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ヤドカリ刑事 消え逝く灯  作者: 春原 皇峰
2/3

中編



      3


 課長の森田から、連絡を受けて、男性の殺害現場に、八戸が着くと、そこには、森田と秋山が、先についていて、男性を、調べていた。

「森田課長」

 と、八戸は、いって、近づいた。

「おはよう、八戸君」

 と、森田は、いうと、

「やはり、高岡栄吉だった、みたいね」

 と、首を絞められて、殺害された高岡の顔を見ながら、いった。

 森田は、高岡の持ち物を調べ始めると、

「財布の中身に、一切、手をつけていないところを見ると、強盗や、物取りの可能性は、低いようね」

「そうですね」

 と、秋山は、いった。

「だとしたら、犯人は、どうして、高岡栄吉を、殺害したのかしら?やはり、怨恨の線かしら」

 と、森田は、呟いた。

「まだ、なんともいえませんが、羽野梨江が殺害された事と関係があると、考えた方が、いいのではないでしょうか?」

 と、八戸は、いった。

「偶然、と、いう事もあるけど、梨江と高岡が、殺されたことが、なにか、関係あると考えたほうが、納得できそうね」

 と、森田は、いった。

「しかし、もし羽野梨江と高岡栄吉が殺されたのが、関係あるとしたら」

 と、八戸は、いった。

「そうね、二人が殺害されたのが、なにか、関係あるとしたら、連続殺人という事になるわね」

 と、森田は、いった。

「ところで、この高岡栄吉は、仕事は、何をしていたんですか?」 

 と、八戸は、きいた。

「昨日調べたところ、高岡栄吉は、仕事は、小さいキノコの会社を、営んでいたらしいわね。年齢は五十一歳で、住まいは、中野市の七瀬。結婚していたけど、五年ほど前に、離婚しています。二人の間には、子供はいません」

 と、森田は、話した。

「年齢は、五十一歳、小さいキノコ会社を、やっていて、五年前に、離婚していて、子供はいない」

 と、八戸は、いった。

「高岡の住まいは、この近くに、在るんだけど、八戸君、秋山君と一緒に、調べてもらえるかしら」

 と、森田は、いった。

「わかりました。まず、秋山と、高岡の自宅をあたります」

 と、八戸は、いうと、

「秋山、行くぞ」

 と、いって、七瀬にある、高岡の自宅に向った。

「わかりました、今すぐ向います」

 と、秋山は、答えた後、八戸と、一緒に高岡の自宅に向った。

「頼んだわよ」

 と、いって森田は、八戸と秋山を、見送った。

 高岡の自宅に、八戸が着くと、高岡の家の扉には、鍵が掛けられていなかった。

家の中は、既に、何者かによって、物色された跡らしく、酷く荒らされていた。

「酷いな、これは」

 と、八戸は、荒らされている家の中の様子を見て、呟いた。

「本当ですね」

 と、秋山は、いった。

「高岡は、離婚してから、一人暮らしで、取られているものがあるかとは、確認できないから大変だな」

 と、八戸が、いって、部屋の中を確認し始めると、壁に掛けてある蛍の写真が、眼に留まった、

「ここにも蛍」

 と、いった。

「これは、偶然じゃないんですか」

 と、秋山は、いった。

「そうだな、とりあえず、ここは、鑑識の人に任せて、一度署に戻って、課長と少し、話をしてみよう」

 と、いって、八戸は、中野署に戻ることにした。

 八戸と秋山が、信濃中野署に付くと、朝に行なうはずだった捜査会議が、七瀬で殺人事件が起きた為に、時間を遅らせて、始められようとしていた。

 入口には

【北志賀乗廻殺人事件】

【中野市七瀬殺人事件】

 と、書かれて、貼られていた。

「今日、中野市の七瀬で、殺害された、高岡栄吉と、二日前に、北志賀の乗廻で、自殺に見せ掛けて殺害されていた、羽野梨江についての捜査会議を、始めます」

 と、森田は、いった。

すると、八戸と、秋山もそっと、入って来て、席に座った。

 森田の横には、信濃中野署の署長の春日栄一と、長野南若穂署刑事課主任の、蟲倉啓二が、座っていた。

「まず、北志賀で、殺害された羽野梨江は、グリーンキャッツタイムという、長野市の風俗店で働いていて、全体的には、売上を良くは、しなかったらしいですが、梨江は、特定の人物に人気があったようです。そして、昨日、梨江の住まいを調べた所、梨江のパソコンの中に関係が会ったと思われる、五人の名前が浮かび上がりました」

 と、森田は、いうと、手元にある資料を開くと、

「遠山雄太、山西健治、橋本光、今井幸太郎と、今日、七瀬で殺害されていた、高岡栄吉も、その梨江のパソコンのデータの中に表示されており、何らかの関わりが、あったものと考えられます」

 と、いった。

「北志賀で殺害された、羽野梨江の事件と、中野市の七瀬で、殺害された高岡栄吉の事件は、梨江と高岡の二人は、関係が合ったと考えられる事からも、二つの事件は連続殺人という線で、これからは、捜査を進めていきます」

 と、蟲倉が、いった。

 そのまま、しばらく、羽野梨江と高岡栄吉の捜査会議は、続いた。

 春日署長が、席を立ち上がると、

「以上で、捜査会議を終了します。全力で、犯人を挙げられるよう、お願いします」

 と、いった。

 捜査会議が終わり、会議室から次々と集まっていた人が、続々と出て行くと、森田は、横の蟲倉に振り向いて、

「あぁ、あと、デカ」

 と、言いかけたとき、

〈ゴホン〉

 と、蟲倉は、咳払いをして、森田の言葉を止めた。

その様子を見ていた八戸は、森田と、蟲倉に、近寄っった。

「森田課長」

 と、いったあと、八戸は、

「お二人は、かなり前からの、お知り合いですか?」

 と、きいた。

「えぇ、デカちゃんとは、高校の時からの知り合いだけど」

 と、森田は、答えた。

「デカちゃん?」

 と、首を傾げながら、八戸は、いった。

「蟲倉君の呼名よ、昔から刑事の真似事をするのが好きで、しかも名前が、ケイジだったから、みんなでデカちゃんと、呼んでいたのよ」

 と、森田は、答えた。

「そんなのこんなところで、言わなくても、いいだろサッキー」

 と、蟲倉は、いった。

「別にいいじゃない」

 と、森田は、中学生が、口喧嘩をする様な口調で言うと、会議室を、出て行った。

「全く、サッキーのやつ」

 と、蟲倉は、ぼやいた。

「サッキー?」

 と、八戸は、呟いた。

「あぁ、あいつの呼名だよ。名前も、サキだし、怒ると凄まじい殺気とも取れる位、寒気が走る眼つきで、睨み付けて来るから、そう呼んでいるんだよ」

 と、蟲倉はいうと、

「八戸君達も、覚えないかな?」

 と、八戸と秋山に、近づいて、耳越しに、きいた。

二人は、蟲倉に言われて、森田に、昨日、睨み付けられた時の事を思い出して、

「確かに、北志賀で、年齢に関係した話をしたあの時も、背筋が、凍りそうな気が、しました」

 と、八戸は、苦笑いしながら、答えた。

「森田課長も、もう、若くは無いから、年の話とかをすると、やっぱり、まずいんでしょうね」

 と、秋山も、八戸につられて、苦笑いしながら、いった。

「そ、そうか、じゃあ、二人も、頑張ってくれ」

 と、いって、少し、蒼い顔をしながら、蟲倉は、急に、会議室を出て行った。

「どうしたんでしょうか」

 と、秋山が、いった。

「さぁ、なんでかしらね」

 と、二人の後ろから、声がした。

「えっ!」

 と、二人は、その声を聞くと、背筋が、凍るくらいの寒さを感じて、そっと、声のした後ろに、振り向いた。

 振り向いた後ろには、会議室を出て行ったはずの森田が、ニコニコと笑いながら、二人見ていた。

「私の歳が、何かしら?」

 と、いうと、ニコニコしていた顔が、途端に変わり、凄まじい視線で、二人を睨み付けた。

「うわー」

 と、いって、二人は、蟲倉に続いて、逃げる様に、会議室を、出て行った。

〈ハァハァ〉

 八戸と秋山、息を切らしながら、信濃中野署を出た。

「し、心臓が、凍るかと、思いましたよ」

 と、息を切らしながら、秋山が、呟いた。

「まぁ、全くだ、シャレにならないぞ」

 と、八戸は、呼吸を乱して、いった。

「八戸主任、私たちは、これからどうしますか?」

 と、秋山が、尋ねた。

「そうだな、私たちは、羽野梨江と他の五人の関係を、明確にすることから始めるか、梨江の働いている所は、蟲倉さんや、大河内達が調べてくれているはずだから、私達は、梨江の実家のある、諏訪に向おう。行って、詳しく調べてみよう」

 と、八戸は、いって、車のドアを開けて、運転席に座った。

「分かりました」

 と、いって、秋山は、八戸に続いて、車のドアを開けて、助手席に座った。

 「その前に梨江の関係を探っている大河内と川崎に連絡を取ってみるか」

 と、いうと、背中の小さめの黒いリュックから、右手でチャックを開けて、携帯電話を取り出した。

八戸は、取り出した、携帯から大河内に連絡をしようとした時に、ちょうど、大河内から電話がきた。

「八戸主任、大河内です」

 と、大河内は、いった。

「大河内、今連絡を取ろうと、していたところだよ」

 と、八戸は、いった。

「八戸主任、梨江が働いていた店の仲間の話ですと、遠山雄太と山西健治は、幼い時に、梨江と同じ、下諏訪町で過ごしていた事を、梨江が、話していたのを聞いたそうです」

 と、大河内は、いった。

「梨江と、遠山が、幼いときに、同じ下諏訪町で過ごしていた」

 と、八戸は、いった。

「はい」

 と、いって、大河内は、首を縦に振って、答えた。

「と言う事は、山西は、梨江に刺された時には、既に梨江を知っていた可能性が有るわけだ」

 と、いった。

「はい、確かに、梨江が、山西を刺した時にも、二人は知り合いでは、という話は捜査をしていて、出ていたらしいのですが、学校も違う学校に、通っていて、刺された側の山西自身も知らないと、答えた事で、検察の方も深くは、追究しないで、梨江は、送検されたそうです」

 と、大河内は、いった。

「わかった、ありがとう、大河内。川崎と一緒に、引き続き捜査を続けてくれ」

 と、八戸は、いった。

「分かりました、川崎さんと一緒に、捜査を続行します」

 と、大河内は、いって、携帯を切った。

「よし、私たちは、これから、課長に連絡して、梨江が、幼いときにいたという、諏訪に行ってみる」

 と、八戸は、いった。

「分かりました」

 と、秋山は、いった。

「二人が知り合いだったとしたら、何か別の事を隠す為に、わざと、梨江が山西を刺したのかもしれないからな」

 と、八戸は、いった。

「別の事を隠す為って、何ですか?それに、それって、梨江が山西を刺したのは、計画的に行なったということ、なんですか?」

 と、いって、秋山は、車のエンジンを掛けようとしている八戸に、きいた。

「まだ、なんとも、言えないけどな、下諏訪に行って、少し調べてみれば、何かわかるかもしれない」

 と、いうと、八戸は、車のエンジンを、掛けて移動した。

 車を移動させてから、八戸は、

「あ、そうだ、秋山、ちょっと、課長に連絡しておいて、もらえるかな、これから、下諏訪に、梨江の事で、調べに行くと」

 と、八戸は、いった。

「えっ、僕が、ですか!」

 と、いって、秋山は、きいた。

「そうだ、今、私は、運転中だから、代わりに、森田課長に、下諏訪に、向うと連絡しておいて貰えるかな」

 と、八戸は、いった。

「なんか、やだな、今、電話掛けるの」

 と、いって、ぼやくと、少し、森田に連絡するのを怖がりながら、秋山は、渋々と、森田に、電話を掛けた。

秋山が、森田に、電話を掛けると、直ぐに森田が、

「はい、信濃中野署刑事課です」

 と、いって、出た。

「秋山です」

 と、秋山は、いった。

「秋山君、どうかしたのかしら?」

 と、森田は、先ほどの恐ろしい感じを、微塵も感じさせない位、優しい口調で、話しかけてきた。

秋山は、携帯を、スピーカーに切りかえると、

「八戸主任と下諏訪に、向いたいのですが」

 と、いった。

森田は、秋山と八戸から、急に、下諏訪町に行くと、いわれて、

「下諏訪に?どうして行くの?」

 と、きいた。

 スピーカーから、森田の質問をきいていた、八戸は、

「はい、実は先程、大河内と川崎から、梨江と遠山、そして、山西が幼い時に、同じ下諏訪にいたらしいと連絡があり、少し、疑問に思える事があるので、詳しく、調べに行きたいのですが」

 と、話した。

「わかりました。梨江と山西の事を、下諏訪に行って、詳しく調べてきてください」

 と、森田が、いって、

「そのかわり、この事件がちゃんと、解決したら、二人とも、朝まで、私に付き合ってもらうからね、覚悟していなさい」

 と、いった。

 スピーカー越しに、きいていた、秋山と八戸に、先ほどの恐ろしい寒気が、再び、背筋を走った。

「わ、わ、分かりました」

 と、二人は、声を揃えて、いった。

 八戸と秋山は、中野インターから高速道路を使って、下諏訪町に向った。

高速の出口近くに来て、八戸が、車のスピードを緩めた。

「ところで、まず何処に向うんですか?」

 と、いって、秋山は、きいた。

「そうだな、まずは、梨江の小学校に行ってみよう」

 と、八戸は、いって、梨江が通っていた、小学校に向った。

 梨江の通っていた、小学校に着くと、八戸は、蟲倉が、来ているのに気が付いた。

「蟲倉さん、どうしたんですか?」

 と、いって、八戸は、蟲倉が梨江の通っていた、小学校の前に居たことに、驚いて、きいた。

「あれ、お前ら、サッキーから聞いていないのか?伝えたはずなのになぁ?」

 と、いって、蟲倉は、首を動かして、八戸と秋山の顔を、見ると、

「俺もちょっと、気になる事があって、ここに来たんだ」

 と、いった。

「気になる事って?」

 と、八戸が、きいた。

「まぁ、いいじゃないか」

 と、いって、蟲倉は、入っていった。

 八戸は、蟲倉が入っていった、横にある小学校のプレートに、目を動かした。

 プレートには、【下諏訪上久保小学校】と書かれていた。

 当時、梨江の担任をしていた教師が、まだこの学校にいて、その担任の先生に、まず、話を聞くことにした。

椅子に腰掛けて、待っていると、八戸達の前に、六十代前後に、見える位の女性の教師が、来て、

「五十嵐睦です」

 と、いって、五十嵐は、頭を下げて、挨拶をした。

 三人は、椅子から立ち上がって、

「長野南若穂署の蟲倉です」

「信濃中野署の八戸です」

「同じく、信濃中野署の秋山です」

 と、いって、五十嵐に、次々に、挨拶をして、椅子に腰掛けた。

「羽野梨江さんの、当時、学校に居た時の事について、お聞きしたいそうですが」

 と、いって、五十嵐は、きいた。

「はい」

 と、いって、八戸は、軽く、首を縦に振って、答えた。

「羽野梨江さんは、あぁ、確か、いつも遠山雄太君と、梨江さんの双子の姉妹の羽野光さんの三人で、一緒に、悪さばっかりしていたんですよ」

 と、いって、五十嵐は、昔を思い出してなのか、懐かしそうに、話してくれた。

「え、双子の姉妹だったんですか?」

 と、八戸は、尋ねた。

「はい、あれ、ご存知では、ありませんでしたか?」

 と、五十嵐は、いった。

「えぇ、お姉さんが、いるというのは、聴いていましたが、双子とまでは、まだ、知りませんでした」

 と、八戸は、答えると、

「亡くなった羽野梨江には、双子の羽野光という姉がいた…」

 と、確かめるようにして、小さな声で、口に出しながら、八戸は、いった。

「あの、もしかして」

 と、いって、蟲倉は、

「遠山雄太さんと羽野梨江さんは、同じクラスだったんですか?」

 と、いって、尋ねた。

「えぇ、そうですよ。二人は、私が担当したクラスの生徒でした。光さんは、違うクラスでした」

 と、いって、五十嵐は、答えると、

「ちょっと、待っていてくださいと」

 と、いって、その場を離れた。

「小学生の時に、梨江と遠山は、同級生だったんですね」

 と、いって、秋山は、横で、五十嵐の話を聞いた、蟲倉と八戸に話しかけて、反応を窺った。

「そうですね」

 と、いって、蟲倉は、秋山に、直ぐに答えた。

 しかし、八戸は、

「………」

と、何も答えずに、そのまま、ずっと考え込んでいた。

「どうかしたんですか?」

 と、秋山が、八戸の顔を、覗き込むようにして、きいた。

「あっ、いや、羽野梨江、遠山雄太と一緒にいたという、梨江の姉妹の羽野光の事を考えていたんだよ」

 と、八戸は、いうと、

「羽野光の事を、ですか」

 と、蟲倉は、きいた。

「はい、もしかしたら、羽野光って、橋本光なんじゃないかと、思っただけですよ」

 と、いって、考えていたことを、蟲倉と秋山に、話した。

「え!」

 と、秋山は、まさかと、いった顔で、呟いた。

「お待たせしました」

 と、いって、そこに、先ほど、離れた五十嵐が、戻ってくると、テーブルの上に、一冊の本を置いた。

「これは、羽野君の卒業写真が載っている卒業文集です」

 と、いって、梨江の写真が載っている写真の部分を開いて、みせた。

写真を見ると、

「若いけど確かに、面影がありますね」

 と、蟲倉が、写真の梨江と見比べながら、確認して、いった。

「こちらの、遠山雄太にも、面影がありますね」

 と、秋山が、いった。

「あの羽野光さんは、どちらですか」

 と、八戸が、きいた。

「えーと、こちらです」

 と、いって、五十嵐は、ページを捲って、羽野光が、写っている所を、指差して、答えた。

「もしかして、この羽野光さんは、今は、橋本光というんじゃないんですか?」

 と、いって、八戸は、身を乗り出すようにして、尋ねた。

「そういえば、羽野光さんは、卒業式の直ぐ後に、両親が離婚して、お互いに、一人ずつ育てる形になって、母方の姓の、橋本を名乗るようにしたと、ききました」

 と、五十嵐は、当時の事を、思い出しながら、いった。

「やっぱり」

 と、いって、八戸は、首を縦に何回も振って、頷いた。

「そういえば、あの三人は、蛍が好きでしたよ」

 と、いって、五十嵐は、梨江達三人が、蛍が、好きなことを話した。

「え、蛍!」

 と、八戸は、声を、乱すようにして、いった。

「えぇ、あの三人は、『自分達で、蛍が住める場所を守って、沢山の蛍が、飛んでいる風景を、蘇らせるんだ』と、あの頃は、意気込んでいましたよ」

 と、いって、五十嵐は、説明した

「へぇ、子供の時は、いいことを、言っていたんですね」

 と、秋山は、口からポロリと、漏れるようにして、いった。

「おい、秋山」

 と、八戸は、秋山を制止するようにして、いった。

 秋山は、右手で、口を覆い隠して、そのまま、黙った。

 八戸は、一度咳払いをすると、

「羽野梨江さんが、二日前に、殺害された事は、ご存知ですか」

 と、いって、五十嵐の反応を、確かめる様にして、きいた。

「えぇ、テレビで、見ました。自分の教え子が、事件や事故に関係するのは、本当に、気持のやり場に困ります。しかし、真面目にやっていると、思ったんですが、殺されるなんて」

 と、いって、五十嵐は、言葉にも動揺を、隠し切れない様子で、話した。

「ありがとうございました」

 と、八戸達は、いって、挨拶をして、学校を出た。

八戸は、車のドアを開けると、

「とりあえず、私たちは、五十嵐さんから聞いたことを、森田課長に、伝えてから、山西が、通っていた、小学校に向います。蟲倉さんは、これから、どうするんですか」

 と、いって、蟲倉に、きいた。

「そうだな、このまま、長野南若穂署に、戻るよ」

 と、いって、蟲倉は、答えた。

「分かりました」

 と、八戸は、いった。

「じゃあ」

 と、いって、蟲倉も、自分の乗ってきた、車に乗って、長野南若穂署に向って、車を発車させた。

「私達も行きましょうか」

 と、秋山は、いって、車のドアを開けて、助手席に座った。

「そうだな」

 と、八戸は、いって、運転席に座ると、山西の通っていた、小学校に向って、車を発車させた。


      4

 

 峰泉で、由希と早苗が、一緒に、お昼を食べていると、テレビで、蛍が飛んでいて、蛍の光が、散り散りになって、荒れ果てた大地を再び、蘇らせるというコマーシャルがやっていた。

そのコマーシャルをみていて、ふと、由希が、

「飛んでいる蛍って、私、まだ一度も見たことないんだけど、今の時期って、ちょうど、見られる時季なんだよね」 

 と、いった。

「そういえば、蛍は、見たことあるけど、私も、跳んでいるのを見たことは、まだ、無いわね」

 と、早苗は、蛍の飛んでいる姿を、思い描きながら、いった。

「ここら辺でも、見られるところが、あるのかしら?見られる場所があるなら、見に行きたいわね」

 と、由希は、気持を弾ませながら、早苗と向き合って、いった。

「ちょっと、聴いてみようか?」

 と、いって早苗は、箸をテーブルの上に置くと、唇の少し上に、御飯粒を付けたまま、恭子と曜子を捜しに、食堂を出て行った。

「待ってよ、早苗」

 と、いって、由希は、食事を食べ終わらない内に、そのまま、食堂を出て、早苗を追いかけた。

 梨江の母校下諏訪上久保小学校を、出てから、十分ほど、車を走らせると山西が、通っていた小学校に着いた。

八戸は、校門の前に車を停めて、運転席のドアを開けて、車から外へ出ると、校門の横のプレートを見た。

 プレートには【下諏訪御作田小学校】と、

書かれていた。

「ここが、山西が、通っていた、下諏訪御作田小学校か」

 と、八戸は、校舎を見上げる様にして、いった。

秋山も、助手席のドアを開けて、車から外へ出て、

「そうですね、しかも、結構、梨江の学校から近い気がしますね」

 と、いって、校舎を見た。

 校舎の中に入ると、八戸は、山西の当時の担任は、既に、別の学校に移動している事をきいて、山西の当時の卒業写真と、卒業文集を見せてもらった。

 山西の卒業文集の中には、蛍の事を書いたところが、何回も書かれていた。

「この卒業文集、少し、お借りしても、よろしいでしょうか?」

 と、いって、八戸は、文集を持ってきてくれた教師に、きいた。

「えぇ、良いですよ」

 と、いって、もって来てくれた教師は、直ぐに、答えた。

「ありがとうございます」

 と、八戸と秋山は、頭を下げて、お礼をいった。

 峰泉の中で、恭子を捜していた、由希と早苗が、清掃道具を片付けている、曜子を見つけた。 

「あっ、曜子ちゃんだ、おーい」

 と、いって、由希が、右手を振りながら、曜子に、声を掛けた。

 手を振って、呼んでいる由希に、気が付くと、曜子は、

「由希先輩、どうしたんですか?」

 と、いって、由希と早苗に近づいて、きいた。

「曜子ちゃん、蛍って、今の時期に見られるのか、知っている?」

 と、早苗は、きいた。

 曜子は、首をひねりながら、

「確か、私が小学校の頃、この山ノ内町に、住んでいた時に、蛍を見たのは、時季がもう一ヶ月位、後だった気がします」

 と、いって、子供の時の記憶を、辿りながら答えた。

 まだ、時期が早いと、曜子から聞いた、早苗は、

「そうなんだ」

 と、いって、一気に、がっくりとして、テンションが下がった。

「でも、早ければ、今の時季でも、蛍を見ることが、出来るかも知れないわよ」

 と、いって、恭子が、テンションの下がった、早苗の後ろから、話した。

恭子の声がして、振り返ると、早苗は、

「本当ですか?」

 と、恭子に、きいた。

「えぇ、確かに、今の時季に見るのは、難しいけど、全く、見られないわけじゃないからね、夜になったらみんなで、蛍を探しに行ってみる」

 と、恭子は、微笑みながら、いった。

「良いですね、行きましょう」

 と、早苗と由希は、口裏を合わせて、いった。

「わかった、でも、急に、蛍の話をするなんて、どうしたの?」

 と、恭子は、きいた。

「さっき、二人で昼食を食べながら、テレビを見ていたら、蛍を使ったコマーシャルをやっていて、それを見ていたら、ちょっと、私も、蛍を見てみたくなって」

 と、早苗が、いった。

「そのコマーシャルって、もしかして、一週間くらい前から、今井製薬ってところがやり始めた、コマーシャルかな?」

 と、恭子が、きいた。

「そういえば、確かに、そんな、名前のところでした」

 と、由希が、テレビのコマーシャルを、思い出しながら、いった。

下諏訪御作田小学校を出ると、八戸は、もう一度、文集を開いた。

「山西は、やはり、小学生の時から、羽野梨江と知り合いだったのかもな」

 と、文集を見ながら、八戸は、軽くうなずきながら、いった。

「どうして、そう思うんですか?」

 と、いって、秋山は、文集を見ている八戸に、きいた。

「この文集の山西が書いた中には、蛍が出て来ている事から、山西も、蛍が好きだった事が見て取れる」

 と、八戸は、いうと、

「しかも、名前は、書かれていないが、山西には、学校以外で、仲の良かった友達が、いた事がわかる。その友達というのは、羽野梨江、橋本光、遠山雄太の三人の事じゃないだろうか?こっちは、まだ、推測でしかないけどな」

 と、いった。

「なるほど」

 と、いって、秋山は、うなずいた。

「梨江、光、山西、遠山の四人は、この下諏訪に住んでいたという事で、繋がるかもしれないが、梨江と高岡の関係、それに今井との関係は、いったい、なんだろうか?」

 と、いって、八戸は、呟くと、車の運転席に乗った。

「そうですね、いったい、どんな関係なんでしょうか、光、山西、遠山と違って、ただ、男と女の関係ですか?」 

 と、秋山は、いって、車に乗った。

「そうだ、森田課長に報告しておかないと、いけないな」

 と、いって、八戸は、背中の黒色のリュックのチャックを開けて、中から、携帯を取り出すと、森田に、電話を掛けた。

 八戸から連絡が来ると、信濃中野署の石山が、受話器を取ると、

「はい、こちら、信濃中野署刑事課」

 と、いって、出た。

八戸は、声を聴いて、電話に出たのが、石山と分かり、

「石山か」

 と、いった。

「はい、そうです」

 と、いって、石山は、答えた。

「ちょっと、森田課長は、いるか?いたら、代わってもらえるか」

 と、八戸は、いった。

「分かりました」

と、いうと、石山は、

「森田課長、八戸主任です」

 と、森田に、振り向いて、いった。

受話器を取ると、森田は、

「はい、森田です。八戸君、何か分かったのかしら?」 

 と、いって、きいた。

「蟲倉さんから、聞きましたか?」

 と、八戸は、いって、尋ねた。

「聞いたって、何を?」

 と、いって、首を傾げながら森田が、聴き返した。

「はい、羽野梨江、橋本光、遠山雄太の三人は、下諏訪上久保小学校の、同じ学年の生徒だったと、判明しました」

 と、いって、八戸は、答えた。

「三人が同じ学年なんてまだ、聞いていないわよ」

 と、森田は、受話器を、持ち帰ると、いった。

「その橋本光が、梨江の双子の姉の羽野梨江であることが、判明しました」

「え、姉って、双子の姉だったの!」 

 と、森田は、きいた。

「はい、そして、梨江の担任の教師から聞いた話しでは、三人は、蛍が好きだったと、いうことでした」

「蛍?」

「はい、今、山西健治の通っていた下諏訪御作田小学校の前にいるんですが、調べた所、山西も、蛍の事が、かなり好きだったようです」

「それで?」

「その山西の文集を借りてきました。その中には、仲のよかった友達の事が、書かれているところが、ありました」

 と、いって、八戸は、借りてきた卒業文集の、山西の書いた所を開くと、

「その、山西と仲の良かった、友達というのは、梨江、光、遠山の三人じゃ、ないでしょうか?」

 と、いって、八戸は、自分の考えを、森田に話した。

「どうして、そう思うの?」

 と、森田は、いって、八戸の考えを、きいた。

「まだ、これは、推測でしかないんですが、四人は、蛍を通じて、小学校の時に知り会っていて、蛍を好きだということで、四人を繋いでいたのではないかと、思ったので…」

 と、いって、八戸は、少し気持を籠めて、森田に話した。

「蛍が繋ぐ気持か」

 と、森田は、呟くと、

「分かりました、そちらの方も、詳しく調べてみて」

 と、いった。

「分かりました」

 と、八戸は、答えた。

「でも、年齢の離れている、高岡や、今井との関係は、何なのかしら?」

 と、森田は、いった。

「その事は私も、考えたんですが、今朝、殺害されているのを、発見された高岡栄吉、そして、今井幸太郎と梨江との関係は、まだ、判明していません」

 と、八戸は、頭を傾げながら、いった。

「それじゃあ、この後どうするの」

 と、森田が、きいた。

「はい。この後、梨江と光の実家に行って、話を聴いてきます。その後、信濃中野署に、戻ります」

 と、八戸は、いった。

「わかりました。もう、若くない私だけど、早く、八戸君も、秋山君も、私とワインを、楽しめるように早く、事件を、解決してね。じゃあ、気をつけて、帰ってきてね」

 と、いって、森田は、受話器を戻した。

携帯電話を、ゆっくりと、リュックに戻した、八戸は、

「じゃ、じゃあ、戻るか」

 と、震えた声で、いった。

八戸と森田のやりとりを、助手席で聞いていた、秋山も、背中に寒気が走り、 

「そ、そうですね、い、行きましょう」

 と、いって、答えると、何度も、耳の奥に『もう、若くない私だけど』と、いった、森田の言葉が何度も、聞こえてきて、背中を走った寒気が、しばらく取れなかった。

二人は、〈帰るのが怖いな〉と、心の中で思いながら、羽野梨江の実家に向って、出発した。

八戸が、梨江と光の諏訪湖近くの実家に、付いて、車を停めると、そこには、五十歳位の男性が、家の中に、入ろうとしていた。

 八戸は、男性に、

「失礼ですが、羽野梨江さんのご家族の方ですか?」

 と、声を掛けながら、近づいた。

家のドアを開けようとした、隼雄は、声を掛けてきた、八戸に、振り向くと、

「はい、確かに私は、血縁上は、羽野梨江の父の羽野隼雄ですが」

 と、いって、答えた。

「少し、亡くなった、梨江さんの事で、お聴きしたいのですが」

 と、いって、八戸は、きいた。

「梨江とは、血の繋がりはあっても、親子の縁は、既に切っています。梨江が亡くなろうと、もう、関係ありません。どうぞ、お帰り下さい」

 と、隼雄は、素っ気無い態度で、八戸に、

いった。

「関係ないって、娘さんが、亡くなったんですよ。関係ないなんて、おかしいでしょ」

 と、秋山は、声を荒げて、いった。

「お金に困っていた訳でもないのに、あいつが、風俗なんか始めた時から、もう、親でも、娘でもありません」

 と、秋山に対して、声を荒げていうと、隼雄は、そのまま黙ったまま、ドアを開けて、家の中に入っていった。

「自分の娘が、風俗に勤めたのが、許せなかったんですかね」

 と、いって、秋山は、家の中に入った隼雄の気持を、考えた。

「そうかもな」

 と、いうと、八戸は、お菓子のせんべいの缶に、入れてある、割れた額縁が、目に留まった。

 額縁の側によると、中には、蛍の写真が、入っていた。

「ここにも、蛍…」

 と、八戸は、呟いた。

「本当だ!やっぱり、梨江の父親何か、知っているんじゃないんですか」

と、秋山は、いった  

「そうかもしれないな、よし、一端、信濃中野署に戻ろう」

と、いって、八戸は、信濃中野署に、向った。

信濃中野署に八戸と秋山が戻ると、既に、辺り一面、太陽が沈んでいて、夕暮れ時というよりは、夜の時間帯になっていた。

 刑事課に戻ると、そこには、ラーメンを、食べている、石山がいた。

「ちゅにん、おきゃえりなさい」

 と、石山は、ラーメンを口に含みながら、喋った。

 辺りを、確認すると、八戸は、

「森田課長は、何処だ?」

 と、いって、石山に、きいた。

「課長でちゅか」

 と、石山は、いうと、食べながら、話していた為に、 

「ゲホゲホ」

 と、咽て、しまった。

「おい、大丈夫か?食べるのは、課長が、何処にいるか答えてからにしてくれよ」

 と、八戸は、呆れた、という顔で石山を見ながら、いった。

 石山は、胸を叩きながら、

「少し前に、長野若穂南署の蟲倉課長が、来て、『ちょっと、出かけて来るわね』と、いって、蟲倉課長と一緒に出掛けましたよ」

 と、いった。

「そうか、じゃあ、直ぐには、課長帰ってきそうもないし、ちょっとトイレに、行ってくるか」

 と、いって、八戸は、出て行った。

 秋山は、蟲倉と森田が、二人で出かけたときいて、石山に近づいて、

「へぇ、森田課長が、蟲倉課長と二人で出掛けたんですか」

 と、秋山は、ニヤニヤと、薄笑いを溢しながら、いった。

「どうしたんだ、秋山?ニヤニヤ笑ったりして?」

 と、笑っている、秋山の理由を、石山は、きいた。

「実は、あの二人、昔からの仲の良い、知り合いだったらしいですよ」

 と、いって、秋山は、喋りたい気持を抑えきれずに、石山に話した。

「えっ!そうなのか」

 と、いって、驚くと、ラーメンを食べる箸を停めて、秋山の話に、耳を傾けた。

「はい、しかも、二人は、デカとサッキーなんて、呼び合う仲です」

と、いうと、もう、我慢できない、と、いった感じに、秋山は、森田と蟲倉の関係を想像しながら、

「森田課長と蟲倉課長って、もしかして」

 と、いった、ところで、秋山の後ろから、

「私と蟲倉さんが、もしかして、どうしたのかしら」

 と、いって、訊ねる声がした。

 その声を聞くと、ニヤニヤと、していた、秋山の顔が、一瞬で消えて、見る見る内に、顔色が蒼くなった。恐る恐る、声のした後ろに振り向いた。

 振り向くと、森田が、ニコニコと、笑いながら、秋山を見つめていた。

 秋山の後ろからは、

「さて、食べ終わったし、片づけるか」

 と、石山は、いって、まだ、三分の一ほど残っている、ラーメンを持って、その場を、逃げ出す様に、離れた。

 しかし、石山が離れた事に、気を留めている余裕の無い秋山は、唖然とした顔をして、森田を見ていた。

「森田課長、戻られたんですか」

 と、トイレから戻った、八戸が、森田にいった。

 森田は、後ろから声を掛けた八戸に、振り向くと、

「八戸君お帰りなさい」

 と、いった。

 秋山は、その瞬間に〈助かった〉と、言うように、ふう、と、ため息をついた。

「ここに来るまでにも、梨江や山西の事を考えていたんですが、梨江、橋本、遠山は、同じ学校の生徒と言う事で、繋がります。それと山西を含めた四人は、蛍が好きだったということで、繋がると考えられます。高岡と今井も、何か蛍で、関係しているのではと、少し、考えていました」

 と、八戸は、下諏訪から中野に戻るまでの間に考えていた事を、森田に、話した。

「八戸君、いい勘、しているわね!」

 と、森田は、いうと、

「今、そこで、デカちゃんから教えてもらったのよ。これを見て」

 と、いって、八戸に写真を手渡した。

森田から手渡された、その写真には、黒曜石で作られた蛍が付いている、カフスの写真だった。

八戸は、写真を両手で抱える様にして、

「え?これは!」

 と、いって、写真に写っている、黒曜石の蛍が付いているカフスに、目をやった。

「どう、同じものでしょ」

 と、森田が、きいた。

「はい、でも蟲倉さんは、どうして、これが分かったんですか?」

 と、いって、八戸は、きいた。

「なんでも、蛍の話を下諏訪で聞いて、思いだしたんだって【蛍は地域を救う】とか言う会が、十五年ほど前に出来たのをね。その【蛍は地域を救う】と、いう会を創設した最初の四人の為に、四個だけ特注で、作られた物だったらしいのよ」

 と、森田は、蟲倉に教えて貰った事を、八戸に、話した。

「なるほど」

 と、いって、八戸は、首を縦に軽く動かして、うなずいた。

「それで、その会を創設した、四人の中に、羽野梨江の父親の羽野隼雄、そして、高岡栄吉、今井幸太郎の、三人の名前が、見つかったらしいのよ」

 と、いって、森田は、少し興奮しながら話した。

「え!【蛍は地域を救う】と、言う会を創設した四人の中に、高岡栄吉、今井幸太郎、そして、梨江の父親の隼雄が、いたって言うんですか!」

 と、八戸は、驚いた、と、いう様な顔をして、いうと、

「そうだ、あの、割れていた額縁に入っていた写真、高岡の家で、見た蛍の写真と同じのだ」

 と、いって、隼雄の家にあった、蛍の写真の事を、思い出して、口に出した。

「あの写真て?」

 と、森田が、不思議そうな顔をして、尋ねた。

「いえ、梨江の実家で、隼雄に会った時に、

庭の端に、割れた額縁が有って、中には、蛍の写真が、飾ってありました。その写真が、高岡の家の中に、飾ってあった。写真と同じだと思い出して」

 と、森田に、説明した。

「なるほどね」

 と、森田は、いって、軽く首を、上下に振って、うなずくと、パソコンのインターネットを使って、【蛍は地域を救う】と、いう会のホームページを開いた。

その創設者の写真には、四人写っていて、確かに、羽野隼雄、高岡栄吉、今井幸太郎の三人が、写っていた。

八戸は、その画面の写真を見て、

「この三人は、分かりますが、じゃあ、このもう一人は、誰ですか?」

 と、いって、画面の名前の分からないもう一人の男性を人差指で指差して、森田に、きいた。

「ちょっと、待ってね」

 と、いって、森田は、パソコンを操作すると、もう一人の名前を、調べた。

もう一人の男の名前は、今井正太郎と、書かれていた。

「今井正太郎?聞いたことあるな、確か、今井製薬とか言うところの社長さんじゃなかったか」

と、八戸は、いった。

「そう、確か、五年位前から、急成長し始めた今井制約の社長らしいわね」

 と、森田は、いった。

「今井製薬…」

 と、八戸は、呟いた。

「まぁ、八戸君、秋山君、二人共今日は、帰って良いわよ、明日、二人には、その、長野市に有る今井製薬というところに、行ってもらうから、よろしくね」

「分かりました、明日、その、今井建設に行って見ます」

 と、八戸は、答えた。

「わかりました。なんだ、蟲倉さんと、会っていたのは、その話しをしていたんですね。僕は、てっきり」

 と、秋山が、いうと、

「てっきり、何、何だと思ったの?」

 と、森田は、振り返って、下から、秋山を覗き込む様にして、きいた。

「いえ、別に何でもありません、お疲れ様でした」

 と、いって、秋山は、素早く帰った。

「お疲れ様でした」

 と、いって、八戸も、自宅に帰ることに、した。

 八戸が、自宅に戻ると、靖子が、出掛けようとしていた。

「あら、おかえりなさい」

 と、靖子は、いった。

「あれ、靖子、これから、どこかに出掛けるのか?」

 と、八戸は、靖子に訊ねた。

「えぇ、今から、曜子ちゃん達と蛍を捜しに行くのよ」

 と、いうと、靖子は、

「何でも、早苗さんが、蛍を見たことが、無いから、ちょっと、捜しに行くらしくて、私も誘われたのよ」

 と、八戸に、説明した。

靖子の話を聞くと八戸は、静かに、夜の空を見上げた。

「十年前は、この辺りにも、蛍は、飛んできたりしたものだけど、最近は、自分から捜しに行っても、なかなか、見られなくなったよな」

 と、八戸は、寂しそうな表情をしながら、いった。

「そうね、このところ、私も蛍を見てないわね」

 と、靖子は、いった。

「分かった、気を付けてな」

 と、八戸は、いって、靖子を見送った。 

「えっ?来ないの?せっかくだから一緒に行きましょうよ」 

 と、いって、靖子は、八戸を誘った。

「いや、ちょっと、疲れていてな、そうだ、替わりに、秋山の奴を誘ってみたら、どうかな」

 と、八戸は、いった。

「分かったわ、じゃあ、行ってきます」 

 と、いって、靖子は、出掛けた。

 靖子は、峰泉に付くと、秋山に、連絡をして呼ぼうとしたが、その本人が、既に、峰泉の中に居て、曜子や早苗と、楽しそうに、話しをしていた。

 靖子は、自動ドアを通って、峰泉の中に入ると、秋山の後ろまで行き、

「もう、来ていたのね、いま、電話して、呼ぼうと思っていた所なのよ」

 と、いって、話しかけた。

「今日は、ちょっと、早く帰って良いと言われて、少し、皆さんの顔を見に来たくなったもので、そうしたら、蛍を見に行くそうなので、ご一緒させてもらおうかと」

 と、ヘラヘラと、締まりの無い顔で、いうと、秋山は、キョロキョロと、周りを、窺ってから、

「主任は、来なかったんですか」

 と、いって、靖子に、きいた。

「えぇ、誘っては見たけど、ちょっと、来そうも無かったし、代わりに秋山さんを誘え、っていうから、一人で来たわ。着いてから、連絡しようとしたら、秋山さん、もう、ここに来ていたんだもの」

 と、いって、靖子は、薄笑いしながら、答えた。

「みんな、そろったみたいね」

 と、いって、恭子が、ホテルの中で、接客をする時のスタイルから、外に行くスタイルに着替えて、出て来た。

「ハーイ、大丈夫です」

「行きましょう」

「早く、出発しましょう」

 と、いって、早苗、由希、曜子は次々と、元気よく、答えた。

 続いて、秋山が、

「でも、どうして、蛍を探しに、行くんですか」

 と、秋山が、恭子に、きいた。

「あぁ、早苗ちゃんが、テレビで、今井製薬がやっている蛍のコマーシャルを見て、見に行きたくなったそうなのよ」

 と、いって、お昼に早苗から聴いた事を、秋山に説明した。

「今井製薬?あれ、さっき聞いた様な、気がするな」

 と、秋山は、口には出さずに、心の中で、思った。

 峰泉を出てから、十五分程歩くと、目的地の小川の所に来た。

「前は、この小川の周辺に、沢山、いたんだけど、やっぱり、時季が一ヶ月位早すぎたのかしら」

 と、恭子は、いった。

「ちょっと、探して、見ますか」

 と、いって、由希は、蛍を探し始めた。

「やっぱり、数も少なくなって、時季が早過ぎたからいないんでしょうか」 

 と、曜子は、いって、早苗に続いて、辺りを探し始めた。

「残念だなぁ」

 と、ボヤキながら、早苗が、少し奥に行くと、何か茂みの奥で、光っているのを、見つけた。

 早苗は、

「みんな、そこで、何か光っている」

 と、いって、みんなを、呼んだ。

「ドコドコ」

「え、いたんですか?」

「見つけたの」

 と、いって、次々と、早苗の周りに、集まってきた。

「その茂みの奥の辺りで、なにか、光っていました」

 と、いって、もう一度、静かに茂みを、掻き分けて見ると、確かに、青色、赤色、黄色に、点滅しながら光っていた。

「あの、蛍って、あんな風に何色にも、光るんですか?」 

 と、いって、蛍を見た事が無い早苗が、恭子に、きいた。

「蛍は、あんな色に、光ったりしないわ」

 と、いって、恭子は、光って、点滅する場所に近づいた。

 近づいて、よく見ると携帯が、光って、点滅していただけだった。

「なに、これ、携帯電話が、光っていたんじゃやない」

 と、恭子は、笑いながら、いった。

「なんだ、早苗ったら、何色にも光る、蛍なんて、いる訳ないじゃない」

 と、由希も、笑いながら、いった。 

「せっかく、見つけたと思ったのにと」

 と、いうと、早苗の動きが、止まった。

「どうしたんの」 

 と、動きが止まった、早苗の後ろから、靖子が、きいた。

 早苗は、ゆっくりと、携帯が光っていた、少し、先を指差した。

 早苗が、指差した先には、男性が、口から血を流して、仰向けに、倒れていた。 


      5


 恭子達は、蛍を探しに来て、男性が血を流して、仰向けに倒れているのを見つけた。  

恭子、靖子、早苗、曜子の四人は、そのまま、呆然と、立ち尽くして、男性を見ていたが、由希と秋山は、同時に後ろに仰け反るようにして、

「キャーーッ」

「ウワーーッ」

 と、いって、悲鳴を上げた。

 恭子は、由希と秋山の悲鳴を聴くと、

「秋山さん、早く調べてください」

 と、いった。

「は、はい」

 と、いって、秋山は、仰向けに倒れている男性にしゃがみ込んで。確認しだした。

「救急車を」

 と、いって、曜子が電話を、掛けようとした。

 呼吸をしていない事と、脈が動いていないのを、確認してから、秋山は、

「まって、曜子さん。駄目です、もう亡くなっています」

 と、救急車を呼ぼうとした曜子を、制止する様にして、いった。

「ヤドカリちゃんにも、知らせないと」

 と、恭子は、いった。

「私から、電話を掛けます」

 と、靖子は、いって、携帯を掛けた。

 靖子から、家に電話が、掛かってくると、八戸は、

「靖子か、どうした?」 

 と、いって、八戸は、きいた。

「今、蛍を探しに来たら、男の人が、口から血を流して、亡くなっていたのよ。今、秋山さんが、調べています」

 と、いって、靖子は、八戸に、男性が亡くなっている状況を、説明した。

靖子から、男性が亡くなっていると、聴いた八戸は、

「蛍を探しにいった先で男性が、亡くなっていた!」

 と、声を荒げて、いった。

「えぇ」

 と、いって、靖子は、携帯越しに、首を縦に振って、うなずいた。

「場所は?」

と、八戸は、きいた。

「場所は、よく、あなたと、子供の頃、遊んでいた小川の側です」

 と、いって、昔を、想いだしながら、靖子は、答えた。

「わかった、今すぐ、そっちに、向かう」  

と、いって、八戸は、急いで自宅を出て、靖子たちの居る小川に、向った

 秋山は、亡くなっている男性の顔を見て、はっと、思いだした。

「そうだ、確か、この男性は、遠山雄太ですよ」

 と、秋山は、いって、もう一度、倒れている男性の顔を確認した。

「え、遠山雄太?」

 と、恭子は、呟いた。

「はい、首を絞められて殺害された、羽野梨江の同級生です」

 と、いって、秋山は、話した。

「え、この人が?じゃあ、もしかして、これって、連続殺人事件とか言うやつに、なるのかな」 

 と、靖子は、きいた。

「はい、同一犯が、犯行を行なっている可能性が、高いかもしれないです」

 と、秋山は、靖子に振り返って、いった。

 後ろで、由希は

「ヤダー」

 と、いって、怖がっていたが、早苗は、連続殺人事件と、聴いて、 

「へぇ、連続殺人か」

 と、いって、逆に、興味を引いていた。

「靖子」

 と、いって、携帯を左手に持ったまま、八戸が、近づいてきた。

 秋山から、殺害されていた男性が、遠山雄太だと、聴かされて、八戸は、

「梨江、高岡に続いて、今度は、遠山が殺害されたか」

 と、いって、仰向けに倒れている、遠山に眼をやった。

「森田課長には、もう連絡したのか?」

 と、いって、八戸は、秋山に尋ねた。

「いえ、まだです」

 と、秋山は、答えた。

「わかった、じゃあ、私から課長に、連絡する」

 と、いって、八戸は、左手に持っていた、携帯電話から、信濃中野署刑事課の森田に、連絡をした。

 受話器を持ち上げて、 

「はい、こちら、信濃中野署刑事課」

 と、いって、森田が、電話に出た。

「八戸です」

 と、いって、答えた。

「八戸君?どうしたの、今日は、もう上がったはずだけど?」

 と、いって、森田は、訊ねた。

「遠山雄太が、殺害されました」

 と、八戸は、いった。

 八戸から、遠山雄太が、殺害されたと、きいた森田の顔色が、見る見る内に変わって、

「遠山雄太が!」

 と、いった。

「はい、腹部を、何ヶ所も刺されていて、自殺ではなく、他殺です」

「場所は何処?」

 と、森田は、きいた。

 八戸から、死体発見現場を、聞くと、森田は、

「わかりました、直ぐに、そちらに向かいます。私達が、現場に着くまでに、よく調べておいて」

 と、いって、受話器を置いた。

 遠山を、調べている八戸の後ろから、恭子が、

「そういえば、これ、この人の側に落ちていた携帯電話だけど、この遠山という人の持ち物かしら」

 と、いって、八戸に、落ちていた携帯電話を、渡した。

 恭子から、携帯電話を、渡されると、八戸は、携帯の情報を、調べ始めた。

携帯電話は、確かに、遠山雄太本人の物だった。携帯を、調べてみると、羽野梨江、山西健治、橋本光、高岡栄吉、今井幸太郎の五人の名前があり、五人とは、この二週間の内に、やり取りをしあった、履歴が、残っていた。

最後の携帯電話の着信履歴は、二時間程前で、掛けたのは、山西健治だった。

携帯を確認しながら、八戸は、

「山西健治の着信が、最後で、掛かってきたのは、二時間前か」

と、いって、呟いた。

「だとすると、私達が、ここに来る、少し前ですね」

 と、曜子が、いった。

「え、じゃあ、山西健治って人が、呼び出して、この遠山って人を、殺害したんでしょうか」

 と、由希は、いった。

「確かに、最後に電話をしていた、山西健治が、殺していなくても、この遠山雄太と、何らかのトラブルがあった可能性は、高いのかもしれないな」

 と、八戸は、携帯の画面を見ながら、いった。

「蛍のコマーシャルを見て、蛍を観たくなって来たのに、飛んでいる蛍を、観つけられずに、まさか、殺害されている人を、観付けてしまうなんてね」

 と、いって、早苗は、顔をしかめながら、ぼやいた。

「蛍のコマーシャル?」

 と、八戸は、ゆっくりと、早苗に振り返って、きいた。

「えぇ、今日、お昼に観たコマーシャルで、蛍を使っていたもので、確か、今井製薬って言うところが、やっていると恭子さんから訊きました」

 と、いって、早苗は、答えた。

「そうだ、そういえば、明日、その今井製薬に、行くんだったよな」

 と、八戸は、いった。

「そうですよ、思い出しました。その今井製薬ですよ」

 と、秋山は、いった。

 しばらくすると、森田と石山が来た。

「主任、お疲れ様です」

 と、石山が、いった。

「八戸君、遠山は、何処?」

 と、森田が、きいた。

「はい、こちらです」

 と、いって、八戸は、遠山が、殺害されていた場所まで、案内した。

「遠山と高岡が、殺されたことは、関係が、やっぱり、あるのかしら」

 と、森田が、いった。

「その事ですが、先ほど、遠山の携帯電話と思われる物があり、中に、羽野梨江、高岡栄吉、今井幸太郎、橋本光、そして、山西健治の通話記録が、確認されました。遠山と、

最後に、電話をしていたのは、山西健治の様です」

 と、いって、八戸は、話した。

「もし、それが、本当に、遠山の携帯だとしたら、梨江とだけじゃなく、光と遠山も、高岡や今井と繋がっていた事を、推測ではなくて、ちゃんと、証明されたという事に、なる訳ね」

 と、森田は、軽く、首を立てに振って、うなずいた。

「はい」

 と、いって、八戸も、うなずいた。

「あぁ、それで、その、遠山雄太だけど、以前、今井製薬に勤めていたらしいわよ」

 と、森田は、いった。

「本当ですか?わかりました、では明日、今井製薬にいって、遠山雄太の話も、聞いてみます」 

 と、八戸は、いって、答えた。

「頼んだわよ」

 と、森田は、いった。

 次の日に、八戸と、秋山は、長野市の今井製薬に行き、今井正太郎と会った。

「今井正太郎です」

 と、いって、正太郎は、八戸と秋山に、挨拶をした。

「信濃中野署の八戸です」

「信濃中野署の秋山です」

 と、いって、八戸と秋山は、挨拶をした。

「今日、お越し戴いたのは、どのような、御用件でしょうか?」

 と、正太郎は、きいた。

「はい、まず、【蛍は地球を救う】と、いう会を、あなたと一緒に創られた、羽野隼雄さん、高岡栄吉さん、今井幸太郎さんの三人の事について、それと、【蛍は地球を救う】という会を創った時に、四人分だけ創られた、黒曜石で創った、カフスを見せてもらえますか?」

 と、いって、八戸は、黒曜石のカフスの写真を正太郎に見せて、きいた。

「はい、確かに羽野隼雄、高岡栄吉、今井幸太郎は、私と一緒に、会を立ち上げた仲間です。その中の今井幸太郎は、私のいとこの息子です」

 と、いって、正太郎は、写真を確認しながら、答えた。

「え、今井幸太郎さんは、今井社長のいとこの息子さんですか?」

 と、秋山は、きいた。

「えぇ」

 と、いって、正太郎は、首を立てに振り、答えると、

「それと、この写真の黒曜石で、創った、カフスは、【蛍は地球を救う】を創った時に、誓いをたてるつもりで、隼雄に作って貰ったものです」

 と、いった。

「なるほど」

 と、いって、八戸は、縦に振って、うなずいた。

「何処にしまったかな、ちょっと、待っていてもらえますか」

 と、いうと、黒曜石のカフスを、正太郎は探し始めた。

 八戸は、蛍のカフスを捜している、今井正太郎の姿を見ながら、山西健治の事を、考えていた。

「あぁ、ありましたよ」

 と、いって、正太郎は、八戸に青いケースに入った、黒曜石で作られた蛍のカフスを、見せた。

「失礼します」

 と、いって、正太郎から、青色のケースを受け取った。

 八戸は、黒曜石のカフスを、見せてもらうと、

「ありがとうございます。それでは、幸太郎さんの現在住んでいる住所も、教えてもらえますか」

 と、きいた。

「わかりました」

 と、正太郎は、いって、幸太郎の住所を、紙に書いて、八戸に渡した。

「ありがとうございます」

 と、いって、住所を書いた紙を受け取り、

「ところで、昨日、遠山雄太さんが、何者かによって、殺害されました。その遠山雄太さんは、以前、この今井製薬に勤めていたと、聴いています。今井社長は、ご存知ですか」

 と、八戸は、きいた。

「遠山雄太?さぁ、記憶に在りませんが」

 と、いって、正太郎は、答えた。

「わかりました。ありがとうございます」

 と、八戸は、頭を下げて、いった。

「昨日、正太郎さんが、何処にいたかを、お聞きしたいのですが」

 と、いって、秋山は、尋ねた。

「私のアリバイですか?つまり、私も疑われていると、いうことですね」

 と、自信満々に、いうと、正太郎は、秋山を、睨み付けた。

「あ、いえ、これは、社交辞令というか、皆さんに、お聴きしていることなので、すみません」

 と、正太郎に睨まれて、弱気に見える感じで、秋山は、いった。

「昨日、私は残業で、ずっとここで、仕事をしていました。まだ薬品の新製品の企画で、残っていた社員が、何人もいたので、確認してもらって良いですよ」

 と、いって、正太郎は、少しも動揺を感じさせないで、答えた。

「わかりました。どうも、ありがとうございました」

 と、八戸は、いうと、

「ところで、お宅では、つい最近、蛍をテーマにしたコマーシャルを、放送し始めたそうですが」

 と、八戸が尋ねた。

「よく、ご存知ですね、あのコマーシャルを考えたのは、私なんですよ」

 と、正太郎は、自慢気に、いった。

「ありがとうございました。あ、最後に、一つお尋ねしたいのですが、【蛍は地球を救う】会と、いうのは、主に、どんなことをしているんですか?」

 と、きいた。

「活動内容は、ホームページに、書いてあったはずですが」

 と、正太郎は、答えた。

「そうですよ、主任、そんな事、きかなくたって良いじゃないですか」

 と、秋山は、八戸の顔を、覗き込むようにして、いった」

「すいません、直接、活動内容を、お聞きしたかったもので」

 と、八戸は、いった。

正太郎は、やれやれと、いった顔で、

「私達は、この【蛍は地球を救う】会を作るときに蛍が、地球を救うのでは無く、蛍が沢山すめるような、環境を、守っていってあげるのが、自然もしくは、地球を救うことに繋がると、思って、創りました。蛍が生存できる場所を作り、育てた蛍を、昔の様に、自然に還すのが、主な活動です」

 と、正太郎は、いった。

 正太郎から、活動内容を、聴いた八戸は、考え込むようにしながら、

「その創られた中の四人の繋がりは、何ですか?幸太郎さんとの関係は、分かりますが、高岡栄吉さんや、羽野隼雄さんとは、どういったお知り合いだったのでしょうか?仕事の関係で知り合っていたとは、思えないのですが」

 と、いって、八戸が尋ねた。

 正太郎の表情が、こわばった、表情に変わると、

「どこで、知り合ったとしても、良いじゃないか、その事が、何か直接事件に関係あるのか?」

 と、声を荒げて、いった。

「失礼しました。ご協力、ありがとうございました」

 と、いって、立ち上がって挨拶をすると、正太郎の社長室を出た。

 社長室を出ると、秋山が、

「八戸主任、正太郎の奴、高岡栄吉や梨江の父親との関係を尋ねたら、急に、怒り出しましたね。なにか、触れられたくない事でも、有るんでしょうか?」

 と、秋山は、八戸と廊下を歩きながら、きいた。

「私達に知られたくないことが、まだ、有るのかもしれないな…」

 と、眉間にしわを寄せて、呟いた。

 会社の中で、正太郎のアリバイを社員の人に確認すると、今井製薬の外に出た。

 外に出ると、蟲倉が、待っていた。

「蟲倉さん、どうしたんですか?」

 と、今井製薬の前で待っていた蟲倉に、尋ねた。

「いや、サッキーに、きいたら、八戸君が、ここに来ていると、きいてね。私達が、グリーン・キャッツ・タイムや、梨江の事で、面白い話を聴いたので、ちょっと、八戸君に伝えておこうと思って」

 と、蟲倉は、いった。

「はい」

 と、いって、八戸は、返事をした。

「梨江の店で、一緒に、働いていた人の話では、梨江は、気が非常に強い一面が多々合って、店の中では、嫌われてはいたみたいだ。常連客から、貢物を、沢山貰ったりしていたのも事実みたいだな」

 と、蟲倉は、いうと、

「ただ、あのマンションは、梨江が買ったマンションではなくて、橋本光が、五年程前に購入した物だったらしい」

 と、話した。

「え!梨江が、お金を貢いで貰って、あのマンションを買ったのではなくて、光が買った物だったんですか!」

 と、いって、驚きを隠せないまま、八戸は尋ねた。

 蟲倉が、黙って、首を立てに振ってうなずくと、八戸は、

「二人がそんなお金を所持していたとは、考えられないな。いったい、どこにそんなお金が有ったんだ?」

 と、いった。

「そうなんだよ、そんなお金が有ったとも、聴いていないし、どうしても、ローンじゃなく、一括で、購入なんて、考えられないんだよ」

 と、蟲倉は、腕組みをしながら、いった。

「そういえば、通帳には、そんなお金が、記載されて、いませんでしたね。だとしたら、他に考えられるのは、梨江や光が、何処かから、お金を盗んで、そのお金を使って、あのマンションを、購入したとかいうのでしょうか?」

 と、八戸は、話した。

「それも、考えられないわけじゃないか」

 と、いって、蟲倉はポツリと、呟いた。

「だとしたら、それだけ、高額のお金を必要とする事件で、解決していない、事件となると、どんな事件があるのでしょうか?」 

 と、八戸は、考えながら、いった。

「よし、調べてみよう、ちょっと、長野南若穂署で、そういった未解決の事件が無かったか、調べてみよう」

 と、いって、蟲倉は、八戸と秋山を、誘った。

「わかりました」

 と、八戸は、いった。

「はい、調べて、みましょう」

 と、秋山は、いった。

「よし、じゃあ、行くぞ」

 と、蟲倉は、いって、長野南若穂署に、向った。

長野南若穂署に付くと三人は、資料室に行き、調べ始めた。

「調べるとしたら、範囲を絞って、調べましょう。そう、羽野梨江や橋本光の年齢が、十八歳位の時から、グリーン・キャッツ・タイムの店に勤めるまでに範囲を絞って、まだ、犯人が判明していない事件を、調べてみましょう」

 と、いって、考えながら八戸は、話した。

「わかった」

 と、いうと、蟲倉は、調べ始めた。

すると、蟲倉は、データを調べると、五年前の下諏訪町で、六人ほどの人数で、銀行に入り、お金がおよそ十億円盗まれ、未だに、事件が解決していない【下諏訪銀行十億円強奪事件】がヒットした。

「これだ」

 と、蟲倉は、画面のデータを見ながら、いった。

「え、どれですか」

 と、いって、秋山も、画面を覗き込んだ。

「この【下諏訪銀行十億円強奪事件】は、犯人が未だに、誰一人捕まらずにいる事件だ。それと、六人いた犯人の中に、一人女性がいたらしい」

 と、蟲倉は、いった。

「なるほど、もしかしたら、その女性が、梨江か光だった可能性が、在るわけか」

 と、八戸は、呟いた。

「でも、女性が、いたという理由だけで、この事件に、梨江か光が絡んでいたとは、いえないんじゃないですか?」

 と、秋山は、いった。

「確かに、それだけで、梨江か光が犯人の一人とはいえないな、しかし、十億円を手に入れてから、犯人の仲間で山分けをしたとしたら、梨江が、あのマンションを、手に入れられたのも、納得できるが」

 と、蟲倉は、考えながら、いった。

「そういえば、この、今井製薬が、急成長し始めたのは、確か、【下諏訪銀行十億円強奪事件】があった、五年前位前で、同じ頃からですね」

 と、八戸は、きいた。

「そういえば」

 と、蟲倉は、いった。

「もしかしたら、今井幸太郎や、遠山雄太など、梨江のデータに書かれていた人達は、みんな、この事件に関係しているのでは?」

 と、いって、八戸は、自分の考えを、蟲倉に話した。

「確か、犯人は、六人だったんですよね。羽野梨江、山西健治、遠山雄太、橋本光、高岡栄吉、今井幸太郎が、事件に関係していたとすれば、人数は」

 と、秋山は、いって、頭の中で、考えてから、

「そうですよ。ピッタリ、犯人の六人と合いますよ」

 と、いった。

「この下諏訪町で、十億円が奪われる事件が有ったのは、羽野梨江が、山西健治を刺す直前だ。山西が刺されたのは、この事件に関係あるのでは?もしかして、事件の事で、梨江と山西の間でその時に何かトラブルが合ったという事もありえるのか?」 

 と、八戸は、考えながら、いった。

「トラブルですか?」

 と、秋山は、そんな馬鹿なと、言いたげな顔をして、きいた。

「トラブルって、梨江と山西の間にどんな事があったんだ?」

 と、いって、蟲倉は、いった。

「それは、まだなんともいえませんが、いずれにしても、早く、山西健治、橋本光、今井幸太郎の三人を、見つけ出して、話を聴かないと」

 と、八戸は、唇を、かみしめるようにしながら、いった。



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