15 仮面を選びましょう
私は感心しながら室内を見回していた。
「豪華なお部屋ね」
天井にはシャンデリアが煌めき、カーテンやソファーは重厚感のある赤色で統一されている。床一面にひかれている絨毯も華やかだった。
私のそばにいたアレッタも「まるで王宮みたいですね」と驚いている。
一足さきに室内を確認していたコニーが戻ってきた。
「セレナお嬢様。おかしなところはありませんでした。どうぞおくつろぎください」
「ありがとう、コニー」
どんどん護衛騎士らしくなっていくコニーの成長がまぶしいわ。
窓を開けるとバルコニーへと続いていた。そこから見えた寝室には、豪華な天蓋付きベッドが置かれている。しかも、コニーが言うには、メイドや護衛用の部屋まで複数あるらしい。
「さすが高級宿というだけあるわね」
感心していると、アレッタがお茶を淹れてくれた。私たちが、お茶をいただきながらホッと一息ついたころ、部屋の扉が叩かれた。
対応したアレッタが、困った表情で戻ってくる。
「お嬢様。招待状をお持ちのお客様は、宿からのご好意で仮面をいただけるそうですよ。どうなさいますか?」
「仮面? 仮面って、あの仮面舞踏会とかでつけるやつよね?」
「はい、そうです。オークションに参加する際につけるそうです。どうぞ、こちらへ」
部屋から出ると、宿の使用人がワゴンを引いていた。ワゴンの上には、様々な種類の仮面が並んでいる。
雰囲気的に右側は男性用で、左側が女性用ね。
女性用のものは、花や刺繍で飾られていて、とても華やかだ。
私は自分の左手の薬指を見た。そこには、リオ様から初めていただいた銀色の指輪が輝いている。その指輪と、同じような雰囲気の銀色の仮面を手に取った。紫色で描かれた模様が美しい。
「私は、これにしようかしら?」
アレッタが「すごくいいと思います。銀色のアクセサリーと合わせるとよさそうですね」と微笑んでくれた。
宿の使用人は「お連れ様の分は、どうされますか?」と私に尋ねる。
リオ様の仮面を私が勝手に選んでしまうのは、さすがに抵抗があった。
悩む私に、宿の使用人は「気が変わりましたら、いつでも交換させていただきますよ」と言ってくれたので、とりあえず選んでみることにする。
シンプルなものか、凝った作りのものがいいのか……。リオ様は、装飾品にこだわりがないようだから、こういうときに困るわね。
そんな中、クマを模した仮面を見つけた。
「そういえば……」
私はリオ様の妹であるシンシア様が、「あのクマみたいなお兄様が!?」とよく言っていたことを思い出した。
でも、私はクマというより、どちらかというとリオ様は大きな狼のような気がしている。それは、バルゴアの騎士を率いている姿が、狼の群れと重なるからかもしれない。
そんなことを考えながら銀色の狼の仮面を見つめていると、宿の使用人は「そちらですね。どうぞ」と私に仮面を手渡した。
コニーが瞳を輝かせながら、「カッコイイです!」と言ってくれたので、とりあえず仮でこれにしておきましょう。
しばらくして、部屋に戻ってきたリオ様に、狼の仮面を見せるとコニーと同じように瞳を輝かせた。
「セレナが、俺のために選んでくれた仮面!」
「もしお気に召さなければ、別のものに変えられますよ」
「いいや、これがいい!」
「でも、他にもたくさん種類がありましたよ?」
戸惑う私にエディ様が「リオは、セレナ様が選んでくださったものなら、なんでも嬉しいんですよ」と教えてくれる。
「リオ様がそれでいいなら……」
上機嫌のリオ様は、私に紙束を渡した。
「これは?」
「オークションに出品される商品のリストなんだが、この中から高額なものを落札しないといけないんだ。セレナは、どれがいい?」
「どうせ落札しないといけないのなら、使えるもののほうがいいですね」
芸術品のよさを知るためには、深い知識が必要なので素人には判断が難しい。
リストをパラパラとめくっていると、分厚い本の絵を見つけた。横からのぞき込んだリオ様が、「古い歴史書のようだな」と呟く。
これがアイリーン様の探しているタゼア家の禁書ではないだろうけど、失われた別の書物の可能性はあるわよね?
「リオ様。アイリーン様へのお土産がてら、本を中心に落札するのはどうでしょうか?」
「それはかまわないが、ほら、この指輪なんてセレナに似合いそうだが?」
リオ様が指さした絵は、大きな宝石がついた見るからに豪華な指輪だった。
「指輪はいりませんよ」
「どうしてっ!?」
あせるリオ様に、私は自分の薬指に輝く宝物を見せてあげる。
「愛する人からいただいた大切な指輪が、もうここにありますから」
「愛する人……」
真っ赤な顔のリオ様に、私は微笑みかけるのだった。




