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ヤドカリ刑事 消え逝く灯  作者: 春原 皇峰
1/3

前編

 サスペンスでありながら、人間関係の描出に魅力のある作品です


  1


      北信濃にある、山ノ内町は、東西役三十九キロメートル、南北十二キロメートル、標高は十三崖の四百二十四メートルから裏岩菅山二千三百四十一メートル。町の面積の九十%以上が、山林原野となっている。

 冬には、湿った空気が、高山にぶつかり、降雪が多く、山腹はスキー場として、利用されている場所が多い。

一月の終わりから二月の半ばにかけて、雪の一番多い季節には、雪が少ない地域から、修学旅行などで、沢山の人が、雪を体験しに訪れる。

 雪が多い地域としては、珍しくも無く、むしろ、雪下ろしや雪片付けなどで、必要ないと思う人も少なくないが、雪が降らない地域の人に取っては、雪も大切な、触れてみたいという、資源の一つなのだ。

今、冬の肌寒い、雪の多い季節が終わり、雪のほとんどが溶けた頃、山ノ内町のホテル峰泉に、東京に住んでいる黒部由希が、遊びに来た。

峰泉の自動ドアが開くと、

「今日は、曜子ちゃん、約束どおり、遊びにきました」

と、いって、小早川曜子が、働いているホテル峰泉の中に、中学時代の先輩の由希が、入ってきた。

その由希の横には、親友の福田早苗が、一緒について峰泉に、遊びに来た。

受付をしていた曜子が、

「由希先輩、本当に、峰泉に着てくれたんですね」

と、いって、由希と早苗に気が付いて、喜んだ。

大はしゃぎで、喜んでいる曜子に、気が付いた八戸恭子が、

「あら、由希さん、お久しぶり、東京に遊びに入った時は、ありがとうございました」

 と、恭子は、いった。

「今日は、お久しぶりです。少しの間お世話になります」

 と、由希が、いった。

ちょうど非番の日で、峰泉に来ていた八戸嘉利が、四人の会話をする声を、きいて、

「こんにちは、由希さん、早苗さん、福田さんは元気ですか」

 と、いって、声をかけてきた。

「今日は、八戸さん、去年はどうもありがとうございました」

 と、由希が、八戸に、頭を下げて、お礼をいった。

「え、この人が、純一伯父さんが、病院の布団の中にいた私に、よく話していた、八戸さんですか?」

 と、早苗が、いった。

早苗が動けるようになった事が、心の底から嬉しかった、と、感じている由希は、

「布団の中?うそばっかぁ、動けるようになった途端に、病院の中を、動き回っていた癖に」

 と、いって、笑顔で笑い始めた。

「もぅ、由希、そんなこと、話さないで、いいじゃない」

 と、いって、早苗も笑いながら、いった。

「八戸です。早苗さん、もう身体の方は、大分いいんですか?」

 と、いって、八戸は、早苗の身体を心配して、きいた。

「えぇ、身体の方は、もう、ほとんど大丈夫です。今日ここに来たのは、身体のリハビリの為と、八戸さんに、【本当に、ありがとう】と伯父さんがいっていたのを、伝えるのが、目的です。本当にありがとうございました」

 と、早苗は、いって、頭を深く下げて、お礼をいった。

 早苗が、リハビリもかねて来たことを、知った恭子は、

「ねぇ、曜子ちゃん、今日は、もうホテルの仕事は良いから、みんなで、一緒に山菜採りに行ってきたら」

と、いった。

「そんな、でもまだ仕事が」

 と、曜子は、いうと、

「ホテルの料理に、山菜も使うから、山菜採りも、仕事よ。沢山採ってきてね」

 と、恭子は、いった。

舞い上がるとまでは、いかないが、喜びを隠せない曜子は、

「わかりました。由希先輩、早苗さん、山菜採りに、行くのでいいですか?」

 と、いって、微笑みながら、きいた。

 直ぐに、感じた事を口に出して、喜ぶ早苗は、

「いいじゃない、行きましょう。ねぇ由希、私まだ、一度も山菜取りって、したこと無いからしてみたいのよ」

 と、興奮しながら、いった。

「早苗、まるで、子どもみたいな、喜び方じゃない」

と、由希は、興奮して喜ぶ、早苗の姿を見て、

「わかったわ、早苗もこんなに興奮するぐらい嬉しいみたいだし、行きましょう」

と、いった。

「じゃあ、ヤドカリちゃん、三人を山菜採りに、連れて行ってね」

 と、恭子は、いった。

 突然恭子から、三人を山に連れて行って、欲しいと言われた八戸は、

「え、私が三人を、山菜採りに?」

 と、八戸は、恭子に、きき返した。

「だって、三人は、何処に、何の山菜が生えているかなんて、知らないんだから、ヤドカリちゃんが、一緒に行って、教えてあげないと、駄目じゃない。どうせ、今日は、非番なんでしょう。いいじゃない」

と、八戸の背中を〈バンバン〉と叩きながら、いった。

「いたたぁ、わかりました。三人と一緒に行ってきます」

と、八戸は、叩かれた、背中を押さえながら、

「そうだ、それなら、靖子も、一緒につれて行きましょう。あいつも、そろそろここに、着く頃だし」

と、いった。

「そうね、そうしましょう」

と、恭子は、いうと、

「あ、そうだ、ちょっと、ここで待っていてね」

と、いって、ロビーから出ていった。

「すみません、せっかくの休みを」

 と、いって、由希は、申し訳ないと思い、八戸に頭を下げた。

「あ、いいんですよ、私も、しばらく、山菜採りに行っていなかったから、身体を解すのに、ちょうどいいですよ」

 と、八戸は、いった。

「ありがとう、おにぃちゃん」

 と、曜子は、いった。

 ロビーから出ていった、恭子が、戻ってくると、山へいく時に着る服や、軍手、ビニール袋等を、四人分持ってきた。

「じゃあ、よろしくね」

 と、恭子は、いって、八戸に、渡した。

「わかりました」

 と、八戸は、いった。

「じゃあ、曜子ちゃん、早苗さんと由希さんを部屋に連れて行ったその後に、着替えてきてね」

と、恭子は、いった。

「はい」

 と、曜子は、いって、由希と早苗を部屋に連れて行った。

 更衣室から八戸が、戻って、来ると、既にそこには、着替え終わって山に行くのを待っている靖子、がいた。

「あれ、なんか、私が、着替えてくるのよりも、ここに来るの、早くないか?」

 と、八戸が、きいた。

「フフ」

 と、靖子は、軽く、笑った。

十分ほどすると、三人も着替え終わって、出て来た。

「あれ、靖子さん、私達よりも、早くないですか」

 と、いって、曜子は、既に山に行ける格好で、自分達よりも早く、靖子が、着ていた事に、驚いた。

「そういえば、靖子を呼ぶって、いったのに恭子叔母さんが、持ってきたのは、四着だった」

 と、八戸は、恭子がもってきた服装の数を思い出して、いった。

「そういえば」

 と、いうと、曜子は、早苗は、お互いの顔を見合った。

「あの時、既にもう裏で、着替えていたんだろう」

 と、八戸は、いった。

「バレタ」

 と、靖子は、ペロリと舌を出しながら、いった。

「しょうがないなぁ、それじゃあ、みんなそったし、行こうか」

 と、八戸は、いって、峰泉を出た。

「えーと、八戸さんの奥さんの靖子さんですか?」

 と、車に乗る前に早苗が、きいた。

「えぇ」

 と、いって、靖子は、答えた。

「どうも、よろしくお願いします」

 と、いって、早苗は、挨拶をした。

「いえ、こちらこそ、八戸の妻の靖子ですよろしくお願いします」

 と、いって、挨拶をした。

 二人の挨拶が終わって、車の中に入ると、曜子は、

「おにぃちゃん、何の山菜を、採りに行くんですか?」

と、きいた。

「そうだな、タラノメ、ゼンマイ、コゴミ、それと、コシアブラを中心に、採りにいこうか」

 と、八戸は、車を運転しながら、曜子に、採りに行く山菜を話した。

 北志賀に着くと車を、邪魔にならないところに、停めて、五人は、移動し始めた。

「これは、どうですか?」

 と、早苗が、きいた。

「それは、オニゼンマイだよ、こっちがコゴミ、このコゴミは、一番小さいのと、一番伸びているのだけを、残して、全部とって良いよ。そして、そのトゲの生えている木が、タラノキだよ。この芽の部分がタラノメといって採るときは、トゲで手を刺さないように、気をつけてね。このタラノメとコシアブラは天ぷらにすると、本当に美味しいんだよ」

 と、いって、八戸は、食べるところを、想像しながら、いった。

「あっ、今頭に、お酒飲もうとしている誰かの姿が、浮かんだ」

 と、靖子は、いった。

「良いですね」

 と、早苗は、いって、笑った。

山菜を探しながら、五人は、三十分ほど採っていた。

近くにコゴミやワラビといった山菜が見当たらなくなって移動し始めた由希が、何かに足を取られて、躓きそうになった。

〈ワツ〉

足を取られた方に、ゆっくりと、振り返ると、由希は、

「キャー」

と、いって、悲鳴を上げて、その場にしゃがみ込んだ。

八戸達は、由希の、悲鳴を聞いて、

「由希先輩」

「由希」

「由希さん、どうしました」

 と、いって、次々とよってきた。

由希は、それ以降は、悲鳴一つ上げずに、その場に、しゃがみ込んだまま、躓いた場所を、右手の人差指を、ゆっくりと動かして、指差した。

そこには、黒色が少しだけ残った、茶色に染めた長髪の女性が、仰向けになって、倒れていた。

曜子と早苗は、その女性が倒れている姿を見ると、後ろに一歩引いたが、八戸は、倒れている女性に近づいて、

「どうしましたと」

と、声を掛けた。しかし、返事は、返ってこなかった。

 八戸は、仰向けに倒れている女性の肩に手を触れて、軽く動かしながら、

「大丈夫ですか?」

と呼んでみたが、反応は、それでも返ってこなかった。

仕方なく、八戸は、女性を上向きにした。

 すると、女性は、二十代半ば位の年齢に見えた。その女性の首には、何かで、首をしめられた痕が、残っていた。

「キャー」

と、曜子も早苗も、目を開けたまま、亡くなっている女性の顔を見て、初めて、悲鳴を上げた。

その首を絞められていた女性の服装は、ミニスカート姿で、黒色のハイヒールを履いた格好でとても、山に山菜を採りに行くといった、格好には見えなく、街中で普通に見かける様な、女性の服装だった。

女性は、既に亡くなってから数日は、経っているようだった。

八戸は、背中に背負っている、黒色の小さいリュックから携帯を取り出すと、信濃中野署に、電話をした。

半月前に、新しく、信濃中野署刑事課の女性課長に、就任した森田沙希が、

「はい、こちら、信濃中野署刑事課」

と、いって、電話に出た。

「森田課長、八戸です」

 と、八戸が、いった。

「八戸君?どうかしたの?」

 と、森田は、きいた。

「はい、非番の日で、山に山菜を採りに来たら、死後数日は経過していると思われる、女性の死体を発見しました」

 と、いって、八戸は、女性が亡くなっていた状況を、話した。

「二十代後半位の長髪の女性が、街中にいる様な普通の格好のまま、山の中で首を絞められて殺されていた!本当!」

と、森田は、いって、きき返した。

「はい、場所は、山ノ内町北志賀の竜王スキー場の近くです。

 と、八戸は、いった。

「わかったわ、北志賀の竜王スキー場の近くね。直ぐ行きます」

 と、いって、森田は、電話を切った。

 八戸は、課長に報告し終わると、携帯を背中のリュックに戻して、三人の方に振り返った。

「おにぃちゃん」

 と、八戸に、心配そうな顔をしながら、曜子が、いった。

 三十分ほどして、正午を廻った頃に、竜王スキー場近くに、森田課長が、到着した。

「八戸主任、曜子さんと山菜採りに行くのなら、私も誘ってくださいよ」

 と、秋山は、一緒に誘って貰えなかった事で、不機嫌な顔をしながら、いった。

「あれ、秋山?お前今日は、休みじゃなかったっけ」

 と、首をひねりながら、八戸が、きいた。

「森田課長から、八戸主任と曜子ちゃんが、【北志賀で、亡くなっている女性を、発見した】と連絡が遭ったので、心配になって、跳んで来たんですよ」

 と、秋山は、いった。

「心配になったのは、曜子ちゃんで、私はおまけだろ。まったく、お前は、曜子ちゃんの事となると、本当に、変わるんだから」

 と、いって、八戸は、薄笑いした。 

「あら、この子が、たとえ人類が滅びても、この子だけ生き残っていれば、ゼンゼン、大丈夫って、いうくらい秋山君が、ゾッコンな曜子ちゃんなのね」

 と、森田は、右手で、口を押さえて、笑いながら、いった。

となりで、きいていた靖子、早苗、由希の三人も、一緒に、笑い出した。

「いったい、誰がそんなことを、いったんですか?」

 と、曜子と秋山は、口裏を揃えて、森田にきいた。

「そこにいる」

 と、いうと、森田は、八戸を指差した。

「な!なんて事を、いうんですか」

 と、首から上が、全て桜色に染まって、恥ずかしがりながら、秋山と、曜子は、八戸に向って、いった。

「まぁまぁ」

 と、八戸は、秋山と曜子を、抑えるようにいうと、急に、逃げるように、

「現状は、発見したときの状況のまま、出来るだけ、そのままにしてあります。とりあえず、先に、私達五人のゲソコンと、毛髪も、提出します。みんな、協力してください」

 と、森田に、いった。

「わかりました」

 と、三人は、いった。

 しかし、曜子は、

「もぅ、おにぃちゃんたら、わかりました」

 と、頬を脹らませて、いった。

「ただ、他の人も、結構、山菜を採りに来るので、ゲソコンから、犯人を辿るのは、難しいかもしれません」

「そうね、ところで、身元は、分かったのかしら?」

 と、亡くなっている、女性を観ながら、森田は、きいた。

「まだ、身元に繋がる様な物は、一切見つかっていません。しかし、殺害されたのは間違いありません。こちらの女性は、山に来るのには、似つかわしくない、格好からすると、恐らく、犯行現場は、街中等の別の場所で、首を絞められて殺害されてから、この場所まで、運ばれて来たものと、思われます」

と、八戸は、いった。

「確かに、辺りに、首を吊った様な形跡も、見当たらない様だし、亡くなった後に、死体が、ここまで歩いてくるなんて、わけは無いものね。自殺ではないようね」

 と、女性が亡くなっていた辺りを、確認しながら、森田は、いった。

「はい、この首のところについている、この掻き毟った様な傷痕は、首を絞められたときに、外そうとして、掻き毟って、出来た傷痕に間違いありません。自殺しようとしている人に、こんな傷があるのは、少し、考え難いです」

と、八戸は、女性の首にある、掻き毟った傷跡を見ながら、考えを、いった。

「そうね。確かに、犯人に絞殺された後に、ここまで運ばれてきたのに、間違いないようね」

 と、森田は、いって、うなずいた。

「課長、私は、服装には疎いので、良く分からないのですが。この女性の服装は、会社で働いている方というよりは、どちらかというと、夜等の水商売をしているような方の、服装に思えるのですが」

 と、八戸は、いった。

「ごめんなさい。私も、服装とかには疎いのよ」

 と、森田は、いうと、

「そうだ、そちらの三人に、聴けばいいじゃない」

 と、いった。

「それも、そうですね」

 と、八戸が、いった。

「そうですよ、年齢も課長より全然、若いですし、そうしましょうよ」

と、秋山は、いった。

「八戸君、秋山君、年齢が私よりも全然、若いってどういうことかな」

 と、いうと、森田は、

「じゃあ、私は、もう若くないって事なのかしら」

 と、八戸と秋山を、〈ギロリ〉と、睨み付けるように、いった。

 睨み付けられた二人は、心臓が凍ると重く位の寒気を感じ、逃げるように三人に、

「ねぇ、ちょっと、この人の格好って、最近の流行なのかな?」

 と、八戸は、きいた。

「いえ、東京とかでも夜に、よく見掛けるような女性の格好で、会社に勤務しているような人の服装では、ありません」

 と、由希は、答えた。

「はい、確かに、会社勤務の女性というよりは、夜の水商売とかを、している人の格好みたいです」

 と、早苗は、いった。

「やっぱり、そうか」

 と、いうと、再び、森田課長に、振り返って、

「課長取りあえず、被害者の身元の手掛かりがない以上、この付近の人達に、目撃者がいないかを聞き込むのと、女性の服装から推測される、夜の水商売関係の仕事を、している人達に、こちらの女性を、知っている人が、いないかを、確認します」

 と、八戸は、いった。

「わかったわ、とりあえず、手配しておきます」

 と、顔をこわばらせて、森田は、いった。

「曜子ちゃん、今日の山菜採りは、ここまでだね。次は、違うのを採りに行こう」

 と、いうと、八戸は、自分の取った分の山菜を、ビニール袋ごと曜子に、渡した。

「おにぃちゃん、わかりました」

 と、曜子は、返事をした。

「結構、楽しかったわね、また、一緒に行きましょう、曜子ちゃん」

 と、由希が、いった。

「それに、こんな事件に、遭遇するなんて、宝くじに、当たるのよりも、もっと、低い確率じゃない」

 と、早苗は、いった。

「ちょっと、早苗、そんないい方は、ちょっと、不謹慎じゃないの」

 と、由希が、早苗に向って、いった。

「どうして、由希?遭ってしまったものは、しょうがないじゃない、運命なのよ、この際は、八戸さんや、信濃中野署の人に、積極的に協力したほうが、良いんじゃないの」

 と、早苗は、強い口調で、いった。

「何、いっていんのよ、早苗」

 と、由希は、ぼやいた。

「まぁ、とりあえず、一週間は、休みもらって、あるんだし、まだ、こっちにいるんだから、良いじゃない」

 と、早苗は、いった。

「まぁ、とりあえず、早苗さん達には、峰泉に、戻って、もらって良いですか?」

 と、八戸は、いった。

「じゃあ、八戸さん、私達、峰泉にいますので、何か、分かったら、教えてください」

と、早苗は、いった。

「分かりました」

 と、八戸は、いうと、

「あ、そうだ秋山、ちょっと、曜子ちゃん達四人を、峰泉まで、送って貰えるか?私は、もう少し、ここで、課長と話して行くから、代わりに、送って貰えるか」

 と、秋山に、いった。

「え、喜んで、じゃあ、曜子さん、行きましょう」

 と、秋山は、飛び跳ねるように、喜んで、いった。

「じゃあね、先に行っているわね」

 と、靖子はいった。

「じゃあ、ヤドカリおにぃちゃん、頑張ってね」

 と、曜子は、手を振りながらいうと、早苗達と、一緒に秋山について、峰泉に、戻ることにした。

秋山達が、現場から車で立ち去ると、八戸は、

「課長、ちょっと、女性の左手を、見てください。掻き毟った他に、手に何かを、握りしめているようです」

 と、いった。

「えっ、本当?」

 と、いうと、森田は、女性の握り締めているという、左手を見た。

 八戸は、

「写真お願いします」

 と、いって、握り締めている、左手の写真を、一枚撮って貰うと、その左手を、強引に開いた。

「黒曜石で、作られた蛍だ」

 と、八戸は、いうと、を親指と人差指で、挟んで見た。

「本当!蛍の形にカットしてあるわね。この女性が、亡くなる前に、犯人から、奪い取った物かしら」

 と、森田は、いった。

「はい、おそらく、犯人に、後ろからネクタイの様な物で、首を絞められているときに、死に物狂いで、こちらの女性が、残してくれた犯人への、手がかりの一つだと、考えられます」

 と、八戸は、真剣な表情で、いった。

「そうね、他に手がかりがない以上、この蛍の形をした石が、唯一の手がかりに、なるかも知れないわね」

 と、森田は、いった。

「とりあえず、私は秋山と合流して、こちらの女性の身元を、割り出します」

 と、八戸は、いった。

「わかりました。じゃあ、私は、信濃中野署に戻って、北志賀の竜王スキー場の近くで、発見された女性は、自殺ではなく、殺害されてから、ここまで運ばれてきた、死体遺棄の殺人事件として、報告書をまとめて、送って置くわね」

と、森田は、いった。

「お願いします」

 と、八戸は、いうと、女性の身元を洗い出しに、向った。 

北志賀から、峰泉に、帰ってきた曜子は、恭子に、

「今、戻りました」

 と、いって、コゴミや、コシアブラといった北志賀で、採った山菜を、渡した。

「曜子ちゃん、お帰りなさい。沢山採れたわね」

と、恭子は、いうと、曜子の周辺に、八戸が、居なくなり、代わりに、秋山が、送ってきたことに、気がついて 

「あら、秋山さん?曜子ちゃん、靖子さん、ヤドカリちゃんはどうしたの?」

 と、尋ねた。

「私達が採っていた所で、由希先輩が、亡くなっていた、女性の方を見つけられて、ヤドカリおにぃちゃんは、ちょっと、課長さんと残るっていって、代わりに、秋山さんに、送ってきてもらいました」

 と、曜子は、いった。

「あら、そうなの、秋山さん、ありがとうございました」

 と、恭子は、いって、秋山に近づくと、耳元で、

「曜子ちゃんと、一緒に、ここまで来られて良かったわね。本当は、二人でが、好かったのかな」

 と、いって、からかった。

「なに、いっているんですか」

 と、顔を桜色にして、秋山は、いった。

その後、恭子は、女性が、殺されていた話に戻って、

「じゃあ、北志賀で、女性が、首を絞められて、殺されているのを、見つけて、そこに、残っているのね、ヤドカリちゃんは」

 と、いって、きいた。

「はい」

 と、曜子は、いった。

「まぁ、ヤドカリちゃんなら、何とかするでしょう」

 と、恭子は、笑いながら、いった。

「そうですね」

 と、靖子は、いった。

「そうですよ、ヤドカリおにぃちゃんなら何とかしてくれますよ」

 と、曜子は、いって、笑った。


  2


 北志賀から秋山と合流する前に一端、着替えるために、家に戻った、八戸は、奥の部屋で、着替えた後、着替えを持って、玄関に来た。

 玄関に置いてある、金魚鉢の中に五匹ほどいるヤドカリの中から、八戸は、一匹取り出すと、左手の手の平の上に乗せて、シラスを小さく切って、あげた。

 八戸は、掌に乗せたヤドカリの殻を〈ツンツン〉と、突っつきながら、山で首を絞められて、亡くなっていた女性の事を、考え始めた。

「あの、女性はなぜ、殺された後に、あんな山の中まで、運ばれてきたんだろう。あの女性を殺したのは、さっきの黒曜石で創られた蛍を付けた人物なのか、それとも、本当は犯人が、違う人物を犯人と思わせる為に、手に握らせたのだろうか?いずれにしても、女性の知り合いという線だろうな?」

 と、八戸は、思いながら、考えた。

ヤドカリを、金魚鉢に戻して、玄関から出ると、八戸が背中に背負っているリュックの中の携帯が、鳴った。

 八戸は、リュックのチャックを、右手で開けると、

「はい、八戸です」

と、携帯に、出た。

「八戸主任、北志賀で、絞殺されていた女性の身元が、わかりました」

 と、いって、信濃中野署の大河内香織が、連絡をしてきた。

「早かったな、大河内、本当か?」

 と、八戸は、いった。

「はい、女性は以前、傷害事件の犯罪歴が有り、指紋認証でヒットしました。女性の名前は、羽野梨江。二十四歳。家族は、父親が、下諏訪町で、暮らしています。後、梨江の姉が、長野市で暮らしているそうです。羽野梨江は十九歳の時に、山西健治という男性を刺して、重傷を負わせる傷害事件を、起こしていて、一度捕まっていて、二年六ヶ月の実刑を受けています。現在は、長野市若穂保科のロイヤル・スタイルというマンションの七階に、住んでいます。仕事は、風俗店のグリーン・キャッツ・タイムと、いうところで、エリーという名前で、働いていたようです」

 と、いって、大河内は、右手に持った、メモを確認しながら、八戸に説明した。

「女性の名前が羽野梨江。現在二十四歳。父親は、下諏訪町で、暮らしていて、姉は、梨江と同じ、長野市で暮らしている。十九歳の時に傷害事件で、山西健治という男性を刺して、2年六ヶ月の実刑を受けた。現在は、長野市のロイヤル・スタイルというマンションに住んでいて、風俗店のグリーン・キャッツ・タイムと、いう店で、エリーと、いう名で働いていた」

 と、復唱するように、八戸は、いった。

「羽野梨江は、一部の常連の男性客には、とても人気があった、デリヘル嬢だったらしいです。その中に何人か、特定の金蔓の男が、いたようです」

 と、大河内は、答えた。

「すると、今のところ、羽野梨江は、怨恨の線で、殺害されたのが濃厚か」

 と、八戸は、首を縦に軽く振って、うなずくようにして、いった。

「はい、そのようです」

 と、大河内も、首を縦に振って、うなずきながら、いった。

「分かった、じゃあ私は、長野南若穂署に、協力をお願いしてから、秋山と合流して、梨江が住んでいた、長野市のロイヤル・スタイルというマンションに、いってみる。大河内は、梨江が働いていたという、風俗店のグリーン・キャッツ・タイムと、いう店に、いって梨江に関係する情報を、集めてくれ」

と、八戸は、いった。

「わかりました。これから、川崎さんと、梨江の働いていた店に行って、梨江の情報を、集めます」

と、いって、大河内は、携帯を切って、車の助手席に座った。

八戸と大河内の電話の遣り取りを、横で、聞いていた石山は、ドアを開けて、運転席に座ると、エンジンを掛けて、車を出した。

「よし、梨江のマンションに、向うか」

 と、八戸はいうと、背中のリュックに携帯を戻して、長野市に向った。

 長野市の梨江の住んでいる、マンションロイヤル・スタイルの前に、着くと、長野南若穂署の、権藤剣巡査部長と細川昭雄巡査が、マンションの前で、八戸が来るのを、待っていた。

「お疲れ様です。八戸警部補、長野南若穂署の権藤です」

と、いって、権藤は、八戸の前に来て、挨拶をした。

「同じく、長野南若穂署の細川です」

 と、いって、細川も、権藤に続いて、挨拶をした。

「八戸です、お疲れ様です」

 と、いって、八戸は、権藤と細川に挨拶をした。

「信濃中野署の秋山です」

 と、いって、秋山は、八戸に続いて、挨拶をした。

「羽野梨江の部屋は、あそこです」

 と、細川は、いって、七階の梨江の部屋を指差した。

八戸と秋山は、細川が、指差した部屋を見上げると、マンションの中に入って、エレベータを使って、七階に上がった。

梨江の部屋の七0三号室の前に、移動すると、マンションの管理人が、梨江の部屋を開けた。

「何か、犯人を捜すのに、役立つものは、無いんでしょうか?」

 と、秋山は、いった。

「そうだな、少し、手がかりになるものがないか、捜してみるか」

 と、八戸は、いって、梨江の部屋を、捜し始めた。

 写真の様な物は、全く、置いていなかったが、一人で、生活する女性の部屋ではなく、男性の気配が、する部屋だった。

周りの様子を確かめてから、八戸は、

「そうだ、秋山、このマンションの人に、この部屋に出入りしているのが、梨江以外に、居たか、確かめて貰えるかな」

 と、いった。

「わかりました」

 と、いって、秋山は、首を縦に振って、答えた。

秋山が、梨江の部屋から出て行くと、八戸は、別の部屋の机の上にあった、ノートパソコンを、開いてみた。

パソコンの中には、梨江にお金を貢いでいたと見られる四人の男性の名前と顔写真、そして、顔写真が、写っていない人物の名前が書かれていた。

遠山 雄太

橋本 光

山西 健治

高岡 栄吉

今井 幸太郎

「これは、いったい、何ですか?」

 と、八戸の後ろから、パソコンの画面を見て、権藤は、きいた。

「恐らく、羽野梨江が、お金を貰っていた人物、もしくは、梨江と何かしら関係のあった人物の名前をパソコンに入れて、残していたのでは」

 と、八戸は、パソコンを操作しながら、いった。

「なるほど、これは、貢いでいた男の名前ですか」

 と、権藤は、いった。

「はい、しかし、その中に、山西健治の名前があります。そうだとしたら、以前刺した男と抱き合うような関係になっていたというんですか?」

 と、八戸は、パソコンに表示されている、山西健治の名前を見て、少し、驚いた顔をして、いった。

「本当ですね」

 と、権藤は、いった。

「とりあえず、この五人が、梨江と関係を持っていた、という人物と想定して、梨江の仕事関係や、友人関係を調べながら、捜査を進めていきましょう」

 と、八戸は、いった。

「分かりました」

 と、権藤は、いった。

「よろしくお願いします」

 と、八戸は、いって、頭を下げて、協力を頼んだ。

 梨江の部屋から、外に出ると、秋山が、梨江の住んでいる七階の住人の聞き込みを、していた。

「秋山、どうだ、梨江の部屋に出入りしている人物の事は、わかったか?」

 と、八戸は、きいた。

「はい、確かに、梨江の部屋には、何人も、度々、出入りしていたのを、目撃しているそうです」

 と、いって、秋山は、答えた。

「分かった、ありがとう」

 と、八戸は、いった。

マンションや、付近の聞き込みは、長野南若穂署の権藤刑事達にお願いして、八戸と秋山は、ひとまず、信濃中野署に、戻ることにした。

夜の二十時を過ぎた頃、信濃中野署に八戸と秋山が戻ると、森田課長が、

「八戸君、羽野梨江の事は、何か分かったかしら?」

 と、きいた。

「はい」

 と、八戸は、答えると、梨江の部屋に、有ったノートパソコンの中に入っていた、五人のデータを、森田に、見せた。

「八戸君、これは?」

 と、森田は、きき返した。

「はい、これは、梨江の部屋にあったノートパソコンの中に入っていたものを、コピーしてきたものです」

 と、八戸は、いった。

「そう、じゃあ、この五人の中の誰かが、羽野梨江を殺害した可能性も、あるのよね」

 と、森田は、いうと、 

 「名前と顔が、判明しているのは、この四人なのね、そして、顔が分かっていない橋本光という人か…」

 と、いった。

「では、私達は、梨江と関係の合ったと見られる、五人の所在を明らかにするため、もう一度、梨江の周辺関係を探ります」

 と、八戸は、いった。

「そうね、頼んだわよ」

 と、森田は、いうと、

「八戸君は、着替えを、持って来ていたようだけど、今日は、二人とも帰っていいわよ。明日、朝から、これまでの事をまとめて、事件の捜査会議を、開きます」

 と、いって、八戸達を家に、帰した。

「分かりました。それでは、課長お先に、失礼します」

 と、八戸は、いって、出て行った。

 信濃中野署を出ようとすると、そこには、靖子と早苗が、来ていた。

「あなたぁ」

 と、いって、八戸に、手を振りながら靖子は、近づいてきた。

「靖子、それに、早苗さんも、どうしてここに、いるんですか?」

 と、いって、八戸は、きいた。

「恭子おばさんに、あなたを、峰泉に連れてくるように、いわれているのよ」

 と、靖子は、いった。

「恭子伯母さんが、私を?どうして?」 

 と、八戸は、驚いた顔をして、靖子に、いった。

「どうしてって、そんなの決まっているじゃないですか。八戸さんを、連れてきて、事件の事を、聴きたいからだというのに、決まっています」

 と、早苗は、いった。

「そうだ、秋山さんも一緒に来て、話をきかせてよ」

 と、靖子が、いった。

「はい、行きましょう」

と、秋山は、目をギラギラとさせて、直ぐに答えると、八戸を靖子と一緒に車の中に、連れ込もうとした。

「おい、二人とも、なにをするんだ!」

 と、八戸は、靖子と秋山に連れ込まれそうになるのを、必死にもがいて抵抗したが、直ぐに、車の中に押し込まれた。

 八戸を、連れて、峰泉の前まで、来ると、由希と曜子が、峰泉から出て来て、

「ヤドカリおにぃちゃん、早く」

「八戸さん」

 と、いって、出迎えた。

「曜子ちゃん、お疲れ様です」

 と、いって、秋山は、八戸を、車から降ろした。

「まったく、強引だなぁ」

 と、八戸は、疲れた声で、いうと峰泉に入った。

 峰泉の中には、既に、恭子が、八戸と、一緒に、話しを聴きながら、食べようと、御飯を、用意して待っていた。

「靖子さん、早苗さん、ご苦労様」

 と、恭子は、いうと、秋山に気が付いて、

「あれ、秋山さん、いたの?困ったわね。御飯は、六人分しか用意してないのよ。直ぐ用意してもらうわね」

 と、いった。

「まず、北志賀で、亡くなっていた女性の身元ですが」

 と、八戸は、いうと、羽野梨江の写真を出して、

「名前が、羽野梨江、二十四歳です。住まいは、長野市若穂のマンションで、仕事は、長野市の風俗店に、勤務していました」

 と、いった。

「羽野梨江さん」

 と、恭子は、呟いた。

「はい、梨江は、十九歳の時に、一度、傷害事件を起こして、捕まっています」

 と、八戸は、いった。

「え、その梨江さんと、いう方は、捕まった事が、あったの?」

 と、靖子は、きいた。

「はい」

 と、秋山は、軽く頷いて、答えた。

「十九歳の時に、傷害事件で、山西健治という男性を」

 と、いって、八戸が、話そうとした時に、恭子は、山西健治の写真を、見て、

「あら、この山西さんという男の人なら、五日程前に、女の人と二人で、泊まっていったわよ」

 と、話した。

「え、本当ですか?五日程前に、この峰泉に、二人は泊まっていた?」

 と、八戸は、驚きを隠せない様子で、きいた。

「えぇ、ちょっと、待っていて」

 と、恭子は、いうと、その場から離れて、宿泊者名簿を、取りにいった。

「もし、その山西健治という人が、ここに、泊まった事が、あるんだとしたら、世の中って、広いようで、狭いものなのね」

 と、靖子は、いった。

「本当ですね」

 と、早苗も、いった。

「あぁ、あったわよ」

 と、恭子は、いって、宿泊者名簿を持ってきて、八戸に渡した。

 八戸は、恭子から渡された、宿泊者名簿を開くと、名簿には確かに、山西健治と書かれていて、一緒にいた女性の名前は、橋本光と書かれていた。

「え、橋本光?あれ、その人は、男性ではないんですか?」

と、秋山は、きいた。

「いえ、確かに女性だったわよ」

 と、いって、恭子は、答えた。

「もしこの、橋本光が、梨江のパソコンに書いてあった人物と同じだとしたら、男女の関係で貢いでいたというのでは、無くなりますね」

 と、八戸は、いうと、

「山西健治と、橋本光はどういう関係で、一緒に、ここに来たんだ?」

 と、呟いた。

「恭子叔母さん、叔母さんは、その二人を見たときに、恋人同士の様には、見えませんでしたか?」

 と、靖子が、きいた。

「いえ、恋人同士の関係には、あまり見えなかったわね。どちらかというと、仲のいい兄妹かなんかみたいに、見えたわね」

 と、恭子は、いった。

「兄妹みたいに、見えた」

 と、八戸は、少し眉間に、眉を寄せて、いった。

「山西健治と橋本光の二人が、五日程前に、一緒にここに来ていたことは、今直ぐ、森田課長に報告しておこう」

 と、いうと、八戸は、背中に背負っている黒色のリュックから、携帯電話を、取り出して、

「八戸です」

 と、いって、でた。

自宅に帰らせたはずの八戸から、電話が来ると、森田は、

「どうしたの?八戸君?」

 と、いって、訊ねた。

「羽野梨江を、殺害したと見られている、重要参考人の一人、山西健治が、二週間前、ホテル峰泉に、泊まっていたのが、確認できました」

 と、八戸は、いうと、

「それと、山西健治と一緒に、橋本光という女性が一緒に、泊まっていました」

 と、いって、話した。

「え、橋本光?だって、その人は、梨江に貢いでいた男の人じゃないの。じゃあ、あのデータに書かれていた橋本光というのは、男性じゃなく、女性だったというの」

 と、森田は、驚いた顔をすると、八戸に、聴き直した。

「はい、少なくとも、峰泉に五日程前に、山西健治と一緒に泊まっていた橋本光は、女性でした」

 と、八戸は、いった。

「山西健治と橋本光が、同じホテルに、泊まっていた!」

 と、森田は、呟いた。

「しかも、その時の二人の姿を目撃した私の叔母の証言では、山西と橋本は、まるで、兄妹のように見えたと、言うことです」

 と、いって、八戸は、恭子にきいた二人の様子を、そのまま森田に、話した。

「分かりました。その事もこちらで、調べます」

 と、森田は、いうと、

「ところで、その峰泉というホテル、八戸君の伯母さんが、経営しているホテルっていうのは、本当なの?」

 と、きいた。

「えぇ、そうですよ」

 と、八戸は、答えた。

「じゃあ、今度、暇なときに、温泉にでも入れるように、八戸君からいっておいて、もらえるかしら」

 と、いって森田は、きいた。

 少し、間を置いてから、

「え、えぇ、分かりました」

 と、八戸は、いった。

「じゃあ、お願いね。又、明日」

 と、いうと、森田は、電話を切った。

 森田に、連絡をすると、八戸は、

「そろそろ、いただきますか」

 と、いって、目の前に置いてある食事を食べ始めた。

「そうね、始めましょうか」

 と、恭子は、いった。

「頂きます」

 と、いって、恭子に続いて、みんな食べ始めた。

 しばらくしてから八戸が、

「そろそろ、お暇させてもらいます」

 と、いって、立ち上がった。

「あら、もう帰るの」

 と、恭子が、きいた。

「そうですよ、もう少し、ここに、いましょうよ」

 と、靖子は、自宅に帰ろうとしている、八戸を見あげて、不機嫌な顔をしながら、いった。

「明日、朝、早くから、捜査会議が、開かれるらしいから、そろそろ、休んでおかないとね」

 と、八戸は、いって、部屋を出ようとした時に、

「おにぃちゃん、お疲れ様です」

 と、曜子が、元気いっぱいの笑顔で、いった。

「お疲れ様です」

 と、続けて、秋山が、いった。

すると、八戸は、

「お疲れ様じゃないよ、お前も、そろそろ、休んだほうが、いいんじゃないのか?明日、遅刻したりしないようにな」

 と、八戸は、陽気に笑いながら、いった。

 八戸に、いわれると、秋山は、急にショボンとしたように、元気が無くなり、

「それじゃあ、曜子さん、ありがとうございました。お先に失礼します」

 と、いって、まだ峰泉で、曜子と一緒に、居たいのを我慢して、立ち上がった。

「そうね、じゃあそろそろ、止めときましょうか」

 と、恭子は、いった。

「えぇ、まだ、いいじゃないですか」

 と、由希は、解散するのが、いやなのか、不満気に、いった。

「そうですよ、もう少し、みんなでここに居ましょうよ」

 と、早苗も、由希に続いて、不満気にいった。

「いや、ちょっとそうもいかないんで、ごめんね」

 と、いって、八戸は、逃げるように、出て行った。 

八戸は、峰泉から出て、靖子と自宅に戻ると、玄関に腰掛けて、金魚蜂のヤドカリに、話しかけた。

「梨江は、いったい誰に、殺害されたんだろうか」

 と、八戸が、いうと、ヤドカリが、『ポチョ』と、石の上から転げ落ちた。

 それを観ていた、八戸は、

「ごめんごめん」

 と、いって、少し海水が、減っているヤドカリの金魚蜂に、去年、海で入れてきた、海水の入っている、2リットルのペットボトルから少し、海水を付け足した。

「いずれにしても、梨江の関係をもう一度、よく調べないといけないな」

 と、八戸は、思った。

 次の日の朝、八戸が、信濃中野署に行く前に、八戸の自宅に、森田から連絡があった。

 「八戸君、今、男性が、中野市の七瀬で、首を絞められて、殺害されているのが、見つかったらしいのよ」

と、森田は、声を荒げながら、いった。

森田から男性が、殺害されたと、きいた八戸は、

「男性が、中野市の七瀬で、首を絞められて殺されているのが、見つかった!」

 と、声を荒げて、いった。

「えぇ、しかも、その男性は、昨日、八戸君が、梨江の部屋から持ってきた、パソコンのデータの中に、入っていた男の顔写真と、そっくりらしいのよ」

と、いって、森田は、話した。

「本当ですか!」

 と、いって、八戸は驚きを隠せないまま、きいた。

「えぇ、詳しいことは、確認してみないと分からないけど、どうも、梨江に貢いでいた、四人の内の、高岡栄吉じゃないかっていうのよ。私も直ぐに、中野市の七瀬に向うから、八戸君も、急いで来てくれる」

 と、森田は、いった。

「分かりました。用意して、直ぐに中野市の七瀬に向います」

 と、八戸はいうと、携帯を切って、中野市の七瀬に向った。






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