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天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
105/106

99話 「殺意」

俺は###の助けを貰いながらユーランシーで過ごして1ヶ月半が経った。

今日は最後の定期検診だ。

既に半月前の時点で固定を外しても問題はなく、今日は包帯を解いた。


家へ戻ると、前とは違ってすっかりと生活感のある内装になっていた。


「ディシさん、おかえりなさい!

…もう、外しても問題ないんですね、、」


「ああ、###ありがとう。助かったよ。」


「いえ…良かったです」


「大丈夫か?暗いぞ?」


「…ディシさん!!改めてお願いします!

ユーランシーで暮らしませんか!!

安全だし、街並みは綺麗で美しくて!

だからこのままずっとユーランシーで暮らしませんか!!」


確かにこの一ヶ月半、この女性にはたくさんのユーランシーの魅力を教えてもらった。

美味しい店なんて数え切れないほどに見つけた。

だが…


「すまない。俺はユーランシーで住むことは出来ない。

俺は母と過ごした日々を忘れないためにあそこに住み続けないといけないんだ。」


「そう…ですか、、」


「###…ユーランシーをこんなに魅力的に感じたのは全部君のおかげだ。

ありがとう」


俺は###に対して向き直しながらまっすぐ目を見て言う。


「…嫌だ、、」


「え?」


「嫌です!私はディシさんと離れ離れになるのなんて嫌です!

私はディシさんが好きなんです!」


突然の告白に驚いた…わけでもなかった。

正直薄々は気がついていた。

###が俺に対して好意を抱いていることは。

そして、俺もこの女性に好意を持ってしまっていることも。

だが伝えるつもりなんてなかった。

俺はユーランシーの外に住んでおり、会えるのはせいぜい月に一度。


「俺も好きだよ。でもごめんな、一緒暮らすことが出来ない俺なんかじゃなくて他に良い人を見つけてくれ。」


「ど、どうして、、そんなこと言うんですか、

私がどんな思いでディシさんと過ごしてきたと思っているんですか!

最低なことを沢山考えましたっ、

このままずっとディシさんの右腕が使えなかったら一緒にいれるのにとか。

それくらい好きなんです!」


「すまない、カルメルの元へ行ってくる。」


「ディシさんっ!」


俺は###の言葉を無視してそのまま西国に向かう。




「そうか…やっぱり戻るんだな、、」


「悪いな、、ここまで色々と助かった。

また次来るのは時間が空くかもしれない。

###を頼んだ」


机の上で書類等の仕事をしているカルメルの前に立ち、見下ろしながら伝える。


「ああ…また次も無事に会おう。」


「そうだな。」


そして、俺はユーランシーを出た。




久々の自給自足の生活に少し大変なこともあったが、やはり俺はこっちの方があっているみたいだった。

木々に囲まれているのは心地が良い。

暇になったら川を見れば良い…。

また、いつもと変わらないような日常に戻っていった。

そうだと思っていた。

だが、ユーランシーを出て2週間後、その報告は突然だった。

森林地帯にある俺の家に二人のユーランシー騎士団員が来た。

その二人に警戒しながらも要件を聞く。


「カルメル様が亡くなられました。」


その言葉を俺は理解出来なかった。

言葉も出なければ思考もできない。

どういうことだ?亡くなった?誰が?2週間前まであんなに元気だったカルメルが?

俺は気がつけば騎士団員の一人をぶん殴っていた。


「おい、お前、冗談でもそんなこと言ってんじゃねぇよ。」


騎士団員はまるで殴られるのがわかっていたかのように静かに立ち上がり、頭を下げる。


「カルメル様からあなたのお話は沢山聞きました。

良いところも悪い所も。

それほどまでに仲の良いあなたにはカルメル様を見送って頂きたい。

それが我々の…願いなのです。」


二人は俺に対して深く頭を下げる。

それを見てこいつらは冗談なんて言っていないのだと理解した。

と同時に俺は呼吸が苦しくなる。

カルメルがなんで?騎士団はユーランシー内の治安を守るだけではないのか?

それで死ぬことなんてあるのか?


気がつけばホールディングスの地下にいた。

そこには台の上に目を閉じて眠るカルメルがいた。

右腕が何かに引きちぎられ、心臓を突き刺されて破壊されている。

実際にその光景を見たら涙なんて出なかった。

理解し難い事実に頭が痛くなる。


その後に会議室のような場所運ばれてユーランシーのことを二人の騎士団員から教えてもらう。

天恵とスクリムシリのこと。

意思のこと…そして、カルメルが旋絆(せんばん)の意思者だということも。

そして、カルメルを殺したのが支操の意思を宿る天帝だということ。


俺はホールディングスを出たあと、行きあてもなくとぼとぼと街を歩いていた。

日が沈みかけており、子供たちはもう外で遊んでいない。

民はいつもと変わらず元気に喋っていたり、商品を売ろうと頑張っているがどことなく静けさがあった。


「ディシさんっ!!」


聞き覚えのある声が俺の後ろから聞こえた。

後ろを振り返ると###が息を切らしながら汗をかき、涙目になりながら俺を見ていた。


「###か。どうした、」


「どうしたじゃないです!

顔色が酷いですよっ!

も、もしかして…カルメルさんのことを?」


「ああ、、悪いな、もう疲れたから」


俺は振り返り東国にある自分の家へと向かおうとする。

だが、俺の手を###はがっしりと掴む。


「離せ…」


「嫌です」


「離してくれ…」


「離しません」


「離せって言ってんだろっ!」


俺は掴まれている方の腕を勢いよく振り、###の手を振りほどく。

その勢いで###は地面に倒れる。


「す、すまん…」


「私は…諦めが悪い…意地の悪い女なんです。

どれだけ断られようとも、どれだけ強がろうとも…

私は!あなたが救われるまでどこまでも着いていくっ!!

ディシさん!今、とても辛いんでしょ!!

どうして人を頼らないの!どうして私に頼ってくれないの!!お願いだからさ…私を頼ってよ…」


民たちの目線が俺たちに集まっている。


俺は黙って振り向き、もう一度家の方へと歩き出す。

###も黙って俺に着いてくる。

そして家に着くと、さぞ当たり前かのように家に入ってくる。

入った瞬間、###は俺を後ろから抱きしめてくる。


「我慢しないでください」


「我慢なんてしていない…」


「嘘つかないでください」


「嘘なんて…ついてない」


「なら、目から流れているものはなんですか。」


「…」


ディシは静かに振り向き、###を抱きしめる。

何も言わずに、強く抱きしめる。

それに対して###も強く抱きしめ返す。


「場所…変えましょ」


ディシと###は2階の以前まで###が使っていた部屋に行く。

そしてディシはベッドに###を押し倒す。

首元にキスをしたあと、互いの唇を合わせる。




「###…俺と結婚してくれないか?」


翌日の昼間…ディシは突然そんなことを言い放つ。


「えっ」


「嫌か?」


「い、嫌じゃないです!むしろ良いのですか…?

私と結婚なんて…前までユーランシーに住まないと言ってて…」


「その事なんだが…俺とユーランシーの外で住んでくれないか?」


ディシはこれが無謀な願いなのはわかっていた。

前までは何故ユーランシーの外が危険なのかは知らなかった。

だが、スクリムシリという存在がいるからということを知った今、こんな願いをするのは一緒に危険な地で暮らすように誘っているということ。


ディシはダメ元であり、一度でも断られたらキッパリ諦めようと思っていた。

だが、帰ってきた答えは予想外のものだった。


「しょうがないですね、ディシさんは。

良いですよ!一緒に住みましょ!」


「え?良いのか…?」


「ディシさんがお願いしてきたことですよ?」


「そ、それはそうだが…ユーランシー外はスクリムシリが…」


「私は 好きな人と危険な地に住む と 好きな人が居ない安全な地 。どちらに住む?と聞かれたら迷わず前者と答えます!

もし危ないことがあってもディシさんが守ってくれれば問題ないですし!」


予想外の返答と言葉にディシは笑みがこぼれる。

と同時に涙も溢れる。


「ありがとう…ありがとうっ、、」


「ディシさんは泣き虫ですねっ!」


それから事はすぐに進んだ。

ディシと###はすぐに結婚をし、ユーランシーの外へと出た。

###がユーランシー外に出るための交渉はなかなかに苦労した。

一週間に一度、家に騎士団二名ほどを送り様子を見に行くという条件と二週間に一度、ホールディングスまで安否の確認をしに行くということで結論づいた。




「へぇ!ここがディシさんが育った家なんですね!」


「元々はここまで大きくはなかったんだけどな。

俺が大きく改良してこのサイズまでになったんだ。」


「ふふっ」


「どうした?」


「いえ、なんだか嬉しくって。

ディシさんとこれから二人暮し!楽しみです!!」


「俺もだ…###…」


ディシは###を抱きしめる。


「もー、甘えたがりですか?」


「そうかもしれない」


「まだ片付け終わってませんよ?」


「後でやればいいさ」


「ディシさんはしょうがないですね!」


###はディシを抱きしめ返す。



俺たちはそれから幸せな結婚生活をしていた。

喧嘩することもあったし、体調不良になった時なんて互いにもうダメかと思うほどだった。

だが、それを乗り越えて一年が過ぎた時だった。


「ディシさん…今日、ユーランシーに行って医務室に寄ったの。

最近体調悪いこと多いから何か怖くて。

聖者さんに見てもらったら…妊娠してたの!」


「えっ、ほ、本当か?」


「うん!!私たちの赤ちゃんができてたの!」


「やった!やったやった!!」


ディシは飛び跳ねながら喜ぶ。


「そ、それでね…子供もできたし、ユーランシーにもう一度住まない?」


###は恐る恐る聞く。


「ユーランシーの方が何かと便利だし、子供もそっちの方が良いと思うの…」


「もちろん!仕事も知り合いのツテですぐに見つかると思うし、貯金も贅沢できるくらいにはある!

ユーランシーに住もう!」


「ほんと?ありがとうっ!ディシさん!」


「できるだけ早めに移住したいし…明日には荷物まとめて明後日にはユーランシーに行こう!」


「うん!」


幸せの絶頂。

この時はこれ以上の幸せはないんじゃないかと思うくらい何もかもが上手くいく気がしていた。

けど世の中は決まりがある。

幸せがあるのと同様にその分不幸がある。


次の日に荷物をまとめるのに一段落着いたため、昼食のために魚を取りに行き、家に戻るとドアが開けっ放しだった。


(閉め忘れか?珍しいな…ん?ドアが、壊されてる?)


俺は家の中に入り、二階で何か音がしたため階段を上る。


(なにかの咀嚼音?)


###の部屋から咀嚼音が聞こえてきた。

部屋の扉を開け、その光景に俺は……


ディシがドアを開けると血の生々しい匂いと共に目に入ってきたのは見たことない化け物が最愛の妻の腹を貪る姿だった。

###は既に息を引き取っており、必死に逃げ、抵抗したのだろう。

部屋は散らかっており、腕には噛みちぎられた跡があった。


化け物は食べるのをやめて、ディシの方へと目を向ける。

そしてディシにその鋭い爪と牙を剥き出しにして襲いかかる。




ユーランシーから二人の騎士団員がディシの家へと向かわせられていた。

今日が騎士団員が訪れるその日だった。


「あの御二人は一年間、一度も欠かすことなく本当によく約束を守ってくれるもんだよな。」


「そうだな…さすがはカルメル様の見込んだ御二人だな。」


そんなことを話しながら、ディシの家が見えてきて様子のおかしさに気がついた。

家の前にはディシが立っており、その姿は頭から血を被ったように血だらけ。

そして息を切らしながら下を向いている。

その目線の先には図体は小さくそうは見えないが

獣型スクリムシリ 解 が頭を潰されていた。


二人の騎士団員はすぐにディシの方へと駆け寄り、

声をかける。


「ディシさん、、こ、これは一体…?」


騎士団員の質問に答えることなく、スクリムシリの死体を踏みつけながら家の中へと入っていく。

二人の騎士団員は後をついて行く。

ディシはある部屋の中に入ると床に膝をつける。

あとから二人も部屋の前に着き、中を覗くとその光景に言葉を失った。

ディシは腹を貪られ、血だらけの女性の上半身を起こしながら涙を流す。


「あ、ああぁぁああぁああぁぁぁぁあ!!

俺はっ!!何もっ!!何も上手くいかないっ!!

どうしてっ!!なんでっ!!

俺はなんでこんなにっ、!!

約束一つ守れないんだよっ!!

必ず守るって…約束したのに俺はっ!!

うあぁぁぁああああぁぁぁぁぁあああ!!!」


その後は少ししか覚えてない。

二人の騎士団員が俺と###を連れてユーランシーに戻る。

###には白い布を被せられており、ホールディングスまで安全に運ぶ。


俺はもう動かない姿を見ながらどうしようもない感情をどこに向ければ良いのか分からなかった。


「ディシさん…スクリムシリはやはり危険です。

ユーランシーに住みましょう…なぜあなたが生きていられたのかも謎なくらいに…」


「スクリムシリ?」


「え?」


あぁ、そうか。このどうしようもない殺意(感情)を向ける相手がいるじゃないか。

スクリムシリ…俺の大切なものをことごとく奪っていくゴミ共。

俺が…全て根絶やしにしてやる。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

目が覚める。

またこの夢を見た。

大切な人が…親しい人が死ぬ度にこの夢を見る。

そしてすぐ忘れる。

思い出せない…あの女性の名前が…。

まるでその記憶だけ切り抜かれたかのように。


すると、屋敷のドアがノックされる音がした。


(アンレグはいないのか…)


俺は部屋を出てのドアを開ける。


「ヨーセル…」

読んで頂きありがとうございます!

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