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天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
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95話 「世界に愛された意思④」

「え…」


状況を飲み込めていないスタシアはすぐさま治癒を始めるがさらに追撃が来る。

右腕、左太もも、右足、左肩、色々な箇所が抉られる。


スタシアはその場で膝をついて血を吐く。


足音が聞こえる…誰かが近づいてくる。


「何やってるの、あなた」


興味無さそうな声をしながら何をしているのと聞く。

この声にもセリフにも聞き覚えしか無かった。

僕が天帝になった原因の人物であり、天帝の統率者。

空虚の意思者 セルシャ・イオン

幼い顔をしていながらもその実力は化け物という言葉でも表せないほど。


「あなた、天恵ほとんど無いのね。

まだ、あなたに死なれたら困る。これ使って早く回復して」


相変わらず何にも興味がなさそうな口調で話す。

セルシャが僕に向けて手を向けると、天恵が回復していく。


「助かったよ…セルシャ」


「そう、良かったね。それより、あなた 信愛の意思者 だよね。

初めて見た…本当に幼い女の子だ」


スタシアは何故か治癒をせずに膝をついたままだった。


「はぁ、はぁ、…な、何をした…治癒が、出来ない…」


「あなたの 意志 という力を別空間に隔離した。

凄いね、意志を使えなくしてるけど純粋な天恵技術だけでほとんど治癒し終わってる。

私は質問に答えた。次はあなたが答える番」


サラッととんでもないことを言っている。

なんなんだこの化け物は…。

空虚の意思 はこの世の中で最も強く恐ろしい能力だ。

空虚に対抗出来る物なんてあるとは思えない。

しかし、セルシャは言っていた。

空虚の意思 が一番最初に宿った者は 先駆の意思者によって一対一で殺された と。

先駆の意思…今までに宿ったことがあるのはただ1人。

ユーランシーの女王である アシュリエル・メアリーの

先祖 アシュリエル・ミレー。

その身果てるまで戦い続け、先駆の意思を宿ってからのスクリムシリによる死者を1人も出さなかった英雄。


世界を知れば知るほど自分が弱い事を痛感する。

空虚の意思は僕の意思とは相性は悪くない。

だが、僕は確実にセルシャには勝てないだろう。

セルシャの脅威は空虚ではないから。

その卓越した天恵操作だ。

スタシア・マーレンですらセルシャには敵わない程、精密で練度が高い。


「あなたのサイナスを教えて」


「断る」


断ると同時にスタシアの右肩がちぎれる。

血を吹き出し、その痛みから大声で叫び俯く。


「そう…。教えてくれないなら用は無い。」


セルシャがスタシアに背を向けて去ろうとした時、スタシアから膨大な天恵が溢れ出る。

そして、体が一瞬で治癒される。


「…私の能力を、破ったんだ。すごいね」


「負ける訳にはいかない!皆に!生きて会うって!約束したから!」


スタシアが右手をセルシャの方へと向けるとセルシャの片腕が捻れ、潰される。

次に片足を…。

しかし、セルシャは何事も無かったかのように既に傷1つ無く治癒されている。


「な、なんでっ」




瞬きによる一瞬の目を離した隙に、セルシャの右腕が

スタシアの心臓を貫通させていた。

口から血を流し、両腕は重力により力がないようにだらんと下に下がっている。

セルシャが思いっきり腕を引っこ抜くと、膝を地面に付けうつ伏せで倒れる。


「さて、戻るよ。ハインケル、いつまで寝てるの

サボらないでさっさと起きて」


「バレてましたか…すみませんね。天恵がもうほとんど残っていないんですよ」


「そう。ランスロット。ハインケル運んで。」


「ああ、」


格が違った。

スタシアはもう時期死ぬ。

心臓を貫かれ、天恵の操作が出来ないからだ。

心臓は天恵を貯蔵する場所でもある。

その貯蔵庫が破壊され、天恵が体外に溢れ出て使うことは不可能。

ユーランシー最高戦力である 信愛の意思者 を殺せた。


「ギャラリスはどこ」


「…死んだよ。信愛 に殺されたさ」


「なら、起こす」


「何言ってるんだ?頭を潰された。もう生き返らない。」


「心臓が無事なら私の脳を使って体を再生させられる。

半分だけスクリムシリと同じように天恵による肉体になるけど、まだギャラリスにもやってもらうことがある。」


ギャラリスの死体に歩み寄る。

そして、心臓部分に触れながら極限の集中力による天恵操作をする。

どんどん、顔が構築されていく。


「嘘だろ…セルシャ…何者だよ」


理解は不能。

こいつは神かなんかだ。

仮にそんなことが出来るとしても僕はしようと思わない。

下手したら僕の天恵が消滅するから。


ギャラリスが起き上がりその場で嗚咽する。


「ここは!?どうして?頭を潰されたはずなのに…」


「後で説明する。早く帰るよ。ユーランシーを攻め落とす話し合いをする」


「セルシャ…天恵が1割も残ってないじゃないか…」


「大したことは無い。」


僕は後ろを向き、ピクリとも動かないスタシアを見る。

天恵が無くなっても少しの間なら動くことは出来るだろう。

頭を切られた人間みたいなものだ。

時間の問題でしかないが…


「残り少ない時間でこの世界とお別れをするんだな」


僕はそう言って振り向きセルシャ達の背中を追う。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


私は段々と天恵が失われていくのを感じる。

地面にうつ伏せで倒れて、体が全く動かず痛みもなかった。

意識だけがまだはっきりと残っている。


「お姉…ちゃん。」


ふと、その言葉が口から出てしまう。

私には父と母、そして3つ年の離れた姉がいた。

よく喧嘩はしていたけど、気がつけば仲直りしているくらいお互い大雑把な性格だった。


(そういえば…あの時も。)


〜11年前〜

その日は私の誕生日の前日だった。

小さな村だったため、誰かの誕生日が来れば村のみんなでその人のことをお祝いした。

前日ということもあり、宴の準備をしている村の大人たち。

私と姉のスタミルはいつものように一緒に遊んでいた。

私は父、母、姉が黒髪なのに対して私だけ真っ白の髪色だった事を、時々村の同い年くらいの子に お前は本当の子供じゃないんだ! と言われていじめられていた。

だが、そんな時いつも姉が助けてくれていた。

だから、どんなに喧嘩しようとも私はいつも姉に着いていき遊んでいた。

いつものように2人で遊んでいた時、


「スタシア、お姉ちゃん少し喉乾いたからお水飲んでくるね!

すぐに戻ってくるから待ってて」


「うん!分かった!」


遊んでいると姉は喉が渇いたという理由で家の方へと戻っていく。

しかし、数分経っても戻ってこなくて痺れを切らして家へと見に行く。

ドアを少し開けて家の中を覗くと、母が姉の頭に

薄ピンク色のバーベナで作られた花かんむりを乗せていた。

姉は嬉しそうにその花かんむりを見て、はしゃいでいた。

その瞬間、私は激しいショックを受けた。

私は毎年村のみんなが私のためにお祝いしてくれる日をすごく楽しみにしていたし、よく喧嘩する姉も笑顔で祝ってくれていた。

プレゼントは貰ったことがなかったけどそれだけで幸せだった。

だけど母が姉だけに花かんむりをあげているのを見て

子供ながらに 大切にされていないんだ と辛く、悲しい気持ちになった。

私はドアを勢いよく開けて言った。


「お姉ちゃんばっかり!いつもずるい!私だって沢山我慢しているのに!

頑張って良い子にしているのにお姉ちゃんばかり甘やかされるなら…お姉ちゃんなんて居なきゃいいのに!!」


感情的になって思いもしないことを言ってしまった。

次の瞬間には頬に激しい痛みが走る。

母の手が私の頬を鋭く叩いていた。

その時の母の顔は凄く悲しそうであり、怒りでもあった。


「お姉ちゃんになんてこと言うの!謝りなさい!」


母は私に向かって強い口調で言う。

姉は花かんむりを握りしめて何も言わずにこちらを見ていた。


「やっぱり…私はお姉ちゃんの妹なんかじゃないし、お母さんとお父さんの子供じゃないんだ…。

髪色だって3人と違うし!

だから、こんな意地悪をするんだ!

お母さんもお姉ちゃんも大っ嫌い!

みんな居なくなっちゃえ!」


泣きながらそう叫び、家を飛び出す。

この涙が、殴られた痛みでの涙なのかは分からなかった。

ただひたすらに走った。

あの時…ちゃんと謝っておけばよかった。

そうすれば…これが姉と、母との最後の会話にならずに済んだのに。


私は森の中にある木が生えていない、綺麗な花だけが生えた空間で膝を曲げて座っていた。


(やっぱり本当の子供じゃなかったんだ…

辛いよ…)


私は泣きながら自分の頭を掻きむしる。


「こんな髪色っ!!こんな髪色っ!大嫌いっ!!」


「どうしたんだ?スタシア、こんなところで」


すると後ろから聞き覚えのある声がする。


「お父…さん、、」


木を切りに行っていたお父さんは、背中に小さい切ってある木を背負いながらこちらに近づいて、私の隣に座る。

そして何も言わないままだった。


私は我慢できずに先程の出来事、思っていることを全て吐き出した。

子供の戯言なんて言わずに父は最後まで聞いてくれた。

そして全てを吐き出した後に父は口を開く。


「目の前のことだけで現状に納得してはいけないよ。

スタシア、人は考える生き物だ。

正しい情報を、正しく理解し、正しく使う。

お前は賢い…だからきっと上手くやれる」


当時の私には難しかったし理解は出来なかった。

でも今ならわかる。

父なりの慰め方だったんだと。


「それに、俺は髪色が違くたってお前を娘じゃ無いと思ったことなんて一度もないしこれからも無い。

素敵じゃないか、何にも染まらずに綺麗な純白。」


私は気がつけば父の胸の中で泣き叫んでいた。

父は嫌がることなく頭を撫でて、こんなめんどくさい私を受け入れてくれた。


「帰ろう。皆が待っている。明日はお前の特別な日だろう?」


「うん!」


私と父は言葉遊びをしながら村へと戻っていく。

村に近づくにつれ、焦げの匂いと血の匂いが混ざった気持ち悪い匂いが漂ってきた。

嫌な予感がして早足になって村へと戻ると

崩れた家、燃える家、そして地面には村の皆が血を流しながら腕や足、酷い人では下半身が無くなった状態で倒れていた。


「な、なんなんだ…これはっ、」


動揺している父の頭が突然切り落とされ、首から血が吹き出す。


「お父さんっ!!お父さんっ!!」


私がその光景に後ずさりするとなにかに躓く。

目を向けて、私はその光景に吐き気と絶望が襲ってくる。

尻もちを着く私の足元には、母の首が転がっていた。

目をつぶっており、口の端から血を一筋流していた。


「はぁ、、、はぁ、、はぁ、お母さん!お母さん!」


必死に呼びかけるしかできなかった。

既に手遅れなのに何度も何度も…。

すると後ろで足音がする。

後ろを振り向くと、緑色の髪と黒の髪が混ざった女が立っていた。

その女は私を見下ろしながら狂気じみた笑顔で言う。


「あらぁ、可愛らしいお嬢さん。

じわじわと殺していくからその綺麗な声で叫んでちょうだい」


その女は手に持っていた血だらけの剣を私に対して振りつける。

私は咄嗟に避けて、走って逃げ出す。

しかし、恐怖で足がうまく回らず転んでしまう。

女は歩きながらこちらに迫ってきており、私は腰が抜けてしまい足で必死に地面を押しながら、後ろへと座ったまま下がる。

だが、木にぶつかってしまいこれ以上下がれなくなってしまった。


女は目の前まで来て、私の怖がる様子を楽しむかのように笑いながら言う。


「安心してちょうだい。死んだ後は私のペットの餌になるだけだから」


そう言って剣を振り下ろす。


「スタシアッ!」


私と女の間に姉が走って割り込む。

女の振り下ろした剣は姉の背中の右肩から左脇腹にかけて深く切り裂く。

目の前で姉の血が飛び、私の服にも付く。

姉はそのまま私にもたれ掛かりながら血を流す。


「ふふ、あはは、あっはっは!美しいわぁ!

顔が似ているから姉妹なのかしら?良いわねぇ!姉妹の絆!

目の前で姉妹を殺されてどんな気分?憎い?辛い?苦しい?

教えてちょうだい!」


姉の死体を抱きしめながら絶望している私に女はもう一度剣を振るって来る。

あぁ、死んじゃう。

そう思ったが目の前に現れたのは何故か安心感の感じる背中。

身長が高く、綺麗な服を着ている。


その男性と村のみんなを殺した女はしばらくの戦闘の後、男性の方が女を追い込んだ事で女は何かを言って跡形もなく姿を消した。

男性の両手に持っている短剣が突然と宙に消えて、

男性がこちらに振り向く。

そして、歩いてきて私に手を伸ばす。

警戒しながらも、私はその手を取った。





懐かしい記憶を思い出していると上半身が誰かに抱えられている感覚になる。

目を開けるとディシが必死に何かを叫んでいた。

その目は絶望と必死さが混ざった目。

どんな顔でもディシの顔はかっこいい。


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