100話 「ユーランシー天上決戦①」
「これからスタシアの追悼式があります…
ディシさんも来てくれませんか?
ユーランシーの民は現在、ザブレーサへと運ばれています。
なので、せめてユーランシーに残る私達だけでもスタシアを見送らなければいけないんです」
「すまないが…俺はスタシアを見送りたくなんてない。
勝手にやってくれ」
「どうしてですか?
ディシさんは…スタシアがその腕の中で息を引き取る寸前で何を伝えられたんですか?
何を感じたんですか?
永く…貴方の事を想ってきたスタシアに対して何も思わないんですか?」
「ヨーセル…言葉に気をつけろ。
俺は今…親しい仲だからって正気を抑えられるほど落ち着いてないんだ。」
「気をつける気なんてありません。
殴りたければ殴れば良いです。
ムカついたなら暴言を浴びせれば良いです。
それでディシさんが楽になるならいくらでも受止めますよ。
でも優しいあなたがそんなことをしても心が楽になるわけなんてない。」
言っていること…指摘していること…全てこの女性の言う通りだ。
暴言暴力…そんなことをしても人の心なんて救われない。
現にスクリムシリを原型もとどめないほどに無残に殺しても何も気分は良くならない。
むしろより苦しく辛く、泣きたくなるだけだった。
「もう一度言います。私は絶対に諦めません。
私は諦めも悪ければ意地も悪いんだって最近知ったんです。
スタシアの追悼式に来てください。来る義務がある。」
「…帰れ。」
「ディシさ、!」
俺はドアを強く閉める。
『あなたは…スタシアがその腕の中で息を引き取る寸前で何を伝えられたんですか?
何を感じたんですか?
永く…貴方の事を想ってきたスタシアに対して何も思わないんですか?』
ヨーセルの言葉が頭の中にこびり付いて離れない。
(俺だって…自分がどう思ったのかを知りたいよ…)
スタシアが俺の事を想ってくれているとアレルから聞いた時から、スタシアを妹ではなく一人の女性として見るようにした。
だけど、俺はどうしてもスタシアを恋愛的な目で見ることは出来なかった。
スタシアが子供だからじゃないし、童顔だからでもない。
どうしても…何かが違うと思ってしまっていた。
スタシアに限らずにミリィノやアンレグ、メアリー女王ですら美人と思うことはあっても女性として見ることは無かった。
だがただ一人だけ女性として見ることが出来る人もいた。
ヨーセルだった。
好意を抱いているかどうかは自分でも分からないが、
ヨーセルを見た時から他の女性とは違った…空いた型にすっぽりとハマるような…そんな感覚になった。
「早く…楽になりたい…」
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スタシアの追悼式、本来あるはずの姿が一人だけ無かった。
「ディシさんはやはり来ませんでしたか?」
「すみません、何とか説得を試みたのですがまるで聞いて貰えずに…」
「ヨーセルは悪くない。
あいつもあいつなりにスタシアに対して思っていることがある。
それを一人で処理する時間が必要なんだ。」
「そう…ですね。」
「メアリー女王が来られました」
ミリィノの側近であるレイがそう言い放つと守恵者、
側近、ヨーセル、ゼレヌスは膝をつけて頭を下げる。
「皆さん…面をあげてください。
今からスタシアさんの追悼の儀を行います。」
そしてこの場にいる全員が目を閉じる。
西国…綺麗な花々が咲いている木々に囲まれた空間。
スタシアが良く訪れていた心が安らぐ場所。
そして、そこにスタシアを埋めた。
そこでメアリー女王、アレル、ミリィノ、アンレグ、レイ、ヨーセル、ゼレヌスの七人がスタシアを送り出していた。
アレルとスタシアの側近は民達と共にザブレーサへと向かった。
つまりメアリー女王を抜き、ディシを含めた計七人で天帝を迎え撃つのだ。
誰も何も動くことなく、涙も流さず…ただ沈黙を続ける。
そして十数分が経ってから全員が目を開ける。
「それでは皆さん、追悼の儀を終わりにします。」
本来、追悼式は言葉を使いその者の勇姿を皆と共有するものだ。
だが、スタシアの功績や勇姿はこの国の住民で知らない者なんていない。
ならば言葉など発さず、個々の思いを心の中で唱える。
それがメアリー女王が提案したもの。
それに反対するものなんているはずがなかった。
「天帝に対する話し合いはどういたしますか?」
「明日、朝一番に会議室へ来てください。
申し訳ないことに私は少しやることが残っているためこの後は都合をつけることが出来ないんです。」
「了解しました。」
メアリー女王とゼレヌスは共にホールディングスへと戻っていく。
「ミリィノ…この後、少し手合わせをしてくれないか?」
ミリィノはアレルの提案に目を見開き驚く。
「良いよ、北国の闘技場で良い?」
「ああ、構わない。ヨーセル、お前も来るか?」
「いえ、私はディシさんの元へ行きます。
せっかくですが遠慮させていただきます」
「そうか…。
ディシを頼んだ。」
「任せてください。」
「アンレグさんとレイもどうですか?」
「せっかくなので御一緒させていただきます。」
「私も…少しディシ様が」
「アンレグさん…気にしないで行ってきてください。
ディシさんは私が何とかしてみせます」
「…そうですか。それでしたら御一緒させていただきます。」
アレル達四人は北国方面へと向かいだし私はそのまま
ここから真反対の東国へと向かう。
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「ん〜〜!!ふぅーー!疲れたぁ」
「あら、思ったより早いお目覚めね」
「やぁ、ギャラリス、体の調子はどうだい?」
「程々ね…天恵で体が出来ているのって結構不便ね。
常に天恵を保つために操作してないといけないし。
今の私には体が半分天恵で出来ている状態がギリギリね」
「そうなんだな、やはりそう考えるとセルシャはおかしいってことだな」
「そんなのは今更じゃない。
自分で言うのもなんだけど聞いたことないわよ、
死んだ人間の蘇生なんて。
禁忌じゃない。」
「僕だって無いさ。
まぁ、でもその分相当なリスクがあるっぽいけどね。
あの戦いで僕も君もハインケルも相当な量の天恵を使った。
そして1割あるかないかくらいだった。
けどセルシャは君を生き返らせるために天恵のほとんどを使った。
多分だけど二回目はもう使えない…もしくは次使えるまでに相当な時間を有すると思う。
セルシャは殺した人間の天恵を空虚で隔離して溜め込んでいる。
それを今回、全て使って君を起こした。
1割未満…いや、0.5割もなかったんじゃないかな。」
「なんでそれであの子は生きてんのよ。
体も保っていたのでしょう?」
「だから怖いのさ。
まぁ、今はぐっすり眠っているけどね」
「ハインケルも寝ているのかしら?」
「どうだろうね。あいつは僕たちの中で一番天恵の回復が早いしもう起きてんじゃない?」
「まぁ、ヴァンレが死んで落ち込んでいるのでしょうね」
「そうかもね。これで君らの側近は全滅か。
いよいよだね。」
「ピンチなのはあっちも同じことよ。
私たちとの間には今や圧倒的な戦力差が出来た。
天命の意思が二人いるこちらに対して向こうは0。
ほぼ勝ちじゃない」
「そうでも無い」
「あら、セルシャ、起きたのね」
「五割程度回復か…ぼちぼちだね」
「明日までには回復する。
ユーランシーの連中を甘く見ると痛み目を見るぞ。
現に私はスタシア・マーレンの腕を消した攻撃…
あれは本当は心臓へ放ったつもりだった。
だが生きており反撃もされた。
それに加えて相当弱っていたから心臓を破壊することが出来たが万全ならば恐らく、多少の苦労を強いられた。」
「それは信愛に限った話でしょう?
ユーランシーの連中がそうとは限らないじゃない」
「人はどうやら憎しみと怒りで強くなる生き物らしいよ。
信愛は相当慕われていたらしいからね。
意思の覚醒をする者も出てくるかもしれないね」
「ふーん。」
「おや、もう集まりなんですか。
セルシャの気配がしたからこちらに来ましたが私が1番最後でしたか」
「遅いわよ、ハインケル」
「話し合いを始めるぞ、明日、ユーランシーを戦場とする」
「セルシャ…あなたはどうするの?」
「私は動かない。それが賢明だと判断した。」
「その理由は?」
「お前たちが仮に負けた場合の保険だ。
私が元から戦闘に参加した場合、向こうは私がいる前提で動くだろう。
ならば視覚的に私を映させずに意識外からお前たちが負けた時の保険として動かずに傍観をする。」
「へぇ、意外とちゃんとした理由だね。
まぁ、ぶっちゃけ僕の意思って信愛以外だと相性悪いの無いし保険なんて必要は無いと思うけどね」
「ランスロット…そうでも無いでしょう?
あなたの弱点は圧倒的な速さによる攻撃。
剣韻の意思者は我々の中でも十分に脅威になりうる速度を保有している。
現にギャラリスと同等の速さと聞きますよ。」
(天帝で純粋な速さで一番はギャラリスだ…。
それと同等以上か…)
「まぁ、ギャラリス位の速さならまだギリ僕の能力の範囲内だよ。
本当にやばいのは圧倒的な技術力でのゴリ押し。
アビスが死んでくれて助かったよ…本当。」
「一番気がかりなのはあの女ね」
「女?…あぁ、ヨーセルのことかい?」
「そいつよ。あいつの成長速度は化け物よ。
戦闘の中で私の動きにどんどんと適応していく。
致命傷を浴びせたと思ったもあいつはそのまま攻撃を続けてくる。
同じ人間とは思えないわ」
「まぁ、確かに、ヨーセルがどれほど成長しているかは気がかりだけどセルシャはどう思っているんだい?」
「どうもこうもない。敵は全員殺せ」
「わかりやすい指示なこと、、」
(曖昧だな…質問に対して見当違いな答えを言うのはセルシャらしくない。
何考えているんだ?)
「正確な配置と作戦は決めてるのですか?」
「ああ」
そして僕らはセルシャから作戦内容を聞く。
「へぇ、」
「面白そうじゃない」
完全に僕ら次第の言い訳不能な作戦。嫌いじゃない。
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翌日、私はホールディングスの廊下を歩いていた。
結局、ディシを説得することは出来なかった。
ドアを開けてくれずに全くと言っていいほど反応がなかった。
今は会議室に向かっている。
もう既に民は全員、ザブレーサへと避難した。
少し早めに向かっているため、まだ誰もいないだろうなんて思いながら会議室のドアを開けると既にミリィノが席に座っていた。
そして私と目が合うと笑顔になる。
「おはようございます!ヨーセルさん!お早いのですね」
(なんだろう…違和感)
「少し早めに来てしまいました。
ミリィノさんもお早いですね」
「はい、少し早めに着いといた方が良いかと思ったので」
私はミリィノの対面の席へと座る。
「正直…少し怖いです」
「怖い…ですか?」
「はい…スタシアさんが死んでしまって、、
ディシさんもあのような状態ですし。
本当に天帝に勝てるのかなって…」
(やはり違和感…何かおかしい。)
「あの…本当にミリィノさんですか?」
「え?」
「私が知っているミリィノさんは私に弱音なんて吐きません。
それが決戦前なら尚更です。
人の心配をすることはあっても最終的にミリィノさんはディシさんのことを信じると思います。
それに…ミリィノさんはスタシアのことをもう さん 付けで呼びません。
あなたは誰ですか?」
私が机の下で剣を作り出し、椅子を少し後ろに下げ、警戒する。
すると会議室のドアが開き、ミリィノが入ってくる。
「ヨーセルさん…と、、っ!!」
ミリィノが私の対面のミリィノと目が合うと同時に二人のミリィノの剣がぶつかり合う。
「あーあ、上手くいかないものねぇ。」
互いの剣がぶつかると同時に部屋が衝撃で破壊される。
そして私の対面に座っていたミリィノの体がドロドロと溶けていき、見覚えのある顔へと変わる。
「っ!!縛毒っ!!」
私もすぐに手に持っている剣を縛毒へと振りつけるが、縛毒は後ろへと回避する。
ミリィノの横に立ち、剣を構える。
(メアリー女王の予想よりも早い襲撃。
もう天恵は回復したということ?)
「ヨーセルさん…言葉を少なくして言います。
増援は来ません。
縛毒は私達だけで殺します」
言っている意味を直ぐに理解できた。
大きな気配が3つ。
1つは目の前の気色悪い女。
もう1つはアレルの屋敷の方向。
もう1つはディシの屋敷の方向。
(アンレグさんとディシさんなら相手が天帝だろうと問題は無いはず…
アレルさんは…一人だ、どうするべきだ?
ホールディングスにはメアリー女王もいる。
ここを私が離れる訳には行かない。
ゼレヌスさんが向かっているということを信じるべきか…)
「ヨーセルさんっ!来ます!」
縛毒が目で追えない速度で近づき剣を私の首元へ振りつける。
それに対してミリィノが間に入り、剣を止めて縛毒を蹴飛ばしてホールディングスの外へ吹き飛ばす。
「ヨーセルさん!考えるのは後です!
まずは縛毒をこの建物から離れさせます!
他の天帝は皆さんを信じましょう!」
(そうだ…考えてもしょうがない…今は目の前の敵を殺すっ!)
「はいっ!」
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「へぇ、君もまぁまぁ、強いね。
ミュレイちゃんが負けるわけだ」
「…」
(天帝…それに、こいつ…まさか)
「事象…」
「正解だよ。初めまして契約の意思者、アレル・ドレイ。
事象の意思者 ランスロット・アンバー。よろしく」
「わざわざ死にに来てくれたか。手間が省けた」
(ゼレヌスさんがこっちに来ている。それまで耐えられれば…)
「良いね、威勢がいいのは悪いことじゃない。
ギャラリスも始めたみたいだね。
ならこっちも始めようか」
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「あなた…女性なんですね。
髪が短くて男性かと思いましたよ」
(まずい…まずいまずい。天帝だ…間違いなく天帝だ。
ディシさんに知らせなければ、
でも、動けないっ、なんなんだこの圧は、)
「というか…ここは結命の意思者の屋敷と聞いたのですが。
出てきたのはそれに仕える雑魚ですか。
ハズレ引きましたね」
「ハズレかどうかは今から判断しろ、」
アンレグは剣を作り出す。
同様にハインケルも鎌を作り出し、向き合って構える。
そして、互いにぶつかる…いや、ぶつかるという表現ではない。
アンレグが完全に押し負け、剣を真っ二つに破壊される。
そしてハインケルがアンレグの首に鎌を振りつける。
だが、それは当たらずに空を切る。
「ディ…ディシさんっ、」
「天帝…」
「おや、出てきたんですね。
逃げたのかとばかり…」
「気配でわかっていただろ。
あまりイラつかせるな。」
「それは失礼。
天帝慈刑人 ハインケル・ソッズと申します。」
「自己紹介は要らん。殺す」
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