11 エスコートのお相手は?
それから一週間が経った。
リオ様とアイリーン様、そして私は客間に勢ぞろいしている。
アイリーン様が、手紙を手に持ちながら「カルロス陛下から返信をいただきました」と報告した。
「僭越ながら陛下からの伝言を読み上げさせていただきます。そのまま読み上げるので、ご無礼をお許しください。『リオ。近々、ヘイン公爵領でオークションが開催される。そこで会おう』とのことです。招待状は、こちらに」
招待状を受け取るリオ様の横で、私は思わず「オークション?」と呟いてしまった。すぐにアイリーン様が説明してくれる。
「ヘイン公爵が集めた貴重なお宝を、参加者たちで競り合って金額をつけるんです。毎年この時期に開催されているので、タイセン国では有名なんですよ」
私は、首をかしげた。
「ということは、表向きはオークションに参加しつつ、裏でサンドラ夫人を捜すということですか?」
「そうなりますね。招待状があれば、違和感なくヘイン公爵領に入れる上に、オークション開催中は堂々と滞在できますから」
「なるほど」と頷いた私の横で、リオ様は納得できていない顔をしている。
「ちょっと待ってほしい。どうして俺がヘイン公爵領に行くことが決定しているんだ? カルロスに勝手に決められても困る! こっちは大事な結婚式が控えているんだから」
アイリーン様は、「わ、私にそう言われましても……」と困ったように眉を下げた。しかし、リオ様もこればかりは譲れないようだ。
「しかも、招待状を見たら、パートナーの同伴が必須と書いてある。そうなると、セレナにも来てもらわないといけなくなってしまう。何が起こるか分からない場所にセレナを連れていくなんて……断る!」
コホンと咳払いしたアイリーン様は、カルロス陛下からの手紙の続きを読んだ。
「陛下より『こちらは結婚式の当日に謎の出火で王宮が燃えてしまい、修繕費が莫大な金額になっているんだ。歴史的価値がある貴重な美術品も焼けてしまった。ぜひとも幼馴染のリオに協力してほしい』とのことです」
「うっ」となったリオ様の横で、私もつい目が泳いでしまう。
誘拐されたコニーとアレッタを助けるためとはいえ、王宮に火を放ったのは、何を隠そう私たちだった。この件はお互いになかったことにしようと話はついていたが、修繕費のことを言われてしまうと心苦しい。
それはリオ様も同じだったようだ。
「……分かった。百歩譲って俺が参加するのはいい。だが、セレナは連れていかない」
私は首をかしげた。
「では、パートナーはどうするんですか?」
「腕の立つ女性騎士に――」
リオ様の背後に控えていたエディ様がさえぎった。
「うちの領に、淑女のように振る舞える騎士はいません」
それを聞いたアイリーン様が小さく手を上げる。
「それなら私はどうでしょうか?」
「まぁアイリーン嬢が、それでいいなら俺はかまわないが……」
リオ様とアイリーン様がパートナーに? ふ、不安だわ。
嫉妬ではなく、リオ様がアイリーン様をきちんとエスコートできるのか心配で仕方がない。
「あの、リオ様。ちょっとアイリーン様をエスコートしてみてもらえませんか?」
私の急な提案に、リオ様とアイリーン様は不思議そうにしている。
「セレナがそう言うなら」
ソファーから立ち上がったリオ様は、アイリーン様に優雅な仕草で右手を差し出した。その様子は、立派な紳士だ。
その際に私に向かって、『セレナに教えてもらったこと、上手にできているよね?』と褒めてほしそうな無邪気な笑顔を向けてきたのは、この際見なかったことにしましょう。
私がホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、アイリーン様の様子がおかしい。
「えっと、その、あの」
しどろもどろになり、青い顔をしながらリオ様の手をどう取ればいいのか迷っている。
「よく考えたら私、お父様とお兄様以外にエスコートしてもらったことがなくて、どうしたらいいのか。男性が苦手とか、そういうわけではないのですが……」
だとしたらそれはアイリーン様の元婚約者が、彼女を一度もエスコートせず壁の花になることを押しつけ続けていたせいだわ。つらい記憶からパートナーとなる男性にのみ、苦手意識が出てしまっているのかもしれない。
「リオ様、やっぱり私が一緒に……」
私の言葉に、アイリーン様が慌てている。
「慣れれば大丈夫です! その、私もセレナ様を危険な目に遭わせたくないのです。だから、頑張ります!」
アイリーン様は、チラッとリオ様を見たあと、さらに青ざめた。この二人がすぐパートナーになるのは難しそうだわ。
「でしたら、まずは私と一緒に練習しませんか? エスコートする男性役を私がしますので」
「え?」
「それなら大丈夫ですよね?」
「は、はい! よろしくお願いします」
こうして、私はアイリーン様のパートナー役をすることになった。
ドレス姿でエスコートするのは無理なので、リオ様が子どもの頃に作ったという礼服を借りることにした。白いジャケットには、金色の刺繍が入っていてとても豪華だ。ズボン姿なので、これなら男性役としてアイリーン様をエスコートできる。
でも、さすがに男性物の服をそのまま着ると不格好だったので、バルゴア領お抱えの服飾士たちが所々布を詰めて、私のサイズに合わせてくれた。
アレッタが「今日は、凛々しい雰囲気のお化粧にしておきました」と瞳を輝かせている。長い髪もまとめてもらったので、とても動き易い。
私の姿を見たアイリーン様は「セレナ様に、そのような格好までさせてしまい、申し訳ありません」と恐縮している。
「こちらこそリオ様のパートナー役をお願いするのですから、これぐらいの協力はさせてくださいね」
そう言いながら私が手を差し出すと、アイリーン様は自然な動作で手を重ねた。その動きに迷いはない。
確認の結果、アイリーン様の礼儀作法は、練習の必要がないくらい完璧だった。
「アイリーン様は、お父様やお兄様のエスコートは平気なのですよね?」
「はい」
でも、パートナーの男性には緊張してしまう。だったら、いとこのモーリスさんはどうかしら?
モーリスさんで男性パートナーに慣れることができたら、そのうちリオ様も平気になるかもしれないわ。
アイリーン様にそのことを伝えると、「たしかに、いとこと思うと大丈夫かも……」と前向きにとらえてくれた。
「では、モーリスさんに協力していただけないか、リオ様に聞いてみますね」
私はリオ様を探したが、見つからない。それにしても、今日はやけにたくさんメイドがいるわね?
メイドに紛れて、リオ様の妹シンシア様の姿もあった。シンシア様に向かって私が笑顔で手を振ると、シンシア様の顔が真っ赤に染まり、周囲のメイドたちから「きゃあ」と悲鳴が上がった。
なんだか空気が異様だわ……。
それはアイリーン様も感じたようで、二人で戸惑っていると、部屋の隅にリオ様を見つけた。なぜかその表情は暗い。
「リオ様、どうなさいましたか?」
私の問いにリオ様は「ううっ、『超絶美形で内面まで完璧なセレナ卿が、令嬢たちにモテすぎて、俺なんて相手にしてもらえない』がとうとう現実に……」といつかどこかで聞いたようなセリフを口にした。




