98話 「過去の執念」
俺はもともとそんなに正義感は強くないし、自分に関係なければ人が死のうと関係ないと思ってた。
でもそんな俺でも、一つの出会いで変わるものだった。
何年前だったかな…いや、何十年前だったかな…。
もうそんな詳しい期間なんて覚えてなんかいない。
それくらい前の話。
俺が実年齢19の時、ユーランシーから東南東に四キロほど離れている森林地帯で俺は一人静かに暮らしていた。
周りに村なんてなく、自分で自給自足をして暮らしていた。
家も木材を使って自分で建て、食料は川で魚を捕まえたり、木の実をとったりして原始的に暮らしていたのを覚えている。
だからと言って普通の暮らしと程遠いわけではなかった。
時々、ユーランシーや本当にごくたまにカルメラに行って服やらを揃えたりしていた。
そして毎回と言っていいほどユーランシーに行ったときに騎士団の手伝いと称して荷物やら剣やらの重いものを運ぶのを手伝っていた。
力が人より強いこともあって、結構頼りにされていたし、それなりに騎士団内の友達が増えていった。
そんなある時、その騎士団内の友達と飲みに行っていた際にユーランシーで暮らすように誘われた。
突然、そんな誘いを受けたことで少し動揺したが、俺は丁重にお断りした。
「なんでだ?
ユーランシーに暮らせば今より良い暮らしを保証する。
ディシなら鍛錬さえすればすぐに騎士団としても働ける!」
「嫌だよ。俺は今の生活に満足してるし、半強制的に働くというのも好きじゃない。
それは、カルセルだって知ってるだろう?
ユーランシーには住まないよ。」
「なんでだよ!今よりも飲みに行ける頻度も増える!
もっと面白いやつらと知り合えるんだぞ!」
「どうしてそんなに必死になってユーランシーに住むように勧誘してくるんだ?
別に今も俺がいないと困るって程人が足りてないわけじゃないんだろう?」
「そういうことじゃなくて!」
「落ち着けって…俺がユーランシー外に住んでて不都合なことなんてないだろ?」
「あるにきまってんだろ!
俺がどんな思いで毎回お前をユーランシー外に送り出してると思ってんだ!」
カルセルは声を荒げながら机を ドンっ と叩きつけて言う。
そのせいで店内の視線がすべてこちらに集まる。
「落ち着けって…どうしたんだよ、いきなり…」
「落ち着いてられるわけないだろ!
詳しくはまだ言えないけどユーランシーの外は危険なんだよ、、
頼むよ…お前に何かあったら俺はどうしたらいいんだよ…」
「危険ってどういう意味だよ。
説明してくなきゃわからないだろ。」
「俺だって説明したいさ。けど、お前がユーランシーに住む確約をしてくれないと言えないんだよ。」
その必死さに俺は少し心が揺らぎつつあった。
「分かった。今回はもう少し滞在してゆっくり考えてみる。
どんな答えが出ても文句言うなよ」
「分かった…今はそれで良い」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺はその後、ユーランシーに滞在する際に使用している小さな持ち家へと戻る。
二階建てで部屋数はあまり多くない他の家と比べて本当に小さな家。
「明日の分の食料を買いに行かないとな…」
もうすぐで店が閉まる時間だろうが、急げばギリ間に合うだろう。
俺は家を出て、暗くなった街並みを気持ち早めに歩く。
すると前から女性が走ってくる。
暗い中でも焦っているとわかるほどに息を切らしながら。
その後ろから男が数人追ってくる。
全員がガタイが良く、その男たちがその女性に向ける視線は欲にまみれた視線。
(ユーランシーにもこういう輩がいるんだな。
1人になった女性を複数人で攫って人気の少ないところで襲う…か。)
すると女性が足を躓かせて転ぶ。
男たちはニヤニヤしながら女性へと近づいていく。
恐怖で声も出せない女性に対して俺は間に入る。
「ああ?なんだお前、そこどけ」
「事情はあまり分からない…いやまぁ、少しは想像はつくけど。
これがお前たちの私欲による行為ならば見過ごすことなんてできないな。」
「てめぇには関係ねぇだろうが!
さっさとどくか、動けないほどに痛めつけられるか。
選びな!」
「あいつらは知り合い?」
「し、知らないっ!急に、腕を掴まれてっ、」
「分かった。」
(四人か…全員がガタイが良いな。)
男二人が先に拳を俺に向ける。
左右から来るふたつの拳をそれぞれ片手ずつで受け流す。
殴る際の勢いで俺の方に体ごと突っ込んで来る二人の頬に手の甲を少し力を入れて殴る。
「脳震盪で暫く動けないだろうな。
大人しくしとけ」
「へっ、やるじゃねぇか」
残った二人のうち一人は少し怖気付いていたがもう一人のリーダー格の男がそいつを後ろから蹴り飛ばし、俺の方へとやる。
そいつの首元を手刀で トンっ と叩き気絶させる。
そのすぐ後ろからリーダー格の男が拳を振りつけてくる。
(!…前三人と違ってこいつは戦い方を知っている…
この動き。騎士団の戦闘の基礎型。
こいつ…前にカルセルが言っていた騎士団を追放された問題児か)
俺はこいつの顔を見た事がなかったから知らなかったが女性絡みで色々な問題を起こし、そしてつい先日に一人の女性を社会復帰不可能になるまで追い込んだらしくそれで騎士団を追放された。
(右、右、、左、右、蹴りの後に…左)
目でギリギリ追えるくらいには良い動きをしている。
問題さえ起こさなければそれなりに良い兵になっていただろうに。
ディシとリーダー格の男は素早い拳の攻防であり、一回のミスで負けに繋がる。
ディシに緊張が走る。
(そもそも俺は数回しか騎士団の基礎型を見たことない付け焼き刃だ。
長くは持たない…どうする?
どうすれば勝てる…?)
「おいおいおい!そんなもんか!!」
男はさらに攻撃の速度を上げ、ディシはそれについて行くことが出来ずに脇腹に男の拳が食い込む。
「っ!!」
「おらおら!どうしたどうした!カッコつけるだけつけて負けるのかぁ!?」
男はこの隙を見逃さずにどんどんと追撃をしてくる。
それに対して俺は防戦一方へとなってしまう。
(まずいっ、、腕が限界だ…)
男が拳を後ろから前へと思いっきり振りつけると、俺の腕へと当たり、右腕が折れる。
「っっ!!」
「トドメだぁ!!」
男が拳を振り上げた瞬間、男は地面に頭から落ちる。
地面に膝をつきながらも顔を上げるとカルメルが立っていた。
「大丈夫か?ディシ」
「カルメル。なんでここに」
「お前の忘れ物を届けに来たんだ。ほら」
カルメルは俺に木でできた指輪を投げ渡す。
「これ…」
「飲む時いつも外すもんな。
それで忘れてたから届けに来た」
これは俺の大事な指輪だ。
亡き母が作ってくれた唯一の形見。
飲みをする時などにはいつもネックレスとして紐に通して首にかけるが今日は紐を忘れたためつくえに置いていたのだ。
「さて…と。バンズ、こないだぶりだな。
騎士団辞める時にボコボコにしたのにもうその痛み忘れたのか?」
「カルメルぅ!!貴様!!」
バンズと呼ばれるその男はカルメルに殴りかかるがカルメルは軽く受け流した後にバンズの顎に拳を強打させる。
一発でバンズは地面に倒れる。
「お前はやはり騎士団追放だけじゃ足りなかったな。
明日、お前はこの国から追放だ。
じゃあな。
ディシ、俺はこいつをホールディングスへ届けないといけない。
その女性を頼んだぞ。
その後、お前もホールディングスへ来い。
腕折れてるだろ?」
「ああ…分かった。」
カルメルはバンズを背負い、歩いていく。
俺は立ち上がり、地面に脅えながら座る女性に近づいて同じ目線の高さまで体を下げる。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です、、ありがとうございます」
「それはカルメルに言ってくれ。
俺は結局負けそうになってしまった。
不甲斐ないよ。」
「そ、そんなことありません!!
あなたが助けてくれなければ私は今頃…
あの!お名前をお聞きしても宜しいですか?」
「アンジ・ディシだ。あなたは?」
「私は###です」
「そうか…###か。良い名前だ。」
「ディシさん…腕が…」
「大丈夫だ、大したことなんてない。後でホールディングスで診てもらうからな」
「でも、すぐには治らないんじゃ…」
「そうかもな、」
「それでしたら治るまで私がディシさんの右腕となります!」
「いや、別にそこまでしなくても…」
「させてください!お礼がしたいんです!」
「そ、そうか…なら頼む」
「はい!でしたら早速今からお世話致します!お住まいはどの辺ですか?」
「東国のノース地区だが…」
「この後、ディシさんをホールディングスに届けた後に一度家へ戻ってまた伺います!」
「家に来るのか?」
「来るというか住みます!」
「住む?二人で住めるほど快適な家ではないぞ」
「構いません!お願いします」
「そちらが良いなら良いのだが、、」
その後、俺はホールディングスへと行ったあとカルメルに医務室へと連れられる。
###は俺をホールディングスへ届けた後、カルメルの指示で団員の一人が家まで届けるとのこと。
「あの女性…綺麗だったな」
「何言い出すんだよ、急に」
「ディシは何も思わなかったのか!?
綺麗な黒髪と毛先の白!で、儚げのある美人顔。
お前、良い女性捕まえたなぁ」
「何言ってるんだか…」
俺は医務室で聖者とやらの一人に腕を治療してもらう。
「少し目を閉じておけ。絶対開けるなよ。」
「え?あ、ああ、分かった」
言われた通り目を閉じる。
すると少し腕が暖かくなる。
すると痛みが少しだけ引いてきた。
「今はこれが限界ですね。
完治までとは行きませんが痛みと腫れは引いておかせました。
骨はまだ折れたままなので無理な行動は避けるようにしてください」
「ありがとうございます。
ディシ、目を開けていいぞ」
目を開けると、言葉通り、腫れが引いていた。
痛みも先程よりかは無かった。
俺は腕を首からぶら下げる固定を付ける。
「ありがとうな、カルメル。
助かったよ」
「良いんだよ、そもそもお前があの女性を助けてくれなかったらもっと危ない事態になってたし」
俺はホールディングスから出て家へと向かう。
翌朝になり、俺が朝食を苦労しながら食べていると扉をノックされる。
「おはようございます!」
扉を開けると###がいた。
「本当に来たのか…しかも荷物までご丁寧にまとめて、、」
「もちろんですとも!本当に小さめの家なんですね!」
「まぁな、期待はするなよ。
部屋は2階に用意してある」
「ありがとうございます!」
###は2階に行き、荷物を部屋に置いて直ぐに下に降りてくる。
「ディシさんはお仕事は何されているのですか?」
「俺は働いてなんか居ない。
そもそもユーランシーに住んですらいないからな」
「え?そうなんですか?」
「俺はユーランシー外の森林地帯で過ごしてるんだよ。
たまにユーランシーやカルメラに行って騎士団の手伝いや街の手伝いしてお金を稼いでいるんだ。」
「それでお金足りるんですか?」
「森林地帯で住んでる時は魚や木の実しか食べないからな。
たまにユーランシーに来た時に使えるお金があると便利だろう?
だから貯めているだけだ。
まぁ、こんな腕だからいつもより長く滞在するけどな」
「そうなんですね…」
「どうして悲しい顔をするんだ?」
「え?悲しい顔してましたか?」
「とても」
「そうですか…。
ディシさん!このままユーランシーで暮らしてはいかがですか!
ユーランシーの外はあまり安全ではないし、ユーランシーの方が便利です!
暮らすためのお金なら私がどうにかしますし!
働き口だってすぐ見つかると思いますし!」
「すまないがそれだけは無い。
俺は森林地帯で暮らすことを不便とは思ったことないんだ。」
「で、でも!」
「悪いな、この話はおしまいだ。」
「はい…」
少し強く言いすぎてしまったか…
様子を伺うように横目で見ると###は何かを考えている様子だった。
「ディシさん、この後ご予定はありますか?」
「特に無いが…?」
「良ければ、御一緒に街を回りませんか?」
「街を?」
「ディシさんにこの街のいい所を沢山知ってもらえれば考えが変わると思ったんです…
や、やっぱり急に誘ったら迷惑ですよね…す、すみません。忘れてください。」
「…行こうか」
「え?」
「ぜひ案内してもらおうかな」
「よろしいのですか?」
「そっちが言い出したんだろ?」
「そ、そうですね!
それでは行きましょう!」
###はあからさまにテンションが高くなる。
この提案に乗ったのに特に深い意図なんて無い。
単純に、この国のことをもう少し深く知ろうと思っただけだった。
だが、その曖昧な理由が俺の心を大きく動かすきっかけだった。
ちゃんとこの国を回ったことない俺にとって見たことの無い物ばかりだった。
食べ物は全てが美味しく、特にピリ辛肉団子が印象に残った。
ちょっとした広場に行けば小さい子達が笑いながら走り回っており、幸せとはまさにこの事だと思い知らされているようだった。
「ここなんてどうですか?」
###は 最後にここだけは と俺を連れてきたのは東国の時計塔だった。
「ここは入っても良い場所だったのか?」
「本当はダメですけど、ここの管理をしている人と仲が良くて、借りちゃいました!」
###はイタズラに笑いながら時計塔の柵に両手を着いて身を乗り出しながら気持ちよさそうに風を感じている。
俺はその姿を見て気がついてしまった。
ユーランシーの街並みは当然美しくどれも満足のいくものばかりだった。
けど、それはこの女性と回っているからなのだということ。
楽しそうに笑うこの女性といるから自分も楽しく感じるのだと。
「どうですか?満足いただけましたか?」
「あぁ、とても素敵だ。ありがとう…###」
「はい!」
読んで頂きありがとうございます




