102話 「ユーランシー天上決戦③」
(こいつっ、、さっきからずっと手を抜いてやがる。
くそが、、)
アレルの攻撃に対して、少し体を動かすだけで避け切るランスロットに対して苛立ちと軽い危機感を有していた。
アレルは今すぐに他の人たちと合流したい状況であり、そのためにもランスロットをすぐに殺さなければいけない。
そのため、自身が持つ剣の実力全てを出し切っているつもりだった。
だがランスロットは反撃もすることなく、ただずっと避けているのみ。
時々笑みを零すなどといった不愉快極まりない事もする。
(事象の意思の能力はだいぶ曖昧であり、下手に意思を使ったとしても直ぐに天恵切れを起こすのがオチだ。
だからと言ってこのままだと決定打どころか攻撃もまともに当てられん。)
俺自身深く理解している。
こいつの相手がミリィノやディシならば意思など使わずとも攻撃を当てる可能性が高いということを。
そして俺にその可能性があることは限りなく低いということも。
天恵で身体強化をし、攻撃の速度をあげる。
だが当然のようにその動きに着いてくる。
俺の振り下ろした剣に対して事象は側面から右手の甲で右側に受け流し、ガラ空きになった腹部を前にして動きを止める。
直ぐに俺は距離を取り、呼吸を整える。
(今の隙で俺は死ぬのを覚悟した。
それなのに殺さなかった…。
あいつにとって俺はいつでも殺せるゴミでしかないということか。)
「ハハッ、なんか色々考えてるみたいだけど別に僕は何も思ってないし感じてもないよ。
ただ君の剣を見て、君がどういう人生を辿ってきたのかを予想していただけだからね。」
「…」
「あれ?知らない?剣筋はその者の人生を表している。
どういう生き方をしてきたかは剣の動きで分かる。
君はそうだなぁ…
自分のせいで大切な人が死んだ…とかでしょ。」
俺は身体強化を最大にし、意思を発動させて事象の首目掛けて剣を振る。
「強制」
ランスロットは途端に体の動きが鈍くなり、アレルの攻撃にワンテンポ体が遅れる。
(これが契約の意思か…不思議な感覚だ、)
「そんなに怒るなって。
図星をつかれたことがそんなに気に食わないのかい?」
「っ!!」
ランスロットの煽りに耳を貸すことなく、アレルは剣を振り抜く。
だが、確実に首を捉えた攻撃が首にかすり傷を与えるだけの攻撃になる。
「クソっ、」
「残念だね、攻撃を当てられたのは褒めるけどそこまでだよ。」
ランスロットは身体強化をしてからアレルの腹部を両手で押し込む。
血を吐きながら後方の建物へと勢いよく衝突する。
「まぁ、さすがにこんなんじゃ死なないよな」
瓦礫の中からアレルが出てくる。
口から血の混ざった痰を地面へと飛ばす。
「俺はべつに怒ってなんかいないさ。
図星をつかれたとも思っていない。
いや、図星をつかれたかどうかも分からない。
昔の記憶が全く思い出せないし、大切な人がいたかどうかも覚えていない。
忘れてはいけないと分かるくらいには大切な記憶のはずなのに全く思い出せない。
だけど、お前のその発言は仮に事実でもそうでもなくてもとてつもなく不愉快だ。
人の過去を嘲笑うかのように詮索し、他者のプライベート空間に遠慮なく踏み込む図太い神経。
俺が大嫌いなタイプだよ」
アレルは片手には短剣、もうひとつには直剣を生成する。
「お前のその余計なことを考える脳みそも、
余計なことしか言わない口も全て切り裂いてやる。」
(集中力が上がった…天恵の精度も上がっていると読むべきか。)
「意志『制罰』」
(!、意志か…ミュレイちゃんとの戦闘のデータを見るにこの男は相当リスキーな行動の縛りを躊躇いもなく課してくる。
慎重に動くべきだ…)
ランスロットは喋ることをやめ、天恵も使用せず、その場から足を動かさずにアレルの攻撃を迎え撃とうとする。
だが次の瞬間にはランスロットの脇腹がえぐれ千切れる。
(!!…まじか、ここまでリスク負うとか頭おかしいだろ。
スタシアといい、この国の奴はぶっ飛んでるやつしかいないのかよ。)
アレルはランスロットがほかの天帝よりも戦闘の際に思考に時間を割くことを、対面した瞬間から理解していた。
(ミュレイとの戦闘は間違いなくこいつらの差し金。
ならば契約の意思の能力は知られていると読んだが、正解だったな。)
事象が契約の意思も意志も理解していると読み、あえて裏を読んで『天恵を使用せずに攻撃を迎え撃つ』という行動を『制罰』によって縛った。
これに関しては完全に賭けだったが読みが当たった。
アレルは脇腹がえぐれたランスロットに対してアレルは治癒も反撃もさせる暇も与えず、
脇腹に剣を振るう。
(この怪我じゃ、一番の軽症でも腕を切られるか。
ここで腕を切られるとそのあとの追撃に対して対策が取れないな。
片足を切られておくか。)
アレルの脇腹に振られた剣は、元からそちらにめがけて振られたかのようにランスロットの左太ももの付け根を切り裂く。
ランスロットの予想通り、アレルは隙を与えまいと攻撃を続ける。
片手に短剣を生成して、アレルの剣をすべて弾く。
(くそっ、バケモンが、、片足切られてもその場から動かずに攻撃を受ければ問題ないってか?)
片足と片方の脇腹がえぐれている状態の体幹のみで、一切揺れることなく自身の攻撃を捌き切るランスロットに対して、不快感と焦燥感が一層増す。
「良いね、君。思ってたよりより強いし、守恵者の中でも剣の技術が劣っていると聞いていたけど、
言うほどそんなことはないみたいだね。」
「黙れ」
「素直じゃないなぁ、」
ランスロットは実際に驚いてもいた。
今のところアレルの動きのすべてが予想以上であり、若干の焦りすらあった。
その焦りはタイマンで負けるかもという焦りではなく、簡単には殺しきれないということからくる時間的問題。
アレルとの時間が長引き万が一、ギャラリスとハインケルが負けた場合に剣韻の意思者と結命の意思者がすぐにこちらに向かってくるだろう。
そうなれば守恵者を三人相手取ることになる可能性がある。
それはランスロットにとってめんどくさい以外のなんでも無かった。
(それに契約の意思は僕の事象の意思と違って攻撃特化の意思だ。
予測不能の理不尽な縛りを強制的に課せられる『制罰』…、天恵の消費は相当なはずだがそれ以上にリターンがでかい。
この男の天恵技術は見るに結構高いし、
はぁ…めんどくさぁ。
一番良いのはギャラリスたちがチャチャっと殺しちゃってこっちに合流することだけど、、
どうやら意外と手間取っているみたいだな)
アレルの攻撃を受け流しながら脇腹の治癒を終え、左足もすでに膝まで治癒していた。
(少し僕からも攻めるか)
ランスロットは足を再生する早さを上げると同時に守りから反撃へと行動を変える。
突然の反撃にアレルはギリギリ反応をしてから後方に下がる。
ランスロットは完全に足を再生させて、アレルに攻撃を仕掛ける。
「天恵技術では抗えない意思の差を見せてあげるよ。」
ランスロットは今まで自分の意思は敵なしとばかり思っていた。
事実、それほどの過信をしてしまうほど事象の意思というのは守り面で他の意思と大きく差のある性能をしている。
だが過去とつい最近の二回、事象の意思と自身の天恵を合わせても全く歯が立たない存在がいると思い知らされた。
セルシャとスタシア…この二人は化け物すぎた。
セルシャは空虚の意思が無くてもそもそもの天恵技術が人智を超えている。
そしてスタシア…あいつは年齢と精神力が全く見合っていない。
今まで天帝の連中以上に狂ってるやつはいないと思っていたがスタシアはそれを優に超えるなんて言葉じゃ足りないくらいに頭がおかしい。
正直狂い度で言ったら天帝で一番頭のおかしいギャラリスの倍は狂ってる。
それに加えて信愛の意思。
僕の事象の防御力なんてまるで無意味かのように致命傷になりうる攻撃を毎回当ててくるし、防御などではなく体を治癒できる前提で動けるというのもグロい。
(幼女は化け物っていう決まりでもあんのかよ…)
「意志『万視』」
アレルの意志 『万視』は数秒先の未来を見た上での意思の使用による攻撃も防御に関してもほぼ確定結果。
これに太刀打ち出来るのは信愛や空虚のような圧倒的な力でのゴリ押しのみ。
「意志『制罰』」
(意志か…だけど、僕には数秒先の未来が見えている。
つまり、今回で言うと 剣を物質にぶつける という行動を縛っているのは丸わかりということ!)
ランスロットは即座に剣を消し、拳に天恵を纏う。
「っ!!」
アレルの表情が一気に焦りへと変わる。
意志『制罰』には縛りを儲けた際に、対象が指定の行動を時間以内にしなかった際の罰が発動者にされる。
そして…今回の 剣を物質にぶつける という行動の縛りに対する制限時間は6秒。
ランスロットがアレルの振る剣を全て避けながら、脇腹に拳を食い込ませる。
その痛みで顔を歪ませ、それとほぼ同時に目が突然潰れる。
「へぇ、罰ってこんな感じなんだね。」
関心を示しながらもランスロットはアレルに対して攻撃を続ける。
契約の意思の縛りは細かな行動の指定をしなければいけない。
先程の縛りならば 「剣を」「物質に」「ぶつける」という明確な指定があった。
そのため息をするなど人間がごく当たり前にすることを縛る場合、息をするタイミング、周期の時間、仕方を全て縛りの条件に入れなければいけない。
そして、その場合の制限時間は一秒にも満たない。
アレルは視界を失ったことによって完全に隙だらけの状態になる。
そこにランスロットは両手のひらを心臓部に押し付ける。
「破け…っ!」
破恵を放つギリギリのタイミングでランスロットに高圧縮された天恵の攻撃が飛んでくる。
即座に片手でその攻撃を真上へと弾く。
(手が焼けた…凄い圧縮だな、、
守恵者以外にもこんな技術力を持つ存在がいたんだ)
「アレルさんっ!」
「その声は…ゼレヌスさん、っ」
アレルは直ぐに片目を治癒し、その目でゼレヌスとランスロットの位置を把握し、体勢を立て直すためにゼレヌスの方へと下がる。
「はぁ…はぁ…ゼレヌスさん、助かった。」
「いえ…すみません、遅くなりました」
「来てくれただけでもありがたい。」
「あの人は…」
「事象の意思者…天帝だ」
「!?事象の意思…、、アビスさんが仰っていた!?」
「あいつの意思は行動の選択、意志は確定結果だ。
圧倒的な技術と物量のゴリ押しなら勝ち筋はある。
ゼレヌスさん、着いてこれますか?」
「はい、お任せを!」
「ん〜…ただでさえめんどくさい奴相手してたのにこれまためんどくさいやつ来ちゃったなぁ。」
(正直、サイナスで二人とも一気に片付けても良いけど…その場合僕は援護に行けなくなる可能性があるから却下かなぁ。)
「治癒が終わりました。行きましょう」
「了解です」
「いいね、面白くなってきた」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(?、ランスロットの方に守恵者以外の誰かが着いたわね。
それに結構面倒くさそうな…。
こっちとしても結構ギリギリだからすぐには援護行けなさそうだし。
どうしようかしら)
ヨーセルとミリィノの連携は攻撃をするほどに増していき、ギャラリスも身体強化をした状態で本気で相手をしていた。
致命傷や目立った傷は負っていないため、冷静にいれているが現状を見ると焦らざる得なかった。
(ランスロットは相手する人数が増えれば増えるほど脳に対する負担が大きくなるし、余裕では無いのよね。
サイナスも使わないだろうし、やっぱり私がさっさと終わらせないといけないわよね。
まぁ、無理なのだけど。
ハインケルの方が私より速そうね。)
ミリィノは毒による弱体化を喰らいながらも、ヨーセルの援護があるという前提でいつもと変わらない…いや、いつも以上に無理な攻撃をし続ける。
だが、それが実際にギャラリスにとってはやりずらいものとなっていた。
そして…
「っ!!」
ギャラリスの背後から向けられたヨーセルの剣が腰から腹にかけて貫通する。
「ゲフっ…やるじゃない…」
左手の短剣を逆手持ちして後方へと振りつけるが、
その場にヨーセルは既に居なかった。
(どこいった!?)
ギャラリスがヨーセルを見失っていると頭上から天恵を感じ、上を見るとヨーセルの拳がすぐ目の前にあった。
ギリギリのところで右腕で拳を止める。
「残念だったわね!」
「お前がなっ」
ヨーセルが言い放つと同時にギャラリスはミリィノの姿を探すが目に写った時には既に自身の両腕が切り落とされていた。
止める物が無くなったヨーセルの拳はギャラリスの頭にクリティカルで当たる。
殴られた衝撃でギャラリスは顔から地面に落ちていく。
その間に二人はここぞとばかりに追撃をしようとする。
だが、ミリィノの目に映ったのは地面に向かっていくギャラリスの顔に笑みがあったこと。
「サイナス」
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