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天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
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96話 「世界に愛された意思⑤」

「スタシア!スタシア!早く!意志で治癒を!早く!!」


ディシは必死に私に治癒をするように言う。

心臓を完全に破壊されてしまったからもう天恵を使うことが出来ない。

それはディシだってわかっているだろう。

分かった上で言ってくれている。


「ごめ、ん、ね。もう…間に合わない。」


喋りずらい…舌が上手く回らない。

喋ってもすぐに呼吸が苦しくなってしまう。

痛みは感じないのに何故かとても苦しい。


「ダメだ…そんな…頼む!なにか方法は!

そうだ、俺の サイナス で何とか!」


「ダメ…やめて…それだと、ディシくんも…」


(お願い…やめて。ディシくん…そんな顔をしないで。

ディシくんのそんな顔は見たくない…

笑って欲しい…いつもみたいに。)


私はディシの頬に手を伸ばしそっと触れる。

そして、苦しさを耐えながら必死に口を回す。


「ディシくんに…初めて、出会った時…あの光景は。

一瞬も…忘れたこと無いの…。

あの後…生き、る…希望なんて…無くて。

このまま…死んじゃえばいい、や…って思ったけど。

ディシくんが、私に…ずっと寄り添って、くれて、さ。

心が救われて、ね。段々と、生きる希望が出てきて。

いつか…ディシくんの、横に…立てるような…人になりたいって…目標ができ、たの」


「スタシア…!もういいから!頼むから!無理しなくて、いいからっ…」


「ずっと…頑張って、きたのは。

ディシくんの…ためだったの。頑張る…姿を見て、少しでも楽さ、せて…あげたいっ、て。」


ディシの涙が私の頬にポタポタと落ちる。


「守恵者に…なっ、た時…同じ時期、に入団した…ミリィノちゃんは…あっという間に…守恵者に…なってさ。

すぐに仲良く…なったんだ。

アレル…さんは、私の事、あまり…よく思って、なくて…ね。」


出来る限り体内に残っている天恵を外にもれ出さないように操作する。

それでも、段々と体外へと天恵が漏れ出てしまう。


「あぁ…もうそろそろ…」


「ダメだっ!ダメだダメだ!スタシア!やめてくれ…お願いだから…」


「ミリィノちゃん…悲しん…で、くれるか、な?

アレル、さんは意外、と…素っ気、無さそう。

アビス師匠…約束守れなそうです、、

ヨーセル…きっと、泣いちゃう、よね。

ナルバン団長…今から、そちらに行き、ます、よ…」


段々と意識が遠くなっていく。

しかし、最後にこれだけは聞きたいし伝えたい。


「ディシ…くん。私…ディシ、くんの横に…立っても…劣ってな、い、くらいに、な、れたかな…?」


ディシは私の手を掴んで自身の頬に押し当てる。


「当たり前だ!当たり前だろ…。お前の頑張りを…1番、近くで見てきたんだから…。」


「へへっ…うれし!」


私はできる限りの満面の笑みを作ってそう言う。

そして最後の力を振り絞って上半身を起こして、

ディシの唇に自分の唇を合わせる。


「愛してる…ディ…シ」


そっと目を瞑る。


目をつぶってから数秒経つと何故か体全体が温かくなる。

目を開けると途方に続く少し霧がかかった白い空間にいた。

体は全部治っており、どこも痛くも苦しくもなかった。


「スタシア」


名前を呼ばれて振り向くとスタミルが優しい顔で立っていた。

姉の姿を目にしたことで今までの全てが溢れて出てくる。

私は走って姉に抱き着く。


「ごめんなさい!ごめんなさい!あの時、あんなこと言ってごめんなさい!

本当はあんなこと思ってなんかいないの!

お姉ちゃんもお母さんもお父さんも大好きなの!

私のせいで!お姉ちゃんが!ごめんなさい!」


私は必死に謝る。

姉の前で膝を着いて、腰に手を回して抱きつきながら。

涙がどんどんと溢れ出てくる。


「あの花かんむりは、お姉ちゃんとお母さんが私の誕生日プレゼントで作ってたんでしょッ!

それなのに…勝手に勘違いして、ちゃんとしたお別れも言えずに…ごめんなさい…お姉ちゃん…嫌いに、ならないで…」


すると、姉は私の背中にそっと両手を回す。


「おかえりなさい。頑張ったね」


「うぁぁぁぁぁあああ!!!あぁぁぁああ!

お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」


姉の腕の中でスタシアは泣き叫ぶ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

スタシアは俺の腕の中で頭を前に傾けて動かなくなる。

俺の頬に触れていたスタシアの手は地面に落ちる。

受け入れたくない…受け入れられない。


「スタシア…?お、おい…スタシア?

嘘だよな…?スタシアッ!スタシア!!」


スタシアの死体を抱きしめるとポケットから、

以前プレゼントした黄色い石の付いたネックレスが落ちる。

それを見て、スタシアと過ごした日々の記憶が頭に流れ込んでくる。


その後は少ししか覚えていない。

馬車にスタシアを寝かせて布を被せる。

そして、ユーランシーへと向かう。


ユーランシーに着き、門をくぐるとすぐにミリィノとアレルが立っていた。

民たちも お帰りなさいませ! といつものように笑顔で言ってくれる。


「ディシさん!良かった…スタシアちゃんは後ろですか?」


俺はその問いかけに応えずに馬車を降りる。


「ディシ?どうした?大丈夫か?」


アレルとミリィノが俺の顔を覗き込みながら問いかけてくる。

自分では見えないがきっとなんの感情も無いような顔をしているだろう。

何か嫌な予感を感じ取ったのだろう。

ミリィノがぎこちない笑顔のまま聞いてくる。


「スタシアちゃんの…姿が見えないのですが。

どこにいるんですか…?」


俺は静かに馬車の荷台を見る


ミリィノとアレルは荷台に近づき、荷台を隠す布を捲るとミリィノが両手で口を抑え、目の焦点が合わなくなる。

アレルは汗が止まらなくなり、その目は信じられないものを見たような目だった。

ミリィノは荷台に乗り込んで必死に叫ぶが当然返事は無い。


すると、ザワつく民を掻き分けながらメアリー女王がやってくる。

俺の無事を確認できたのかほっとしたような表情をするがすぐに俺たち3人の様子がおかしいことに気づく。


「メアリー女王…すみません」


俺が一言そう言うと何かを悟ったかのような顔をする。

一瞬、泣きそうな顔をするがすぐに表情を変えて近くの騎士団兵に何かを指示する。

そして、スタシアの死体が乗っている馬車はメアリー女王の指示の元、ホールディングスまで運ばれる。

そして俺はスタシアの死体を持ち、メアリー女王に案内されある一室に着く。

その一室は部屋の中心に人1人が寝れるくらいの柔らかい台があり、そこにスタシアを寝かせる。

俺は、スタシアの姿を見つめながら呆然とする。

部屋のドアが開くとミリィノが入ってきて俺を部屋の外に引っ張り出す。


「どうして…どうして、ディシさんがいたのに…スタシアちゃんが…。」


何も言うことが出来ない。


「ねぇ…黙ってないで何か言ってくださいよ…。

どうして!ディシさんがいながら!スタシアちゃんが死んでしまったんですか!!

なんで黙ってるんですか!!スタシアちゃんがなんで死なないといけなかったんですか!!」


ミリィノは俺の上半身を両手で強く殴り、頬を思いっきり叩く。

避けるつもりも気力もなかった。

いっそ、このまま殺して欲しかった。

だが、アレルがミリィノの手首を掴んで止める。


「何か言えってば…。なんで避けないの…。

どうして、止めないの…。」


「俺が…着いた頃には既に。スタシアは心臓を破壊された状態だった…。

最後まで…皆の事を気にしていた。」


今、言える最大限の言葉を言う。

全くまとまってない話し方と内容。

今の俺にはこれが精一杯だった。

俺の言葉を聞いてミリィノはその場に膝を着いて、両手を握りしめて地面に叩きつけながら泣き叫ぶ。

アレルは何も言わず…ただ、立ち尽くしていた。


「すまなかった」


堪えていた涙が右目からスーッと流れる。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ディシやスタシア達が帰ってきたと聞いて急いでホールディングスに向かう。

到着した時にちょうどホールディングスからアレルとミリィノが出てきた。

2人は仲が良いなぁと思いつつ話しかけようとするが様子が変なことに気づく。

2人とも感情が抜け落ちたかのような目をしていた。

話しかけづらい雰囲気であり、私は話しかけずに遠目から2人を見送る。

ホールディングス内に入って廊下を歩いているとディシが見えた。

やった!ディシに会えた! とウキウキしながら近づき話しかける。


「お疲れ様です!ディシさん!お疲れですか?」


そう言いながら笑顔でディシ顔を覗き込み、その顔に動揺する。

ミリィノやアレルと同じような顔をしていた。

何があったのだろうか…疲れているというレベルの話では無さそうだ。

あ、それよりもスタシアがいない。


「ディシさん!スタシアはどこですか?美味しいスイーツのお店見つけたので一緒に行こうと思っていたんですけど…」


スタシアの名前を出すとディシが静かに涙を流す。

突然のディシの涙に動揺しつつも、ふと目の前の部屋にスタシアがいるという感覚が突然起こる。

不安と緊張感を抱えながらそっとドアを開く。

中は暗く、よく見えない。

明かりがないため、私は天恵で明かりを作り出す。

だが、それは失敗だった。

目の前の光景に唖然とする。

台にスタシアが目をつぶって寝っ転がっていた。

顔には白い布を被せりており、顔を見ることが出来ないが身長、体格、美しい白の髪…間違いなくスタシアだった。

立ち尽くしていると突然、とてつもないほどの吐き気に襲われる。

その場に膝をついて片手で口を抑える。

変な汗がどんどんと流れ出てきて過呼吸にもなる。


「はぁ、はぁ、はぁっ…」


受け入れられない事実…。


「スタシア…?どうして…?

いつもみたいに、名前呼んでよ…。どうして起きてくれないの…。

そ、そういえばね、美味しいスイーツがある、お、お店!見つけたの…!

スタシア…甘いの好き、だもんね!

早く、目を覚まして…一緒に行こう…よ」


呼吸が苦しい。上手く話せない。

話せたとしてもスタシアに届くことは無かった。


「お願い…目を開けてよ。

お別れも無しに…そんなの、酷いよ。」


部屋を出ると、ディシが先程と同じ体勢のままずっと座っていた。

そして、思い出す。

アレルとミリィノのあの表情。

あの2人も…私と同じ感情だったんだ…。

そして、ディシも…。

目の前の一切動かない魂の抜けたようなディシの姿にいても立っても居られずにディシの頭を抱きしめる。

座っているディシの頭はちょうど私のお腹の部分の高さであり、優しく腕で抱きしめてあげる。


「…大丈夫です。私がいます。ディシさんは1人では無いです。

1人で背負わないでください…。お願い…します」


泣かないようにしていたのに、耐えられない。


ディシは手で私の服を掴み、顔を私に埋める。


「少し…このままでいさせてくれ」


ディシは暗く悲しい声でそう言う。


「無理…しないでください」


その一言がディシの堪えていたものを解放させた。


「あぁぁあぁあぁぁ!どうして!なんでなんだよ!どうしてスタシアなんだよ!

俺は!18歳の子供一人守れない!役立たずだ!

自分が嫌になる…、

…ごめんよ、スタシア。」


私はディシの頭を先程よりも強く包み込む。


「そんな事言わないで…自分を卑下しないで…。

スタシアも…それは望んでいないと思うから…」


私はその後、ディシを屋敷まで送り届けてミリィノ邸へと帰る。

外は土砂降りであり、私はただ雨に打たれながらミリィノ邸へと向かう。

読んで頂きありがとうございます!

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