09 仕送り先は?
その日、リオ様とエディ様がそろって私の部屋を訪れた。
「セレナ。ちょっと今、いいかな?」
「はい、どうぞ」
私がリオ様にソファーに座るように勧めると、アレッタがお茶の準備をするために移動する。
私の隣に座ったリオ様は、「実は、モーリスについて調べていたんだ。セレナにも知っていてほしい」と真面目な顔をしている。
「エディ、報告を頼む」
エディ様は、淡々と説明を始めた。
「調べたところモーリスは、毎月仕送りをしていました。送り先は、タイセン国のヘイン公爵領にいる母です」
以前、アレッタも「モーリスは仕送りをしているようだ」と話していた。だから、「私と一緒だなと思った」と。
「しかし、仕送りの送り先に、母親はいませんでした」
そのとき、アレッタが食器をぶつけて大きな音を立ててしまった。
「も、申し訳ありません!」
「いいのよ。気にしないで」
そう伝えたものの、アレッタはこちらの会話が気になっているようだ。
エディ様は、そんなアレッタを気にせず報告を続ける。
「正確に言うと、以前はそこに住んでいたそうなのですが、もう何年も家に帰ってきていないそうです」
「仕送りしていたお金は、どうなっていたのですか?」
「隣の家のご婦人が、モーリスの母に雇われてヘイン公爵邸に送り届けていました」
「どうして、公爵邸に?」という私の疑問には、リオ様が答えてくれた。
「モーリスの母は、昔、公爵の子どもたち相手に家庭教師をしていたそうなんだ。その縁で今でも公爵邸で過ごしているのかもしれない」
「それなら、モーリスさんのお母様は、貴族ということですね。しかも、公爵家に出入りできるほど、優秀な名家出身の」
リオ様はゆっくりと頷く。
「モーリスが以前、タゼア家の紋章に反応していたから、タゼア家の関係者である可能性が高いな」
「あの……」
私は小さく手を挙げた。
「気のせいだったら申し訳ないのですが、アイリーン様とモーリス様の髪の色と目の色、そっくりではないでしょうか?」
「言われてみれば……? よくある髪色でもあるが、確かめてみよう」
そこからのリオ様の行動は早かった。
この場にアイリーン様とモーリスさんを呼び、二人を会わせたのだ。
不思議そうな顔をしているアイリーン様とは違い、モーリスさんは真っ青だった。二人を見比べたリオ様が、私の耳元で「たしかに髪色と目の色がそっくりだ」と囁く。
「二人に血縁関係はないだろうか?」
リオ様の言葉にハッとなったアイリーン様は、まじまじとモーリスさんを見つめた。
「この方とは初めて会いますが……。実は、私の父に姉がいたのです。でも、タゼア領での暮らしを嫌がり、出ていったと聞いています。その後、事故で亡くなられたらしいのですが……。たしか伯母の名は、サンドラ」
モーリスさんは、覚悟を決めたように目を閉じた。
「おそらく私の母でしょう。母の名もサンドラなので」
「どうやら私たちは、いとこのようですね」
「はい、でも母は生きていますよ」
その言葉を聞いたアイリーン様の顔が目に見えて強張った。
「だとすれば、禁書を悪用したのは伯母の可能性が高まりました」
アイリーン様の言葉に、モーリスさんは戸惑っている。
「禁書? なんのことですか?」
「伯母から何も聞いていませんか? まぁ、数十年前に『自由に生きたいから』とタゼア家の財産を持ち逃げしたような方ですから、息子には話せないかもしれませんね。私の父に届けられた事故死の連絡は偽造だったのでしょう」
「母が、財産を持ち逃げ? じ、事故死の偽装?」
本当に何も知らない人がするような反応をモーリスさんはしている。
アイリーン様は、「そのせいで私の父がどれほど苦労したか……」と唇を噛みしめていたけど、「いえ、こんなことをあなたに言っても仕方ありませんね」と深く息を吐いた。
「伯母は今、どちらに?」
「へ、へイン公爵領に家があります」
「わかりました。すぐに人を向かわせます」
アイリーン様の言葉に、リオ様は首を左右に振った。
「そちらはすでに調べた。サンドラ夫人は、そこにはいなかったんだ」
それを聞いたモーリスさんは「はぁっ!?」と声を上げたあと、自分がとった態度が無礼だと思ったのか慌てて口を手で押さえている。
リオ様は、少しも気にせず言葉を続けた。
「サンドラ夫人は、へイン公爵邸にいるらしい。仕送りもそこに届けられている。モーリスは、知らなかったのか?」
「は、はい。家を出てから母に手紙を送ってもまともな返事がなく、いつも仕送りの催促だけされていました。その金額もどんどん増えて負担になっていて……」
その言葉を聞いたアイリーン様は複雑そうだ。でもすぐに、キリッとした表情に変わった。
「私はこの件を急ぎカルロス陛下にご報告します。なんとかして、伯母を見つけないと。お話の途中ですが失礼いたします」
アイリーン様の後ろ姿を見送ったあと、リオ様はもう一度モーリスさんに視線を向けた。
「今後、サンドラ夫人の仕送りはこちらで用意するから、これまでどおり続けてほしい」
「えっ、どうしてですか?」
「今、サンドラ夫人がどういう状況に置かれているか分からない。急に仕送りを止めて向こう側に怪しまれると、夫人が危険にさらされるかもしれないからな」
「それは、母が何者かに監禁されていると?」
モーリスさんの顔には、そうであってほしいと書かれている。
「現段階では何も言えない」
「そ、そうですよね。はい、すべてはリオ様の指示どおりに」
頭を深く下げてから、モーリスさんは部屋から出ていった。足取りふらつくその姿を、アレッタが心配そうに見つめている。
余計なお世話だと思いつつも、私はアレッタに声をかけた。
「アレッタ、今日はもう休んで」
少しためらったあとで、アレッタは小さく「はい」と答えてから退出した。彼女がその後、モーリスさんに声をかけたのかどうかは、私には分からない。




