14 さっさと終わらせるために【リオ視点】
高級宿を出た俺の後をエディがついてくる。
「リオ、顔が怖いぞ」
「当たり前だ。早く終わらせて、バルゴアに帰るんだからな! そして、セレナと結婚式を挙げるんだ!」
連れてきた騎士たちは、別の宿に泊まっているが、各自サンドラ夫人についての情報収集をするように指示を出している。
俺は、事前に調べておいた情報屋に向かった。ここで得た情報と、バルゴアの騎士たちが集めてきた情報を合わせると、より情報の正確性が上がる。
「ここだな」
まだ営業していない酒場の扉を開いた。
カウンターの向こう側でコップを磨いている男が「まだ店は開いてねぇよ」とだるそうに言う。
「そういうのはいいから!」
俺はカウンターに、金貨が入った袋を置いた。
「ここが情報屋なのは調べがついている。情報を買いたい。金ならいくらでも払う」
男は、袋の中をチラッと見たあとで「こっちに来な」と奥の部屋に案内した。
「で? どんな情報がほしいんだい?」
「サンドラ夫人についてだ。この街で、モーリスという息子と住んでいた。家はまだあるが、人が住んでいる形跡はない」
少し視線をさまよわせた情報屋は、「ああ」と思い出したような顔をする。
「知っているのか?」
「まぁな、裏家業では有名な女だからな」
「サンドラ夫人が?」
「夫人なんて柄じゃねぇよ。あの女、ここらへんじゃ毒婦って呼ばれているぜ」
「毒婦?」
予想外の言葉に、俺とエディは顔を見合わせてしまう。
俺が「だが、ヘイン公爵家の家庭教師だったんだろう?」と尋ねると、情報屋は頷いた。
「そうそう、女手一つで幼い息子を抱えて暮らしていたところを、公爵夫人が哀れんで雇ったらしい。そんで、その恩を仇で返した面の皮が厚い女だ」
「そこまで言われるなんて、サンドラ夫人は何をしたんだ?」
「恩人の公爵夫人を押しのけて、今は公爵の愛人の座に納まっている。派手好きで金遣いが荒い」
アイリーン嬢はサンドラ夫人が「財産を持ち逃げした」と言っていたし、息子のモーリスにはずっと仕送りを催促していたと聞いている。
「会うにはどうしたらいい?」
「サンドラは公爵に大事にされていてな、常に護衛が何人もついている。そうだな、毎年オークションには参加しているぜ。といっても普通のオークションじゃねぇ、オークションで高額落札した者だけ、さらに別会場に招待されるんだ。そこでは表には出せないような品物が出品される」
「闇オークションということか?」
「そういうこった。そこにサンドラは毎回姿を現している」
エディが「じゃあ、まずはオークションで高額落札しないといけないのか」と呟くと、情報屋が「ほらよ」と紙束を渡した。
「オークションに出される商品一覧だ。だいたいの落札金額予想も書いてある。この時期、よく聞かれるんだ」
「なるほど、助かった」
情報屋は、「ちょっと待った。まだ重要なことを話してねぇ」と引きとめる。
「サンドラは、今は名前を変えていてな。ドーラと名乗っている。あんたが捜すのは、ドーラだ」
「ありがとう。また頼む」
だるそうに金貨袋を持ちあげながら、情報屋はニヤリと笑う。
「はいよ、ごひいきに」
酒場をあとにした俺に、エディが話しかけてきた。
「リオはさっきのサンドラの話、どう思う? いや、今はドーラか」
「さぁ? こればかりは、ドーラ夫人に直接会ってみないと分からないな」
セレナが毒婦の演技をさせられていたように、ドーラ夫人にも事情があるのかもしれないし、そのままの人物なのかもしれない。
「演技をしているのなら見抜けるが、今判断するのは無理だ」
だが、情報を得られたおかげでやることは決まった。
「とりあえず、オークションで高額落札しよう。どうせ落札するなら、セレナに似合うものがいいな」
俺は情報屋から受け取った紙束をパラパラとめくり、『天使の涙』と書かれたページで止まる。涙の形にカットされたダイヤモンドのネックレスの絵が描かれていた。
「天使はセレナのイメージにぴったりだが、涙はダメだな。セレナには、いつも笑っていてほしい」
エディからは「はいはい」と、どうでもよさそうな相づちが聞こえる。
「他のアクセサリーは、亡国の王妃のティアラ……なんか縁起悪くないか?」
「よくわからんが、そういうのには歴史的価値があるんじゃないのか?」
「そんなものはどうでもいい。もっとセレナに似合いそうなものはないのか!?」
そこで俺はハッと我に返った。俺が一人で突っ走ったらろくなことにならない。
「セレナに相談して決めよう!」
「全面的に賛成だ」
こうして俺たちは、セレナが待つ宿に戻っていった。




