16 お似合いな私たち
次の日。
昼過ぎから始まるオークションに参加するために、リオ様と私は身なりを整えていた。
リオ様は、黒い生地に銀色の刺繍が入ったジャケットに袖を通している。その後ろには、姿勢正しく直立しているエディ様とコニーの姿があった。そんな二人に、リオ様は指示を出す。
「これから参加するオークションには、護衛を一名だけ連れていける。エディがついてくれ」
「分かった」
「バルゴアの騎士たちは、劇場の外で待機。俺からの合図を待て。コニーはオークション会場付近で待機。エディとバルゴアの騎士たちの連絡係をしてもらう」
コニーが「はい!」と元気なお返事をする。
最後の仕上げに、リオ様は狼の仮面をつけた。優しそうな目元が見えなくなると、立派な体格のせいもあり、かなり迫力がある。
一方、すでに準備を終えていた私はというと、いつも着ているようなドレスではなく、あえて体のラインがはっきりと分かる色っぽいドレスを選んでいた。首には、リオ様からいただいた純白の襟巻きを巻いて、濃い化粧の上から銀色の仮面を着けている。
鏡に映っている私は、【社交界の毒婦】と蔑まれていたころと同じような雰囲気だった。
サンドラ夫人に会うためには、闇オークションに参加しなければいけないとリオ様から聞いている。
『闇』と呼ばれるだけあって、表では出せない商品が出品されるらしい。そんな会場に、清楚だったり可愛かったりするドレスは、きっと似合わない。そう考えた結果、私は自ら進んでこの毒婦スタイルを選んだ。
王都にいたころは、無理やりこの格好をさせられるのが嫌でしかたなかった。だけど、リオ様はどんな姿の私でも受け入れてくれるので、もう抵抗感はなくなっている。
お互い準備を終えて、改めて私たちは顔を合わせた。リオ様は「ふぅ」と息を吐きながら、自分の仮面を抑えている。
「うっ、予想はしていたが、仮面をつけてもセレナの美しさは隠し切れないな」
「リオ様も、仮面をつけていても凜々しくて素敵です」
リオ様が自然な流れで、私の手の甲にキスをした。こういうところを見ると、もう立派な紳士ね。
「その襟巻きも、使ってもらえて嬉しい」
「私のお気に入りですよ」
ニコニコ笑顔の私たちとは違い、周囲はざわめいていた。
アレッタは「お、お似合いですね」と言ってくれたけど、なんだか笑顔が固い。コニーも、さっきから首をひねっている。
「うーん、なんだろう。セレナお嬢様とリオ様の雰囲気がいつもと違って、なんだか……なんだろう?」
エディ様が「いやもう、どう見ても猛獣を従えた猛獣使い様だろ、これ!」と言うと、コニーが「師匠、それです!」と嬉しそうに跳びはねた。
アレッタも「すみません、セレナお嬢様のお化粧をきつくしすぎましたね」と申し訳なさそうだ。
私は戸惑いながら尋ねた。
「そんなに私たち、おかしいかしら?」
アレッタ、コニー、エディ様の三人はそろって首を左右に振る。
「おかしいのではなく、お二人とも似合いすぎです」とアレッタ。
「セレナお嬢様、カッコいいです!」とコニー。
「違和感がまったく仕事してませんね。もはや、ご主人様と下僕って感じです」とエディ様。
げ、下僕!? それって話の流れから、リオ様がってことよね?
困った私がリオ様を見ると、リオ様から「はぁ、セレナは何を着ても似合うなぁ」とどこかうっとりした声が聞こえてくる。
まぁ、リオ様が気にしていないなら別にこのままでもいいわよね。それに、いつもと違う雰囲気ということは、私たちの正体を隠したまま、サンドラ夫人を捜せるということでもある。
時間になったので、私はリオ様のエスコートを受けながら、オークション会場へと向かったのだった。




