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天使とサイナス  作者: 七数
5章 【破】
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94話 「世界に愛された意思③」

ユーランシーから馬車を走らせて数時間、カルメラにはあと少しで着く。

この胸騒ぎ…賢いスタシアならば無理なことはしない。

そう分かっていても冷や汗が止まらない。

最悪な結果を想像してしまう。


「…っ!カルメラッ!見えたっ!」


違和感…何故か違和感があった。

だが急いでいたこともありカルメラが見えた事で安心し、

そんな違和感を気にする暇なんて無かった。

カルメラは見えているがあともう少しかかる。


(急げ…急げっ、、)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「はぁ、はぁ、はぁ、」


毒が体内で侵食していくのが分かる。

手足が痺れる、感覚がほとんどない。

縛毒の剣に切られた太ももから紫色に浮き上がった神経が上半身を通って頬まで伸びる。

意志 で分解するには時間が有する。

しかし、目の前の3人の天帝はそんな隙を与えることも無く攻撃を仕掛けてくる。

外傷は既に全治している。

毒を何とか出来れば勝機はある…。


「大人しく殺された方が楽だと思うわよ。

あと10分もしたらあなたは死ぬ。

激痛と徐々に感覚が失う絶望感とともにね」


聴覚の機能も低下している。

縛毒が何かを言っているが、所々聞こえない。

鼻から血がスーっと垂れてくる。


「流石の信愛でも僕ら4人では辛いようだね。」


(信愛と僕の意思は相性が悪い分、僕がギャラリスとハインケルのサポートに回ることでその相性の悪さを埋める。

そこにダメ押しでパロスの破壊力のある攻撃。

初めてだよ…僕がサポートに回るなんてこと。)


「はぁ、はぁ、言っただろう…お前たちは…

私が…必ず殺すと」


深く深呼吸をして、呼吸を整える。

息を吸う度に肺を刺されるような痛みが来る。

負けることは許さない…スタシア・マーレン。

痛いからどうした…苦しいからなんだ。

生きていないと感じられない特別な感情だ。

痛みを受け入れろ…目の前の敵は同情なんてしてくれない。

ここには私しかいない。

助けがあると思うな。

私は…信愛の意思者 だ。

誓っただろう…意思 と。


「皆に平穏と幸せを届けると…」


3人の天帝が3方向から同時に攻撃を仕掛けてくる。

パロスはそれに合わせて私の背後に回り込む。


「『無邪気な愛と信念の憎しみ』意志『愛憎』」


意志詠唱によって一定の範囲を作り出す。

ザブレーサの時は142メートルの範囲。

だが今回はより早く、多くの回復をするために私の今の地点から半径30メートルの範囲のみ。

意志により、感覚麻痺や毒の効果が少し薄まる。

それと同時に私は、私にそれぞれの武器を振るう3人の天帝に意識を集中させる。

縛毒、悪我、事象…それぞれの心臓部分を捻じり潰すように…


しかしさすがに天帝相手、そう上手く行く訳がなく 縛毒は左肩部分が、悪我は左太ももが捻れ潰れる。

事象の意思 は指が2本捻れるのみだった。

しかし、それでもこの状況的に好都合…縛毒と悪我は

痛みにより剣を振りきれずにその場でバランスを崩す。

そのまま攻撃を仕掛けてくる事象の剣の間合いを読み最小限の動きで後ろに避ける。

剣を持つ方の手首をがっしりと掴み、空いている方の手のひらを腹に押し付ける。

次の瞬間には事象の腹に円形の穴が開く。

内蔵などは出てこない。跡形もなく消し飛ばしながら腹を攻撃したから。

血が飛び散る。

事象はその場で膝をついて血を大量に吐き出す。

普通の人間や騎士団員なら既に死んでいる。

しかし相手は天帝であり、ここからでも再生することが出来るだろう。

その隙を与えずにトドメをさそうとするが横から衝撃がきて近くの岩まで吹き飛ぶ。

やはりパロスの攻撃は天帝にも匹敵する程の威力。

蹴られる寸前に天恵を一点に集中させて防御を取ったためそこまでダメージは無い。


「わ、悪いね…パロス…少し治癒に…ゲホッ、時間がかかりそうだよ…」


「分かりました。毒が体に蔓延してるため少しだけでしたら粘れるかもしれません。

無理だった場合はすみません。」


「ああ…」


アンバーとパロスが何かを話している。

その後ろから縛毒とハインケルも歩いてくる。


アンバー以外の三人が瞬きの間に距離を詰め、それぞれの武器で攻撃を仕掛けてくる。

縛毒の片腕を切断して攻撃パターンを減らすと同時に、ハインケルへと攻撃もする。

ハインケルの頬が血を吹きながら切り裂ける。

そのままハインケルの顎を下から殴る。


(ハインケルのテンポを遅らせ、縛毒に集中っ!)


縛毒の短剣は私の首を切る寸前だったが、即座に 信愛 を発動させてもう片方の手も切り落とす。

確実に私の首を切れたと思った縛毒は両手を切り落とされたことに状況が飲み込めていない様子。

私は縛毒の頭に手を伸ばし 信愛 を発動しようとした瞬間、気持ち悪さが込み上げてきた。

胃からぐつぐつと喉を通り、その場で血を吐き出す。

口を手で抑えるが隙間から血が溢れる。


(毒の分解が…間に合わない…)


目の前の縛毒は両手をまだ治癒している最中。

後ろからこちらに歩いてくる音がする。

恐らく、パロスと治癒を終わらせたハインケル。


(早くっ…距離を取らないと!)


体を動かそうとするが全く動かない。

痺れて指先ひとつも動かすことが出来ない。

必死に体を動かそうとするが腹を思いっきり蹴られ、数十メートル吹き飛ばされ、地面に受け身も出来ずに転がる。

天恵の操作もおぼつかない。

身体強化が出来ずに蹴られた箇所に激痛が走る。

肋が折れてる。


「はぁ、はぁ、お゛え゛…」


吐き気が酷く、吐こうとしても血しか出てこない。


「良くもやったわねぇ、クソガキィ!」


縛毒が治癒を終わらせる。

恐らく、残りの天恵量は天帝3人とも多くはないだろう。

このまま持久戦に持ち込めれば技術差的に勝てることが出来る。

だが、毒による感覚麻痺で天恵の細かな技術が不可能。

いつの間にかアンバーも治癒をほとんど終わらせている。

天帝3人がこちら側へ近寄ってくる。


(もう…勝てない…死ぬ…ごめんなさいっ!ごめんなさいっ…みんな…)


“立って…お願い…立って…”


(あぁ、なんか久しぶりに感じるね…『信愛の意思』)


“少し、懐かしいお話をしましょう“


(そんな時間…あれ、どこ、ここ)


“ここは精神世界。世界の状態を丸ごと変化させて私とあなたしか話せない世界に作り替えたの。

でもね、ここもそう長くは持たない。

だからそれまでお話をしましょう“


気がつけば毒の痛みも痺れも蹴られた痛みも無くなっていた。

辺りは真っ白の空間。

目の前には黒い人影。

真っ黒だが長い髪が靡いているのが分かる。

さらに綺麗で美しい声から 信愛の意思 は女性なのだろう。


“覚えてる?前に話したの“


(うん…何を望んでいるかを聞いたよね)


“ええ、そうね。あなたは私の期待通りの回答をしたの。

言ったことあったかしら…

私の宿り主を選ぶ条件“


(メアリー女王から少しだけ…

心の優しい人って)


“そうね…あなたは純粋で心優しい人“


(違う!私は優しくなんかない…この明るい性格も全て…ディシくんに近づくためのまやかしでしかない。

私は自分の求めているものを手に入れるためにいい子に振舞っているだけの性格の悪い女なの…)


“それは違うわ。あなたのその性格はあなたの本質。“


(私の事何も知らないくせに知ったようなこと言わないでよ!私は…メルバル総戦で沢山の団員が死んだ時に、ディシくんやミリィノちゃん、アレルさんが無事で良かったって思った…。

この3人じゃなくて良かったって。

こんなことを思ってしまうなんて守恵者として最低。

スクリムシリと同じだよ…)


“だったら…どうして毎回死んだ団員のお墓一つ一つにお辞儀をしているの“


(な、なんでそれを…)


“ずっとあなたといましたから…“


(仮に優しかったとして…どうして私だったの。

他にも優しい人は沢山いる。

ミリィノちゃんやヨーセル…ディシくんやアレルさんだって…)


“…もう1つの条件は、誰に言われても決して変わることがないほど愛している人がいること。“


(…なっ!?そ、そんな人、、)


“ふふっ、無駄よ。アンジ・ディシィ…彼のことを心から想っているのでしょう。“


(…うん。すごい好きだよ。向こうは意識なんて全くしてくれないけどね。

足場の悪い所とかがあったらすぐに手を取ってくれるところとか、人が多いところだとはぐれないように背中に手を回してくれるところとか、大好物のピリ辛肉団子を食べた時に少し笑っちゃうところとか。

何気ない仕草も全部好き…。)


“なら、立ちなさい。スタシア・マーレン。ここで負けることは許しません。“


信愛の意思 の人影は急に声色を変えて真剣な雰囲気へとなる。


“思いを伝えないまま、死ぬことは許しません。“


(でも…無理だよ…毒でまともに天恵が使えない!

体のあちこちが痛くて血も吐いちゃう!

勝てないよ…)


弱音を吐いてしまった。

ずっと耐えていた弱音を…

信愛の意思 は座り込む私の前に膝をつく。

そして、黒い影が無くなっていき顔が見える。

綺麗な白髪…綺麗な白眉毛…それに対比するかのように存在感を表すエメラルドのような瞳。

メアリー女王と同じくらいの美しさがあった。


“大丈夫…あなたには、私がついている。一緒に戦いましょう。

最後の瞬間まで…“





その瞬間、元の世界に戻る。

目の前には4人が近づいてくる。

相変わらず全身が痛い。

毒も回っている。

でも、体の芯から天恵が溢れ出てくる。

失った分がいつの間にか回復している。


意識を強く持て!

意志 を無制限の天恵で発動する。

消費が激しいはずなのに、全く天恵が減っている気がしない。

むしろどんどんと増えていく。

上限なんてあっという間に過ぎているはず…

だがそんなことはどうでもよかった。

今は目の前の敵にっ!

身体中の毒を1滴残らず分解、体の外傷も骨折も一瞬で治る。


(みんなのところに…帰るんだっ!)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

目の前の光景に驚愕する。

もうとっくに体が限界のはずなのに、毒に侵されて動くはずがないのに…


「なぜ立てる…?」


いや、これは…毒を完全に分解している!?

体の傷も完全に治っている…。


(嘘だろ…そんな時間…この短時間で治したのか?

そんなことしたら天恵なんて一瞬で…)


僕は驚愕に驚愕が重なる。

嘘だろ…天恵が、人間の上限を超えている…計り知れないほどの天恵が溢れている。


「まだ立つのね!トドメよ!!」


「眠らせてあげます!」


「合わせますっ!」


「まて!ハインケル!ギャラリス!パロスッ!!」


僕の制止を聞かずに3人はスタシア・マーレンに攻撃を仕掛ける。

だが、その攻撃が届くことは無い。

2人の下半身は一瞬で消し飛ぶ。

ハインケルの上半身は地面に転がるがギャラリスは、

スタシア・マーレンに髪を掴まれて血を流しながらゆらゆらと揺れる。

その光景にスタシアの背後に回り込んでいたパロスは思考が止まる。


だが、スタシアは腕を大きく後ろに振りつける。


(ば、化け物だ…人間じゃない)


パロスの腰から上の体は元から無かったかのように消し飛び、下半身だけになったパロスに対してスタシアはさらに地面へと押し潰す。

スタシアが腕を振った際に数キロは離れているであろう山がパロスと同様に抉り破壊される。


「ば、バカなぁぁ!!!どうしてそんな力がぁぁぁああ!」


ギャラリスは 信愛の意思者 に向かって疑問を叫ぶ。

それに答えるように優しい声と顔で 信愛の意思者 は言う。


「好きな人が…ずっと待ってるから」


そう言った次の瞬間にはギャラリスの頭は弾け飛んだ。

跡形もなく…死んだ。

下半身と首から上が無くなったギャラリスの上半身は地面に低い音を出しながら落ちる。

信愛の意思者 は休むことなく再生をしようとしているハインケルに視線を向ける。

僕はハインケルだけは殺させまいと攻撃を仕掛ける。

自身の攻撃の結果を見たはずなのに、脳内で処理された結果には自分の両腕が弾け飛ぶ結果や上半身を丸々潰される結果しか無かった。

1番最良の選択…片足を吹き飛ばされる。


「ここで!死ぬ訳には!いかないんだ!!

意志『万視』」


事象の意思

意志『万視』

・数秒先の未来を見ることができ、その未来の情報から 事象の意思 の複数の選択肢を作り出す。


(数秒先の攻撃を認識した上での事象の意思による最善の結果。

普通ならば回避の確定結果ということになるが相手は信愛の意思者…どうなる…)


「ハインケルっ!!僕の意志を使った!!

悪我はもう使わなくて良い!!今はたたみかけろっ!!」


「信愛っ!!必ず殺すっ!」


数秒先の未来を見る。

右手をこちらに向け、その次の瞬間に僕は事象の意思により脇腹を抉られる選択肢を取っている。

僕は即座に事象の意思を発動させ、次の動きの最善の動きを無数の選択肢から選ぶ。

脇腹を抉られる未来だったが指を数本消し飛ばされるだけで済んだ。

ハインケルは…腕を消し飛ばされてる。

だが、そのまま攻撃を続けるだろう。

そのまま距離を一瞬で詰める。

残り少ない天恵で常に数秒先を見続ける。

脳が焼けるように熱い…身体の治癒に天恵を使いすぎたせいだ。

僕は剣を信愛の意思者の首へと振りつける。

信愛の意思者は無抵抗のまま首に刃を通させるが切られた瞬間に治癒を始めて、僕が剣を振りきった頃には切断したはずの首が繋がっていた。


(…嘘だろ。こんな未来、無かったじゃないか…化け物め)


信愛の意思者 は右手を僕の腹に当てると同時に、

僕の腹には穴が開く。

何度目だろうか…何度も腹に穴を開けられてこの痛みにも慣れてきた。

だが、今回はいつもと訳が違った。

天恵がもうほぼ残ってない…意志 も既に解除した。

今の天恵の量で治癒しきれなかったら 死 だ。

僕は仰向けで倒れる。

ハインケルに対しても顔を縦に半分消し飛ばし、腹部を蹴りつけて後方へと吹き飛ばす。

そして足側にスタシアが立ち、こちらを睨みつけながら見下ろす。


そして無言のままこちらに右手を伸ばし、トドメを刺そうとする。

僕は、もう抵抗なんて出来ない。

だから、トドメの攻撃を受け入れるしか無かった。

完敗だ…

そう思った瞬間、スタシアの脇腹、太もも、ふくらはぎ、腕、全てがまるで何かに切り抜かれたかのように円形に抉れる。


「え…」


読んで頂きありがとうございます!

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