10 リオ様からのプレゼント
銀食器に反応しない毒に、タゼア家の禁書。そして、モーリスさんのお母様。なんとなく見えてきた輪郭が何を形作っているのか、まだ判断できない。
私は遠慮がちにリオ様に話しかけた。
「サンドラ夫人の評判は、あまりよくないようですね」
「そうだな。でも、何が真実かはまだ分からない」
リオ様の言うとおり、真実は悪意を持つ人たちによって、いくらでもねじ曲げられてしまう。私だって男を誘う毒婦だとウワサされていた。
自分たちの目で確かめるまで、結論は出さないほうがいい。
「本当にややこしくなってきましたね」
ため息をつく私の横で、リオ様が「頭が痛くなってきた」と肩を落としている。そのダークブラウンの髪を私は優しく撫でた。
「大丈夫ですか?」
「不思議だ。たった今、大丈夫になった」
ニコッと笑うリオ様。
「そういえば、セレナの結婚式の準備がすべて終わったんだって?」
「はい。リオ様も終わっていますよね?」
「ああ、あとは俺たちが二人とも健康な状態で式の日を迎えるだけだな」
「そうですね。冬の間、体調を崩さないようにしないといけませんね」
私がそう呟くと、リオ様は「あっそうだ!」と、急にソファーから立ち上がった。
「セレナに渡したいものがあるんだ!」
リオ様は、優しく私の手をとった。連れていかれた先は、リオ様の部屋だ。
何度か入ったことがあるけど、壁には武器やら大きな鹿の角やらが飾られていて、なかなか野性的な部屋になっている。リオ様の妹シンシア様曰く、これでもだいぶマシになったらしい。
その中から、リオ様は純白の毛皮の襟巻きを手に取った。
「これをセレナにもらってほしいんだけど……」
そう言いながら、私の首に巻いてくれる。
襟巻きは羽のように軽く、ふわふわな肌触りが心地いい。そして、なにより温かかった。
私を見つめるリオ様の顔は赤い。
「くっ! セレナがなんでも似合いすぎて、俺はもうどうしたらいいのか分からない!」
「こんなに素敵なものを、いただいていいのですか?」
リオ様は、コクコクと必死に頷いている。
「俺の祖母に贈ろうとしたら、『それは、愛する人ができたら贈りなさい』って」
愛する人という言葉に、私の頬は熱くなる。
「リオ様のおばあ様が……。そういえば、おばあ様はどちらに?」
「もう亡くなっているんだ」
「そうだったのですね……」
とても素敵な方だったに違いないわ。
「お会いしてみたかったです」
「では今度、墓参りに行くのはどうだろう? 俺の大切な人を紹介したら、祖母はきっと大喜びしてくれる」
「はい、ぜひ」
フワフワな襟巻きとリオ様の飾らない言葉で、私の体も心もポカポカになっている。
「なんだか、いつも私ばかりリオ様からもらっているような気がします」
「そんなことはない」
「でも……。リオ様は、何かほしいもの――」
そこまで言って、私は口をつぐんだ。この野性的な部屋を見る限り、私がリオ様の欲しいものを準備するのは難しそうだわ。だって、例えば「熊の毛皮がほしい」と言われてもどうしようもできないもの。
「えっと、リオ様は、私に何かしてほしいことはありませんか? できる範囲のことならなんでもいたします」
「セレナがそばにいてくれるだけで幸せだけど、そうだなぁ」
リオ様は「うーん」と悩んだ後で、ポンッと手を打った。
「そうだ! リオと呼んでほしい」
「はい、リオ様」
「あっ、そうじゃなくて! 様をつけず、リオ」
「え?」
予想外のお願いに私は固まってしまった。だって、出会ったときからずっとリオ様はリオ様で……。ってあれ? そうだったかしら?
よくよく思い返してみると、初めて出会ったときリオ様は「リオと呼んでください」と言っていた。そして、私が「リオ様」と呼ぶと「様なんてつけなくていいのに」と返ってきた。それを当時の私は「馴れ馴れしい」と思ってしまったので、しっかりと記憶に残っている。
私は改めてリオ様を、まじまじと見つめた。
「リオ様って変わりませんね」
「えっ?」
「素敵だなと思って」
驚いているリオ様の願いを叶えようと、私は息を吸った。
「リ、リ、リ……リオ……様」
ダメだわ。急に呼び捨てになんてできない。
ガッカリさせてしまったかもと思い、チラッとリオ様を見るとソファーに倒れ込んでクッションをバンバンと叩いていた。
あの行動は、リオ様が私のことを可愛いと思ったときにするものなので、とりあえず悲しませてはいないようで、私はホッと胸を撫で下ろした。
※ちなみに今のバルゴア領は冬です。WEB版では、読みやすいように四季の描写を飛ばしているのでわからなくてすみません…!




