17 いざ、オークション会場へ
高級宿に併設されている劇場が、オークション会場になっているので、移動は楽だった。
劇場に足を踏み入れると、その美しさに圧倒されてしまう。
天井には絵画が描かれ、舞台や柱、客席にまでも繊細な彫刻が彫りこまれている。そのためこの空間そのものが、まるで一つの芸術品のように思えた。
だけど、普通の劇場に比べるととても狭く感じる。それは、オークションの参加者の声を舞台にまで届けるためかもしれない。
私が「オークション会場って、こんな雰囲気なのですね」と呟くと、リオ様から「俺も初めて来た」と返ってくる。
初参加なのに、リオ様のこの堂々とした態度。私も見習わないと。
改めて背筋を伸ばして、案内された席へと座る。各座席には、番号がかかれた札が置かれてあった。
事前に予習してきたけど、オークション参加者は、ほしい商品があれば、この札を上げながら落札金額を言うらしい。その金額より上の金額を言う者がいたら、購入権は金額の高いほうに移る。
それを繰り返して、最終的に品物に一番高い金額をつけた者が落札者になれるとのこと。
それからしばらくして、劇場の座席がほぼ埋まったころ。
舞台上に現れた司会者が、まず開催者のヘイン公爵を紹介した。
ヘイン公爵は2階席に座っているので、ここからではよく見えない。隣に座っている黒髪の女性が公爵夫人なのかもしれない。
公爵への拍手が収まると、司会者がオークションの開始を告げる。そのあとはすぐに舞台上に、光沢のある布で覆われた出品物が運ばれてきた。
しばらく私たちに関係のない出品物が続いていた。ようやくお目当ての歴史書が出てきたと思ったら、それほどほしい人がいなかったようで、すぐに私たちが落札できてしまった。
これは、高額落札じゃないかもしれない。
「リオ様……」
私の言いたいことが伝わったようで、リオ様も「これだけでは不安だな」と眉を下げている。
司会者が次の出品物を紹介した。
「さぁ、お待ちかね! 本日の目玉商品『天使の涙』です!」
布が取られ商品が現れた瞬間、参加者たちの間から歓声が上がる。
これなら高額になりそうね? リオ様も同じことを考えていたのか、私たちは無言で頷き合った。紙に書かれていた、この商品の落札金額予想は一千万。これなら十分高額といえる。
ほしい人もたくさんいるだろうから、激しく競り合うことになるかもしれない。
その予想通りに、最初は多くの人が競り合っていた。だけど、金額が上がるにつれて脱落していき、今ではリオ様とあともう一人だけが競り合っている。
「一千五百万!」
リオ様が六十五番の札を上げながらそう叫ぶと、すぐに「二千万」と、別の男性の声が上がる。
周囲から驚きの声と共に「どこまで上がるの?」と聞こえてくる。
私は思わず、札を持っているリオ様の腕に触れた。
「あの、リオ様。大丈夫ですか?」
リストに書かれてあった予想金額を、すでに上回ってしまっている。
「金銭面は問題ないが……。くそっカルロスのやつ、嫌がらせか!?」
「え?」
「俺たちを呼び寄せたくせに、落札の邪魔をするなんて」
私は慌てて周囲を見回したけど、カルロス陛下の姿はどこにもない。
「陛下は――」
そこまで言って、私は自分の口を手で押さえた。もし、お忍びで来られていたら、陛下とお呼びすることに問題があるかもしれない。
「……カルロス様は、どちらに?」
「ほら、あそこ」
リオ様は、競り合っている男を指さしている。その様子は、冗談を言っているようには見えない。
たしかに相手の男性は金髪だけど、かなり距離がある上に、向こうも仮面で顔を隠している。
「どうして、あの男性がカルロス様だと分かるんですか?」
「えっ? どうしてって?」
今度はリオ様が戸惑っている。よく分からないけど、リオ様の野生の感みたいなものなのかしら?
司会者が「二千万、二千万以上はありませんか?」と声を張り上げた。
負けじと札を上げようとしたリオ様を私は止める。
「相手がカルロス様で、嫌がらせをされている可能性があるのなら、こういうのはどうでしょうか?」
それからのリオ様は、私の言うとおりに行動してくれた。
リオ様は「三千万」と言おうとしていたけど、これまでとは違い落札が完了するギリギリに「二千百万」と小刻みに金額を上げてもらった。これは、カルロス様が本気でこの商品を落札しようと思っているのか探るためだ。
これまでリオ様は、勢いよく金額を上げていた。それなのに、急にその勢いがなくなったら、普通なら『リオは、手持ちのお金が足りなくなったな』と思うはず。この状態で、カルロス様がさらに金額を上げると本当に落札したいということ。
でも、次の声が上がらなければ、リオ様の言うとおり嫌がらせで、落札する気はなかったということになる。
カルロス様の札は、いつまで待っても上がらない。私はリオ様の耳元で囁いた。
「本気で落札する気は、なかったようですね」
「そのようだな。あいつ、金額を吊り上げるだけ吊り上げやがって」
「もしかしたら、あちらも事情を知っていて、私たちに高額落札をさせるために手伝ってくれたのでしょうか?」
「カルロスのことだから、その可能性もあるが……。どちらにしろ、面白がってはいただろうな」
静まり返った会場に、カンカンカンッと木づちの音が響く。
「落札者は、六十五番の方です!」
歓声と拍手が湧きおこる中、オークションの係の者が静かに私たちのそばにきた。
「オークションに引き続き参加されますか?」
その問いにリオ様は、片手を上げる。
「いいや、もういい」
「では、よければ個室の休憩室にご案内させていただきます。落札された品物もお手に取り確認することができますよ」
案内された先の個室は、厳重な警備がされていた。
リオ様が私にだけ聞こえるように囁く。
「ここに案内された者たちは、特別なお客様ということだろうな」
護衛としてついてきてくれたエディ様は、個室の扉の前で待機している。
個室内では、自由に飲食ができて、飲み物や食べ物を次々に進められた。だけど、私は目の前のケーキを見つめながら『食べて大丈夫かしら?』と不安になる。するとフォークを持ったリオ様が、「はい、あーん」とケーキを食べさせようとしたので、いつもの癖でついパクッと食べてしまった。
とたんに、上品な甘さが口内に広がる。良かった。リオ様が止めないということは、食べてもいいってことだもの。
美味しいお菓子と飲み物を楽しんでいると、係の者が落札した品物を運んできた。
白い手袋をした手で、まずは歴史書を見せてくれる。次に『天使の涙』というネックレスを見て、確認作業は終わった。
それらは、バルゴア領に帰るまでオークション側で預かってくれるらしい。
「ところでお客様。特別にご案内したい場所があるのですが……」
係の者の説明では、ここでは手に入れられないような、さらに貴重なお宝のオークションが開催されるとのこと。
リオ様が「興味があるな」と伝えると、係の者は「では、ご案内させていただきます。さぁ、こちらへどうぞ」と上機嫌だ。
きっと、これから闇オークション会場に案内されるのね。ここから先、護衛の同行は禁じられている。
リオ様は、エディ様に待機を命じてから、私に手を差し出した。
「行こう」
「はい」




