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異世界で家政婦はじめました  作者: kiki
2nd Chapter
18/20

Story 16

 王城から辻馬車に半時間揺られて、並木道の先にある城下街ヴェルムロフに到着した。

 街の中心を流れる川で商業区域と居住区に二分され、商業区域の方は店先で呼び込みをしている人の声や行き交う人々で賑わい、居住区は元気に走り回る子供や井戸端会議をしている奥様方で朝から人の活気に満ち溢れている。


 石畳の路地の両側を埋め尽くすカラフルな色をした壁の建物や、長い年月を経た教会や広場が佇んでいるその光景は現代日本ではまず見れない幻想的な街並みだ。

 魔獣討伐部隊の人達を見て分かっていたつもりだが、街の人々の髪色と瞳の色は金、銀、緑、青や赤など様々で、逆に私のような黒髪黒目は見当たらない。カラフルな色でも違和感を感じないのは、顔の彫りが深く目鼻立ちがはっきりとしているからだろう。


 ヴィクトリア朝時代に似た服装をベースにしたスチームパンクファッションや、私やマリーが着ているロココ、バロックといったヨーロッパ文化を思わせる服装が多く、街並みだけでなく服装までも幻想的だ。腰から剣を下げてショートパンツを穿いた女性や、黒い革のロングジャケットを着てライフルに近い銃を所持した男性など、まるでテレビ越しに映画のような高グラフィックで高クオリティのRPGを観ているようだ。

 高クオリティなにも、今見ているものが現実だから綺麗に見えるのは当たり前なのだが。


 とにかく見るもの全てが初めてで、私は田舎者のように顔を忙しなくキョロキョロと動かしていた。

 すると隣にいたマリーにクスクスと笑われてしまった。


「ふふ、楽しんで頂けてるようで良かったですわ」

「あっ、ごめん。ここ、素敵な街、夢中になってた」

「大丈夫ですわ。まだまだ時間はありますもの。ゆっくり街を見ながらお買い物しましょう」

「ありがとう、マリー」


 城下街の雰囲気と景色を楽しみながら、のんびり歩いて商店街を進む。

 マリーは私が興味や関心を向けたものに対して丁寧に説明してくれた。

 パステルピンクを基調とした女の子達に人気の喫茶店や、ウェイトレスが全員可愛いと有名な食堂。

 騎士や魔導士達が良く呑みに行くという大盛りがウリの大衆酒場に、生演奏を聴きながら落ち着いた雰囲気で呑めるバー。

 百以上もの種類があり子供たちに大人気の菓子店に、貴族や王宮御用達の高級菓子店。

 職人街に入ると武器屋や鍛冶屋まであった。


「凄いね、マリー! 見てて飽きない!」

「そんなに喜んで頂けるとご案内のし甲斐がありますわ。ではそろそろ、マダム・リリアネットの洋服店に行きましょう」

「マダム?」

「マダム・リリアネットですわ。私が良く行く洋服店ですの。そこでニーナ様の洋服をコーディネートさせて下さいませ」

「分かった。宜しく、お願いします」


 お互いににっこりと微笑み合った事を、私は数分後、後悔することになる。


 店主であるマダム・リリアネットはぷっくりとした唇が印象的なふくよかな女性だった。

 人の話を聞くのも話をするのも上手な店主で、私の洋服の好みを聞き出すと店内のみならず、バックヤードからも大量に服を持ってきた。

 そして気が付いた頃には赤い絨毯が敷かれた広い試着室にやんわりと押し込められていた。


「マダム。今日は(わたくし)がニーナ様をコーディネートするお約束をしているのです」

「あら、コーディネートは店主である私の仕事よ。それにあんな可愛い子を独り占めなんてずるいわ。小柄で華奢に見えるけど出るところは出ていていろんなお洋服を着せたくなるじゃない? ちょうど新作があがってきたところなのよ」

「短時間でニーナ様の良さに気付くなんて、さすがはマダムですわ」

「私を誰だと思って? 見て話せばその人のサイズと似合う洋服が何か、それが分かるのが私マダム・リリアネットよ」

「マダムの実力は存じております。ですが私もニーナ様に合うお洋服を何日も前から想像を巡らせていたのです。コーディネートする権利を私にも下さいませ」

「なら私とマリーちゃんの二人でコーディネートしましょう? そうすればどちらかが我慢する思いをしなくても済むのですし」

「それは良い案ですわ」

「でしょう? ねぇねぇマリーちゃん。これなんてどうかしら? 最近流行のオフショルダーのワンピースなの」

「とっても素敵ですわ! ニーナ様の白いお肌が程よく露出され、且つ厭らしさを感じさせない洗練されたデザイン。そちらのワンピースにはぜひカゴバックを合わせて持って頂きたいです」

「それならこの白い革で小花をあしらえたカゴバックがおすすめよ」

「ニーナ様に合う可愛いデザインですわ。それに合わせて白いレースのパンプスもどうでしょうか?」

「とても良いと思うわ。さすが、マリーちゃん。分かっているわ」

「恐れ入りますわ。マダム、ニーナ様にはこちらのヘムミニスカートも似合うと思うのですが……」

「だったら見せるパニエを合わせたらどうかしら? ヘムスカートと合わせると裾から薔薇の形をしたレースが見えるのよ」

「な、なんて可愛らしいデザイン!!」


 着る本人(わたし)そっちのけで、試着室の前は大盛り上がりだ。

 火が付いたマダムとマリーは次から次へと洋服を持ってくるから、私は着替えては二人に披露して脱いだら次のを試着してを繰り返した。

 はじめは何着きたかを数えていたが次第に数えるのを止め、そろそろ疲労が限界だと伝えようとした時に腹の虫が盛大に鳴り、長く続いた着せ替え人形から解放された。

 人前でお腹が鳴った羞恥心よりも、着せ替え人形から解放された安心感の方が勝るほど二人の勢いは留まるところを知らなかった。

 試着だけで人って疲れるんだな、と私は初めて知ったのであった。


 大量に試着した中から着回しを考慮し、服や靴などの小物も含めていくつか選んで購入を決めた。と言っても主にマリーとマダムが選んでくれたのだが。疲労困憊で空腹の私では正常な判断が出来ず、二人で決めてくれるようお願いしたのだ。

 面倒臭くなったとかでは断じてない……


 ちなみに会計はマリーが付き添ってくれたおかげですんなり終える事が出来た。

 木製のアンティークなレジカウンターに、クリスタルで造られた表彰楯のようなものが建て掛けられていて、その中心には魔法陣が彫られていた。

 その表彰楯のようなものが金融(フィナンス)水晶(・クリスタル)で、マダムが手をかざすとほんのりと青白く光った。

 青白く光っている金融(フィナンス)水晶(・クリスタル)に私の魔法通貨(マジー・ピエース)をかざすと今度は青い光に変わった。これは正常に会計が行われた証で、もし残高不足や何かしらの問題が起きた場合は赤く光るのだそうだ。

 私の魔法通貨(マジー・ピエース)の方は淡い光を放ちながら、ガラスのプレート部分に残高があぶり出しのように浮かび上がっている。

 化学現象ではない魔法の摩訶不思議な光景に感嘆の吐息を洩らす。


 でもすぐに現実へと引き戻された。

 目の前には高く積まれた洋服の山。これらをどうやって持ち帰るのだろう……


「たくさん服、持って帰る、大変じゃない?」

「心配には及びませんわ。配送料も支払っておりますので、後でこれを郵便館(ネスト)に持って行きましょう」


 これ、と差し出したのは三枚綴りになった紙だ。

 マダム・リリアネットの洋服店の所在地、購入品、購入日がすでに記載されている。


「一番上の紙が本人控え、その次が店舗控え、一番下が郵便館(ネスト)に渡す紙になってますわ。これを持って行くと後日郵便館(ネスト)が購入店舗に伺い商品を受け取った後、指定した配送先まで届けてくれる仕組みになっていますの。持ちきれない荷物や大きな荷物は郵便館(ネスト)にお願いすると良いですわ」

「へぇ! 便利な仕組み!」

「ふふ。昼食を摂った後、郵便館(ネスト)にご案内しますわ」


 お腹を空かせた私は嬉々としてその提案に頷いた。まずは腹ごしらえだ。

 私とマリーはマダムにお礼をして、洋服店を後にした。


 マリーに連れられて来たお店は白を基調としたオシャレなカフェテリアだった。

 私は葉物野菜や厚いベーコンとチーズが挟まれたパニーニを選び、マリーはフェットチーネのクリームパスタを選ぶと二人で二階にあるテラス席に座った。


 座ったテラス席からは樹木のようにあちこちに枝分かれした不思議な塔が遠くにあるのが見える。

 その枝分かれした塔の先から大きな翼を広げた鳥が飛び立った。良く見ると鳥の首から何かがぶら下げられている。別の塔からも同じように首から何かを下げて、いくつかの鳥が此処彼処に飛んで行った。


「あの樹木のような塔がヴェルフェイム王国郵便館(ネスト)王都店ですわ。郵便館(ネスト)本店でもありますね」

「あれが!? 飛んで行った、鳥、あれは何?」

配達員(エール)ですわね。変身魔法(シャンジュモン)(フォコン)に変化した配達員(エール)が国内の支店に手紙や荷物を届けに行くところですわ」

「え!! あの鳥、人!?」

「はい。先程マダム・リリアネットの洋服店で購入したものは通常配達で依頼しましたので、ニーナ様の所には(シュヴァル)に変化した配達員(エール)が届けに来ますわ」

「わあー! 楽しみ!」

「ふふふ……目を爛々とさせてパン屑を口元に付けているニーナ様、眼福ですわ」

「ん? マリー何か、言った?」

「いいえ、何も」


 優雅に食後の紅茶を飲みながら、マリーはうっとりと微笑む。

 そんなに紅茶が美味しいのかな。首を傾げながらも食事に集中した。


 このパニーニ、第零隊騎士館寮でも作れないかな。野菜とお肉を一緒に食べられるし、忙しい彼等もこれなら短時間で食べられるかも。

 食事の時間は決まっているけど、任務で第零隊騎士館寮を出ていると食べられない場合もある。パニーニだったら持ち運びも出来るから、任務の前に持たせることも可能ではないだろうか。その後は好きな時に食べてもらえば良いわけだし。

 今日の夜にでもカタログを見てパニーニのパンを注文出来ないか確認してみよう。


 私を見ながら何故か恍惚としているマリーを余所に、密かにパニーニ作りを決意していた。



 それから食事を終えた私とマリーは郵便館(ネスト)に向かった。

 大きな門には白い鳥の紋章が入った空色の旗が掲げられている。その門を通って行くのは小さな子供を連れた女性や、職場の制服であろう服を着た男性、腰が曲がった老人など様々で、郵便館(ネスト)が城下街の身近な存在であるのが見て分かる。


 空色の制服を着た職員が丁寧に説明をしてくれたおかげで、滞りなく配送手続きが終了した。

 ただ配送先に第零隊騎士館寮の所在地を記入した時に、職員の顔色が目に見えて青冷めたのがショックだったが、私ではなく魔獣討伐部隊の彼等を恐れてのことだと思ったら余計に心を痛めた。

 彼等は国の人達を守る為に魔獣と戦っているのに、人々はそんな彼等に恐れや嫌悪を抱いている。こんな理不尽な事があって良いんだろうか。


 私がそう思っていることさえシュロイズさんには、まだ異世界(ヴァルディガルド)に来て日が浅い無知なおまえが知った口をきくなと冷笑されそうだけど。


「ニーナ様、あちらに魔法手紙が販売されてますわ。見てもよろしいですか?」

「あ、うん。私も、見たい」


 モヤモヤとした気持ちでいると、マリーが手を引いて窓口から私を遠ざけた。

 マリーの視線の先には魔法手紙などの販売コーナーがある。未だ顔色の悪い職員から顔を背けて、販売コーナーへと足を向けた。


 広々とした一階フロアには郵便窓口と配送窓口が分かれていて、窓口の反対側の一角に販売コーナーはあった。

 魔法手紙にも定型郵便や速達など様々な種類があり、その中でも香り付きの魔法手紙がいま女性たちの中で流行っているらしい。

 香り付きの魔法手紙は販売コーナーの一番目立つところに陳列されていて、そこに若い女性達が集まっていた。


「ニーナ様、私は文具の方を見ててもよろしいですか?」

「うん。私、香り付き、魔法手紙見てくる」


 若い女性達と言えどみんな私より身長が高く、そんな集団の中に飛び込んで行く勇気はない。日本のバーゲンの時も人の少ないところを見付けて、身をちぢこませながら隙間を歩いたものである。

 満員電車の時なんて人と人の間にギュウギュウに挟まれた挙句、次の駅で乗車客が増えた時には足が床から離れて私は一瞬、宙に浮いた。その時を思い返して遠い目をしているとひとつの魔法手紙が目に入った。


 香り付きの魔法手紙コーナーの一番端に、型押しされた見覚えのある花。

 深緑の葉と花のコントラストが美しい椿の花だった。

 薔薇といった代表的な花の香りをした魔法手紙が陳列された棚に比べて、椿の魔法手紙が陳列された棚には人ひとりいない。

 日本の和を代表する馴染みのある花が異世界にあったことに懐かしさと好奇心が湧いた私は、その魔法手紙に吸い寄せられるように近付いて行った。


 どうやら椿の魔法手紙は人気商品なのか、もともと入荷数が少ないのかーー恐らく後者の方ーー商品棚にあったのは一点のみだった。その最後の一点となった椿の魔法手紙に手を伸ばす。

 と、ほぼ同時に自分ではない別の手が横から伸びてきた。

 反射的にその手の持ち主を見ると、相手も私を見ていて双方手を伸ばした状態のまま固まってしまった。


 癖のない真っ直ぐに伸びた、赤味が強い茶色のロングヘアの少女だった。

 十七、十八歳くらいだろうか。アンバーの大きな瞳できょとんと数秒私を見つめた後、状況を理解したのか慌てて手を引っ込めた。


「あっ、ご、ごめんなさい!! 横取りしようとしていたわけでは……」

「こっちも、気付かない、ごめんなさい。私、これ、見るだけ。だから、どうぞ」

「良いのですか? 遠慮されているのでしたら、私のことは気にせずお買い上げ下さい」

「遠慮、違う。本当に、見てただけ。だから、大丈夫」


 商品棚から椿の魔法手紙を取り彼女に差し出すと、おずおずとしつつも受け取ってくれた。

 安堵の表情を浮かべながら両手で大事そうに持つ彼女の姿を見ると、本当に欲しかったものなのだと見ていて分かる。

 彼女に言った通り、私は異世界にある椿に興味があっただけで購買意欲があったわけではない。購入しても手紙を出す相手がいない……()()いないと言っておこう。

 だから彼女に譲って良かったのだ。


「その花、名前、何?」

「雪が降る地域にしか咲かない花で椿(カメリア)と言います。認知度は低いので、恐らくご存知ないかたの方が多いかと」

「私、知らなかった。カメリア、好き?」

「何故、そう思われるのですか?」

「大事に、持ってるから」

「あ、はい……私の大切な方が好きな花でして……その……」


 アンバーの瞳の彼女は恥ずかしそうにはにかむ。

 恐らくその大切な人に贈る手紙なのだろう。なんだかこっちまで照れてしまうような、そんな表情だ。

 にやにやと生温かい視線を送っていると、彼女は赤面した顔を誤魔化すように「あ、あの!!」と話を逸らした。


椿(カメリア)の香りはご存知でしたか?」

「ううん」

「でしたら是非これを」


 そう言って彼女が差し出してきたのは、近くにあった小瓶だ。

 小瓶のラベルには“椿(カメリア)”と書かれている。魔法手紙の香りサンプルだろう。

 その小瓶を受け取り香りを嗅ぐと、爽やかな甘い香りがした。私の知っている日本の椿の香りとは少し違っている。


「香り付きの魔法手紙は香水で有名な香りの天使(パルファン・アンジュ)というお店と郵便館(ネスト)が共同開発した魔道具なのです。人気の薔薇(ロジエ)金木犀(オリヴィエ・オドラン)と違って椿(カメリア)は香りの弱い花ですが、凛とした慎ましやかな香りを見事に再現しているのです」

「とても、良い香り。私、これ好き」

「自分の好きなものを気に入って頂けると、嬉しいものですね」

「今度、これ、買ってみる。教えてくれて、ありがとう」

「こちらこそ、譲って頂きありがとうございます。これで約束の時間までに手紙を出す事が出来ます」


 嬉しそうに微笑む彼女は、余程その大切な人が好きなのだろう。

 手紙のやり取りをしているということは頻繁に会う事が出来ない相手なのかもしれない。遠方にいる相手なのか、仕事が忙しい人なのか。どちらにせよこんなに可愛らしい子に思われている時点で、相手は幸せ者に違いない。

 そんなことを考えていると背後から声が掛かった。


「ニーナ様、そろそろ次のお店に向かいましょう」

「マリー。ごめん、今、行く」


 文具類を見に行っていたマリーが買い物袋を抱えて迎えに来てくれた。

 どうやら良い買い物が出来たようだ。


「私、行くね。いろいろ、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 微笑みながら少女が手を振ってくれる。

 ふと、彼女のアンバーの瞳に既視感を覚えた。彼女と会ったのは正真正銘初めてのはず……

 どこで見たのだろう?


「お待たせ、マリー」

「次はどこに行きましょうか? 次のお店に行ったら調度帰りの辻馬車の時間になりますわ」

「行きたい、お店、ある。良い?」

「ニーナ様の行きたい所でしたらどこへでもお供致しますわ」

香りの天使(パルファン・アンジュ)椿(カメリア)入浴剤(フルール・ボンブ)あるかな」

香りの天使(パルファン・アンジュ)にない香りはない、と言われているほどあそこは種類豊富です。行ってみましょう」


 ダグラスさんにお土産はいらないと言われているが、いつもお世話になっているから何か渡したい。

 ランセス達は受け取らないだろうけど、魔獣討伐部隊の皆さんに渡す焼き菓子を買っておいたが、入浴剤(フルール・ボンブ)ならダグラスさんも好きだから、お土産に良さそうだ。


香りの天使(パルファン・アンジュ)は娼館等が立ち並ぶ夜の街(ジェネドラパス)近くにあります。柄の悪い輩も多いので警邏隊も巡回していますが、決して私から離れないで下さいませ」

「わ、分かった」


 異世界にも繁華街みたいなところがあるんだな。

 私が想像しているようなホストやキャバ嬢ではないと思うけど、近くまで行くとしても魔法が使えない私が一人で行くには無理がある。

 マリーが一緒にいてくれて良かった。


 夜の街(ジェネドラパス)に近付くにつれて静けさが増す。

 カラフルな壁もだんだんと数が減り、灰色や黒など暗い色をした建物が増えてきた。

 陽が沈む頃に開店準備が始まるのだろう。まだ陽が出ている時間帯の今は人通りが少なかった。


香りの天使(パルファン・アンジュ)は女性に人気のお店ですが、場所が場所なために通販利用者の方が多いのです」

「だから、ダグラスさん、通販、買い物してるんだね」

「ダグラス様の場合は違う理由ですわね……」

「違う理由?」

「それは……あら?」

「あ、さっきの」


 夜の街(ジェネドラパス)と商業区域を隔てる十字路に出たところで郵便館(ネスト)で会ったアンバーの瞳の少女と再び出会った。少女も驚いた顔をしてこちらを見ている。


「先程はありがとうございました。お話をしていたら香りの天使(パルファン・アンジュ)に行きたくなってしまいまして……」

「そうだとしてもこの時間帯に乙女の一人歩きは関心致しませんわ。良ければご一緒しても?」

「あ、ありがとうございます!!とても心強いです」

「私、ニーナ。宜しくね」

「ニーナ様、宜しくお願い致します」

「私はマリー・ブランシュです」

「存じております。魔獣討伐部隊専属、鍼灸師であり、千の針師(ミル・エギーユ)の二つ名を持つ、マリー様ですね」


 マリー、二つ名なんて持っているの!?

 マリーってふわふわしていて実は物凄い人物なんじゃ……


「申し遅れました。私は王立魔法学園(マジー・エコール)九年生の……」


 アンバーの瞳の少女が続けて名前を言おうと口を開いたーーー刹那。



 ドゴォッ



 鈍い音と共に、私達の目の前を綺麗な放物線を描いて人が吹き飛んでいったーーー











電車で一瞬、足が浮いたのは実体験です……


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