表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
103/108

97話 「慰め」

昨日…スタシアが死んだ。

そのことはもうユーランシー内に知れ渡っている。

スタシアはまだまだ子供でありながら死と隣り合わせで生きていた。

だがそれを感じさせないくらいに民たちと明るく接し、同じ立場である俺達にもその明るさを振舞っていた。


そんなスタシアの突然の死。

この出来事はユーランシーの民に改めて、死というものが身近であり、大切な人が明日生きているという保証が無いことを知らしめた。



俺はスタシアが眠る部屋で小さな明かりを天恵で作り出し、ボーッとスタシアを眺めていた。

スタシアの全身には白い布が被せられており、俺は顔の部分を捲り目をつぶるスタシアの顔を見る。

スタシアの性格は決して好きな訳ではなかった。

暗い俺に対してこいつは眩しすぎた。

だが、それに救われることだってあった。

嫌いと思う回数も多かったが、それと同時に尊敬と感謝も多かった。


目を閉じていてもその美しさは健在であり、今にでも目を覚ましていつものように明るく振る舞うんじゃないかと思うほどだった。

俺はそっとスタシアの顔に白い布を被せる。


そして部屋を出てから窓の外の景色を見る。


「昨日から…酷い天気だ。」


昨日からずっと雨が降り続けており、まるで太陽が無くなった世界のように光がなく、雨のうちつける音のみが響く。


自分の屋敷へと戻っている最中にも民達とすれ違うが、全員がどことなく暗い顔をしており、昨日のディシと同じで生気を感じられなかった。

屋敷についてから軽くシャワーを浴び、自分の仕事部屋へと行く。


コンコンコンと部屋をノックされたため、どうぞ そう言うと静かにドアが開く。


「アレル様…少しお休みになられてはいかがですか…

その、、あのようなこともありましたし」


俺の側近兵であるミルドが心配そうな顔をしながら言い放つ。


「今、、辛いのは俺なんかじゃない。

スタシアと仲が良かったディシやミリィノの方が圧倒的に辛い。

休む時間が必要なのはあいつらの方なんだよ。

だから、俺が今休んだらこの国はさらに暗く沈む。

そんなことはさせない。」


「…ですが、、我々民目線から見たら…アレル様もディシ様やミリィノ様と変わらないほどにスタシア様と仲が良く見えました。

感情とは自分で気づかないものもあります。

今日くらいは休まれても良いと考えます。

…すみません、余計なお世話でしたね。

失礼致します」


ミルドは静かに部屋を出て行く。


(そうか…俺も、、あいつと仲良く見えてたんだな…

見させてくれたんだな…スタシア。)


俺は席を立ち上がり、書類を全てまとめて机に起き、部屋を出る。

自分の部屋へと向かうためにエントランスを通り過ぎると、玄関のドアの前に気配がした。


(誰だ?殺意はない…感じたことがあるがまるで別のものに変わったかのような気配…)


俺は玄関のドアを開くと、そこにはずぶ濡れになった騎士団制服を着たミリィノが立っていた。


「ミリィノ?なんで…」


俺は なんでここに?どうして雨避けもせずに?と疑問を投げ飛ばそうとしたが、暗い目で俯くミリィノの姿を見て言葉を止める。


「ひとまず入ってシャワーだけでも浴びていけ。

風邪ひくぞ」


ミリィノを中に入れ、使用人にミリィノを風呂場へと案内するように指示を出す。

その後、他の使用人にミリィノの分の夕食と暖かい紅茶を入れるように言う。


そして十数分後…俺が自室で本を読んでいると部屋のドアがそっと開く。


「服…ありがとう、、」


「気にするな。悪いな、女性用の服は持ち合わせていないんだ。」


「んーん、、助かったよ、」


俺はミリィノにシャツを貸した。

ズボンも一応置いて置くように指示したが、サイズが合わなかったのだろう。

シャツだけを着ており、少し目のやり場に困る。

俺とミリィノは身長差があるため少しぶかぶかだ。


「暖かい紅茶だ。

ひとまず、落ち着いてからで良い…話したいこともあるんだろ」


俺はいつもミリィノがしてくれているように、話を聞く。


「心の中で思ってた…スタシアちゃんなら明日になれば生き返っていつもみたいに明るく冗談を言いながら話しかけてくれるんじゃないかって。

でも、、違った。

屋敷にも行った…行きつけの飲み屋にも…よく二人で出かける服屋にも…いなかった。

どこにも、、どこにもいなかったっ!」


ミリィノは涙を袖で拭いながら静かに泣く。


「ずっと…女性として孤独だったんだ。

家は貴族階級で、それなりに立場が不確定な位置にいて…権力争いで負けそうになった時に…私が産まれた。

共に権力を争っていた他家は私との結婚を前提にもう一度話し合いというものを提案してきた。

私が…18になる頃に結婚させるって。

幼かった私はそんなの分かるわけなかったけど、一つだけわかったことがある。

その提案に両親は喜んで承諾したということ。

その時は父と母が喜んでいるのを見て私も嬉しくなった。

だけど、、今思えば酷いよね…子の幸せよりも家の安泰。

でも、私が4の歳を過ぎた時に騎士団の実践を模した民も見学可能の訓練を見せてもらったの。

その時…本当に感動しちゃってさ。

剣の軌道…一つ一つの体の動き…互いに尊重しあった剣のぶつかり合い。

もうその頃から私は剣の虜だった。

だから両親に剣を習いたい そう頼んだ。

もうそれはそれは責められるし差別的な言葉を言われるしで、面白くなっちゃうくらいだったよ。

けど、私はもうあの感動が忘れられなくなってた。

だから私は家を抜け出して、北国の方へと逃げていったの。

あの家じゃ、成長なんて出来ない。

そう思ったから。

でもさ、今じゃ簡単に行き来できるけど当時4、5歳位の私にとって東国から北国まで行くのって結構大変でさ。

気がつけば知らないところで迷子になって、どうしようもなくなってある建物の前で泣いてたら、一人の男性が話しかけてくれたの。」


「ディシか」


「そう…ディシさんは私と同じ目線まで腰を下ろして言ってくれた。

嫌なことがあった時、とりあえずたくさんご飯を食べれば良い って言ってくれたの。

ディシさんはそのまま私を近くの飯屋に連れてってくれて沢山食べさせてくれた。

そして、その時も今みたいに色々とディシさんに嫌なこととか子供のまとまっていない話し方でディシさんに言ってしまった。

それでもディシさんは文句も何も言わずにずっと聞いてくれた。

そして、ある提案をしてくれたの。

俺の知り合いに剣を教えて貰え。そして強くなって強くなっていつか俺と一緒に戦おうって。

私はそれから死ぬ気で頑張った…新しい環境になっても 女だから 力が無いから って私に可能性がないと言う人はたくさんいた。

けど、諦めたくなかった…

憧れちゃったんだもん…誰からも憧れるような騎士団兵になるって。

そして、私が騎士団に合格したって知った時、真っ先にディシさんが祝ってくれて…でもその後すぐスタシアちゃんが…一人の少女が守恵者になったって聞いて、同じ同姓ということもあってね…すご悔しくて悔しくて。

さらに頑張って…そしてあなたに会ったの。

私は一方的に前からアレルのことは知ってた。

けどもちろんアレルは私の事なんて知らない…

そんな私に対する第一声…覚えてる?」


「綺麗だ だったか?」


「そう。

あの時、いきなりそんなこと言われてさすがに驚いちゃってさ…

私のことを綺麗と言ったのかと思って顔が熱くなっちゃって。」


「勘違いさせてしまったのは申し訳ない…

ミリィノの剣筋があまりにも綺麗だったからつい言葉にしてしまった。」


「んーん。私はどっちの意味でも嬉しかった。

男性で私を素直に褒める人なんて今まで居なかった…

ディシさんとは任務とかで一緒になることなんて無かったから私の剣を見てもらったことがなかったし。

でも、アレルは初めて…言ってくれた。

嬉しかったっ…救われたっ…ここまで頑張ってきたのは間違ってなかったんだって。

その時から…ずっと、、ずっと、、アレルのことが好き。

大好き…お願いっ、、私を受け入れて欲しい!

お願い!!アレルはどこにも行かないでっ!!」


ミリィノは感情を抑えることが出来ずに涙を流しながらアレルに想いを伝える。


「ミリィノ」


涙を流し、両手で顔を覆うミリィノの背中に静かに手を回す。


「ありがとう。

でも、ごめん。

俺たちは騎士団だ…身近に死というものがある限り、無責任に関係を持つことなんてできない。」


「…今は…騎士団とか守恵者とか関係なく…一人の女性として…一人の男性として答えて欲しい。

私のことは、、好きじゃない?」


「好きさ。どうしようもないくらいな。

こんな立場投げ捨てて、ミリィノと幸せになりたい。

でも、俺達には責任がある。

だから、ミリィノの気持ちには…っ!」


ミリィノはアレルの言葉を遮り、アレルの唇に自身の唇を合わせる。


「ミ、ミリィノッ、、!」


アレルはミリィノを抑えようとするが、身体強化をしているミリィノはそのままアレルをベッドへと押し倒す。


「違う!違う違う!そうじゃないの!!

責任とか!騎士団とかじゃなくて!

死が身近にあるから!!だから!!今こうして受け入れて欲しいのっ!!

私たちはまた明日こうして会えるかどうかなんて分からない!

だから…今のうちにアレルとの繋がりが欲しいのっ…

分かってよ、、バカ…」


アレルは自分も身体強化をしてミリィノを逆に押し倒す形にする。


「分かった…もう、何も聞かない。

何も我慢しない…何も言わせないよ。」


アレルとミリィノは唇を合わせる。

先程と違い、深く、互いの気持ちを確かめるかのように。



ミリィノは寝っ転がりながら、アレルから借りたシャツが脱げかけており、肌を大きく露出している。

そのミリィノの顔のすぐ真横、左右にアレルの腕が伸びる。

ミリィノはアレルの頬へと腕を伸ばし、顔を赤らめながらも甘く好きな人に甘える乙女のような顔をしながら言う。


「愛してる」


それに対して、アレルもそっと囁く。


「俺もだ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ミリィノが朝、目を覚めると窓からは昨日の見る影もないほどに明るい日差しが差し込んでいる。


服を着ておらず、ベッドのシーツで体を隠しながら縁に座る。

自分が寝ていたところの隣を見るとそこにアレルはいなかった。


するとドアが開き、アレルが入ってくる。


「起きたか…すまないな。少し、やることが…」


ミリィノはシーツを体に巻き付けたままアレルに抱きつく。

そして涙を流しながらアレルの服をクシャッと握る。


「行かないでっ…離れないでっ…お願いっ、、

突然…居なくなったりしないでっ!」


アレルはミリィノを抱き締め返す。


「ごめん…どこにも行かないよ。大丈夫」


「ほんとう?居なくならない?」


「本当だ…ほら、服を着て。メアリー女王がお呼びだ。」


「うん」



その後、アレルとミリィノは共にメアリー女王の所へと向かう。

いつもの会議室に入ると部屋の中にはメアリー女王ただ一人のみだった。

アビスも、ナルバンも、スタシアも、もう集まることの無い存在。


「遅くなりました。」


「いえ、大丈夫です。」


「ディシさんは…?」


「まだ来ておられないです。

招集指示をアンレグさんを通して朝一番に伝えたのですが…」


「そう…ですか。」


来ていない理由は何となく分かる。

今回のスタシアの死で一番心がやられているのはディシだ。

出会ってからずっと面倒を見てきて、どんな時でもスタシアを支え、支えられてきた相方のような存在。

そんなスタシアが目の前で息を引き取ったんだ。


(メアリー女王の指示すらも応えられないほど心が…)


「今日はひとまず、ディシさんが来ない前提で話を進めさせて頂きます。

また後日、ゼレヌスさん、それぞれの守恵者の側近の方々、ヨーセルさんをお呼びして会議を開きます」


「ヨーセルを?どうしてですか?」


「恐らく、スタシアさんが亡くなられたことによって天帝は間違いなくユーランシーを攻撃してくる。

その際にヨーセルさんにも戦いに参加してもらうためです」


「それはあまりにもっ!!ヨーセルさんにはっ!まだ…」


「わかっています…ですが、今現状で御二人と一番共闘しているのはヨーセルさんなんです。

きっと天帝にも対抗出来るはずです。」


「そ…うですか、」


「ユーランシーで戦闘が起こった場合は民の安全はどうするおつもりですか?」


「もう既に始めております。

アダル王指揮の元、ユーランシーの民をザブレーサへと移動させています。」


「「!!」」


「それでは大量のお金が…」


「この話をアダル王とバルタ王、アウグス王にした際に金銭面を支援してくださいました。

本当に…感謝してもしきれません。

現在、ユーランシーに残っている民は元の7割ほどまでに減っております。

昨日の真夜中に雨が止んだ段階で始めていたのでこのペースで行けばユーランシーから民が全員出るのは明日の朝頃になると思います。」


思った以上に早い動き出し。

このことを俺達には伝えなかったのはメアリー女王なりの優しさだろう。


「スタシアはどうするのですか?」


「この後…我々だけでお見送りします。

きっとスタシアさんならば民を優先してと言ったはずです。

なのでこのような選択を取らせて頂きました。

勝手な判断をお許しください」


「いえ…賢明な御判断だと思います。」


「今日はこのことを報告したかったです。

天帝が攻めてくるのは少なくとも明日以降。

スタシアさんとの戦闘で大きく天恵も削られていると思います。

回復するのにそれまでは動けない。」


「分かりました。それまで、私達も警戒を高めておきます」


「ありがとうございます。

それでは今日は以上です。」

読んで頂きありがとうございます!

第5章「破」でどこまでやるか今悩み中です。

もしかしたら他の章と比べて話数が少なくなるかもしれないです。

ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ