目に見えないほどの大きさにし、手の中に収めて敵に視覚的な油断を誘いながら当たる直前に大きさを元の以上の大きさにする。
振りつけた際の力は変わらず槌に少しの間だけ勢いを持たせる。
ハインケルは真上に飛び、下半身へと振られた攻撃を避ける。
だがすぐに上へ避けたことを後悔した。
ハインケルのさらに上に既にディシが両手を握りながらハインケルの顔面へと振り下ろしている最中だった。
とてつもない速度でハインケルは地面に打ち付けられる。
そして仰向けになりながら空を仰ぐ。
(あぁ…今日はとても良い天気ですね。)
「意志『善喰』」
「!!アンレグ今すぐ避けろっ!!」
「もう遅いですよ」
「っ、っ、!」
人は罪悪感、焦燥感といった〜感を常に感じながら生きている。
悪我の意思の意志『善喰』はその無数にある〜感の全てを対象者にとって苦しいものへと感じさせる。
例えば…アンレグにとって罪悪感というのは常に無い方が自身の理想。
だが、『善喰』によって無条件に罪悪感というものを
強制的に100%抱えさせられる。
それが全ての〜感を対象者の不利益になるようにそれぞれ管理される。
アンレグは槌を消し、その場に棒立ちする。
本人の意思だが意思ではない。
そうせざる得ないほどにそういう感情を抱いていた。
だが、それに抵抗するようにディシへと目を合わせ涙をスーッと流しながら苦しそうに言い放つ。
「ディシ…様、」
「頼むっ、や、やめてくれっ、」
次の瞬間にはハインケルによって左肩から縦に心臓ごと切り裂かれる。
切り裂かれたアンレグの血が飛び散り、切られて離れた体の部位がそれぞれ地面へと落ちる。
「あ、あぁ!あああぁぁああ!!
ハインケルッ!!なんなんだっ!お前はっ!!
何がしたいんだっ!!」
ディシは短剣を生成して、怒りに任せてハインケルに向かっていく。
「…未熟。自身の感情すら自制できないなんて。
信愛ですらもう少し自分の怒りを抑えていましたよ」
鎌を消し、攻撃を仕掛けるディシの懐まで潜り込む。
そして心臓を手刀で突き刺す。
口から血を吐き出す。
「もうあなたは用済みです。
一人の仲間すら守れないあなたに、生きてる価値はない。」
ハインケルはディシの心臓を突き刺したまま追い打ちをかけるように、ディシの体を貫いている方の腕に天恵を集め爆発させる。
その爆発でディシの心臓部周辺は跡形もなく消し飛ぶ。
ハインケルは自爆した腕を再生しながらどちらに加勢に行こうか悩み始める。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あれ?」
「!!」
「嘘…だろ、」
ランスロット、アレル、ゼレヌスの三人とも同時に感じた。
結命の意思者の 死 を。
「へぇ、ハインケルやるじゃん。」
アレルはランスロットの頬を思いっきり殴ろうとするが手首を捕まれそのまま捻られる。
だが自分の腕を切り落としてからランスロットの足に剣を突き刺す。
「お前もか…ったく。痛覚ないの?」
「黙れっ!」
ゼレヌスが後ろからランスロットの背中に天恵を高圧縮で収束させ、その場で爆発する。
「ん〜、やっぱり痛いよねこれ」
ランスロットはアレルの真似をして刺されて固定された足を切り落として上へと飛んで避ける。
「『万視』」
ランスロットは『万視』へと天恵を大量に流し込み、
より先の未来を見る。
そして意思を使う。
アレルもゼレヌスも反応することが出来ず、アレルは脇腹を切り裂かれ、ゼレヌスは上半身と下半身を切り離される。
「っ!!、ゼレヌスさんっ!」
「ほらほら、油断しないよ」
ランスロットはアレルの切り裂かれた脇腹に両手のひらを向ける。
「破恵」
「っ、!」
アレルは吹き飛ぶと共にその後方にある建物が全て破壊されて吹き飛んでいく。
「…しぶと、、ゼレヌス?だっけ?
君、結構強いよね。
上半身と下半身切り離されても生きてられるのって守恵者以上の存在だけかと思ってたよ。」
「スゥーッ、!スゥーッ、!」
「あ、ごめんごめん!そんな喋る余裕ないよね!
もう楽になって良いよ。」
ランスロットはゼレヌスの頭を殴り潰す。
地面に殴られた衝撃で跡形もなく消し飛ばされたゼレヌスの血が飛び散る。
(なんだろう…この違和感。まぁ、今は契約の意思者を殺すか。)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「メアリー女王、、窮屈ではないですか?」
「はい、、大丈夫です」
メアリー女王は既にユーランシーを出てザブレーサへと向かっていた。
レイがすぐに天帝の存在と狙いに気づき、ミリィノ達が戦っている間に馬車でユーランシーを逃げ出していた。
自身も加勢すべきかと悩んだが主人であるミリィノからの指示は必ずメアリー女王の護衛と安全の確保だと読んだ結果だった。
(頑張ってくれ…アンレグ…頑張ってください…ミリィノ様)
レイは馬車を走らせる速度を上げる。
読んで頂きありがとうございます!




